1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結) 作:らんどまーく
「またのお越しをお待ちしております!」
「また来てくれなー!」
「お気をつけて~!」
数日間お世話になった「じゃぱりホテル2号店」を出立する朝がやってきた。
オオミミギツネ、ハブ、ブタさんというお世話になったフレンズ達に別れを告げ、ぴかぴかの改造トラクターを発進させる時である。
エンジンの微細な振動すら伝わっていた状態はほぼ完璧に改善され、スムーズな加速も戻っていた。これで常時徐行運転ともお別れである。
「お三方、お世話になりました」
「ありがとうございましたー!」
「またねー!」
グレードアップした荷台こと客車から身を乗り出して手を振るイエイヌとチーター。俺も運転席から何度か手を振った。ホテルのフレンズ達も笑顔で手を振ってくれていた。
「さーて、さばくちほーまで一直線ね!」
チーターは意気揚々と仁王立ちしながら前を指差す。しかし残念かな。
「えー……一直線は無理ですはい」
「え?」
タブレットに表示された地図では進行方向に渓谷があるらしく、くねくね道や起伏があるのでそこまで飛ばせない……ということをかいつまんで説明する。
「ならしょうがないわね。たまにはゆっくりなのもいいわ」
じゃあもう私だけ走って行く! とでも言ってかっ飛んで行くのかと思ったが意外にもチーターは大人しく席に着く。
「なんと……」
「どうしたんですかチーターさん? もしかして具合が悪いんですか……?」
「ち、ちがうわよ! あんたたち2人じゃ心配だからついてってあげるの! どうせ目的地は私の縄張りだし!」
心配そうにするイエイヌに顔を赤くして反論するチーター。なんだかんだでついて来てくれるのはありがたいので歓迎である。というかよく一緒にホテルで過ごしていたものである。もっとせっかちだとばかり。
数時間もすると風の吹き抜ける草原は陽の注ぐ木立へと変わる。せせらぎというには少しばかり大きな川音も湿った土を踏みしめるタイヤの音に混じってきている。
やがて木々の向こうに川が見える自然の広間に出たのでそこで小休憩を挟むことにした。
「ご主人! あっちに川がありますよ!」
「あんまり近付かないようになイエイヌ。チーターさんも」
「ば、バカにしないでよ」
「してませんがな~」
口をへの字に曲げるチーターに苦笑い。
それはそうと川の流れはやはり急だということが音で分かる。先日の雨で増水しているだろうし真面目に近付くのはNGだ。流されて戻ってこれなくなるかもしれない。
「ご主人ご主人っ、たいへんです!」
川から離れた位置に停めたトラクターに背をもたれていると辺りをうろちょろしていたイエイヌとチーターが慌てて走り寄ってきた。
「どしたの?」
「ねっこにひっかかってるんです!」
根っこ? というと川岸のそばに生える木々のことだろうか。
「ゴミとか? それともなんか気になる物でも?」
「ちがうちがう! フレンズよ! よく見えないんだけどフレンズが引っかかってるみたいなの!」
「マジ?」
急いで2人と一緒に川のそばへ。フレンズの危機かもしれない。
川自体は思っていたよりも幅も深さもある物に見えた。水面までの高さもそれなりで、付近の樹木の根っこが川岸の斜面から空中に張り出している。
水位が上がっているようで根のいくつかが押し流されてしまっていたり、どこかからか流れてきた枝木などが水面近くの無事な根っこにひっかかっているのだ。
そして2人の言っていた通り。
「本当に居るよ……」
大きな根っこにうつぶせになって引っかかるフレンズらしき影が1つ。ネコ科らしき尻尾と黒っぽいブレザー服の背中が絡まった草だの枝だのの隙間から見えている。
幸か不幸かギリギリ宙ぶらりんの状態らしい。ぴくりともしないのが気がかりだが……そこは天に祈るほかない。
「ど、どうにかしてあげないと……」
「でもどうするの? さすがにあそこまで降りて行って、それからあの子を抱えて登るのは……」
いくらフレンズの身体能力でも足場が悪すぎる。湿った斜面は急角度、足場となる根っこも少ない。木登りが得意な子であってもフレンズを抱えて登るのは不可能だ。よって。
「俺がやるよ」
「ええ!?」
「で、できるの?」
驚愕と不安を一斉に向けてくるイエイヌとチーター。俺は頷いてトラクターを指差し、
「ああ道具と君達の力を借りればね……」
単純な話である。トラクター後部のフックにけん引用のロープを繋ぎ、自分の腰に装着した安全帯にそれを接続。イエイヌとチーターにロープを引っ張ってもらいつつ斜面を伝って降りる。軽々と俺を持ち上げてしまう彼女達の協力があればフレンズ1人が増えたところで問題にはなるまい。
「……よし、行くぞ!」
「はい!」
「気をつけてね!」
岸の壁面に付けた足以外が宙に浮き、上を向いた視界には木々の葉と空が見える。少し懐かしい感覚である。
「いち、にー、いち、にー……はいそこで止めて!」
狙った位置まで降下したのでロープを保持してもらい、動かないフレンズのそばまで辿り着く。まず彼女に被さった流木や草を取り払う。絡みついて取れない蔦に関しては小型の枝切ばさみを使って排除した。
「おーいフレンズさん大丈夫か? もしもし?」
軽く肩を揺らしてみても返事はしない。だが息はある。2つに結い分けた虎模様の髪はばさばさであり、横顔には血が流れた跡も。早く引き上げねば。
安全帯のフック付きのワイヤーを彼女の腰部に一周させて体を両手で抱え込む。すると泥や血の匂いが彼女の体から漂ってきた。
「なんだこのチェーン……?」
そのフレンズの手首に巻かれた物体が気にかかった。手枷と鎖のように見える。彼女自身の手指もヒトのそれより獣に近い形状である。
奇妙な姿に違和感を覚えるがまずは救出が先決だ。
「OK、引っ張り上げてー!」
ぐったりとしたフレンズを抱きかかえ、共に2人の引くロープによって吊り上げられる。
「よし上手く行った。2人ともありがとう」
「やりましたねごしゅじ……!?」
「え……!?」
やがて地面にしっかりと着地し帰還。
俺もイエイヌもチーターも喜び一安心のはずだが……どういうわけか彼女達の表情は喜びから驚愕に変わる。
「2人ともどうし――」
「そ、その子っ、もしかして」
「ご主人離れてっ!!」
突如イエイヌが突っ込んでくる。目を見開き牙まで剥いて。彼女の敵意が向けられる先は……俺の腕の中だ。
「待て待てイエイヌストップ!」
「っ……! だめですご主人! そいつから離れてくださいっ!」
イエイヌがずざーっと停止する。どうにか指示に従ってくれるようだ。
「まあまあ落ち着いて。この子の何がいけない? フレンズだろ?」
イエイヌに手の平を向け静止を促しながら問う。彼女は踏みとどまってくれているが必死の形相は変わらず。更に口泡角を飛ばす勢いでまくし立てる。
「フレンズじゃありません! ビーストです! 危険なんです!」
「ビースト?」
ビーストという名前の動物が居ても悪くはないだろうが……この場合はそのまま「獣」という意味か。
しかし見た目は完全にフレンズでしかないこの子がどう危ないと言うのか――そんな俺の心の疑問に答えたのはまだ冷静さを保つチーターであった。
「ミレン……その子は暴れ回ったり誰彼構わず襲いかかったりするので有名なの。ビーストっていうのはそういうことをする子の呼び名よ」
「なんだって……」
腕の中で意識を失っている彼女を見る。
渇いた血の跡が余りにも痛々しい。
「分かった」
意思を固め顔を上げる。
「まずは手当てですかね」
「ご、ご主人っ」
「見て見ぬふりはしない。このまま放って置いたら死……セルリアンに食われるかもしれないから。ほら、こんなにケガもしてる」
切り傷を負った彼女の腕をイエイヌに見せる。すると彼女は何とも言いようのない表情を浮かべ、口をぱくぱくさせた。
「あ……そ、そうです、ね……」
「そんなに傷だらけなら暴れるのも無理でしょ。もし暴れても私とイエイヌが居るわ。だからミレンがしたいようにして」
「ありがとう」
チーターの後押しもあってどうにか場が収まる。
俺は早速ハブからもらったおくすりセットを取り出し「ビースト」というあだ名しか分からない彼女の手当てを始めた。
「これでよし」
消毒液の匂いを纏い、更に包帯やらガーゼやらが目立つ姿になったビースト(多分虎のフレンズのはず)を大きな木の洞に横たえた。人間と同じ回復体位で寝かせたがこれでも大丈夫だろうか。まあ普通のネコもこういう姿勢で寝てるような気がするし大丈夫だということにしておこう。
「さてこれからどうするか……」
放置しておくのも少々はばかられる。折角治療したのに寝ている間にセルリアンの奇襲を食らっては元も子もないだろう。
「もしかして連れて行くつもり?」
「ご、ご主人。それはさすがに……」
「きっと暴れだす、か……」
安らかな寝息を立てる彼女は全くの無害に見える。しかし2人の言う通りなら彼女は野生の獣のような性格だ。寝起きで機嫌が悪いから噛みつく、では済まなくなる可能性が高い。
イエイヌとチーターにはもうわがままを聞いてもらった。これ以上負担をかけさせる訳にもいかないか。
「せめて偽装しておくかね」
その辺の木から枝を折り取って洞を隠すようカーテンを作り、中にじゃぱりまんの包みを幾つか置いておく。これがしてやれる精一杯である。
「2人とも協力ありがとう。移動しようか」
小休憩のつもりがそれなりの時間を費やした。日中の間に渓流を抜けるつもりだったのだが。まあけもの助けができたということでよしとする。
「会った時から思ってたけどミレンっておひとよしよねー」
「そこはおけものよしと呼んでくださいよチーターさん」
トラクターの客車から聞こえるどこか満足げなチーターの言葉にそう返す。
「イエイヌ?」
「え、あ、はいっ」
「さっきはありがとう。わがままを聞いてくれて」
「い、いえっ。いいんです! ご主人がよければ!」
あのビーストという子に向けていた明確な敵意といいこの微妙な空気といい、あとでちゃんとフォローしてあげないといけないな。
トラクターを運転しながらあれこれとイエイヌが喜びそうなことを考える……交尾が真っ先に浮かぶ当たり俺はもうダメかもしれない。
海上ホテル崩壊を生き延びる→彷徨っている間に川に流される→ミレンたちに救出される(今ココ)って感じで……