※この作品はR-18です。

間桐家の長男君   作:ぴんころ

14 / 22
二月五日 夜

 母胎としての存在価値を望むイリヤを相手にしてから夜の街に出る。これがこれから毎日続くのかと思うと憂鬱だが、ああしてしまった以上は仕方ない。確かに母胎としての役割を果たしていて、次代の間桐を生み出す胎にはふさわしいそれ。俺が死んだ場合の魔術師の間桐の存続や、もしくは考えたくもないことだが俺の願いが叶えられないとなった時にはあれを胎盤として使う必要がある。

 

 嫌な想像をしてしまった。俺の願いが叶わないはずがない。アヴェンジャーとの話し合いは済んでいる。その効力の大きさから珍しいもののはずなのに短期間に見過ぎな気もするが、俺も自己強制証文で「アヴェンジャーの願いが実行されず、その上で彼が自害を受け入れる」ことで「アヴェンジャーの願いを第五次聖杯戦争のサーヴァント七騎が取り込まれた聖杯に願う」ということを誓約した。

 

「よし……今日も張り込みだな」

 

 新都、および深山町全域に放った蟲からの報告を得ながら、柳洞寺の監視のために、もしもキャスターが攻め込まれて姿を見せることがあったなら即座に矢を以て撃ち抜けるように、アヴェンジャーが寺を視認することのできるビルに向かっていた。道中で特に何か起こるわけでもなくビルにたどり着こうとしたタイミングで、寺の前に衛宮とセイバーがいることに気がついた。

 

「アヴェンジャー。俺を連れて跳躍しろ。階段やエレベーターで上がる時間が惜しい」

 

「了解した」

 

 寺の前にいるということは、いつ戦いが始まってもおかしくはない。セイバーの対魔力を考えればキャスターが順当に敗れるのだろうが、それならそれでセイバーの手の内をどれだけ明かしてくれるのか、そう考えると見逃すわけにはいかないカードだっーーー

 

「ん??」

 

 ビルの屋上にてアヴェンジャーが視認するのと同時に、俺の蟲から届いた映像が俺の視界を覆う。

 

「あれが、キャスターか?」

 

「いや、どうなんだろう? キャスターだったとしても、わざわざセイバーの前に出てくるか? それも、絶対に勝ち目がないであろう剣まで持ち出して」

 

 というか

 

「あれ、反則じゃないか? 確か聖杯戦争って西洋の英霊しか呼び出せないって聞いたぞ」

 

 俺たちの視線の先にあるのは、青い長髪をポニーテールにした和服の美男子。剣、それも刀を持っている。どこからどう見ても純正の日本人だった。けれどセイバーが踏み込まないことから見て、そいつがセイバーを相手にして接近戦をしても、全く劣らないであろう剣士であることはなんとなく理解できた。

 

「……まあ、いいや。どんな反則をしたのかまではわからないけど、あれはキャスターじゃない。……いや、もしかしたらキャスターなのかもしれないけど、正規の英霊じゃない、だって東洋の英霊をまともに呼び出す手段はこの聖杯戦争にはないんだから」

 

 あるいは、正規の英霊ではないからこそ、キャスターのくせにセイバーに負けず劣らずの剣士としてもここに現界しているのかもしれない。けれど事実は今この場からの監視ではわかるはずもなく。声を聞こえる範囲まで近づければ確実にバレるために、これ以上近づくことはできない。

 

「一番正解に近いのは多分、あのサーヴァントのマスターとキャスターのマスターが同盟を結んでいるのか。それともキャスターがあのサーヴァントのマスターを操ったか。そのどっちかだろうな」

 

 それにしてもあのサーヴァントのクラスはなんだろうか? バーサーカーはすでに消滅済み。セイバーは衛宮のサーヴァントで、遠坂のサーヴァントは剣を使っていたことは確認したけど、セイバーは他にいるし何かわかりやすいものを使っていたわけではないので一旦保留。ランサーはマスターまではわからないがあの蒼い槍兵。ライダーはまだ見たことがなく、アサシンはあそこまで堂々と正面から戦うことはないと思うし、反則行為で召喚されたキャスター、という線で見たとしても、ライダー、キャスターのどちらか二択。そもそもアヴェンジャーが召喚されている関係で四騎士のどれかは確実に一つ存在しないのだ。

 

「アサシンのサーヴァント」

 

「え……?」

 

「今この場で、奴の唇の動きを読んだ」

 

「……お前、多芸すぎない?」

 

 アヴェンジャーの読唇術曰く、奴の正体はアサシンらしい。けれどそれを否定する材料はあるくせに、それよりもまずはアヴェンジャーのできることの多さに驚く。戦いが始まったことを視認して、セイバーとまともに打ち合っているところを見て、ようやくそのクラスに対する疑問を口にする。

 

「いや、というかそれはないだろ。真っ向から最優と名高いセイバーとまともに戦えるだけのスペックを持ったアサシンって。それって剣を持って接近戦するアーチャー。魔術師のくせして魔術を使わずに殴りに行くキャスター。騎乗の逸話がないライダー、みたいなもんだぞ?」

 

「だが、そう言っていたことに違いはない。……真名も言っていたようだが、さすがに異国の英雄の名前を、この国の発音でされてはわからん」

 

「真名まで……!?」

 

「ああ。セイバーやあの小僧の驚愕からして、おそらくは真名だろう」

 

「……なのにアサシンのサーヴァント?」

 

 真っ向から名乗りを上げて「やあやあ、我こそは」ってやる、影に潜むべき暗殺者?

 

 なんだそれ。

 

「……とりあえず、キャスターが援護のために出てくるようなことがあれば即、射殺してくれ。魔術を使う時間をやりたくない」

 

 なので、今できるのはそれだけだった。

 

「了解した」

 

 じっと待つこと数分程度。ただ、こうして他のサーヴァントが戦っているのを見ると、戦闘そのものにかかる時間はそこまで長くないのかと思ってしまった。

 

 これまでに見た戦いは、基本的にはアヴェンジャーの代物。こいつが負ければ死ぬ、俺にとっても命の危険を感じられた戦いだった。そうでなくとも、サーヴァント同士の戦いというものに慣れていない状況で見ていたものだった。けれど今回のこれは、多少の慣れはある。少しばかり目が慣れてきて、ギリギリ残像を追うことはできている。だからこそ、これまではアヴェンジャーのそれと同調していたために自分の脳が処理しきれる速度で展開されていた戦いを、本来の流れの中で感じることができて、ようやく戦闘にかかっている時間というものが理解できーーー

 

「っ!?」

 

 そこで、衛宮の体が透け始めたことに気がついた。あれは……

 

「空間転移!?」

 

 気がついて発狂しそうになる。魔術師であるからこそ、その行為の異常さに気づく。動いている最中の衛宮に対して座標を確定させることなどできるはずもなく、衛宮が本当に柳洞寺に来ようとするのかもわからない。セイバーを探しているのに、別の場所に間違えて行ってしまうかもしれない。

 

 諸々の困難を考えれば『衛宮士郎が柳洞寺に着いてから空間転移を用意し始めた』ということになり。

 

 ただでさえ難易度の高い空間転移という魔術。それを数分足らずで用意し終えるその魔術師としての力量。こんなものが近代の魔術師にできるはずがない。間違いなく、キャスターは神代の魔術師。それも、わざわざ別の場所に転移させた、という点から見てセイバーと打ち合っていたのはキャスターではない。アサシンとも思えないままなので仮称としてアサシンとしておこう。

 

 直後、セイバーの顔色が変わる。アサシンの攻撃も止む。……セイバーの動きが止まるのはまだわかる。マスターである衛宮が死んだのだろう。……桜が悲しむなという感情と、合理的に敵のマスターが一人死んだことでサーヴァントも消滅するという考えが同時に湧き上がる。

 

「え……?」

 

 けれど、消滅させられる危険性を考えればアサシンはセイバーを攻撃するはず。そのはずなのに攻撃をせずに、そして数秒後にはセイバーを寺の中に通して霊体化した。わけがわからない。セイバーがあの状態で霊体化しない理由も、アサシンが通した理由も。あらゆる状況が理解できない。

 

「寺の中と山門の外っていう遠距離から、新しい契約を結び直した……? それも、あの表情を見る限りセイバーの承諾なく……?」

 

 なんだそれは。そんなことができてしまうのか神代の魔術師は。こうなってしまってはどうしようもない。セイバーのマスターを殺してセイバーとの契約を奪ったのだから、あのセイバーの対魔力次第ではあるがある程度の時間はセイバーを従わせるのに必須だろう。ならーーー

 

「ああ。私の知る限りでは一つだけ、そのようなことを可能にする宝具がある」

 

 そう考えて、アヴェンジャーに指示を出そうとして、そこでアヴェンジャーが発した言葉によって、怒りを持っていることに気がついた。

 

「それって……?」

 

「メディア。コルキスの王女メディア。サーヴァントとなりうるだけの霊格を誇りながらも、逸話のうちに宝具を持たない魔術師。……故に、あれの宝具は逸話そのものが形を成したものだ」

 

「メディア……」

 

 どういった魔術師だっただろうか。己の中の知識に検索をかけて引っ張り出す。

 

 メディアーーーコルキスの王女ーーー裏切りの魔女ーーー?

 

 数秒かけてたどり着いた。裏切りの魔女というのが彼女の逸話であるのなら、その宝具も裏切りに準じるものであるはず。ということは

 

「相手に対して裏切りを強制させる宝具?」

 

 衛宮に、キャスターを倒そうとする自らの行動を裏切らせることで、キャスターを守ろうとさせて、キャスターの戦力を増加させるためにセイバーを譲った?

 

「そこまではわからん。私も見たことがないからな。だが、その類の宝具だとしても弱点はある」

 

「……衛宮を空間転移で呼び出したことか」

 

「そうだな。おそらくはその宝具の効果を発動させるための触媒として、何か形を与えられているはずだ」

 

「……なら、今日は一旦帰る。できる限り衛宮を殺さないって約束したんだ。まだ、キャスターがいらなくなった衛宮から記憶を消して空間転移で返す可能性もある。明日の夜までに衛宮が行方不明のままだった場合、相手の知覚範囲外からの超々長距離射撃で柳洞寺ごと吹き飛ばすぞ」

 

「……了解した」

 

 不満そうではあるが、己の現界を維持してくれる女性への配慮をしてくれるアヴェンジャー。いや、その配慮よりも、相手が本当に魔術の神の弟子(メディア)である確信がない、ということも大きいかもしれない。けれど何よりも、今の宝具についても『相手がメディアである』ことを前提にした考え。だから、この考えが間違っている可能性もある、ということが一番大きいのだろう。

 

 一日、できることなら衛宮が明日の朝には家に戻っていることを祈りながら、今日という日の聖杯戦争を終わらせることにした。




まさかの士郎ここで退場。Fateルートの生き残るルートと死ぬルートの二つをまぜまぜした感じ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。