1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結) 作:らんどまーく
いかんせん書き分けが難しいので……
たぶんというか完全に自分の力不足です好きな人ごめんなさい
あ、でも永遠の別れじゃないです
すぐにとは言わないまでも必ずまた会います
きっとミレンとイエイヌも同じ気持ちだと思います
さばくちほーではロードランナー、プロングホーンとの出会いと濃密な出来事があった。
チーターの縄張りでもあるそこで2人3脚や5人6脚をして転びまくり(俺が)、突如空から降って来たセルリアンを協力してぱっかーんし、皆の絵を描き、そしてその……ロードランナーとプロングホーンとのしっぽりな一夜を過ごした、その次の日である。
俺とイエイヌを乗せたトラクターは海岸線まで伸びる広い道を走り続けていた。所々に標識が立つ(たまに折れている)その道は地平線のずっと先まで伸びているかのようで、両脇には赤褐色の大地が広がっているのだ。
「ご主人あそこあそこ。チーターさんたちが手を振ってますよ!」
「こっからまた走って帰るつもりなんすかあの子ら……」
さばくちほーの端辺りに存在する小高い岩山の上で、チーター、プロングホーン、ロードランナーの3名が大きく手を振っているのだ。既に10キロ以上は走行しており、それでも彼女達は「端っこまでついて行く」と言って延々とトラクターに並走(途中普通に追い抜いてどっか行ったりもした)してきたが流石にここいらでお別れのようであった。
「みなさーん! また会いにきますからね~!」
「またー!」
イエイヌが窓から身を乗り出し、俺もちょろっと運転席から身を乗り出して手を振る。あちらも何か口々に叫んでいるようで耳を澄ますがかなり離れていて聞き取れない。
しかし俺と違ってイエイヌは耳をぴくぴくさせながら頷いたり笑ったりしていた。
「君、もしかしてあの子らが何て言ってるのか聞こえてる?」
「はい! また来てとか、また一緒に走ろうとか、今度はみんなで交尾しようとか!」
「い、いい耳ですねぇ……」
イエイヌの耳も俺に比べれば十分地獄耳である。そして交尾と言えば今朝もチーターから逆レイプ気味にやられた記憶があった。早朝、トラクターの近くで体操と軽く筋トレをしていて襲われたのだが……。
『ミレン……ッ♡ほんとはね……っ♡んっ♡! いっしょに、行きたいのっ♡でも、プホンとロードランナーが……あっ♡競争しようって、聞かないから……っ♡それに、あんまり縄張りを留守にできないし……はうぅ……っ♡だからおねがい……っ♡』
『チーター。それ押し倒して挿入しながら言う台詞じゃないでしょ……う、出るっ』
『ひあああっ♡!』
お陰でイチモツがまだビンビンである。この世界に来てからというものフレンズと交尾三昧で耐性でもついて来たのか、何度か出したくらいでは物足りなくなってしまっているのだ。
特に今日はすごい。既にチーターに3回出しているのにも関わらずあと10回は出せそうな気がするのだ。何か変な物でも食ったか? じゃぱりまんだけだが。
「ご主人?」
「なんでもないですよええはい」
「そうですか……? あっ、あの砂煙! きっとチーターさんたちですよね!」
後ろを振り返る。すると縄張りへと戻って行くチーター達の物であろう3本の砂煙が見えていた。
「あれが全力ってことか……何キロ出てるんだろ」
「やっぱりみなさん速いです~♪!」
自分のことのように嬉しそうに言いつつ尻尾を振るイエイヌ。健気な彼女にこんにゃく野郎の煩悩思考が移らないよう(もう遅いかもしれない)気を引き締めてハンドルを持つ。
『うみべちほーまで あと20きろ』
さばくちほーに立つ何本目かの標識が再び海辺までの距離を教えてくれた。
それから数時間後。太陽が真上に来る頃には周辺の風景もすっかり変わっていた。
地固めされていない道の外れは赤褐色ではなく白になり、たまに生えている程度だった細い木は連なる青々としたヤシの木へと。
「くんくん……。なんだか汗みたいな匂いがしますね……」
「海の香りだねえ」
「うみ?」
見たことがないのだろうか、バックミラーを覗くとイエイヌが首をかしげている。
「海は……塩が沢山入ってる巨大な水たまりっていうか……」
「水たまりですか。それってどのくらい大きいんです?」
「うーん。さばくちほーにあった湖が砂粒に思えるぐらい?」
「ほええ~!」
そんなやり取りを交わしながら道を進んで行くと、やがて前方の景色は大地よりも青い水平線が多くを占めるようになる。きらきらと太陽を反射してきらめく大海がそこにあるのだ。
ざざーん……ざざーん……
「わあ〜! 水が行ったり来たりしてますね! わわっ、ていっ、ていっ!」
砂浜に到着するや目を輝かせながら飛び出して行ったイエイヌ。彼女は波間の寄せたり引いたりに合わせて行き来しつつ波に犬パンチを当てて遊んでいる。
「ご主人も遊びましょう!」
「はいよ!」
しばらくイエイヌと共に砂浜で遊びに浸った。フリスビーを投げあったり、砂の上ならどうだと木刀をビーチフラッグに見立てて競争を挑んで惨敗したり、砂の城(無駄に和風)を作ったり。
「ご主人ご主人! 砂を掘ったらお水が出てきました!」
「単に海水が染み出してきてるんですなそれは。あまり掘ったら崩れるかもしれないからほどほどにね。……にしてもちょっと暑いなここ」
汗を拭って太陽を仰ぎ見る。だがうだるような暑さではない。時折吹いてくる潮風は体の熱を取り除いてくれるだけの爽やかさが十分に含まれているのだ。
そういえば、日本の夏は幼少期と成人してからでは緯度が変わったのかと思うぐらいの変わりようだったな……。
「イエイヌー。喉乾いたりしてないですか……って」
「むーっ! むむむむーっ!」
「おいおい何やってんねん!」
崩れるからあまり掘るなと言ったのにこれである。振り向くと砂浜からイエイヌの下半身が生えていたのだ。急いで救出することにした。
「あははっ。砂だらけになっちゃいましたね♪」
「で、ですなあ」
そんなこんなで一通り遊び(?)終えた時には俺もイエイヌも砂まみれになっていた。ブーツの中やらズボンの中やらはすごいことになっている。
「ぶるるるっ!」
「どぅぉぉー!?」
まるで犬のように体を震わせたイエイヌから砂アタックをもらってしまい顔面と口の中まで砂まみれになってしまった。あと犬のようにとか言ったけどそもそも犬のフレンズだったわこの子。
「ああっ!? ごごごごめんなさいご主人っ!」
「え、ええんやで。ぺっぺっ。とりあえず……休憩がてらあそこにある海の家に行ってみますか」
砂浜から少し離れた場所に桟橋があり、その近くに大きな建物が見えていたのだ。シャワー室や洗濯板ぐらいあるだろう。なかったらしばらく裸で過ごさせてもらう。
近付いてみて分かったがそこはカフェテラスやプールなどが合わさった複合施設だった。海の家というには立派すぎる。
建物の壁面はボス達が掃除しているのか以外と綺麗である。それでも閑散とした雰囲気は、人の手を離れて短くない時が経過していることを伺わせるのに十分な静けさを伴っていた。
「ジャパリ……マリン……うーむ掠れすぎで読めんがパークか?」
「いきなりどうしたんですかご主人?」
「この建物の名前が看板に書いてあってね」
「なまえ……なまえ……? これのことですか?」
「まあ気にせず行きましょ」
文字が読めないイエイヌの疑問はさておき、ホテル以降ソーラー充電式バッテリー(弱い)のみで凌いできたのでここでトラクターやタブレットやらをきちんと充電できそうである。あと潮風を浴びた車体も洗車したい。ほっとくと多分ボルトやらの非メッキ素材辺りが錆びてしまうから。
とりあえずはピットにトラクターを入れようと搬入口シャッターのボタンを押す。キシキシと音を立てながらシャッターが開きT字の通路に明かりが灯る。
←の矢印には「ボート用ピット」の文字が。→の矢印には「陸上車両用ピット」とのこと。左には用がないので右に向かうとまたシャッターがあったのでこちらも開き、ホテルにあった物と大差ない設備を持つピットにトラクターを置く。そうしてエンジンを停止し下車すると、イエイヌが不思議そうな表情で先程の通路を眺めていた。
「何か気になることでも?」
「うーんと、さっきの別れ道の反対に誰かが居たような気がして。なんとなく匂いだけだったんですけど……」
「フレンズか……? いやセルリアンだとマズいか……」
一帯に漂う潮の香りのせいかイエイヌの鼻をもってしても判別できないようなので一応確認することに。杞憂であればいいが。
「イエイヌはそっちの壁に居て。シャッターを開けたらいきなり中に入らずこっそり伺うんだ」
「はい!」
木刀を片手に指示を出しボタンを押す。これまた入り口のシャッターと同じくキシキシ音がひどい。壁に張り付いたまま中を覗き見ると――
「ねえアシカちゃん。だ、誰か来たみたいだよ?」
「そのようですね……ですがどうやら恥ずかしがり屋な方々のようです……イルカさんちょっとお耳を」
「うん……うん、そうだね!」
2人のフレンズがそこに居た。1人はグレーの頭頂部から先端に行くほど明るい水色の髪を持つセーラー服のフレンズ。もう1人は眼鏡をかけ、白い前髪と黒の長髪、そして黒い水着の目立つフレンズだ。どちらも尾があり見た目と相まって水生の動物であることが分かる。イルカとアシカ……確かに言われてみればぴったりな容姿である。
「いくよーっ!」
ざぱんっ!
セーラー服のフレンズが今は何もないボート用の桟橋から海中へ飛び込んだ。いきなり何を始めたのかと呆気に取られていると、
「はいっ!」
ジャパリパークのシンボルマークが刻印されたビーチボールを眼鏡のフレンズが宙に向かって放り投げる。すると、
ざっぱあああん!
水しぶきをあげながら先程のフレンズが水中から勢いよく飛び出し、空中に浮かぶボールにキスをしてから更に宙返りを見せ、尾で軽く打ち返す。
「やっ!」
ボールを頭で受け止めたフレンズはそのまま上手くバランスを取る。頭にボールを乗せたまま彼女はくるりとその場で1回転し、腰の青いパレオが舞う。セーラー服のフレンズがその隣に着地し、両手を上げてポーズを決めた。
「す、すごい! すごいですっ!」
「ブラボー……!」
思わずイエイヌと一緒に拍手をしていた。今のは彼女達の「特技」なのだろうか、まるで水族館のショーを見ているようだった。
警戒する必要もなくなったので決めポーズ取り続けるフレンズ達に歩み寄る。
「ほ、ほめられちゃったよアシカちゃん……!」
「え、ええ……! じゃあ次よイルカさん……!」
ポーズを取り続けなきゃ行けない理由でもあるのだろうか? とりあえずイエイヌと一緒に自己紹介でも……。
「「はじめまして!」」
「おわっ」
「私、バンドウイルカだよっ♪」
「私はカリフォルニアアシカです♪」
「ああその、ご丁寧に。初めまして。ミレンです」
「イエイヌです!」
………………。
なんかずっとにこやかに手を振られ続けているのだが。何と声をかけてよいか分からず困惑しているとイエイヌが先に話しかけてくれる。
「あの~。どうして手をふりつづけているんです?」
「ご、ご褒美だよっ!」
「て、手を振っていればご褒美がもらえるハズです!」
ああなるほど……元は水族館暮らしでもしていた動物だったのだろうか?
しかし妙に必死な顔で両手を差し出されても何をあげたらよいのか。今俺が持っている物と言えば借りパク中かボスにもらったかホテルの売店でハブにもらったかの3択だし……。いかん、何もあげられる物がない。
「ご主人。わたしにしてくれるみたいに、こう、なでなでしてあげたらどうでしょう?」
「うーんそれは別の意味であげられないというかむしろやってはいけないというか……」
「わふ♪」
耳をぴこぴこ動かしながらすり寄ってくるイエイヌの頭を両手でわしゃわしゃしながら却下する。もれなく発情である。
「ご、ごめんね。ないならないで大丈夫だから」
「ええ。ほめてもらえただけで十分です。ところでおふたりは初めてのフレンズさん達ですね。どちらからいらしたんですか?」
大人びた眼鏡姿のフレンズ、アシカに問われここに来るまでの経緯をざっくりと話した。
反応? お疲れ様です~という感じ。海を住処にしている彼女達にとって陸地の距離感は掴みかねるのだろう。なお現在の移動総距離はおよそ30キロ。
彼女達にも自己紹介をしてもらった。イルカとアシカはこの建物とその付近を縄張りとしているフレンズで、なんでも「フレンズになる前から」ここに居たとのこと。「芸」をして「ご褒美」をもらっていた時の記憶が僅かにあり、それを再現しようと2人であれこれ試行錯誤する日々なのだとか。
「じゃああっちの砂浜でもさっきみたいなことをしてるんです?」
「うん! 本当はこの建物の中にあるプールがいちばんいいんだけどね」
「ええ。お水が綺麗なら……」
「うん……」
プールというと一部は施設の外からも見えていた。いかにも観客席のような座席があったのを覚えている。
「プールの水は汚れているんですか?」
「流石に泳ぎたくないかなあ」
俺が問いかけると顔を分かりやすくしかめるイルカ。アシカも微妙な表情で頷いている。
水が汚い……海水を海から直接引くタイプならポンプが故障しているか止まっているかで循環していないか、ゴミなどを除去する用のフィルターが駄目になって詰まらせている可能性もあるか。これも専門外なので予想でしかないが。
「ご主人、もしかして『しゅうり』のことを考えてませんか?」
「こ、心を読めるんすかイエイヌさん」
「はいご主人のことならなんでも! ……って、言いたいんですけど。なんだかご主人のお顔がキリッてしてたので」
顔がキリッて……イエイヌが尻尾を振りながら言ってくれなければ嫌味にしか聞こえない台詞ではある。
「……まあ、とりあえずは見に行ってみますか。プール」
「え、えっ。プールに行くの? どうして?」
「ご主人が直してくれるんです!」
「ほ、本当ですか!?」
ちょっと待ってなんか直すのが前提になってる上にこれ失敗できひんやんけ!
俺は心の中でツッコミを入れながら期待の眼差しを向けるイルカとアシカに微笑んで見せた。多分引きつっていたとは思うが。
「ここがプールか……」
想像通り水族館などにありがちなタイプのプールであった。観客席の上は船の帆を模した屋根が設けられ、そこからイルカがくぐるのに使う輪っかなどがぶら下げられたワイヤーが空中に張られている。そして問題の水だが。
「く、くちゃいです……」
「ああ……これは……」
一言で言おう。汚い。プールに留まった海水はギリギリ底が見えるぐらいの状態にまで濁っていた。その上イエイヌが鼻を指でつまむほどのすえた塩の匂いまで漂っている。
プールの排水溝を上から覗き込むが、ステンレス製の網の奥にある排水弁はそもそも閉じているように見受けられた。排水も給水も長らく行われていないようだ。
「手動だったらきついなこれは……」
呟きながら「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた区画へ足を運ぶ。そこは配電盤や排水や給水の弁の開閉操作を行うバルブなどが設置された機械室である。
「へえ~ここってこんな風になってたんだね!」
「あー皆ここにある物は触っちゃダメですからね」
「うん! 分かった!」
「分かりました」
「はい!」
一緒について来たイルカとアシカも物珍しそうに眺めている。どうやら区画の手前にあったドアを開ける方法を知らなかったか、そもそも入ろうとすら思わなかったのかもしれない。基本は海を移動しているのだろうし。
彼女達の様子にそんな感想を抱きつつ各種バルブの設定が自動になっていることを確認。それから配電盤のパネルを開いた。
「おやこれは……」
メインブレーカーが落ちているのだ。これなら手をかけずに済みそうだ、と少々安心しそうになった所に。
ピロピロピロピロピロ!
「うん?」
「ふえっ?」
先程入ってきた扉の方からブザーのような音が響き渡った。振り返ると、
ピロピロピロピロピロ!
日々じゃぱりまんを乗せたかごを持ってどこからともなく現れるラッキービースト、ことボスがそこに1人。しかし今は耳の上に何も乗せておらず、代わりに警告の色である黄色い点滅をぴかぴかと宿している。
「わあラッキーさんだ。でもアシカちゃん、これって……」
「お、怒っているようですね……」
「ふええ……」
ボスの発する音か、それとも黄色い点滅が怖いのか。フレンズ達は皆腰が引けていた。
「警告、警告。ココは関係者以外立ち入り禁止エリア、区分レベル2です。当エリア外への移動を、お願いします」
俺の足元までやって来たボスはそう言って退去を促してくる。
区分レベルか……そういえばメンテナンスピットには「1」と刻印されたジャパリロゴがあったような気がする。さっきの扉には「2」が示されていた。
それはさておき、普通なら「はいすいませんでした」と従う所だが今回はそうはいかない。
「ボス。自分はここのブレーカーが落ちてるのを元に戻したいだけなんです。プールをあのままにはできないでしょう」
「停電後の復旧処置には、パーククルーの許可が必要です。お客様は、エリア外への移動をお願いします」
おっと……今のは確実に俺の言葉に答えたな。やっと話しかけてきてくれたことに喜びを感じてしまう。
「ボス、自分は『お客様』のつもりはさらさらないんです。これでも電気工事士の免許だって持ってて」
「エリア外への移動を、お願いします。エリア外への移動を、お願いします」
「やっぱり無視かよ」
ボスはしびれを切らしてぴょんぴょんとジャンプしながら急かしてくる。
このまま問答を続けても意味がないことぐらいは分かる。しかし指の動作1つで終わるかもしれない問題を放置したくもない。恐らく落雷か何かでブレーカーが落ちたのだろうが……戻すのにいちいち人の許可が必要とは。誰だこの設計をした技師は。人間が居なくなる可能性を考慮しなかったのだろうか? しなかったのだろうけども。
そして人間のクルーと言えば……俺の頭に真っ先に浮かんだのは「かばんちゃん」だ。ここがあのアニメの世界そのものであるならば。「ミライさん」の可能性もあるか?
「ご、ご主人~……ラ、ラッキーさんが怒ってますぅ……こわいですよぉ……」
「うん。こわい……」
「怖いですね……」
尻尾を股の間に挟みながら涙目で訴えてくるイエイヌ。イルカとアシカも俺の後ろに隠れて怯えている……恐るべしボス。しかしこうなったら「パーククルー」に会って許可をもらう他になさそうである。
「しょうがない。出ようか」
口惜しさを我慢して機械室から立ち去ろうとしたその時。
「復旧処置の許可を、確認しました。各設備の診断を、開始します」
「……なんだって?」
思わず立ち止まり振り返る。さっきまでと言っていることが180度違うのだ。許可がないからこそ放置していたのでは……まさか、今この瞬間にパークの職員が許可を出したとでも?
「診断終了。漏電の恐れなし。ブレーカーを……ブレーカーを……アワワワ」
「ああもう、ほら」
ジャンプをしながらブレーカーを上げようとして失敗するボスを配電盤の目の前へ持ち上げてやる。するとボスは器用に耳を動かしブレーカーのスイッチを入れた。
「排水開始。自動洗浄後、通常循環に移行します」
とっとっとっ、とポンプの駆動音がし始める。どうやら止まっていた設備が動き出したようだ。
「ご主人……これってもしかして直ったんですか? ……ご主人?」
「……誰か見ているのか?」
返事を期待してしばらくボスのつぶらな瞳をじっと見つめたが、彼は普段のように何も言わなくなっていた。
「みてみてー!」
「イルカさんすごいですー!」
「ほっ、はっ」
「アシカさんもすごいですー!」
しばらくしてすっかり綺麗になったプールでイルカとアシカが思い思いの芸を見せてくれていた。イルカは凄まじい跳躍からのフープくぐりを連続で決め、その下でアシカがビーチボールを頭の上に乗せくるくる回転したり器用にヘディングをしたり。2人が連携して行う大技もあり見ごたえ抜群である。イエイヌの歓声に2人とも嬉しそうに笑い、手を振り返してまた違う芸を見せてくれるのだ。
――パーククルーの許可が必要です
――許可を確認しました
俺は拍手を送りながらも先程のことが気になってしょうがなかった。ボスの態度の急変が偶然とは思えなかったのだ。まるで誰かがボスを通して一部始終を見ていて咄嗟に指示を出したかのような……そんな気がしてしょうがない。考えすぎだと理解してはいるのだが。
「……ん?」
服の裾をくいくいと引っ張られていた。イエイヌの手である。
「ご主人ご主人! 一緒に泳ぎませんか?」
「このプールで? そうだな、あの2人がいいっていうなら……」
「ねえねえ! いっしょにおよごー?」
「きっと楽しいですよ」
プールの縁に寄ってきたイルカとアシカにも笑顔で誘われ、なら軽く泳ごうかと水着に着替える。水着は当然ここにあった物を拝借で。
「えへへへ……♪」
「ちょ、イエイヌあんまり引っ付かないでって」
「だってご主人がとっても美味しそうなんですもの♪」
「普通に怖いんですけどその台詞」
軽く準備運動をしてからプールに体を沈めるとイエイヌが飛び込んで体を密着させてきた。彼女は服を着たままなので直に肌の感覚がこないだけマシではある。
「アシカちゃん……あたしね、なんだか体が熱いの……んっ……」
「奇遇ですねイルカさん、私もです……どういうことなんでしょうか……はぁ、はぁ……」
「これは……まさか」
「ご主人……♡おふたりも『同じ』みたいですよ……♡」
気が付くと正面をイエイヌ、背後はプールの壁でブロックされる形になっていた。目の前の彼女は色違いの瞳にハートマークを浮かべ、ぼぉっとした表情で見つめてくる。
「ううん……♡なんだろう……♡」
「なんでしょう……♡はぁ……♡」
イルカとアシカは顔を赤らめて自身の体に起こった異変に困惑している様子である。まだこちらに意識を向けてはいないが……そうかからずに気付くだろう。
考え事に集中し過ぎたか……つい前日、触れてすらいないはずのプロングホーンとロードランナーを発情させてしまった時のことをなぜ忘れたのか。ほとんど裸で同じ水の中に居れば一撃だと想像できるだろうに。
「はっ♡はっ♡」
イエイヌに関してはよく分からないが……俺のほぼ裸姿を見て興奮したのだろう。「禁断症状」という言葉が頭をよぎったが流石にそれはないと思いたい。
さておき俺は自嘲の笑みをこぼしながら彼女達との交尾に備えることにした。こうなってしまうと一度ヤらずして発情状態が収まることはない。まずは目の前のイエイヌとである。
「ごしゅじん……♡」
彼女の顔がゆっくりと近付き、やわらかな唇が重ねられた。
そろそろ彼女の干渉が増えてくるかもしれないです