ワルド登場。
でも直感で、ワルドを警戒するアスタルテ様。
そして猫化しているギーシュの代わりに……?
残酷描写有りです。注意。
翌日、アルビオンに向けて早朝出発することになった。
「なんで…、モンモンラシーがいるのかしら?」
「私は、アスタルテ様の下僕なので、あなたには関係ないわ、ゼロのルイズ。」
アスタルテの下僕を自称するようになったモンモンラシーは、猫にされたギーシュを抱えてアルビオンヘの旅路に同行すると言ってきたのだ。
「この旅は大変なモノになりそうですわよ? それでもよくて?」
「ええ、貴女様が行くところには地獄なりと。」
「あらまら…。」
モンモンラシーは、すっかりアスタルテに酔狂しているらしい。かつてギーシュへの初々しい恋心を持っていた乙女は、すっかり早熟し、欲望に忠実な女の目をしていた。
モンモンラシーの腕の中にいる猫ギーシュが、ニャーギニャー!っとそんなモンモンラシーにダメだ!っと言っているように鳴いている。
あのお上品な香水のモンモランシーをここまで変えてしまうのか!?っと、ルイズはアスタルテに震撼する。
「己の欲に忠実なことは良いことですわよ? モンモンラシーさん。」
「はい…!」
「しかし、ついてくるからには、命を賭けるだけの覚悟はおありで? これから行くところは、聞くところによると亡国寸前の危険な地だそうですが?」
「私の命、この身は貴女様のモノですわ。アスタルテ様。」
「そうですか。ならばその命…預からせて貰いますわ。」
「はい!」
美しくそう言ってのけたアスタルテに、モンモンラシーは、これ以上無いほど幸福そうに欲望で目を輝かせて笑顔で頷いた。
モンモランシーの変わりように、モンモランシーの腕の中にいる猫ギーシュは、にゃ…っと切なく鳴いていた。
「ところで、ルイズさん。わたくし達は、なぜこの早朝にここに集まっているのかしら?」
「それは…姫様が護衛の者を寄越すからって…。」
「まあ、そのような信頼における従者がいるのですね?」
あのアンリエッタに…っと言う言葉を、アスタルテは飲み込んだ。
少し待っていると、やがてグリフォンに乗った、ひとりの男がやってきた。
「ワルド様!?」
「やあ、僕のルイズ。久しぶりだね。」
「おや?」
なにやら知り合いの様子であることに、アスタルテは面白そうにルイズを見た。しかもあの男はなんと言った? 僕のルイズと…?
見たところずいぶんと歳が離れているようだが、そこは魔法使い社会である貴族同士のことだ、年の差婚など当たり前であろう。より強い魔法使いを生むにはやはり同じ魔法使いでなければならないだろう。アスタルテは、赤面しているルイズを軽々と抱き上げているワルドという男を見て、相当の強者だと見抜いた。
なるほど…、確かにルイズほどの強い素質の血筋には打って付けだろう。
しかし…。
「美味しそう…。」
ついつい悪魔目線でワルドを見てしまい、つい舌舐めずりしていた。
「…失礼だが。貴女は…?」
「わたくしは、アスタルテ。ルイズさんの使い魔ですわ。以後お見知りおきを…。」
アスタルテは、ドレスのスカートをつまんで、優雅に一礼した。
それを聞いたワルドは、目を見開きルイズを見た。
「なんと高貴な女性を使い魔にしたんだい?」
「そ、それは…。」
「わたくしは、ただの使い魔ですわ。そうかしこまらなくてよろしいのですよ? ワルド殿。」
「ああ、そうか。」
アスタルテの言葉にホッとしたように、ワルドが力を抜いて喋った。
「しかし、ルイズさんも隅に置けませんわね。このような立派な殿方がおられたのに…。」
「え、えーと…、ワルドとは、親が決めた婚約であって…。」
「ですが、気持ちはあるのでしょう? ほっぺたが可愛らしく赤く染まっていますわよ?」
「ああ……!」
ニコニコしているアスタルテに指摘されて、ルイズは恥ずかしさのあまり顔を両手で隠すように覆った。
そんなルイズを降ろしながら、ワルドは、ニコニコ穏やかに笑っていた。
だが、アスタルテは、そんなワルドを見ていて、ザワッ…と何かを感じた。
女として…、そして悪魔としての直感だ。
「ワルド殿。」
「なんですか?」
「貴方は、ルイズの婚約者としているのでしょう。そしてアンリエッタ姫から任務を仰せつかったことも……、ですが……、もしルイズの信頼を裏切るような真似をしたら…、わたくしは容赦しませんわ。そのことはしっかりと覚えておいてくださいませ。」
「ははは、その心配はご無用ですよ。」
アスタルテの言葉を冗談交じりに受け取ったらしいワルドは笑う。
「なら…よいのですが…。」
アスタルテは、笑みを消す。そして背筋がゾッとなるような悪魔の覇気を一瞬出すと、ワルドは、一瞬にして悪寒を覚え顔色を悪くした。
「貴女は…、人間ではないのか。」
「ええ。その通りですわ。ですから、言っているのですわ。ルイズさんへの裏切りは、万死に値しますのよ?」
「…恐ろしい方だ。」
「ふふ…。」
声を低め、アスタルテを警戒するワルドに、アスタルテは、悪魔の微笑みを浮かべる。
そんな二人の様子に、恥ずかしがっているルイズは気づかなかった。モンモランシーは、ワルドと火花を散らすアスタルテに酔いしれているように頬を染めていた。
そしてルイズはワルドが乗ってきたグリフォンに乗せられ、アスタルテとモンモランシーと猫ギーシュは、馬に乗った。
今日中に港町である、ラ・ロシェールに着きたいということで、何度も馬を乗り換えて走り続けた。着いたときにはもう夜だった。
しかし町に入るための崖に挟まれた道で襲撃を受けた。
崖の上から降り注ぐ矢の雨をワルドが風の魔法で防ぎ、アスタルテは、デルフリンガーを抜いて矢を切り落としモンモランシーと猫ギーシュを守る。
「まさか貴族派!?」
「いや、貴族は矢は使わないさ。」
アルビオンで反乱を起こしている貴族派と呼ばれる一派かとルイズが疑ったが、ワルドがすぐに否定した。
「やれやれですわ。」
「申し訳ありません! アスタルテ様!」
「いいのですよ。」
補助系が多い水の魔法使いであるモンモランシーは、前線向きでは無い。申し訳なさそうに頭を下げるモンモランシーに、アスタルテは優雅に微笑む。
その時だった。
突如、突風の風の魔法が崖の上めがけて放たれ、上にいた族が落ちてきた。
バッサバッサと羽ばたく音が聞こえたので見ると、そこには立派な風竜が。
「タバサだわ!」
「助太刀、感謝しますわ。」
「まあ、待ちたまえ。始末する必要は無い。」
「なぜ?」
落ちてきて身体をしこたま打ち付けて呻いている賊を切り捨てようとするアスタルテを、ワルドが止めた。
「どうせ盗賊の類いだろう。捨て置いていい。」
「……本当に?」
「むっ? なにを疑われておられるのかね?」
「いえ…、盗賊の類いにしては、矢の狙いが正確だったものですから。」
アスタルテは、クスクスと笑って言う。
「ですが、逆恨みが面倒なので。」
「アスタルテ!」
ルイズが止める間もなく、アスタルテが踊るようにデルフリンガーを振り回し、落ちてきた賊を斬り殺していった。どうにか立ち上がれた賊が怯えて逃げだそうとするとその足に向かって、落ちている矢を拾って投げつけて倒し、首をはねた。
「なんてことを…。」
「お優しいのですね。ルイズさんは。」
一切の返り血さえ浴びることなく、賊を殺し終えたアスタルテは、優雅にデルフリンガーを鞘に収めた。
ルイズは、改めてアスタルテの冷酷さ、そして悪魔としての恐ろしさを痛感した。
そして降りてきたタバサと、なぜかいるキュルケと合流し、キュルケは、転がっている死体に顔をしかめつつも、面白そうだから自分も同行したいと言ってきた。
ルイズは、隠密の仕事なんだから来るな!っと言ったが聞き入れて貰えなかった。
盗賊ではないことを見抜いているアスタルテ様。
モンモランシーは、アスタルテの色欲にあてられて魅了されています。そしていつの間にかアスタルテの下僕を自称するまでに。
猫化の呪いを受けたギーシュは、愛玩動物扱い。
キュルケ達を連れてくるかは悩みました。