※この作品はR-18です。

間桐家の長男君   作:ぴんころ

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二月九日 夜

「言峰、綺礼」

 

 円蔵山、その大空洞にて待ち受けていた男の名を呼ぶ。背後には大聖杯。いまかいまかと生まれる時を待ち焦がれている中身を前に、そこでようやく今回の聖杯戦争における監督役である言峰綺礼という男の正体に気がついた。

 

「あんた、俺たちの同類なのか」

 

 その心臓に、確かに同じものを感じる。この世すべての悪(アンリマユ)。つまりは聖杯の中身。それによって生きながらえている彼は、確かに”この世すべての悪”と繋がっている状態の俺たちと同類であった。

 

「ああ、十年前からな」

 

 戦闘になるかと思い構えるが、言峰は動きを見せない。……どころか、聖杯への道を開けた。瞠目する。絶対に戦うことになると思っていたのに、戦おうという気すら見せない。

 

「……何のつもりだ?」

 

「私の目的はアンリマユの誕生を見届けること。間桐連夜、貴様が願いを叶えるというなら邪魔するつもりは毛頭ない」

 

「……そうかよ」

 

 歩いていく。信用ならざるために、今この場に来たことで使えることが発覚した、とある手段をいつでも行使できるように警戒はしながら。けれど言峰は一切の動きを見せることなく俺を通して、大聖杯の元にいくまでの間、邪魔立てすることはなかった。

 

「……」

 

 触れようとする。大聖杯への接続。それがなれば俺たちの聖杯戦争も終結する。アヴェンジャーも、珍しく高揚している。それだけ、望みが叶うこの瞬間を待ち望んでいたということなのだろう。

 

「待て」

 

 そこで、絶対の威風を纏う言葉が届いた。その言葉に動きを止められ振り返る。

 

「八人目のサーヴァント……」

 

 ありえないはずの存在は、すなわちイリヤがありえない理由を呼称した。七騎の英霊が争う聖杯戦争において絶対にありえない八騎目のサーヴァント。それが、今この場に俺を食い止める存在だった。

 

「どういうつもりだ、ギルガメッシュ」

 

 言峰が咎めるように声を出す。ということはつまり、これは言峰にも計算外のこと……?

 

「決まっておろう、言峰。我の女(セイバー)を許可なく誅した愚かな雑種を滅ぼしに来ただけだ」

 

 その言葉に言峰がため息をつく。ランサーからえた情報を伝えるべきではなかったか、と。そこで漸くランサーが自害した理由と悟る。つまりは言峰は一刻も早い聖杯降臨が見たくて、ランサーが邪魔になったから殺した、ってことなのだろう。

 

「マスター、聖杯に接続しろ。此度の聖杯戦争における勝者は我ら。戦争に参加してすらいない王に、勝者に与えられるべき特権を穢す権利はあるまい。願いを叶えるまでの時間は私が稼ごう」

 

 アヴェンジャーが最後の戦いにマルミアドワーズを取り出す。ギルガメッシュと呼ばれたサーヴァントが背後に黄金の波紋を呼び出し、そこから無数の宝具級の武器が顔をチラつかせた。

 

「綺礼、手は出すなよ。これは、我の妃に手を出したものへの誅伐。王たる我が下さねば何も意味がないのでな」

 

 気がつけば、イリヤが横に来ていた。いや、泥を使えばどこにでも現れることができるのだからおかしなことではない。それも、この場には大聖杯から溢れ出る泥が大量に存在するのだから、この場に限っては無制限の転移が行えるに等しい状況。それが追加されたとしても勝ちの目は見えないために、俺とともに大聖杯の中に接続するつもりなのだろう。

 

 触れる。霊的な接触。己の肉体から何かがすっと抜け落ちる。魂のような何かが泥の濁流に抗うように、聖杯の内側へと沈んでいった。

 

「遅かったですね、兄さん」

 

 脈動する黒い泥の内側に、血の色に染め上げられた空の果てに。あらゆる不浄を煮詰めたようなヘドロを纏って、黒い聖杯は姿を見せた。

 

「桜」

 

 その名前を呼ぶ。聖杯としてではなく、おそらくその中身がとっているのであろう、聖杯の意思が象る似姿に向けて。すでに桜は大聖杯に溶けている。もう意識もなく、俺がやって来た程度では衛宮士郎との甘い日向の日常から抜け出すことはできまい。

 

「はい。……とはいってもこの私は私ではありません」

 

 そしてその言葉を肯定するように、桜の姿をした何かは言葉を発した。

 

「私は、聖杯が聖杯として機能するための端末。勝者の願いを聞き届け、聖杯が現世に影響を及ぼすための”孔”から外界へと、その願いを叶えるにふさわしい形をとった魔力を吐き出すための役です」

 

「……一つ、聞かせてくれ。お前が聖杯の端末、聖杯の意思の具現化なら、俺の疑問にも答えられるはずだから」

 

 気がつけば隣に、イリヤも立っていた。どちらも驚くことなく、ただ会話を続ける。今の彼女は「この世すべての悪」の端末でもあるために、その気になれば聖杯の中(泥に満たされた空間)ならどこでもいけるだろうから。

 

「俺の願い、『魔術師という存在そのものを遥か過去からなかったことにする』っていう願いはどういう形で叶えられるんだ?」

 

 イリヤの魔術は「願いを叶える」属性を持ち、それは純粋なままの聖杯であればこその属性。ならばこの世すべての悪に染まった聖杯はどのようにして願いを叶えるのか。

 

「簡単ですよ。兄さんの考え方に沿って世界を変えるんです。……少なくとも”過去に回帰してどうにかする”っていうことはできませんから。そうですねぇ……多分、今の世界を全部滅ぼして、魔術師という概念をなくしてしまうんじゃないでしょうか?」

 

「……なら、ダメだな。その形では願いが叶ったなんて言えない」

 

 俺の願いの正確なところは魔術師という存在が消え失せることと、その上で自分も魔術師ではなくなって普通の人間として生きていたいというものだった。それが本当の意味で叶うのなら別にどれだけの被害を出しても構わないのだが、願いが叶わずに人類だけ滅ぶのは許容できない。

 

「ちょっと考えさせてくれ」

 

「ええ、わかりました」

 

 いくらでも考えてください、と口にした桜はその場で待ち続ける。イリヤは心配そうに俺を見て、けれど何かを口にすることはしなかった。

 

 

 

 

 

 初手は、ギルガメッシュの放つ無数の宝剣、宝槍だった。下手に避けては後ろの大聖杯にいかなる被害を与えるのかわからず、かといって叩き落とす、逸らすというのも音速で飛ぶ数十にも及ぶ宝具クラスの武器の数々、ということを考えればまともな対抗手段ではなかった。

 

 アヴェンジャーにそれができないわけではないのだが。

 

「ネメアの獅子よ」

 

 けれど彼が選んだのはどちらでもない。宝具、「十二の栄光」の起動。呼び出されるは第一の試練により得たネメアの獅子の毛皮。人理を否定する力を持つ毛皮は、ギルガメッシュ王の選定した、アヴェンジャーを殺すのに十分だろうと判断した無数の宝具を全て弾き、その偉丈夫を守り続ける。

 

「どうした、その程度か」

 

「戯け。そんなはずがなかろう」

 

 さらに波紋は増える。そこから展開されるのは先と同じく、けれど同じ形状のものは何一つない無数の宝具。ならば先の焼き直しかと思われるがそんなことはない。アヴェンジャーの目はそれらが全て神造宝具であることを看破していた。よって此度は毛皮では無意味。ただの動物を切り裂くようにあっさりと裂かれる。そう認識してアヴェンジャーがとった手段は前進。

 

「射殺す百頭(ナインライブズ)」

 

 神速の九連撃が他の武器を巻き込むようにして九つの武器に放たれ、その全てを撃ち落とす。落ちた武具は全てすうっと消え失せる。それを認識しながらもどこに消えたかまで認識する必要性はないとアヴェンジャーはさらに進む。

 

「では、これはどうだ?」

 

 次に展開されたのはアヴェンジャーの周囲。四方八方から放たれる神造兵装を全て撃ち落とすのは不可能。よってアヴェンジャーは十二の栄光を発動する。呼び出されたのは第三の試練よりケリュネイアの鹿。及びに第七の試練よりクレタの牡牛。ギルガメッシュの上空に出現した牡牛は炎を吐き、ギルガメッシュはアヴェンジャー相手に放とうとしていた宝具群を一度取りやめ、その攻撃に対する盾を取り出す。それだけの隙があれば十分。鹿に乗ったアヴェンジャーはその鹿の速度に任せて、周囲を取り囲む波紋群から脱出した。直後、牡牛は無数の宝具に串刺しにされて消滅するが、仕切り直しには十分だった。

 

「緩いぞ、英雄王」

 

「貴様こそ、腕が鈍っているのか、復讐者」

 

 言葉を交わした時点で、英雄王の懐にまでアヴェンジャーは潜り込んでいた。放たれた神速の九連撃。その全てを英雄王は己の宝具を盾にしながら凌ぎきる。追撃をしようとしていたアヴェンジャーが何かに気づき後ろに下がると、そこには上空の波紋から降り注いだ無数の宝具が突き立てられる。

 

「ふっ、ならばこれはどうだ」

 

 二度目の、アヴェンジャーの周囲を取り囲む無数の波紋。此度は最初からギルガメッシュの周囲に自動防御宝具がある。先と同じ手段での脱出は不可能。そう断じて、アヴェンジャーは己の第三宝具を起動した。

 

「天つ風の簒奪者(リインカーネーション・パンドーラ)」

 

 言葉とともに風が吹き荒れる。王の財宝の波紋が閉じる。宝具の所有権の簒奪。放たれる一本ごとの宝具ではなく、それらを射出するための門が奪われたことによって、ギルガメッシュは己の手で一本一本宝具を取り出すしかなくなった。

 

 あくまで奪われたのは門の開閉。蔵という概念そのもの。なのでアヴェンジャーはその内から何かを取り出すことなどできず、けれど中身があっても門はないギルガメッシュはすでに射出できない。

 

「ちぃっ……!」

 

 呼び出されたのは乖離剣。彼が最も信用する一撃。けれど、慣れぬ取り出し方ではわずかに遅い。真名解放には遥かに遠い。

 

「射殺す(ナイン)ーーー」

 

 乖離剣エアが起動を始める。渦巻き始めたが、それももう遅く、意味をなさない。

 

「百頭(ライブズ)」

 

 剛腕九連撃。マルミアドワーズから放たれるその剣技は、ギルガメッシュの鎧によってわずかに力を散らされながら、けれどギルガメッシュの霊核に浅くはない傷をつける。

 

「射殺す(ナイン)ーーー」

 

 大弓を取り出す。叩きつけた衝撃に逆らわずに吹き飛んだギルガメッシュにダメージは見た目ほど大きく入ってはいない。そう悟ったことによる追撃だった。

 

「百頭(ライブズ)」

 

 九匹の龍。かつて放った時よりも遥かに大きなそれに飲まれるギルガメッシュ。その姿は、反応は、射殺す百頭(ナインライブズ)が消失した後、一片も残ってはいなかった。




次回か次々回でおしまいー

(本来なら天の鎖による射殺す百頭が出る予定だったことは黙っておこう……)

ギル様との決着については悩んだけど、さすがにこのチート宝具食らって武器取り出せなくなったら勝てないだろ、ということでこれに出番がきました。まともに戦った場合に勝てるか勝てないか、それに関してはFakeの続き見ないと書けませんし、そもそも主人公負けたら話終わっちゃうし……
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