1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結) 作:らんどまーく
ふぁっきんおしごと
いそがしく
社畜のフレンズ嘆きの俳句
「ふあー……」
ガタンゴトン!
「ちょっミレン! なんか道はずれてるわよ!?」
「うおおっ、ごめんなさい!」
トラクターのタイヤがわだちを逸れてしまいチーターが注意してくれた。まったく睡眠不足での運転は危険である。
ビーストの夜襲(?)とイエイヌの交尾によって最近に限って言えばいつもより寝不足になっているのだ。この程度、現代社会のフレンズ時代は余裕だったのだが……しかしまあ、退化してちょっと嬉しい気もする。
現在は穏やかな朝の森の中、トラクターを走らせているところだ。木の葉から差し込んでくる光が暖かい。
「眠いならまた休んだら? イエイヌなんてまだ寝てるし……」
客車から身を乗り出してきたチーターが後ろを指し示す。振り向くとこっくりこっくりするイエイヌのどこか幸せそうな横顔が見えた。
「いやーもっと寝不足でもっとキツいことしたこともあるし平気だよ。それにほら、もう森は抜ける」
進行方向は樹々が途切れておりその先に青空が垣間見える。森の端まで到達したのだ。
「おおー……すごい景色だね……」
そこは自然の高台になっており、降り注ぐ太陽の光がいっぱいに広がっている。
眼前にはどこまでも続く青空、眼下には褐色の大地が連なりこれまでとは別世界のような光景だ。粗く削ったような地面や隘路、所々に点在する藪、そして遠くに霞む湖などから受ける印象は砂漠というよりも峡谷と言った方がしっくりくるだろうか。アメリカのグランドキャニオンのあたり、なんたらバレーとかいう有名な観光地がこれに近かったはず。
「やっと戻ってきたわ。ここが私の縄張りのさばくちほーよ……っと!」
たんっ! と軽やかな跳躍で停車したトラクターから飛び降りるチーター。彼女の金髪が風に吹かれてなびいている。
「じゃあ一旦ここでお別れね。もう走りたくてうずうずが止まらないの。また後で会いましょ」
「むちゃくちゃ広い場所だけど会おうと思って会えるんですこれ?」
「縄張りって言ったでしょ? 私の庭よ、庭。すぐに会えるわ……イエイヌにもよろしく言っといてね」
そのまま峠の道沿いに走り去って行く……が、なぜかすぐにまた戻ってきた。忘れ物だろうか。
「ミレンッ」
どうしたのかと眺めているとチーターが運転席に飛び乗ってきて軽くキスをしてきた。顔がまっかっかである……チーターが。
「そ、その……もしも会えなかったらあれだから……あなた達に会えてよかったわ。あ、ありがとね……」
「こちらこそありがとう。また後で、チーター」
「~~~っ!」
あわわという声が聞こえてきそうな口の形をしたかと思えば今度こそ物凄いスピードで走り去って行った。やたら綺麗なフォームで。
「ふ、あああ……あれ、ここは……チーターさんはどこへ?」
チーターが走った後に沿って舞う砂煙を眺めているとイエイヌが大きく伸びをしながら辺りをきょろきょろと見回す。
「森はもう抜けたよ。彼女は先に縄張りを走ってくるってさ」
眠気眼の彼女に笑いかけ、眼下の大地に舞い上がるチーターのしるしを指差して言う。
「またぶつかりそうになるかもねえ」
それからしばらく、トラクターは軽く整地された道沿いを走り続けている。一帯は乾いた気候帯で気温は高くもなく低くもなく。ただトラクターのタイヤ痕だけが大地に積もった砂塵に刻まれて行く。
「ほええ~……とっても広いところですね~」
「ですなあ」
物珍しそうに客車の窓から顔を出しているイエイヌである。遮る物の少ない広大な空。この辺りの地層がそのまま出てきたかのような大地は赤褐色。妙に立方体として形の整った岩山なども点在している。
そういった大自然の中では圧倒的な違和感のある「虹色の塔」も進行方向にて威容を誇っている……というより、天を貫いている。相変わらずとんでもないスケールである。
「ご主人。このまま真っ直ぐ行くんです?」
「うーん迂回ですな」
直進すればすぐじゃんぐるちほーだが塔が邪魔をする。その付近は立ち入り禁止らしい。よってその一帯をぐるりと大回りし、一度海沿いに出てから再度転回してじゃんぐるちほーを目指す形になりそうだった。
「そういえばチーターさんはどこでしょう? このあたりを走ってるんですよね?」
「ここいらはもう爆走した後かもなあ」
地面に刻まれたまだ新しい靴の跡を運転席から眺める。これはチーターの物だろう。
……? チーターの靴跡と別の物もある。彼女の言っていた「走り友達」だろうか。
「……あああああああーーー……!」
「おーっとおいでなすった」
チーターの掛け声(?)が背後から響いてきたのでトラクターを路肩に避ける。停車してシートの背もたれに肘を乗せて待つこと数秒。
「……やっほおおおおミレエエエンイエイヌウウゥゥーー…………」
「チーターさん! ……ってもう行っちゃいました」
綺麗なドップラー効果を伴いながらチーターが脇を通り過ぎ、砂を巻き上げながら遠ざかって行く。スピードの向こうを追い求めて止まない彼女に思わず笑みが浮かんでしまう。
「絶好調みたいだねえ……うん?」
「……うおおおおおーーー……!」
別の声が後ろから近づいてくる。
「まあてええちいいたあああああ…………」
別のフレンズがチーターの名を叫びつつ駆け抜けて行った。一瞬ジャージ姿の普通の女の子だと空目したが。彼女が例のプ……なんとかという子なのだろう。
「さっきのフレンズさんもとっても速かったですね!」
「そうなんだけど叫びながらとか肺活量どうなってんのあの子ら」
イエイヌもだぞと内心でツッコミを入れつつフレンズの身体能力に改めて舌を巻く。というか2周目か下手すりゃ3周目でもやっているのかあの2人。いや直線を往復してるだけなのかもしれないけども。どちらにせよ理解不能な異次元体力である。
「あっ、また誰か来ますよご主人!」
やはり俺も少しは鍛え直すべきかなどと考えていると3人目の到来を告げられ、イエイヌの指差す先に視線を向ける。すると、
「ぜえ……ぜえ……まってくださいぷろんぐほーんさまあ~……」
「お、理解可能な体力の子が」
水色の半袖シャツが特徴的なフレンズがのろのろとした足取りでやってくる。鳥の子……だろうか。明るいグレーの髪の一部にトサカと羽のような黒い部分がある。
「ぶえっ!?」
「おおう」
「わわっ大丈夫ですか!?」
走ってるんだかなんだかよく分からない程に乱れたフォームの彼女だったがちょうど目の前を通った辺りで足をもつれさせてしまい、盛大にヘッドスライディングを決めてしまった。イエイヌと一緒に駆け寄る。
「ううーいてて……お、おお? なんだよおまえら?」
「イエイヌです。こっちはごしゅ」
「ミレンです。ケガとかしてませんか?」
「あたしはロードランナー……いてっ」
「よければ手当てしますよー」
その場に座り込む彼女、ロードランナーが膝を擦りむいていたので再びおくすりセットに頼ることに。どう見ても世の中から姿を消した赤チンが入っていたので懐かしみながら(使われたことも使ったこともない)彼女の傷に塗る……塗ったそばから色が無色透明に変化して行く辺りそういう雰囲気商品だったようだ。
「あとは絆創膏を……はい。痛くないです?」
「だ、大丈夫。あ、ありがとう……あの、もしよかったらあんたのこと」
「…………あああああー…………!」
もう来たよおい。ロードランナーの言葉がかき消されてしまった。
チーターの声が後ろから聞こえてくるのでやはりこの辺をぐるぐる周回しているということが分かる。とりあえず今突っ込んでこられるとロードランナー諸共撥ねられそうなので止まってもらいたい。
「おーいちょっと止まってー」
「ミーレーンー……!」
「おい待て止まる気あんの……うおあっ」
がばあ! と勢いのままに抱き付かれた。ほとんどタックルである。数歩下がりながらもなんとか受け止めきった。
「ほらねー! すぐ会えたでしょ♪」
「ああうんはい、また会えて嬉しいですはい」
こちらの首に手を回した上に足を胴体に絡めてくるチーター。彼女は会えて嬉しいというより単にハイになっているだけのように思える。ランナーズハイの意味が違うような気もするが深くツッコみはしない。
「わたしもやります!」
「人を上り棒か何かと勘違いしてませんかー?」
背中側にイエイヌが乗っかってきて空いたスペースに巻き付いてくる。もはや身動きがとれない。
「くっ……ようやく追いついた。いったいどんな特訓をしてきたんだ……って」
「んふふふふー♪」
「えへへへへー♪」
「ぐあー」
「あたしもやりたい……」
「いったい何をしているんだ……」
全くである。
「うーんちょっと興奮しすぎちゃったかもね、ごめんなさい」
「うむ。すまなかったなロードランナー。置いて行くつもりはなかったんだ」
「いい、いえいえいえ! あたしが遅いだけでおふたりのせいじゃないですから!」
場が落ち着いてから俺とイエイヌはロードランナーが疲れ切ってこけた時に出会ったこと、その時に彼女が膝を擦りむいたので手当てをしたことを教えてやるとチーターともう1人のフレンズは揃ってロードランナーに謝っていた。
「ミレンとイエイヌといったか。ロードランナーをみてくれてありがとう。チーターも言っていたが余りにもかけっこに夢中で……その、興奮してしまってな」
「いいんですよ。えー、ところであなたは……」
「プロングホーンだ。面倒ならプホンと呼んでくれ」
チーターの走り仲間であるプロングホーンことプホン。獣耳よりも目立つ湾曲したツノ、そしてジャージ姿が似合うフレンズである。どこか大人びた話し方をする子だ。
「プホンさんも走るのがすごくお好きなんですね」
イエイヌがチーターにも視線を向けながら言うと、プホンは「あー……」と苦笑を浮かべる。
「ま、まあそうだな。今回はチーターが久しぶりに帰って来たからというのもあるんだが……私は本来は皆で速さを高めて行きたいんだ」
「みんなで?」
そうだ、と腕を組みながら頷くプホン。まるで体育教師だなと、俺は学生時代にしごいてくれた人物の姿を思い浮かべた。当然こんな可愛い女の子ではなくゴツいオッサンだったが。
「例えば人数が揃った時は『りれー』をして楽しみながら鍛えている。ああ『りれー』っていうのは――」
リレーの説明を受けながらふんふんと頷いたり目を輝かせたり尻尾を振ったりするイエイヌ。プホンも聞き上手な彼女に上機嫌で語っていた。
「じゃあ今からその『りれー』をしませんか? わたしたちも一緒に遊びたいです! ね、ご主人!」
「ですです。自分走るの遅いんで賑やかしになっちゃいますけど」
「う、うむ。そう言ってくれるのはありがたいんだがあれは人数が多い方が楽しいんだ。そうだな……最低でも6人は欲しい。それに5人ではどちらかが偏ってしまうからな」
確かに。2対3では競い合う云々の話にもならない。どうせなら大人数でやった方が盛り上がるだろう。
「そうなんですか……他に遊びはありませんか?」
「あ、あー……そ、そうだな、ひたすら居るメンバーで競ったり新たなルートを開拓したり……」
残念そうに尻尾をしょげさせるイエイヌに困り顔のプホン。するとチーターが俺の横にやってきて腕をちょんちょんとつついてくる。
「ミレンなら何かいいアイデアとかあるんじゃない?」
「少人数で走れて競える遊びかあ……2人3脚とか?」
「ににんさんきゃく?」
聞き慣れないワードだったのか全員がこちらに注目してきた。俺は分かりやすいように木刀(ホテルの売店でハブからもらった)で地面に棒人間を描きながら説明する。
「えーと、2人1組になって片足ずつ紐かなんかで結んで走るんだ。こんな感じで……2人なんだけど3本の足で走るようにね」
「なるほど……個々の速さより連携が大事になるわけだな。いいじゃないか」
「ふーん。ま、面白そうじゃない。やってみましょ」
「プロングホーン様! あたしと組んでください!」
「ご主人わたしと走りましょう!」
一早く種目の要点を理解したプホンが良さげな反応を見せるとそのままプチレース開催が決定しそうになっている。思い浮かんだのを言ってみただけなのにここまで好反応とは。
それから数分後。
スタートラインにて緩い結束バンド(俺が即興で作った)で足を結んだペアが2つ並んだ。ペアはそれぞれ――
「よーしイエイヌ。さくっと勝つわよ」
「はい!」
チーター&イエイヌ。
「楽しくなりそうじゃないか」
「やりましょうプロングホーン様!」
プホン&ロードランナー。
初回ということで最も走り慣れたペア同士で走ってもらうことにした。
どちらも意気込みは十分である。
「えーそれでは両ペア、位置について」
審判は俺。
見通しの良い直線100メートルぐらいを使ってのレースだ。ゴールには地面に突き刺した木刀2本でテープラインを作ってある。
あまり詳しくないが練習を積んだプロ同士なら一般人が1人で走るよりも速かったはず。これがフレンズとなるとどうなるか、結果が楽しみである。
「よーい……スタート!!」
地面に下ろした木刀を空へ振り上げる!
「あああーー……ととっ!」
「わわっ!」
「ぬ、くっ、はっ」
「えっ、ほっ、ほっ!」
スタートはどちらも軽快とは程遠いものになった。チーターの足送りのスピードがイエイヌのそれよりも速過ぎで完全にストップ、まだマシな方のプホン側はロードランナーが少々先走ったが止まる程ではない。先手はプホン側が取った。
「ごめんイエイヌっ」
「っ、いえ!」
「調子を合わせて行きましょ!」
イエイヌが崩れた体勢を立て直し、チーターがすぐさま力をセーブしにかかったのが分かる。徐々に速度が上昇しているのだ。
「ロード、ランナーっ、ペースを落としてくれっ」
「は、はいっ!」
対するプホン側は速度が頭打ちになった。今はチーター達の加速の方が勝っており、最初のアドバンテージが見る見るうちに縮まって行く。
「「ぬぬぬぬー!!」」
「「うおおおー!!」」
しかしゴールまで残り4分の1ともなるとどちらも相当なスピードまで達しているように見えた。先にゴールラインを切ったのは――
「「やったー!」」
結んだ足から虹色の光を放つチーターとイエイヌであった。
2対3でリレーやったらもれなくミレンが居る方が負けます