1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結) 作:らんどまーく
セルリアンとの戦闘でミレンが串刺しになりました。
……ピッ……ピッ……
規則正しい電子音が闇の中で響き続けている。
ピッ……ピッ……ピッ……ドクン、ドクン、ドクン……
その音は意識が浮上するにつれて大きくなり、自分の呼吸と心臓の鼓動とがそれに混じって覚醒の律動を奏で始める。
薄っすらとひと筋の光が闇を上下に分断し、そして――
「……ここは……」
真っ白な継ぎ目のない天井が視界の全てになった。少しツンとしたアルコールの匂いが漂っていて、俺はどうやらふかふかのベッドの上で横になっているらしい。
病室。機能性に偏重させた無機質な部屋。それが今俺が居る場所だ。
凝り固まった体に着せられた服は入院患者の着るような水色の物で、腕はむき出し。仰向けのまま首を巡らせると、吊り具から提げられた黒い液体が入ったパックと、その下から出ている管が自分の腕まで伸びているのが見える。「点滴」という単語が頭に浮かぶが、これ、血液の色としてはかなり斬新ではなかろうか。
「すぅ、すぅ」
先進的医療の更に先駆けか。そう無理矢理納得して身を捩らせると馴染み深い寝息がすぐそばで発せられていたのに気が付いた。寝息の主はグレーの髪に犬の耳。整った顔に居眠りの涎を垂らすフレンズだった。
「……イエイヌ」
「んん……ほえ?」
「ああ起こしちゃった。悪いね」
半開きの口をそのままに綺麗な青と金のオッドアイをしきりにぱちくりさせるイエイヌ。まるで犬の寝起き……いやここまで隙だらけなお顔をする犬が居るのかどうかは分からん。
「どうしたのイエイ」
「わあああああああっ!?」
「ヒェッ!?」
突然脳みそまで響くような叫びを上げたかと思えば体を思い切りのしかからせてきて、俺は悲鳴を上げながらなすがままに再びベッドの上に沈みこむ。
「ご主人! ご主人~~っ!」
「うわっぷ、イエイヌ、ちょっ」
べろべろべろべろ。
まさしく犬がそうするように舌で顔面が舐め回される。相手が動物の犬ならまだしも彼女はフレンズ。絵面的によろしくない……いや、何度もセックスしといてそれは今更か。
「うう~……っ! うううぅ……っ!」
などと邪に考えているとイエイヌはぶるぶると震えながら俺の首筋に顔を埋め、くぐもった呻き声を発するようになった。
「よしよし。なんで泣いてるんですか~?」
答えは分かっているがここは「間」を置こう。
俺はくすくすと笑いながらあやしつけるようにイエイヌの背中をぽんぽんとさすってやる。そうすると、徐々に彼女の体の震えは小さくなって行った。
「だっ、だって、ひぐっ、だって。ご主人が、ご主人がもうずっと起きないかもしれないって……」
「そこまでは言ってないよ」
はっと顔を上げる。そこには部屋のドアを片手で開けたまま苦笑する黒髪の女性の姿があった。
「イエイヌさん。あまりミレンさんに体重をかけたらダメだよ」
少しくせのある黒髪を肩の辺りでくくり、服装は裾に向かって白いグラデーションのかかった黒のジャケット、赤いTシャツに黒のインナー、動きやすそうな半ズボン。あの「帽子とカバン」こそ身に着けていないものの、目的の人物であった「かばんちゃん」を想起させる姿に俺の目は釘付けになった。
「そうなのです。痛いかもしれないのです」
「気持ちは分かりますがそいつは『けがにん』なのですよ」
「ご、ごめんなさいっ」
開かれたドアからはお盆を手にしたフレンズが2人姿を現す。そちらも記憶に残っているフレンズ達で、どちらも小柄な体格、そして首から膝までをすっぽり覆うコート姿はまるで妖精のようだ。
白はアフリカオオコノハズクこと博士、茶色を主とするのは助手を自称するワシミミズク。「島の長」という単語をよく口にする尊大な――
「むっ」
……博士がキッと口を引き締め俺を軽く睨んだ。仕草は可愛いだけだが、毎度ながらフレンズ特有の謎の読心術には少々芯が冷える心地がしてならない。
さて失礼、彼女達はリーダーたるフレンズだったと記憶している。しかし、俺の頭の中ではその単語は歌と踊りが得意な漆黒のフレンズ達に与えられている。流暢かつ、フレンズが扱わないであろう難しい言葉の組み合わせ。あれが意味深な言葉を連ねただけとは到底思えなかった。
ことん。
さておき、3人はそれぞれが穏やかな口調でイエイヌをたしなめた後、ベッドの傍に備えられた小型のデスクの上にお盆が置かれ「間」が整った。
「初めまして」
お盆の上からほのかに香るお茶のそれがアルコールの匂いを除去し始めた頃、彼女がベッドの傍のパイプ椅子に腰を下ろし話の口火を切った。
「私は『かばん』って言います。あなたは最初から知っていたみたいですけど……」
穏やかだが、どこか疲れの見える目をしながら言う。何と答えるべきか。
自己紹介から始めるか、恐らくは施してくれたのであろう治療への謝意か、それとも「覗き屋」となじったことへの謝罪か。どれも必要な言葉ばかりである。
「自分はミレンです。ま、あなたもご存知だと思いますけど……」
コンマ数秒の思考の末、初対面のフレンズにするようにおどけた自己紹介が口をついて出た。
毒毛を抜かれたような表情をした彼女はややあって目を細め、口元をほころばせる。
「はい。よく……よく知っています。改めまして、かばんです。よろしくお願いします。ミレンさん」
「こちらこそよろしくお願いします。かばんさん」
かばんさんが手を差し出し戸惑わずに応じた。彼女の手はほっそりとしていて、黒い手袋のせいなのか少し冷たく、そして想像よりも大きかった。
「私はここで暮らしている『ヒト』です。あなたのことを、その、理由があって遠くから見ていました」
ずっと思い浮かべていた人物の姿とは乖離があったが、これまでに俺が見聞きした様々な差異がその疑問に「単に歳を取ったのだろう」という安直な予想をもたらした。
「……色々とお話しないといけないことがあります」
想像していたよりも更に一層落ち着いた、まるで働き疲れた女性のような喋り方だけは気にかかったが。
なんか公式側でよく分からない設定がイベント会場で公開されたそうなんですけど見ても訳分かんなかったんで無視します