白銀御行は寝取られる 〜催眠で支配された生徒会〜 作:青碧ゆがむ
「どうした、お前……チャラい!!」
会長の叫びが秀知院学園の廊下に響いた。いかなる時も冷静さを失わない会長が目を見開き驚いている。
「……あぁ、そうか。今の会長は覚えてないんだっけ?」
「何か言ったか?」
「いえ、なんでも」
そう、今の会長は何も知らない。俺、翼がイメチェンをした理由を――
***
最近、好きだった柏木渚ちゃんと付き合い始めた。それもこれも、会長こと白銀御行のおかげだ。
初めて相談したときの的確なアドバイス。あれがなければ僕は渚ちゃんとは付き合えていなかっただろう。
しかし……付き合い始めたのは良いものの僕達の間には進展がなかった。最近、ようやく手を繋いだばかりだ。
次はキスがしたい。でも、僕にはアプローチの仕方が分からない。
だから、今日もこうして会長の元を訪ねる。
「会長……僕、彼女とキスしたいんです」
「お、おぉ……そうか」
「どうすれば良いですかね!?」
会長は瞼を閉じ、じっくりと考えて言った。
「壁ダァンだ!」
「またですか?」
「と言うのは冗談で……よし、少し待ってろ」
そう言うと、会長は生徒会室の棚を漁り始める。
きっと、心理学とかの観点から教えてくれるのだろう。
――バサッ。積まれた書物がバランスを崩し、一冊の薄い本が床に落ちる。
「何だこれ、また藤原書記の私物か?」
藤原さんは、僕に渚ちゃんと手を繋ぐためのアドバイスをしてくれた。そんなラブ探偵の本ならヒントが書かれてるかもしれない!
「会長、貸してください!」
「あ……あぁ。いいが、役に立たないと思うぞ」
「ありがとうございます。えっと、誰にでもできる催眠の指南書?」
「な? 役に立たんだろ。全く、アイツは心理テストやら、こういう物が好きだな」
「でも、まあ面白そうですよ。ほらコレとか」
「犬化? 馬鹿馬鹿しい。そんなものヤラセだ」
「せっかくだし、やってみましょうよ」
「んー、まあ……そうだな。実証もせずに結論を下すのは気が引ける。よし、俺に試してみてくれ」
「はい!」
本に書かれている内容を一通り読んでから、会長と向き合って座る。
「では、会長。目を閉じてください」
「あぁ、本格的だな」
「はい。目を閉じたら、ゆっくりと深呼吸をしてください」
「ふぅ……はぁ……ふぅ……はぁ……」
「吸って……吐いて……吸って……吐いて……」
最初は会長の呼吸に合わせて、言葉をかける。
三分ほど続けて、深呼吸にも慣れてきたところで、掛け声のペースを早める。
「吸って、吐いて……吸って、吐いて……」
「ふぅ、はぁ……ふぅ、はぁ」
数分間続けたら、またペースを戻す。
「吸って……吐いて……吸って……吐いて……」
「ふぅ……はぁ……ふぅ……はぁ」
静かな生徒会室。風が窓を揺らす音が微かに聞こえる。
その他にも、鳥の囀り、生徒のはしゃぎ声。色んなものを聴覚だけで感じさせ、想像させる。
「吸って……吐いて……」
これでもかと、深呼吸をさせる。さすがの会長も十五分も続けたところで、疑問を抱き始めただろう。いつまで、深呼吸を続けさせるのかと。
――ピクッと会長の腕が短く震えたのを僕は見逃さなかった。
勢いよく会長の両肩を掴み、揺らす。
「……うっ!?」
集中力が切れた一瞬を刺激され、気が緩む。そんな無防備な会長の耳元で優しく囁く。
「……意識が飛ぶ」
「うぁ……ぁ……」
弱々しい声はプツリと途切れた。
「あの会長、聞いてます?」
「……ぁ」
目は開いている。しかし、そこには光が宿っていない。まるで、目の前の人間が人形であるかのように感じた。
咄嗟に指南書を読む。
「これが、トランス状態。うわぁ、できちゃったよ」
「……」
会長は今も、ぼぉっと虚空一点を見つめて固まっている。
この状態の会長に命令すれば良いらしい。
「えと……会長は人間ではありません。あなたは犬です」
「……何を言ってるんだ。俺は……人間だ」
「あれ?」
もう一度、指南書を読み解く。あぁ、なるほど。拒絶されたら暗示はかけられないのか。
遠回りに遠回りをして、目的の暗示へと誘導しなければいけないらしい。
「難しいな……。ええっと、犬をイメージしてください」
「……あぁ」
「では、その犬になり切ってください」
「……どうしてだ」
「会長が犬化してみろと言ったんでしょう」
「……あぁ、そうだった」
意識が朦朧としてる状態だからか記憶が曖昧なようだ。なら、丁寧に思い出させればいい。
「では、僕が指を鳴らしたら犬になり切ってくださいね」
「……あぁ」
――パチン。指を鳴らすと会長は、
「ワン。……うぅ、ワンワン」
四つん這いになって、そう鳴き始めた。
我ながら凄いと思う。あの会長が本当に犬になり切ってる。こんなところ、誰かに見られたら……
と思った矢先、生徒会室の扉が開いた。
「わふぅ!!」
「うわ、え、えぇ、か、会長!?」
犬の会長がかぐやさんを見るや抱きつき舐め始める。
「会長、ちょっと……あん」
あぁ、説明に時間がかかりそうだ。僕は、トホホと息を吐いた。