1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結) 作:らんどまーく
「う、うん……?」
窓から差し込んでくる日の光に起こされた。
おっかしいなカーテン閉めてなかったっけか……。ん、なんか腕の辺りに湯たんぽが乗っかってるような。
湯たんぽなんて使うような寒いとこじゃないけどなあ、俺の家。
「すー……すー……」
「ああ……マジか……」
犬耳の女の子が腕にくっついて寝てる。確かイエイヌのフレンズ……素っ裸なところを見るに昨夜の情事も夢ではなかったようだ。
起こさないように物凄く慎重に動いてベッドから這い出た俺は、床に散らばっていた自分の衣服を着て外へ出た。
「いい天気だなあ」
丸っこい動物型の建物の多くが太陽の光を浴びて壁面のツタを繁殖させているようだ。
天気は晴れ、気温と太陽の高さからすると時刻は7時過ぎくらいか。高すぎず低すぎない湿度は大抵の生物にとって過ごしやすい物になるだろう。
さて夢だと思ったら夢じゃなかったけもフレ世界。これからどうして過ごそうものか。
考え事があれこれ浮かんでくるがとりあえず体を動かしながら。ストレッチでもするとしよう。
まずは身の振り方だ。目的もなくダラダラするだけ、というのも過密閉塞奴隷労働社会で堪えた体にはアリかもしれないが自堕落過ぎるのもちょっと考え物である。
観光も考えたが、この辺りの快適気候帯から過酷な砂漠や雪山に至るまで様々な自然環境、更にセルリアンというやべーエネミーまで揃っているパークをうろちょろするのはさすがにスリリングが過ぎるか。
やはり情報が足りない。今もそうだがアニメ未登場のフレンズやら場所やらもあることだろうし、後でイエイヌに教えてもらおうかね。
ドッタンバッタン、ガチャガチャドン!
……なんかイエイヌが寝ているはずの建物から凄まじい音がするんだが。
「ご主人ーー!!」
「ヒエーッ!」
扉がけたたましい音を立てて開いたかと思えば鬼気迫る表情のイエイヌが目に見えぬスピードで飛び付いてきた。この子ハスキー犬っぽい見た目でハシビロコウさんほどではないにしろ三白眼だから迫力あるのよ。
「よかったー! ご主人居なくなったかと思いましたーーー!」
「お、おうおう……何も言わずに居なくなりはしませんよ多分ええ」
涙声のじゃれつきが終わるまで背中をさすってあげました。
「はいどうぞ!」
「あいどうもね」
その後「ごはんにしましょう」ということになったのでモーニングティーを頂いている。コーヒー派なので味の良し悪しは分からないが変なえぐみのない飲みやすい紅茶である。
「えーっとじゃぱりまんは……あれれ……」
「どしたの?」
「ごめんなさいご主人。実はじゃぱりまんの蓄えがなくなってて……」
キッチンの棚を漁るイエイヌが耳を垂らして言った。
「謝るこたないでしょ。他に食べられる物あるかな?」
一緒に棚を全て調べてみるが、まあものの見事にすっからかんである。皿や水筒やフライパンが申し訳程度に残されているのみだ。
まあ心配することはないというのが俺の考えだ。さっき聞いたがイエイヌはここに住んで長いらしく、そして彼女は食べ物候補としてじゃぱりまんを真っ先に挙げていた。ということは――
…………ぽいぽいぽいぽい…………
ほら来たァ!
「この音はラッキーさ……あっご主人」
イエイヌの言葉を待たず足早に玄関へと向かう俺。あのお方の足音もすぐそばまで近付いてきており俺は意気揚々と扉を開け放つ。
「………………」
居た。あの狐だか何だかよく分からない青い耳と尻尾とつぶらな瞳。ぴょこぴょこ歩きとぴょんぴょんジャンプの素敵な……ラッキービーストが。頭の上にはじゃぱりまん満載のかご。
「おはようございますボス!」
尊敬やら感動やらでテンションの上がった俺は腰を直角に曲げて一礼をした。
さあ、何か言ってくれるだろうか?
「………………アワ、アワワワワ」
「えっ?」
なんでポンコツボイス出してんの、と思った矢先にそのラッキービーストはかごを地面に置くと一目散に走り去る!
「ちょ、おい、ボス? 待ってくれボスーーー!」
俺の叫びも虚しく遠ざかって行く後ろ姿。除草モードで爆走しているらしく綺麗な直線を地面に描きながら。俺はがくりと膝を付き、その場で項垂れた。
「ご、ご主人。どうしたんですか? 大丈夫ですか?」
「あ、ああ。大丈夫じゃないがまあなんとか大丈夫です……はぁ……」
「そうなんです……? あ、ラッキーさんじゃぱりまん持ってきてくれたんですね。よかったです」
今なんか賢そうな言葉がイエイヌの口から発せられたんだが?
「ラッキーさん? 君はボスって呼ばないんだな」
憧れの人物にUターンを決められたことで刻まれた心の傷はひとまず置いておくとして、立ち上がってかごを抱えたイエイヌに質問をぶつけてみる。
「ボス? ラッキーさんはラッキーさんですよ?」
イエイヌは何言ってるんだろうこの人、と言う風に首を小さく傾げた。まるで俺がおかしいかのような反応だ。いまいち話がかみ合わない。
まあ、いい。朝食を摂りながら色々と聞かせてもらおうか。
「じゃあ、君の知り合いは皆ボスのことをラッキーさんと呼んでるんだ」
「はい。もしかしてラッキーさんの名前って本当はボスっていうんですか?」
じゃぱりまんをかじりながらさっきのことについて聞いてみるとこの反応である。おかしいな、アニメじゃ殆どのフレンズが「ボス」と呼び慕っていたはずなのだが……。
「ああいや。そういう訳じゃないんだ……っていうか君は食べないの? もしかして体調が悪いのか?」
テーブルの上のじゃぱりまんに全く手を付けようとしないのだ、この子。まさかとは思うが昨晩の情事で超絶疲労状態とかだったらマズい。罪悪感。
そんなイエイヌは上目遣いでもじもじしながら、言いにくそうに口を開き、
「えと、『よし』って言ってくれませんか?」
「よしよしよしよし食べてどうぞどうぞマジで俺の命令とか要らないからっつーか待てとか言ってないやん」
「ありがとうございます! いただきますー!」
ばくばくとじゃぱりまんを頬張り出すイエイヌ。これはあれだ、この子は既に俺を主人だと確定させてる可能性があるな。こんな異世界迷子ファッキンちんぽ野郎の命令なんて聞いちゃいけない。あとで言っておかないと。
紅茶を一飲み。少しぬるくなってるな。
「ところで食べながらでいいんだけどさ、イエイヌさん」
「ふぁい?」
「君はここに1人で住んでるって話だけど他のヒトには全然会ったことがないのか?」
「……いえ」
食べる手を止めたイエイヌは少し目を伏せてから、
「ちょっと前に、会いました。もう居ないんですけど」
他のヒトが……! もしかすればもしかするかもしれない。俺は無意識に背筋を伸ばした。
「そのヒトの名前は?」
「キュルルさんっていいました」
「キュル……?」
なんだその控え目に言っても言いにくい上に正直ダッs……変な名前は。
「あのヒトのおうちはここじゃありませんでしたから、すぐに居なくなっちゃいました。それに……」
「それに?」
「……えっと、今はご主人が居るから幸せだなって思ったんです」
ふわっとした儚い笑み。何度か見せてくれた満面のそれじゃない。本心じゃないのか、それとも何か抱えているのか。……俺が突っ込んでいい話ではなさそうだ。
俺は黙って頷き紅茶を飲む。もう冷めていた。
「それともう1人、いちどだけ会ったヒトが居ます。かばんさんという方で」
「ゴッホゴホゲホガホ!!」
「わわっご主人!?」
盛大に紅茶でむせた。慌てて駆け寄ってくるイエイヌを手で制しながらハンカチで口とテーブルを拭く。
「かばん、って言った?」
「は、はい。かばんさんです」
居た。あの帽子の似合う素敵で知的で尊いヒトが。
「ご主人何してるんですか?」
「おでかけの準備です」
目的はできた。彼女……かばんちゃんに会いに行くことだ。会って握手してもらったりサインしてもらったり踏んでもらったりしたいのだ。きっとサーバルちゃんも居るだろうから一緒に踏んでもらおう。
善は急げと言うし、時間が経つと彼女はどこか別の場所に行ってしまいそうな気もするのだ。ヒト探しをして海を渡って行ったことだし。
朝食後、俺は使えそうな物をかき集めた。つばの広い中折れハットとかジャケットとかブーツとか……は多分この家の持ち主の物だろう。ショルダーバッグもあったのでその他諸々の品物もパッキング。もしも持ち主に出会うことがあったらごめんなさいさせて頂く所存。
がしっ。
バッグを開けて物品を詰めていたらイエイヌが後ろからふるふるとしがみ付いてくる。
「い、嫌です、行っちゃ駄目です。わたし、わたしいい子にするから行かないでください!」
涙目アンド涙声である。そこまでされると「よしオッケーずっとここにいるよー」とか言ってしまいそうにもなるがぐっとひと堪え。
振り返ってしゃがみ、目線を合わせてみる。
「じゃあ一緒に来る?」
「で、でも、わたしは……」
「ここでお留守番をしなきゃいけない?」
「う……」
目を逸らしてぎこちなく頷いてみせるイエイヌ。俺はそんな彼女の肩に手を置いて穏やかな口調を努めた。
「なあイエイヌさん、ちょっと出かけるだけだよ。一生帰って来ないわけじゃない。この家の持ち主がそうしてるように、君がそうしてもいいんじゃないかと俺は思うんだけどな」
「でも」
「分かったまどろっこしいから言うわ。俺が君に一緒に来て欲しいの。俺はよわっちくて何の取り柄もない奴だから独りで行くのは不安なんだよ。本来お願いする立場は俺なの。という訳で一緒に来てくださいお願いします何でもしますから」
「ご、ご主人! 分かりました、分かりましたから! 一緒に行きますからそれやめてくださいー!」
床に頭をこすり付けてお願いしてようやく折れてくれました。
「それじゃあ行きますか」
「はい……」
出立の時になったが、イエイヌはやはり名残惜しいのか家の中をぼんやりと振り返っている。その後ろ姿を眺めているとやがて彼女は何か呟き、ゆっくり玄関の戸を閉めた。
「行きましょう、ご主人」
「ああ。ところで今家の中に向かってなんか言ってた?」
「いってきます、って。ここに住んでいたヒトたちが居なくなった時もそう言ってたんです」
「……そうか。じゃあ今度は『ただいま』を言わないといけないなあ」
「はい!」
元気な友を連れ立って歩いて行く。
まだまだ日は高い。
「ところでご主人。さっきなんでもしてくれるって言いましたよね?」
何かランドマーク的なところを探してみるかなーと考えながら木立の間を歩いていると、瞳を細めたイエイヌが俺の手をぎゅっと握りしめてくる。
「は、はい」
「じゃあ昨日の気持ちいいこと、してください♡」
「その、後でいいすか。安全なところじゃないとほら」
「ふふふ♡いいですよ♡」
ぎゅーっと腕に絡みついてきた。ああ逃れられない!
今思ったのだが他にもこの子のように発情シーズンなフレンズが居たら……。
「くんくん♡ご主人の腕の匂い、懐かしくて心地いいですね♡」
諦めるか、もう。