※この作品はR-18です。

1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結)   作:らんどまーく

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このss、ほんとうは怖いジャパリパークシリーズなのかもしれない


研究所跡.3(!)

 研究所跡、地下1階。

 

 新品のラッキービーストを起動させクルーになる行程を終えた俺は、イエイヌ、この施設の中で再会したアムールトラ、ここまで案内してくれたかばんさんのラッキービーストであるボス、そして起動したてのラッキーと共に脱出を開始した。

 

 脱出を試みるにはふたつのルートが存在する。ひとつは来た道を引き返すことであり、しかしこれは続々と集まってくるセルリアンの出現元であるために不可能。

 もうひとつは地下から『バイパス』を通って外へと抜けるルート。こちらは前者よりも安全だが、そこに行くには更に地下2階まで潜る必要があること、そしてバイパスへと抜ける隔壁が作動するかどうかが懸念材料だった。

 

「下へ行こう」

 

 俺はデバイス──アウトドアハット内部に埋め込まれたクルー専用の装置──が表示する地図を睨みながら元来た階段に背を向ける選択肢を取った。

 つまりはバイパスを通過するルートである。俺達の後方、直線の通路に表示される無数の赤い光点の相手をするよりはマシだという判断だ。

 

「待ってミレンさん。私、ここから先には行ったことがないの。案内できないわ」

 

「任せて。それに、ラッキーさんとボスも居る」

 

 俺が適当に道を選んでいる訳ではないので安心して欲しい。

 ラッキービーストの得意な台詞をアムールトラに返しつつ曲がり角の壁に張り付き、左右を覗き込んでから直進する。最初は昔の癖で足元や天井付近にまで目を凝らしていたが、流石にそれは時間の無駄だと途中から省略することにした。

 

「気をつけてくださいご主人。セルリアンが出たらわたしがやっつけますから」

 

「大丈夫。ありがとう」

 

 そっと寄り添ってくるイエイヌの頭をひと撫でした。嬉しそうに笑って目を細める姿もよく見える。

 

 ── 暗視モード ──

 >装着中フラッシュライト 光量調整済み

 

 周囲の光源は相変わらず俺の胸元のライトだけ。しかしデバイスが補助してくれているお陰で支障はない。薄緑色に補正が掛けられた視界は実に鮮明だ。

 

「進路上にセルリアンあり。注意してください」

 

 ラッキーが短く警告を発すると同時にルート上のレーダーに赤い光点が出現する。あくまでもラッキービーストのセンサー、そして『同期(リンク)』したフレンズからの情報を元にしているのである程度接近しなければ感知できないのだ。

 

 ともあれ問題はセルリアンだ。数は3、多く見積もって5。小型で、恐らく迂回するよりも突破した方が早い。しかも相手もこちらに気付いているようで真っ直ぐ向かって来ていた。

 

「ころ……倒して進もう。全員気を引き締めるんだ」

 

「はい!」

 

「分かったわ」

 

 2人と意思を疎通させ、歩く速度を落としながら手にしたショットガンを見下ろす。ご丁寧にデバイスが残弾数を表示してくれているので数える手間が省ける。便利な物だ。

 

「きましたよご主人!」

 

 セイフティを解除した時にはセルリアンが可視範囲まで接近していた。

 天井を這う蜘蛛型のセルリアンが1、通路の壁面の両側から同タイプがそれぞれ1ずつ計3体。単眼を除けばその動きは蜘蛛そっくりだ。

 

 Unknown×3 セルリアンの可能性大

 発砲制限フリー 対処せよ

 

「俺にやらせてくれ。それと指示なく前に出ないように」

 

 飛び出そうとするイエイヌを制してショットガンを構え、1歩前に踏み出す。

 

 久しぶりの射撃だ。相手には悪いが試射に付き合ってもらう。

 

 ── LBシステム 戦闘支援開始 ──

 使用者バイタル、アドレナリン量〈安定〉

 リンク済フレンズKP値〈安定〉

 >レティクル可視化

 

 視界の端に流れる情報を吟味する必要はない。戦うのに支障がないこと、そしてデバイスが表示したとおぼしきホログラム式のドットサイトが明瞭で見やすく、命中率の底上げに寄与していること。それだけ分かっていればいい。

 

「……」

 

 集中した意識は時の流れを遅滞させ、同時に狙い定めた銃身の揺れをぴたりと止める。そしてドットが天井を這うセルリアンの頭部に被さった瞬間、トリガーを引いた。

 

 バガンッ!

 

「わふっ!?」

 

「ひええっ!」

 

 肩に押し当てたストックが鈍い反動をもたらし、銃口から轟音と共に虹色に発光する散弾がまき散らされ、イエイヌとアムールトラの半ば悲鳴にも似た声が響く。

 

 外殻破壊

 脅威度低下

 

 天井を這っていたセルリアンが黒い破片を散らし、力を失って落ち始める。

 

 ジャコン。

 

 即座にポンピングサイクルを行い、同時に壁面を這って接近する別のセルリアンに銃口を移す。

 

 バガンッ! 

 ジャコン。

 バガンッ!

 ジャコン。

 

 コロンッ……コロコロコロ……。

 

 最初に排莢されたショットシェルが転がると同時に全てのセルリアンが床に落ち、デバイスのHUD表示には一連のログが流れる。ひっくり返ったセルリアン3匹はまるで殺虫剤を振りかけられた害虫のようにもがき続けていて、それぞれの腹の中央に弱点の石が露出している。

 

 俺は銃口を一旦下げながら言った。

 

「誰か止めを刺してくれ」

 

「っ、はいっ!」

 

 耳を塞いでいたイエイヌがいち早く駆け出し、地面に転がる複数のボールを追うようにして飛びかかった。

 

 ぱかんぱかんぱかんっ!

 

 撃破

 撃破

 撃破

 脅威消失

 

 >戦闘支援解除

 >セルリアンデータ収集 アーカイブ中....

 

 イエイヌの横をすり抜けて前方を重点的に、同時に通路の角と背後にも敵影がないことを確認する。デバイスの情報だけを鵜呑みにすることはできない。

 

「ありがとうイエイヌ」

 

 ショットガンは撃発可能な状態。一旦セイフティをかけ直してからイエイヌに声をかけた。

 

「いえいえ大したことしてないです。その道具って音だけじゃなかったんですね」

 

「うう~……やっぱり怖いなあ、それ」

 

「安心してアムールトラさん、これは君を傷付けないよ」

 

「そ、そうは言っても怖いものは怖いの。きっとミレンさんじゃなかったらもっと怖いわ」

 

 腕は鈍っていないことを確認できた。しかし、同時にアムールトラの苦手を容易く払拭できそうにないことも分かった。消音機能でもあれば多少は違うのだろうが……流石にそこまでは用意されていないらしい。

 

「回収、回収」

 

 足元ではラッキーが自身のポーチに空の薬莢を放り込んでいる。元々はゴミ拾いの機能だったというのは後から聞いた話だ。

 

 脱出を再開する。さっきよりも早足、もはや駆け足に近い速度で。

 銃声で位置がバレたのか、レーダー上では赤い光点の集まりが一直線にこちらへ向かって来る様子が示されていたのだ。

 

 銃を使うべきではなかったという後悔は無視する。先導役の不安や焦りは後続に伝播してしまうからだ。

 

「ラッキーさん?」

 

 途中のT字路でラッキーが耳を壁に引っ付けて動かなくなった、と思えば何か釘を打ち込むような音を鳴らしてすぐに戻ってくる。

 

「デコイを設置しました」

 

 よく見るとラッキーが耳を付けていた場所に小さなアンテナのような物が刺さっている。何でもサンドスター粒子を微量ながら噴射し続けるガジェットで、小型のセルリアンであれば誘引できるとのこと。

 

「凄いな。そんなことまでできるのか」

 

「この子は、ボクよりも後に開発されたラッキービーストだよ。ボクよりも機能が多くて、頼りになるよ」

 

「違うのは機能だけでしょう。ほら、行きますよ」

 

 自身を卑下するようにも聞こえるボスの言葉を一蹴して前へ進む。彼はそれ以降何も言わずにラッキーと並走していた。

 

 地上に飛び出た施設より地下空間は広大で、倉庫を出てそれなりの時間が経過してからようやく地下2階に続く非常階段へ行き着いた。

 

 階段の入り口はスライド式ではなく普通のヒンジで開くタイプのドアで封鎖されていた。ドアのはめ込みの施工はかなり荒く、なぜかベニヤ板で補強されていてノブの部分は見当たらず、ボロボロのコピー用紙が傾いた状態で張られている。

 その紙にマジックで書きなぐられた文章は異様な雰囲気を醸し出していた。

 

 

『開くな セルリアンが入る』

 

 

「……なんだこれは。今更だろ」

 

「何て書いてあるんですか? 開けちゃだめなんですか?」

 

「よくない感じではあるね。だが戻っている余裕もない……ラッキーさん。このドア、ぶち破っても構わないか?」

 

「はい。不認可の封鎖ですので、破壊を推奨します」

 

「壊すなら私がやってもいい?」

 

 指を折り曲げて両手の爪をアピールするアムールトラ。彼女ならきっとこの程度の構造物なら裂いてしまえるのだろうが、中途半端にドアが破断してしまうと怪我の恐れがある。

 

「俺がやるよ。安全な方法があるんだ。全員ちょっと下がってて……」

 

 ジャコジャコジャコジャコンッ──

 

「うぅ、またそれ使うんだ……」

 

 弾倉内のシェルを一旦全て排莢してから(シェルの落下地点でラッキーがポーチの口を開いて構えている)、見た目は同じだがケースの色が違うシェルを2発装填する。

 こちらはスラッグ弾だ。散弾と違い、中身が口径の大きな弾頭1個のみで構成される威力重視の弾薬。主に大型の獣の狩猟や構造物の破壊に用いられる。

 

 スラッグ弾装填中! 誤射注意!

 

 バガンッ!

 ジャコッ。

 バガンッ!

 

 ヒンジ部分に向かって発砲。繋ぐ物を失ったドアは自重で留まっている。

 俺はショットガンを一旦バックパックの側面ベルトに戻し、ハンドガンをホルスターから抜き放ってセイフティを解除する。続けて右足をぐっと曲げながら持ち上げ、思い切り足裏を突き出すようにしならせた。

 

「ふん!」

 

 ドガッ!

 

 蹴りを叩き込んだドアはまるで1枚だけ立てたドミノ板のように倒れ込む。俺はすぐさま向こう側の空間のあちこちに銃口を巡らせた。

 

「…………クリア」

 

 と、言うべきかは悩ましい所だった。

 

 動くものは何もない。しかし、階段の踊り場や壁面に付着した黒い染みと大小の穴は見ているだけで想像力を刺激する。

 一瞥しただけで分かる血と弾丸の痕。つまり──

 

「壁にいっぱい穴があいてますね。点々模様もありますし」

 

「アリの巣、かな?」

 

「こんなところにもアリさんが?」

 

「とにかく行こう。セルリアンが来る前に」

 

 俺はアムールトラとイエイヌの会話に上手く加わることができず、じきに後を追って来るであろうセルリアンの群れを言い訳にして先に進むことを提案した。

 

 血痕と弾痕は何を意味しているのか?

 大量のどす黒い記憶から引きずり出された情景が脳裏に蘇る。しかし、俺はフレンズの前でその予想を口にすることができなかった。

 

「イエイヌ、アムールトラさん。何か見つけても触らないように。それと、どんな気配でも匂いでもいいから気になったら教えてくれると助かる」

 

「はい!」

 

「分かったわ。注意してみるね」

 

 段差を跳ねるようにして付いてくるラッキーとボス。この2人が無言を貫いているのも不安である。

 再装填を終えたショットガンを握る手にも不必要に力がかかった。

 

 敵はセルリアンだけであって欲しいものだ。このジャパリパーク内でも通じるかどうか分からない、儚い望みではあるが。

 

 

 

 

 

 各所に設けられた換気口によって空気が入れ替えられているにも関わらず、下へ下へと降りて行くにつれ淀みが増していると思うのは俺の気のせいなのだろうか。

 

「これって、血……だよね」

 

 いや、気のせいではない。階段に散っていた不穏の爪痕は通路にもやはり存在していた。その上より強力な『死』の残り香が含まれているのだから始末に負えない。

 

「い、いったい何があったんでしょう……?」

 

 イエイヌは床の上の黒ペンキをぶちまけた様な染みを見下ろして、その声は僅かに震えている。乾いているとはいえ、ここまでの量となると2人共匂いで分かってしまうようだ。

 

「セルリアンが暴れたんだろうさ。俺みたいにやられた奴が居たのかもしれない」

 

「ウゥ……!」

 

 真実か嘘かも分からない言葉を吐くとイエイヌが歯ぎしりをしながら唸り声を上げる。その隣ではアムールトラも目をギラつかせ、周囲に今一度その鋭い視線を走らせてから俺を見上げた。

 

「ミレンさんは私が守るわ」

 

「わたしもです。もう絶対にあんなこと……!」

 

「2人共ありがとう。でも無理はしないように。頼むよ」

 

 真っ直ぐな言葉に自然と胸が温かくなる。

 重しが取れるような感覚。フレンズの無垢な善意だからこそ感じられるものだ。人間にはできない。

 

 それにしてもこの血痕……2人は気付いていないようだ。よしよし。

 

 イエイヌもアムールトラも「大怪我をした」ということは直感で理解しているらしい。だが壁面に残った穴と、そこから導かれる答えには辿り着けていないのだ。

 

 床の黒ずんだ染みから視線を上げると大きな筆で伸ばしたような線が壁の上に続いているのが分かる。それを辿れば最後には円形に散った液体の跡と、その中央部に弾丸が抜けた穴を見つけられる。

 

 真正面、入射角は下から上に向けての物。位置は顔面に違いない。

 

 恐らく自らの手で終わらせたのだろう──

 

「ご主人。ここに何か落ちてますよ」

 

「待ったイエイヌ」

 

 拾い上げようとする彼女の右手を慌てて掴む。銃なら危険だからだ。

 

「紙?」

 

 予想と違ってそこにあったのは1枚の紙だった。地面に張り付いていて、剥がして広げると染みから逃れた文字が目に飛び込んでくる。よく見るとパークのロゴが印字されたじゃぱりまんの包み紙だ。

 

「なになに……」

 

 >対象分析開始....

 

 デバイスは何でもござれだ。手にした紙の上に不可視の光線が走り、やがてその結果がHUDに表示される。

 

 筆跡鑑定結果……クルーIDNO.0121

 

 続いてクルーの名前が示される。男性。セキュリティ要員らしい。

 

 >欠損部補完

 >全文表示

 

『我々は死闘の末にあのセルリアンをターミナルに閉じ込めることに成功した。もはや奴が日の目を浴びることはない。取り残された子供もきっとフレンズが守ってくれる……あとは四神の回収部隊に全てを託そう。弾薬も底をつき、この階層にはさしたる物資も残されていない。地上へ帰還する』

 

 ここで行間が開く。筆跡が荒い。書き殴ったようだ。

 

『発砲された。死者こそ出なかったが唯一の脱出口であった階段も封鎖された。我々は見捨てられたのだ。気が狂ったなかまがせっかくとじたかくへきをあけにいってしまったおわないと』

 

 長い長い行間が続き、それまでのしっかりとした筆跡とは似ても似つかぬミミズの走ったような文章が下端に現れる。

 

『みんなくわれた くろくなった なんで いやだ しにたくない くわれたくない』

 

「………………」

 

「ご主人?」

 

 俺は紙を折り畳んでバックパックにしまい込み、声が低くならないように意識しながらラッキーに問いかけた。

 

「ラッキーさん。バイパス前のターミナルの図面を見せてくれないか」

 

「了解。表示します」

 

 この通路を真っ直ぐ行った先に二重方式の隔壁が存在している。バイパスに接している側の隔壁は車両が通行できるよう拡張されており、今俺達が居る側のそれは通路と同じ大きさ。間の空間は重量物の運搬の為だろうか、天井クレーンやフォークリフト、運搬用エレベーターといった設備が備えられた広間になっているようだ。

 

 俺は脳内で立体的な空間を構築しつつ、困惑した様子で見つめてくるイエイヌとアムールトラに向き直り、言った。

 

「この先に厄介なセルリアンが居るかもしれない。もしそいつが居たら……戦って勝利して、ここを出よう」

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