※この作品はR-18です。

1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結)   作:らんどまーく

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!お知らせ!

今回は残酷な描写が強くなっています。ご注意ください。
一応次話の前書きで簡単なあらすじを載せますので閲覧せずとも問題ありません。


血(!)

 洞穴から勢いよく飛び出した俺とイエイヌに黒い雨が降り注ぐ。

 漆黒に染まる雨水は気味が悪いどころか明らかに「体に悪い物質を含んでいます」とでも言わんばかりで、同じ色の合羽に染みこんでくるのではという悪寒すらする。

 

 未だに木々の折れる音が断続して響いていた。それには動物や人間とも知れぬ不気味な雄叫びと、甲高い少女の悲鳴も伴っていた。

 フレンズがセルリアンに襲われている。助けなければ。

 

 雨宿りをしていた洞穴は峠道の中ほどに位置する。真っ直ぐ正面は崖であり、高さはビル数階は軽く越えるはず。とてもではないが生身の人間が飛び降りられる高さではない。

 

 迂回せざるを得ないか。歯噛みしながら足先をくねった下り道へと向けると、イエイヌが俺の腕を掴んで引き留めた。

 

「わたしがご主人を抱えて飛びます!」

 

「それは流石に無理ってうぉい」

 

 体格の差を物ともせず、イエイヌがひょいっと俺の体を抱え上げる。そしておもむろに崖に向かって走り出す。

 

「おいおいおいおい……!」

 

「大丈夫ですよー!」

 

 爛々と輝くイエイヌの瞳には虹色の光が宿っていた。決して彼女の足腰を見くびっている訳ではないが、落下に耐え切れなければという不安はどうしても拭えない。

 

「行きます!」

 

「ああもうよし行け!」

 

 もはやこうなればとイエイヌを信じてしがみ付いた。浮遊感を覚えた直後に下降が始まり、雨よりも早い加速度で大地へと落ちて行く。目は閉じず、来るであろう衝撃に備えて腹に力を込める。

 

「――ッ!」

 

 ダンッ! たたたたっ。

 

 体を引っ張った重力は本物だった。しかしイエイヌはまるで小さな段差でも越えた後のように息1つ吐かず、すぐさまぬかるんだ土を蹴り上げ走り始めた。

 

「さっすが」

 

 凄まじい健脚ぶりには心底感心せざるを得ない。

 

「……」

 

 驚嘆の呟きは聞こえてはいたのだろうが、彼女は走ることとその先に立ち塞がるであろう困難に向かって集中しているようである。その色違いの瞳に確固とした意思の光が見えるのだ。実際光ってはいるのだが。

 

 そして抱えられたまま深い木立の間を走り抜け、やがて前方が開けてきた。

 

 そこには深い谷間が横たわり、渡す橋としてコンクリートとアスファルトのそれが架けられている。

 橋の手前には鉄柱から伸びるアーチに、

 

〔よう そじゃ ぐる ほーへ〕

 

 と歯抜けしたパネルが掲げられ、その全てが雨に晒されていた。若干苔むした路面はひび割れが多く、脱落防止用のガードレールも錆色に染まり、等間隔に配置されたまだ折れていない電灯が心許ない明かりを放っている。

 

 元は人間を招くためであったのだろうゲートウェイ。既視感のある光景はアニメ序盤においてさばんなちほーとじゃんぐるちほーを繋いでいたあのゲートによく似ていた。

 

 あの名場面を想像する暇もなく道路の真ん中から、オオオ、と腹に響くような咆哮が響き渡り、周囲の雨音を吹き飛ばした。

 

「居るな……」

 

 セルリアンだ。どういう原理か宙に浮かぶそれは見上げる程の巨大なボール状で、黒い体の側面から触手のような腕を何本も生やしている。その腕の先端はまるでハエトリグサのようになっており、やはりアニメ序盤に登場したあのセルリアンの姿と酷似していた。見た目には青か黒かの違いくらいしかない。

 

「あそこにフレンズさんが!」

 

 イエイヌが道路の真ん中に横たわった白黒の何かを指して叫んだ。既にセルリアンが取り込もうとその腕を何本か伸ばしている!

 

「先に突撃しろ!」

 

 言いながらイエイヌの腕から飛び退く。彼女は頷いて加速し俺も後から続く。

 

「ガアアァッ!」

 

 指示に従ったイエイヌが狼のような咆哮を上げて疾走する。合羽をはためかせ、雨の黒を浄化するような光を纏ったイエイヌのクローが容赦なくセルリアンの胴体を穿った。

 

 ばっこおおおおん!

 

 黒い破片をまき散らしながらセルリアンが道路の向こうへと転がって行く。俺はその様子を視界の端に捉えながら、横たわったフレンズの傍にひざまずいた。

 

 白い髪に黒のポニーテール、黒い毛束のような尻尾。縞模様を基調とした白黒のいで立ちは一見するとシマウマのように見えるが、尻尾の形は異なっているような気がした。

 

「大丈夫か君、君?」

 

「うう……」

 

 倒れたフレンズに目立った外傷は見当たらない。だがぐったりとしておりそのままにしておけない。

 

「すぐに戻る!」

 

「はい!」

 

 とにかく雨に当たらない場所へ移す。俺はイエイヌに一声かけてからフレンズを抱え上げて来た道を戻り、雨の当たらない大きな木の幹に寄りかからせた。

 

「だ、だれ……ですか……?」

 

 ひとまずは大丈夫かとイエイヌの方へ戻ろうとすると、か細い声が俺を呼び止めた。意識を取り戻したのか、振り返ると薄く目を開いたフレンズがこちらをぼんやりと見上げていた。

 

「自分は――」

 

「ウガアッ!」

 

 イエイヌの怒声と戦闘音にまた振り返る。

 

「そこに居てくださいね」

 

 会話もそこそこに再び黒い雨中へと駆け出す。セルリアンはまだ健在で、ゲートの中央ではイエイヌがセルリアンの腕を弾いたところであった。

 

「ウゥゥ……ウウッ!!」

 

 イエイヌは果敢に飛びかかるもセルリアンの腕が鞭のように振り回され深く踏み込めず、その都度回避と迎撃に回らされている。セルリアンによる一撃の威力はさほどでもないようだが、文字通り手数では圧倒的に不利であり防戦一方に陥っているのだ。

 

 現状を打破するために思考を巡らせる。

 逃走という選択肢には背後にしか道がなく、セルリアンの追撃に先程のフレンズが巻き込まれる可能性がある。セルリアンにスタミナの概念が存在するのかも分からず、どこまで追ってくるのかも予測できない。つまりここで撃破するか、それに及ばずとも撃退に持ち込まねばならない。

 

 ――ならば戦って勝利する。

 

 直接打撃を与えられる戦力はイエイヌのみ。俺は可能な限りの援護。目標はセルリアンの撃破または撃退。

 

「そいつの背中に石がある! 俺が奴の気を引くからその隙に攻撃を!」

 

 イエイヌの初撃でセルリアンが吹き飛んだ際、その胴体背面に盛り上がった部分があった。露出こそしていなかったがあそこに石がある可能性は高い。

 

「分かりました!」

 

 イエイヌは俺の指示に従って回避に専念し、持ち前の脚力を持って全ての攻撃をかいくぐる。

 

「遅いですよ! ほっ、はっ」

 

 時に鉄柱を蹴って立体的な動きをする彼女の華麗な姿に思わず目を奪われそうになる。

 

 ばきいいん! めしめしぃ!

 

 セルリアンの腕が一瞬前にイエイヌの居た辺りに突き刺さり、引き抜く際に近くにあった鉄柱を真ん中からへし折って「ようこそ」と書かれた文字板を粉々に粉砕した。

 

「かなり荒れてるな……!」

 

 あまりの攻撃性の高さに肝が冷える感覚を覚えながら行動を開始する。リュックサックを下ろして中から点灯したままの携行ランタンとロープを取り出し、素早くランタンにロープをくくり付けた。

 ロープを持ち、先端のランタンをゆっくりと振り回す。

 

 ヒュンヒュンヒュン――

 

「そら!」

 

 ヒュオッ!

 

 下からすくい上げるように投擲したランタンが空中へ舞い上がる。黒い雨の中に橙色の光球が放物線を描き、予想通りセルリアンの瞳がそれに釣られてイエイヌに対する攻撃を中断する。

 いいぞ、そのまま後ろを向け!

 

 ぱりいんっ!

 

「ちっ!」

 

 失敗した。セルリアンは興味を失ったかのように視線を逸らし、邪魔な蚊を払うかのようにランタンを叩き落としたのだ。

 ガラスの破片が地に落ちたのを皮切りにセルリアンが動く。腕の先端でガードレールを掴むと、ランタンの破裂音に意識を持って行かれていたイエイヌに向けて体を打ち出すようにして襲いかかった。

 

 どおおおんっ!

 

「わああっ!」

 

「イエイヌッ!?」

 

 僅かに回避が間に合わなかったようで、直撃は免れたものの衝撃と風圧によって彼女の体が宙に打ち上げられた。

 不安定な体勢、おまけに空中では回避もままならない。それを見越したかのようにセルリアンが追撃を仕掛ける。

 

「!?」

 

 セルリアンの腕部がイエイヌに食らい付く寸前だった。宙にあった彼女の姿が突然かき消えた。

 ……いや違う! 何者かがイエイヌごと飛び退っている!

 

「あの子は……!」

 

 学生のようなブレザー服、そして虎を彷彿とさせる2つに結ったオレンジ色と白黒の縞模様の髪。

 数日前に出会った、イエイヌとチーターに「ビースト」と呼ばれ警戒されていた少女がイエイヌを抱きかかえていたのだ。

 

 彼女は濁った雨でびしょ濡れだったが、同時に体中から虹色の粒子を立ち昇らせていた。どうしてかは分からないが、イエイヌが攻撃をする際に手や足に纏う光を全身から放出しているようだ。

 

「ウゥゥッ!」

 

 相手が誰かを理解したのか、イエイヌが唸り声を上げながらビーストの腕を払いのけ距離を取る。時間にすれば数秒間、危険だと言われる彼女は何もせずじっと腕の中のイエイヌを見つめていたようだった。

 

「グガアアアアアッ!」

 

「っ!?」

 

 息を飲んだ。ビーストが突然咆哮と共にイエイヌに向かって突進したのだ。そのあまりの迫力にイエイヌも動けないでいる。

 

 ばちいいいいいんっ!!

 

「え……」

 

 やめろと叫びかけたその時、ビーストが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()打ち払った。大きな破裂音を伴ったその一撃は凄まじい威力だったようで、根元であるセルリアンの体が仰け反っている。

 

「グルルルゥゥ……!」

 

 唸り声を上げるビーストがセルリアンを睨み付ける。イエイヌを庇うように立ち塞がるその姿は。

 

 ――味方だ。

 

「イエイヌ! その子と一緒に戦うんだ!」

 

「ッ! はいっ!」

 

 呆然と救援者の背を眺めていたイエイヌが弾かれたように動き出す。彼女はビーストの横に並ぶと何か言いたげな素振りを見せるが、立ち直ったセルリアンが放った腕部に対して即座に意識を切り替えた。

 

「ウゥゥゥゥッ!」

 

「ガアアアアアッ!」

 

 虹色の光を纏う双爪が鞭のようにしなる腕を弾き飛ばし、直後2人は左右へ別れ挟撃を仕掛ける。凄まじい猛攻がセルリアンに襲いかかり、先程までとは逆に相手が手一杯となって後退を始める。

 

「ハァッ、ハァ、ハッ……!」

 

「危ない!」

 

 しかしその勢いは長くは続かなかった。ビーストの動きが早くも鈍り始めたのだ。イエイヌが彼女との位置を入れ替えるように交差し、セルリアンの腕を叩き落としていなければモロに反撃を食らっていたかもしれない。

 

 ビーストの纏う虹色の光は彼女が動けば動くほどに薄くなり、肩を大きく上下させる姿には疲弊が容易に見て取れる。

 

「よおし……!」

 

 俺は意を決しリュックサックからランタンに代わる道具を取り出した。危険だが、もはや1人安全圏で傍観している訳には行かない。

 

 ジュッ、シュボォォォォ……

 

 赤い筒が眩い薄紅色の炎を放つ。トラクターの運転席から持ち出した発炎筒……これでケリを付けよう。

 

「ご主人!?」

 

 セルリアンの正面へと躍り出た俺は明るく燃える先端を真っ直ぐ突き付け、腹の底から声を上げる。

 

「こっちだのろまァ!」

 

 猛然とダッシュする。セルリアンの単眼が横目に俺を追い始めた。

 

 びゅおん!

 

 顔面を狙う腕の先端を身を屈めることで避け、走り続ける。奴の目がギョロリと動いた。

 

 ひゅっ! びゅん!

 

「くっ!」

 

 ズザアアアアッ!

 

 直後、俺の胴体に向けて迫る2本の腕をスライディングで回避する。そこから前転を交えてセルリアンの真横を抜け、背後へと回り込む。

 

 ひゅんひゅんひゅん!

 

 2度も仕留め損ない苛立ったのか、セルリアンは低い唸り声と共にこちらに向き直り複数の腕部を放った。これは躱せない。

 

「今だ!」

 

 走り抜けた俺を奴は正面に捉えている。それはつまり、正対していたイエイヌとビーストに背を向けたということ。

 

「グルアアアアアアッ!」

 

「ガアアアアッ!」

 

 どがぁんっ!

 めきぃっ!

 

 ゴロゴロゴロゴロッ――

 

「っ!?」

 

 セルリアンの球形の体が大きくたわみ、続けてその体が路面に打ち付けられ黒い破片が舞う。そのまま爆発四散するのかと思えばこちらにバウンドしながら迫って来たため、俺はとっさに地面を転がり回避を図った。猛スピードで何かが傍を掠めて行く。

 

「……落ちろ」

 

 体勢を立て直し振り向くと、ガードレールに衝突したセルリアンが残骸共々橋の下へ落下する寸前だった。

 

「終わったな……」

 

 黒い脅威が視界から消え去り、俺は手に熱をもたらし始めていた発炎筒を地面に放り捨てた。

 

 砕け飛んだセルリアンの一部がぱらぱらと降り注ぐ。いつの間にか雨がやみ、大地には雲間から光の柱が差し込んでいる。森の緑色のベールに白色の光柱が差す幻想的な景色だ。が、辺りは発炎筒の煙と雨水の匂いが混じり何とも言えない煙臭さが漂い始めていた。

 

「ご主人っ!」

 

「お疲れ様イエイヌ。ケガはない?」

 

 駆け寄ってきたイエイヌにフードを外しながら答える。彼女は大きく頷いて見せ、それから俺の顔を不安げな瞳で見上げた。

 

「はいっ。むしろご主人の方が心配です。大丈夫でした?」

 

「なんとかね」

 

「よかった……!」

 

 安心したのかいつものようにじゃれつくイエイヌの頭を撫でると早くなっていた心臓の鼓動が収まって行く。天然の精神安定剤である。

 

「……なんだか怖かったです。あのセルリアン」

 

「ああ……」

 

 無理もない。さっきのセルリアンからは明確な敵意を感じた。それと比べれば今まで相対したセルリアンにはそういった悪意とも呼ぶべき感情が抜けていて、むしろ安全ですらあったかもしれない。

 

 ビーストが助けに来てくれなければイエイヌも俺も無事では済まなかっただろう。トラクターに通信を寄越した『彼女』はそれを知っていたのだろうか。

 

「そうだ、あの子は大丈夫かな」

 

 離れた所で太陽の光を見上げている後ろ姿を見ながら言った。既に虹色は纏っておらず、ただぼーっと突っ立っているだけのようだ。

 お礼ぐらいは言っておかねば。また性的な意味で襲いかかられたらちょっと困るが。

 

「っ」

 

 歩み寄ろうとする俺を先にイエイヌが追い抜いた。何とも言えない顔付きで。

 

「あの」

 

 ビーストはゆっくりと振り向いて僅かに戸惑ったような素振りを見せていた。合羽の水気でも落としながらイエイヌが先に話し終わるのを待つかね。

 

「おや?」

 

 全壊してしまったゲートの辺りで何かが動いたような。露払いする手が止まる。

 

「あの子は……」

 

 白黒模様のシャツと黒いポニーテール姿がもそもそと動いていた。さっき助け出したフレンズがへっぴり腰で辺りの光景を見回しているのだ。可哀想に、さぞ怖い思いをしたのだろう。

 

 できる限り穏やかな表情を作りながら手を振ってみるとこちらに気付き、少しだけ彼女の硬くなった表情が和らいだ……ように見えた。決して願望ではない。

 

「……ん?」

 

 おどおどしながらこちらに歩いてくるフレンズを眺めていると、ふと視界に違和感を覚えた。

 彼女は黒いポニーテールと黒い尻尾、つまり彼女が持っている黒い線は2本だけのはず。

 

 なのに3本目がある。毛とは違う妙なうねり、先端が楕円形に膨らんだ――

 

「伏せろおおおぉッ!!」

 

 ぞわりとした寒気が背筋を走り、俺は叫びながら全力で地を蹴った。次の瞬間、ビクッと強張ったフレンズの髪をハエトリグサのような腕部が掠めていた。

 

 彼女の背後に落ちて消えたはずのセルリアンが現れていた。

 丸いボール状だった体は一部が欠け、虫食いのリンゴのようになっている。落下したふりをして橋桁にしがみ付いていたのか……!?

 

 ぶぉんっ、ぶおぉん、ひゅんっ、どかんっ!

 

「ひゃああああっ!?」

 

 セルリアンは道路の端にしがみ付きながら届く範囲の電灯を引き抜いては投げ、それらはすくみ上ったフレンズの近くに突き立って行く。

 

「きゃあっ!」

 

 怯え切った彼女は足をもつらせて尻もちをついてしまう。するとセルリアンはわざと攻撃の手を緩め、その単眼は彼女をあざ笑うかのように細められた。

 まるで獲物を前に舌なめずりをするような、もしくは、弱い者いじめをする人間そのもののような不快な目。

 

 

 ――死ね。

 

 

 ぶんっ!

 

 それは奴の無言の宣告か、それとも俺の心が叫んだ悪意ある敵への罵倒だったのか。

 投擲された鉄柱が彼女へと真っ直ぐ向かう。

 

「ーーーッ!!」

 

 流れる時が急速に遅くなった。

 

 宙を突き進む鉄柱の回転はやけにゆっくりとしたものになり。

 

 その延長線上にあるフレンズの後頭部は小刻みに揺れていて。

 

 俺は、彼女を引き倒しながら体を割り込ませた。

 

 

 ドスッ

 

 

「このおおおおおっ!」

 

「ウガアアアアアッ!」

 

 ぱ、っかあああああん!

 

 イエイヌとビーストの咆哮、その後にセルリアンが砕け散った音が聞こえた。

 これでようやく勝利という訳だが……最後の最後で詰めが甘かったようだ。

 

「あ、あの……だ、大丈夫ですか……?」

 

「ああ大丈夫……だい、っ!」

 

 生暖かい鉄の味が急速に喉を遡ってくる。その勢いに堪えられず、吐き出した。

 

「カハッ、ゴボッ」

 

 びちゃっ。

 

 フレンズの露出した肩に俺の口から飛散した真っ赤な液体がふりかかる。まるで白いキャンバスに赤いペンキをぶちまけたようだ。

 

「ゴボ、がほっ、ご、ごめ……う、おご……ぉ、ゴボッ」

 

 息ができない。

 

「ひっ、あ、あ」

 

 彼女の震える視線は俺の胸の辺り、錆びついた鉄柱の一端が生えているそこに注がれていた。

 全身から急速に力が抜け、本来は空気の通り道である気道は血で塞がれ、肺か心臓を貫通しているのが直感できてしまった。

 

 びちゃびちゃびちゃ。

 

 もはや俺の体は割れたフラスコのビンのようで、口と胸から流出する血がそれぞれフレンズの服を赤く、濡れ湿っていた地面を更にどす黒く染め始める。……もう、助からない。

 

「いやああああああああっ!!」

 

 つんざく悲鳴。

 せめてと体を横に倒す。これ以上フレンズを血で汚さぬように。

 

「ご主人、大丈夫ですかっ! ご主人ッ! ごしゅじんんんっ!」

 

 イエイヌが体を揺り動かした。言葉が出せず、代わりに少しでも安心させようと口角を上げれば彼女はより激しく叫び、やがてぽつぽつと綺麗な水が彼女の瞳から零れ落ちてくる。

 

「ねえ、ねえっ! 返事をしてくださいご主人っ! ねえっ……!」

 

 イエイヌが、イエイヌが泣いている。

 フレンズを泣かせるなよ、こんにゃく野郎の癖に。

 

「あああ……いや、いや……! 置いていかないで、わたしだけ置いて行かないで……! もうひとりはやだ、いやだよぉ……」

 

 まだ、まだ逝けない。逝く訳には行かない。この子を置いてなど。まだ……

 

「大丈夫っ!?」

 

「たっ、たすけてください! ご主人、ご主人を……!」

 

 女性の声がした。馴染みのない、しかし聞き覚えのある声が。

 

「私に任せて! ふた……も! 手伝……!」

 

「これ……ひど……です」

 

「どう……る……の……か?」

 

「合図で引き抜……! 私の……通り……セルリウム……治……」

 

 意識を失う寸前、霞む視界には2対の羽飾りだけが映っていた。

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