「衛宮は帰ってこないまま、か」
「士郎、死んじゃったんだ……」
朝食の席、さすがに昨晩いなくなったばかりの人物、それも藤村先生という一般人枠の人が来ない状況下で衛宮士郎が帰って来なかったと言って、そこの魔術師たちが衛宮の死亡を理解しても、それ以上のことをすることはないだろう。そう判断してテレビのニュースにはそこまで期待せずに、衛宮邸の周囲を見ていた使い魔からの視覚情報と同調する。
そこから得られた情報を呟くとイリヤもそう、とだけ言って、つまらなさそうな顔になる。が、それもすぐに戻り、朝食を続ける。直後に桜からの『先輩を知りませんか』というメールが来る。桜自身、もう予想はついているんだろうが、それでも一縷の望みをかけての言葉だろう。倒れた衛宮を俺が回収している可能性、というものに。そんな極小の物に頼る時点でもう殺されている現実を理解して、その上で生きている可能性を捨てきれなくての発言だったから、俺もどう答えるべきか悩んだ。
『衛宮は昨晩、柳洞寺に行くのを見た。その時が最後だから……多分もう』
明言するつもりになれず、それ以上は書かずに桜に送る。これで言いたいことは伝わるはずだ。桜を悲しませたくないから生きていてほしいと思っているのは事実だけど、同時に魔術師としての部分が衛宮はすでに死んでいる。死んでいなかったとしてもセイバーを陣営に取り込んだキャスターごと柳洞寺を吹き飛ばしてしまえばいい、と断じている。
「多分、アサシンもキャスターの宝具で陣営に取り込まれてるって考えたほうがいいか」
遠坂のことだから勝算を見つけてから戦いに行くのだろうが、それでは遅すぎる。勝算を見つけるのにかかる時間で、キャスターは絶対に届かない相手になりかねない。故に速攻を行う必要があるけれどーーー
「イリヤ」
「ん? なあに、御主人様?」
「柳洞寺に巣食うキャスターを、長距離からの狙撃で寺ごと焼き払う場合、大空洞と大聖杯は大丈夫か?」
「んー、アヴェンジャーの宝具なら、使うやつ次第では大丈夫じゃない? さすがに天空を支えたっていう剛力を使い始めたら、山なんておしまいだろうけど、神気を纏った矢なら多分……」
「そうか」
イリヤに大聖杯の強度を尋ね、問題はないと言われたことで、柳洞寺をそのまま消し飛ばす一撃をも作戦として立てられた。そんなことを考えていると、イリヤが椅子に座る俺の股の間に入り込んできていた。
「はあ……少しは自重しろよお前」
ため息をつきながらも許可を出すと、イリヤはズボンに手をかけて俺の逸物を取り出す。誘うように、これまでの調教によって本能的に覚えた淫靡な仕草と視線で、確かに情欲は高められた。外気に触れた時にぶるんと震えた性器が、その情欲を発散する場所を求めている。イリヤの視線がそれに吸い寄せられる。けれど触れてはこない。命令を待ち続ける。
「”お前の口を使わせろ”」
「はーい」
返事は軽く、けれどその表情は笑顔に移り変わる。誰もが見惚れるような可愛らしい笑顔で、淫蕩に塗れた行為に耽る雪の妖精。その神秘性を淫らな行為にてただの牝となる時に脱ぎ捨てる姿を見られるのは自分だけと思うと、少しばかり剛直に硬さが増したかもしれない。
「んむ、んちゅぅ……ちゅぅ……!」
ぴちゃぴちゃと己の唾液で淫らな水音を立てるイリヤ。すでに幾度となくこうして口での奉仕を行われてきたためにすでに彼女は、俺に奉仕する時どこを吸えばいいのかをしっかりと理解している。口淫による快楽は背筋をぞくりとさせるほどの快感を生み出していた。
「ん、ぐ……だ、出すぞ……っ!」
「あはぁ……いっぱいでたぁ……」
間桐の魔術師として修行を受けた時に、いずれ母胎を孕ませることを含めての修行の内容だったこともあって俺のペニスは尋常じゃないほどの精と、人外じみた大きさを誇っている。人間にはありえない大量の口内射精を、最初は飲み込みながら、途中でペースが追いつかなくなり口が膨らんで、最終的には口から離して全身をドロドロと精液によって穢した。
「これで朝はおしまいだ、”我慢しろ”」
服の上にかかった分、少し緩くなったワンピースの胸元から服の中に潜り込んだ分。それらを浴びて恍惚とした顔を晒しながら、股から愛液が溢れて、太ももを通って床に落ちているイリヤに命令する。命令によって性的な行為は許可が出るまでできなくなったイリヤは、数日間朝昼晩と常に性交を終えた後に同じ命令をされ続けたことで多少は捨てられるのではないかという思いが消えたようで、不満そうな顔をするけれどただそれだけ。
「あ、そうだ。御主人様」
「どうした」
ゴクリと、喉を鳴らして精液を嚥下したイリヤスフィールは、その女を感じさせる表情のまま一つのことを告げた。
「ちょっと今日は学校休むわ」
臓硯にそう告げて、俺は郊外に存在するというアインツベルン城にイリヤを連れて向かう。俺一人で向かえば、絶対に工房と化している敷地内を抜けて城にたどり着くのは不可能。今回目的とするのはアインツベルン城を拠点の一つとすることであり、アインツベルンにある礼装やら何やらを奪い、自らの戦力として扱えるようにすること。
そして何より、間桐の聖杯を下ろす地の候補とするために、そこの霊脈を確認する必要がある。すでにイリヤが俺の所有物である以上、イリヤの城とやらも俺の所有物であることに変わりはないが、こういった作業に関してだけは間桐の魔術師としての調整は一切受けていないイリヤではできない。だからこそ、俺が出向く必要がある。
「あなた、お嬢様に何をしているんですか……!」
そうして出向いた先にて、イリヤに先導される俺を見て、イリヤがいたことを感知したのかやってきたホムンクルスのメイドが怒りの表情を見せて睨んできた。
「お嬢様もお嬢様です! 何日も戻らず、戻ってきたと思ったら見知らぬ男を連れて! わかっているのですか!? お嬢様はーーー」
「何を怒ってるのかしら、セラ」
そこに冷えた声。魔術師としてのイリヤが数日ぶりに姿を表す。
「この人は私が連れてきた客人よ。それも、聖杯戦争に敗退して、聖杯の器としての仕事もこなせなくなって、今回の聖杯戦争においてはアインツベルンの大負けとしかいえない状況で、私たちに新たな導をくれる、大事な、大事な、ね」
「そ、そんなことを急にーーー」
すっと、腕をあげる。今回のアインツベルン城襲撃に際して、抵抗するならホムンクルスの命を奪っても構わないとすら言われている。袖の下から飛び出した蟲が、怒号をあげようとしたそのホムンクルスのうちに入り内側から火属性の魔術によって小規模な炎を起こす。人としての原型を保ったまま死んだそれを蟲どもに食わせて、先に進む。
「やっぱり抵抗するのね……」
「ま、そりゃいきなり自分の仕えるお嬢様がこんな男の奴隷になって好き放題されて喜んでいます、なんて言われて喜ぶ輩はいないってことだ」
「それは、そうかもしれないけど……」
城に入る。もう一人メイドがいたがそちらに関してはイリヤがさっくりと殺し終える。心臓に鳥型使い魔の魔力弾を受けて穴が空いた死体を、蟲に食わせることで処分した。
イリヤが使っていたという部屋にてこの土地の霊脈を探る。
「っ……!?」
これまで魔術を使用した時とは比べ物にならない痛みを一瞬、魔術回路を起動しただけで味わった。その痛みに顔をしかめて、殺せ……? 今、何かが思考に混じったような。
「イリヤ、俺の体に何か起きてないか?」
「ん? ちょっと待ってねー」
少しきになることではあったが、今となっては魔術回路は確かに動いている。よってそのあたりの精査はイリヤに任せて、俺は霊脈を探り始める。イリヤから何も変ではないと言われたところで俺も調べた結果が出た。
「……ダメだな、これ」
間桐の霊脈あるいは大聖杯のある柳洞寺の霊脈が一番、間桐の聖杯に相性がいいとは思っていたが、ここまで差があるとは思っていなかった。アインツベルン城で起動するのは難しい。ただ、ここに来たのは無駄足ではなかったようで、もう一つの目的である礼装に関しては多少使えそうなものが見受けられた。
「ねえ、御主人様……」
「……お前、これが目的だったんだな」
集め終わり、それを俺でも使えそうなもので一箇所にまとめると、どう考えても持ち運びが難しい量。仕方ないのでこの中からいくつか、有能なものを持ち出すに留めておくとしよう。そう考えた時に、イリヤがすすすと俺の横にぴったりと張り付いて来た。
「夜までだぞ」
「ええ。それだけあれば十分だわ」
こいつの目的は”我慢しろ”という命令を解いてもらって性行為を行うこと。多少は不安もどうにかなったかと思ったが、実際にはそんなことはなかったらしい。臓硯からはアインツベルンが使えるかどうかの連絡さえくれればどうでもいい、というスタンスだったので、せっかくアインツベルン城にいるのだから、とこの城のイリヤの部屋に向かう。
この時の俺はまだ気がついていなかった。あの、思考に一瞬混じった殺意のそれ。それを気にせずに霊脈に自らの魔力を同調させて調べる、というのがどれだけ危険だったのか、ということを。そしてそれは、すぐに代償となってやってくるのだった。