※この作品はR-18です。

1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結)   作:らんどまーく

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(アライさんシティー系では)ないです。

どんよりシリアス話も当ssでは一旦終了です。

しかし、このシリアス感は次回作以降もガッツリ入る予定です。


研究所跡.4(!)

『サンドスター研究所へようこそ ゲスト様はエレベーターで見学者ルートへ!』

 

 さばんなちほー研究所跡、地下2階。その最奥部であるターミナル入り口手前の通路にはそんな文言があった。これまで通過してきた場所と違って周囲に装飾が多く、子供向けのパンフレットが置かれた机や『しんぴのぶっしつ サンドスター!』などという宣伝文句の巨大な展示パネルが目を引く。

 

「あ、これってサンドスターですよ! すごくおっきい絵ですね……ご主人みたいなヒトが描いたんでしょうか」

 

 それは写真だよ、というツッコミは野暮である。パネルを見上げる興味津々なイエイヌに水を差すことなどできない。

 

「なんだか色々『もじ』が書いてあるのね……うーん読めない」

 

 イエイヌとアムールトラがパネルに目を奪われている間に周辺の地図に目を通す。

 

 ターミナル──バイパスを通って来る来園者用のバスや業務用運搬車の停留所──は運搬用の広間を通った先に位置しており、来園者用の細い通路がそこを迂回するように作られている。しかしそこは瓦礫で埋まっているらしく、残念ながらこの通路を使ってバイパスへ一直線とは行かない。

 

 また、この場所から地上1階にしか行けないエレベーターも設けられており、一定の権限を持った職員しか地下1階および地下2階には立ち入れないような構造になっているのが分かった。先程通って来た通路にも電子ロックのかかったドアがいくつかあったが、その全てが大量の文字化けを起こして『ロック解除』というログを最後に開放されていた。ラッキー曰く過去に誰かがハッキングを行ったのではないか、ということ。

 

 ちなみに地下へ入るのに必要な権限はセキュリティ、メカニック、研究員のいずれか。地下1階と2階には外部に触れさせられない物が多いのだろう。今俺が手にしている銃器もそのひとつだ。

 

「ラッキーさん、ボス。外に出るにはこの先の運搬エリアを通る必要がある……間違いはないか?」

 

「大丈夫だよ、ミレン」

 

「非常時プロトコルも発動されていますので、注意してください」

 

「非常時プロトコルとは?」

 

「隔離可能エリアにセルリアンが存在している場合、外部への流出を防ぐ為に全ての隔壁が強制的にロックされます。運搬エリアには現在、対セルリアン用非常時プロトコルが発令されています。解除するにはセルリアンの排除、もしくは上級職員の認可が必要です」

 

「了解。イエイヌ、アムールトラさん。そろそろ行こう」

 

 スタンプラリー台で遊び始めていた2人に声をかける。余談だが、振り向いたイエイヌのほっぺたの両方にスタンプが押されていて盛大にむせた。

 

 

 

 

 

「セルリアンの匂いです」

 

 イエイヌの低い声に続いてアムールトラのぐるる、という唸り声が発せられた。それとイエイヌのほっぺたはちゃんと拭いたのでいつもの綺麗な顔である。

 

 目の前の『運搬作業エリア 関係者以外立ち入り禁止』と表示された両開きのスライド式ドアは人が1人通れるぐらいの隙間が開いており、その隙間近くの取っ手部には黒い手形が付着している。

 

 乾いてはいるが、血だ。HUDに職員のIDと血液型が表示されている。さっき通路で見た遺書の主と同じだ。

 

「1匹だけ……か?」

 

 ミニマップに表示された赤い光点には『中型』そして『危険』というタグが付く。

 俺は2人の前に立ち、言った。

 

「この広間の向こうにあるバイパスを通れば外に出られる。でも中にセルリアンが居るとそこへの出口を開くことができないんだ。だから倒さなきゃいけない」

 

「大きいのは放って置けませんよね。また誰かが襲われるかもしれませんし……」

 

「私も全力で手伝う。ミレンさんとイエイヌちゃんにはもう怪我をさせない。絶対に」

 

 2人の強い意思のこもった視線に頷いて返し、いくつか事前指示を出しておく。そして胸部、脚部のベルトやバックパックの外面のベルトにありったけの予備弾倉を取り付けてから突入を開始した。

 

 順番にドアの隙間をくぐり抜け全員が展開する。イエイヌ、アムールトラが真っ先に俺を守るように前面へ。射線上には立たないように言い付けてある。ラッキーとボスは後方で支援だ。

 

「匂いが……混じってる……? どこ?」

 

「物が沢山あって見えないわ!」

 

 イエイヌが眉間に皺を寄せ、アムールトラと共に辺りへ最大限の警戒を向ける。匂いは相変わらず重苦しい地下のそれで、俺達の視界を塞ぐ原因は広間に散在する運搬用ケージやうず高く積まれた積載用パレットだ。

 

「透過処理を行います。HUD表示変更、透過モードに移行」

 

 ラッキーの声がデバイスから響いた直後、視界に映る障害物が全てワイヤーフレーム表示に変化する。立体であることだけを示す点と線だけが残り、それ以外の平面は全て透明として描かれる。

 

 そして高く積まれたパレットの向こう側に敵の姿が。

 これまでに遭遇した蜘蛛型セルリアンとほぼ同じ見た目だが、こいつはとにかく巨大だ。俺の体よりふた回りは大きいそれを『中型』などという言葉では到底表せない。虫嫌いの奴なら卒倒ものだぞ。

 

「2時の方向、あの板積みの向こうに居る」

 

「にじ?」

 

「虹色のこと?」

 

「右前だよ、右前。2人はまだ動かないで」

 

 巨体に似合わない速度で壁や障害物を這い進む敵の姿が見えている。

 奴が一番手前に積まれたパレットの上から頭を出す時を狙ってやろう。俺はショットガンを構え、予測される場所に銃口を向け続けた。

 

 ── LBシステム戦闘支援開始 ──

 セルリアン(中)×1

 【動物型/攻撃性〔高〕】

 予測される攻撃

 【捕食】【捕獲】【セルリウム液】

 発砲制限フリー 対処せよ

 

 バガンッ!

 

 命中せず

 

「避けるか!」

 

 砕けたパレットの破片だけが散った。一瞬大きな単眼がそこから覗き込んだのだが、発砲の直前に引っ込んでしまったのだ。

 

 その後も奴は機を伺うように一瞬顔を覗かせたり、脚だけをちらつかせてこちらの発砲を誘うかのような動きを続ける。

 市街地での膠着戦の最中、こちらの射線上に飛び出す馬鹿な民兵のような真似はしてくれない。どちらかと言えば大昔、塹壕戦の最中に棒の先端に括り付けたヘルメットを出したり引っ込めたりをしていた兵士達のそれが近いか。

 

「グレネードでもあればな……チッ」

 

 またセルリアンの単眼がちらりと現れ、すんでの所でトリガーにかけた指を止める。

 ない物ねだりはなしだ。相手の動きは見えているのだから。じっくりと側面から追い込めば問題はないのだが……。

 

「ミレンさん、直接叩きに行かないの?」

 

「テリトリーだよ。あそこのパレットの隙間、よく見てごらん」

 

「糸……? もしかしてあれ、クモの巣ですか?」

 

 イエイヌの言葉に強いて付け足すならば、それはセルリアンの巣だ。黒い粘着性の網模様は俺達の四肢を絡め取り、確実に動きを阻害してくるだろう。

 広間の開いたスペース、障害物の存在しない場所には必ずその黒い糸が覆っていて、このエリア全体が奴の縄張りであることを如実に示しているのだ。

 

「ご主人あそこ! あの乗り物の陰に!」

 

 セルリアン(小)×7

 【動物型/攻撃性〔高〕】

 予測される攻撃

 【捕食】

 

 長期戦に入ろうとした矢先、少し離れた位置に停めてあるフォークリフトの陰から小型の蜘蛛セルリアンが多数這い出した。

 

「どこから来たこいつら?」

 

 この階のドアや換気口は全て閉じて来たのだ。階上のセルリアンがここまで来られるはずがない。つまりこいつらは初めからこのエリアに居たか、もしくはあのデカい奴がこの瞬間に『生んだ』かだ。

 以前チーター達と戦った大型のセルリアンが脳裏によぎる。あれも小型のセルリアンをぽんぽんと生み出していた。

 

「このっ……!」

 

「! 待てアムールトラ!」

 

 これは陽動だ。出現した小さい連中は向かっては来ず、単にその場でわさわさと蠢いているだけ。

 しかしこれがアムールトラの気を引き過ぎた。どうやらセルリアンに戦いの機先を制されてしまったらしい。

 

 !攻撃軌道予測!【セルリウム液】

 

 いつの間にか中型のセルリアンがパレット群の隙間へ移動しており、飛び出したアムールトラへ突起の付いた腹部を見せる姿勢を取っていた。俺の射線は通らないが、奴はアムールトラを狙える位置に着けている。そして、HUDに表示される薄い赤の線がアムールトラに被さったまま濃さを増して行く。

 

「させるか!」

 

 俺は即座にダッシュし、真っ赤になった光の線上に割り込んだ。

 

 べちゃべちゃべちゃっ。

 

 警告 セルリウムの大量付着を確認 速やかに除染せよ

 

 左半身にべっとりと付着する黒い液体。それはセルリウム。セルリウムレインと同じ効果があるとすれば意識の混濁や記憶障害を引き起こす有害物質だ。

 フレンズに至ってはビースト化すらあり得る『毒』。だが──

 

「効かんぞご(・)同(・)輩(・)」

 

 バガンッ!

 

 外殻にダメージ

 

「っ! ミレンさんっ!?」

 

「今の内にちっこいのをやれ!」

 

 俺は素早くポンピングを行いながら叫ぶように指示を出す。直後にぱかんぱかんとセルリアンが砕け散る音が響き、HUD上に先程の7匹が撃破されたことを示すログが表示された。

 

「仕留め損なったか……」

 

 初弾は腹に命中させたが威力不足。12ゲージの弾薬だったことが仇になった。

 次弾以降はかすりこそすれ外殻破壊には至らず。積まれたパレットの間を縦横無尽に縫って引き下がったセルリアンだが、現在は広間の隅の方で何やら蠢いている様子がHUDで確認できる。

 

 あのセルリアンは賢い。だが俺の反撃までは予測できなかったに違いない。だからこそ急所であろう腹部に散弾の直撃を受けたのだ。状況の打開にはそういった『敵の予測を上回る行動』が必要になる。

 

 さてどうしてやろうか──。

 

 作戦を頭の中で組み立てつつ、空いた弾倉内にスラッグ弾を装填していると全員が集合した。

 

「ご主人っ」

 

「ミレンさん!」

 

「ミレン。すぐに服を脱いでください。汚染されます」

 

「アワワワ……」

 

 慌てふためくのはアムールトラとラッキー、そしてボスだ。イエイヌだけは俺の状態を一瞥してから周囲に油断なく注意を払っている。

 俺は左腕に付着した黒い液体を払い除けながら言った。

 

「セルリウムに影響されないんだ……特異体質でね。ラッキーさん、このエラー表示鬱陶しいから消してくれないか」

 

「了解しました」

 

「ご、ごめんなさいミレンさん、私っ!」

 

「いいんだ。すぐに指示を出さなかった俺が悪い。……それより今はあいつだよ」

 

 目に涙を溜めて縋りつくアムールトラの肩に手を置き、軽く微笑んで見せる。息を飲むような彼女の声がして、しかし俺の瞳は既に後退したセルリアンに向けられていた。彼女も気を取り直してくれたのか、服の裾を掴む手もゆっくりと離される。

 

「ご主人、次はどうします? また向こうが来るのを待ちますか?」

 

「いや。ちょっと考えがあるんだ……ラッキーさん、ボス。ここにあるフォークリフトと天井クレーンは動かせるか?」

 

「できるよ」

 

「可能ですが、我々は工作支援型ではありませんので、動かせるのは1度に1台のみです」

 

「それでいい。十分だ」

 

 俺は口の端を歪め、全員に作戦を伝えた。

 

 

 

 

 

『フォークリフトが動きます、ご注意ください。フォークリフトが──』

 

 機械音声のループを垂れ流すフォークリフトが目の前を横切って行く。座席にはボスがちょこんと乗っていて、操作の為に時折お腹のレンズを光らせている。

 

 ガッチャンガッチャンと稼働する爪が運ぶのは積み重ねられたパレットの山だ。重さ3トンまでの重量物を運ぶトルクは張り巡らされた蜘蛛セルリアンの巣を容易く引き千切って行く。残りのバッテリーこそ少ないが、この戦いが終わるまではもつはずだ。

 

「いい感じです、ボス。ああ、そっちのケージもどかしてもらえます?」

 

「わかったよ」

 

 障害物を敵が利用し、同時にこちらの枷となるのならば取り去ってしまえばいいだけだ。あのセルリアンの知能指数がいかほどかは知らないが、この行動が予想外であれば分かりやすい反撃に出るはず。そこを叩く。

 

 セルリアン(小)×10

 【動物型/攻撃性〔高〕】

 

 そら来た。

 

「てやあっ! アムールトラさんっ!」

 

「任せてっ!」

 

 フォークリフトに群がろうとするセルリアンを次々にぱかんぱかんと散らして行くイエイヌとアムールトラ。どちらかが外殻を削り、または打ち上げ吹き飛ばし、隙を見て片方が石を抉る。

 いい連携だ。2人が力を合わせれば殆どのセルリアンは敵ではないだろう。

 

 俺達3人はボスの操作するフォークリフトに続く。遅々とした、それでいて阻むモノを破壊する荒々しい前進はまるで戦車と随伴歩兵のようだ。

 

 !攻撃軌道予測!【セルリウム液】

 

「いいね。とても読みやすい」

 

 HUDが表示する反撃の予兆は俺の予測と寸分違わない位置からの物だ。まあ、わざとそうなるように仕向けているのだが。

 

 >スコープ拡大

 >着弾ポイント表示

 

 バガンッ!

 

 脚部破壊

 

 ライフリングを経たスラッグ弾は回転を加えられて銃口から放たれ、およそ50メートル前方の壁面に張り付くセルリアンの脚を1本もぎ落とした。

 体勢を大きく崩したセルリアンは天井に向かって糸を放ち、スイングするようにしてこちらの射線上から離脱を図ろうとする。

 

「ラッキーさん」

 

「クレーン、速度リミッター解除。ご注意ください」

 

 ウイィィィィン!

 

 ラッキーの遠隔操作によって天井クレーンがレール上を走る。それも完全な法規違反のスピードで。

 吊り下げられたフックは慣性によってその場に置いて行かれ、ワイヤーだけが大きな弓なりを描き、やがて激しいブレーキがかけられるとフックは振り子運動を始める。

 

 そして当然だが、ラッキーの演算は俺の予測よりも上だ。

 

 ゴシャアッ!

 

 外殻にダメージ

 

 重さ20キロはあるであろうフックの直撃を受けたセルリアンが体の一部を散らしながら宙を舞う。

 

「……」

 

 再び射線上に出現した敵に銃口を向けて意識を集中させる。ただそれだけで俺の五感は時の流れを緩やかに受け止める器として拡張され、命のやり取りというには一方的過ぎる攻撃を可能にする。

 

 バガンッ──ジャコン──バガンッ──ジャコン──

 

 肩への反動、銃口から発せられる音と光、ピンと伸びるアムールトラの尻尾、空中で壊れた操り人形のように揺れるセルリアン……全てがスローモーションだ。

 

 外殻破壊

 弱点部露出

 脅威度低下

 

 残弾がゼロに。黒い破片を大量に散らしながらきりもみ回転を続けるセルリアンはこちらに向かってまだ飛んでいる最中。

 

 俺は声を張り上げた。

 

「仕留めろ!」

 

「ガアアアアアッ!」

 

「グルァアアアアッ!」

 

 リンク済みフレンズ KP消費量増大

 KP枯渇に注意せよ

 

 ひと際大きな雄叫びを上げ、2人のフレンズが煌々と虹色の光を放ちながらパレットを踏み台にして飛び上がった。交差する虹色の光の中央には完全な無防備を晒すセルリアン。

 

 ぱっ、かあああーん!

 

 直後に響き渡る大きな破裂音と虹色のキューブの飛散を最後に、勝負は決した。

 

 中型セルリアン撃破

 >アーカイブプログラム起動 データ収集中....

 

「やりましたよご主人っ!」

 

「まだだ。戦闘支援と非常時プロトコルが解除されない」

 

「なにとなにがなに? かいじょ?」

 

「いいからとにかく警戒を緩めないように頼むよ」

 

 疑問符を浮かべる2人だったが俺がリロードしながら言うと再び表情を引き締めた。彼女達はまだ虹色の光の残滓を纏っていて、その神々しい姿は非常に心強く、そして美しい。

 

「まだどこかに隠れているのか……?」

 

「くんくん……あっ」

 

 HUDの表示を変えながらレーダーと一緒ににらめっこをしているとイエイヌが声を上げる。

 

「さっきまでは分かりませんでしたけど、あっちから匂いがする気がします」

 

「よし、確認しよう」

 

 フォークリフトから降りて来たボスと連れ立ってイエイヌの先導に従う。どうやら彼女の向かう方向は、中型セルリアンが俺の銃撃を食らった後に一旦留まっていた場所だ。

 

「なんだこれは……石?」

 

 そこにあったのは黒ずんだ水晶体だった。地面に突き刺さるようにして埋まっているそれにはセルリアンの糸ががんじがらめに絡みついて、まるで捕らえられた蝶の羽のようにも見える。大きさはちょうど大人が1人収まる程度で、数は5。

 

「これです。すごく強いセルリアンの匂い……」

 

「ちょっと変な感じがするわ。見ているとなんだか心がざわつくような……この黒いのも、見覚えがあるような……」

 

 2人共不安げな表情をして水晶体から距離を取っている。

 思えばあのセルリアンの動きは単調だった。本来ならばこの空間をもっと広く動き回って俺達を攪乱できたはず。もしかすると、奴はこれを守る為にあんな鈍い動きをしていたのかもしれない。

 

「とりあえず調べてみよう」

 

 俺はその水晶体に近付いてデバイスを起動させた。

 

 対象分析開始....

 【セルリウム凝固体】

 クルー確認

 セルリアン(小)×1

 【動物型/攻撃性〔高〕】

 

「!!」

 

 視界に広がる警告、そして蜘蛛の牙。

 水晶体のひとつからぬるりと小型のセルリアンが出現し、音もなく俺の顔面に向かって飛びかかったのだ。

 

 ──ショットガンは距離が近すぎる、ハンドガンを抜くのも遅い、ナイフ──

 

 ゆっくりと流れる時間の中、思考に走った結論の代替手段に手を伸ばし、思い切り振り下ろす。

 

 ぱかんっ!

 

 風切り音の次に小気味よさすら醸し出す破裂音。驚愕で動作が止まりそうになるのをこらえ、後退した。

 

「ご主人ッ! 大丈夫ですか!?」

 

「ミレンさんっ!」

 

「大丈夫。平気だよ」

 

 軽く手を振って答え、手にした木刀にちらりと目をやった。刀身には乾いた血が黒い染みとなってこびり付いている。

 以前は石を狙わなければまともに倒せなかったはずだ。それが今は、まるで真剣で豆腐を切ったかのような感覚だった。

 

「血、かね……」

 

 もしかするとフィルタリングの力、とやらが上手く作用したのかもしれない。なんなら血を混ぜ込んだ弾丸や刀でも作ればいいんじゃないだろうか。

 という冗談はさておくとして。

 

「しかし今のは……」

 

 イエイヌとアムールトラが睨み付ける水晶体に視線を戻す。小さなセルリアンの出元は中型セルリアン自身ではなく、あの奇妙な物体だったようだ。

 直前に表示されていた文言を確かめる為、俺はもう一度スキャンを行った。今度は2人が前に居るので何が出てこようと問題はないだろう。

 

 クルー確認【IDNO.0121】

 ステータス【死亡】

 

 IDナンバー以外全く同じ文章が他にも4つ、それぞれの水晶体から伸びる線に繋がって表示される。

 

「イエイヌ、アムールトラさん。ちょっと下がってるんだ」

 

「えっ? でも……」

 

「あ、危ないわよミレンさん」

 

「本当に頼むよ。できれば後ろを向いていてくれるとなお助かる」

 

 突然の要請に対してどちらの顔にも困惑が浮かぶ。しかし歩み寄る俺の顔を見たイエイヌはさっと道を開け、アムールトラは最後まで渋っていたが、結局イエイヌが説得をする形で引き下がった。

 

 取り落としていたショットガンを仕舞い、真ん中の水晶体、先程セルリアンが出てきたそれの目の前に立つ。

 

 終わらせてやろう。

 

 肩の力を抜いて柄を両手で保持し、ゆらりと振り上げた刀身は半月を描いた。

 

「眠れ」

 

 一切の迷いなく振り下ろす。

 

 吸い込まれるようにして刀身が振り抜かれ、周囲の音を全て奪ってしまったかのような無音が訪れる。ややあってから水晶体は塵となり、暗闇の中に消えて行く。

 

 その中に残っていた人型を共にして。

 

 撃破

 

 それから全く同じ行動を4度繰り返し、全く同じ現象を4度見た。デバイスの戦闘支援と非常時プロトコルも同時に解除された。

 

 運搬エリアのセルリアン反応は消滅し、俺はイエイヌとアムールトラに「終わったよ」とだけ告げて開いたバイパスの隔壁へと向かった。

 

 

 

 

 

「ご主人……大丈夫ですか?」

 

「何が?」

 

「いえ、その。様子がいつもと違うので」

 

「同じだよ。心配かけてごめん、ありがとう」

 

 光の差さない、瓦礫まみれの地下道を歩きながら俺はイエイヌに微笑みを返した。彼女はほっと胸を撫で下ろして、またいつものように俺の腕にじゃれついてくる。

 

「周辺のラッキービーストと通信を確立しました。データをリンク、上書きしますか?」

 

「データ……ああ、そうだったそうだった。やってくれ」

 

「了解。データを更新…………完了しました。アーカイブデータベースへのアクセス権限を取得しました。デバイスでいつでも確認できます」

 

 上へと勾配の付いたバイパスの道を歩み続け、ラッキーから本来の目的が達せられたことを報告される。後でデータベースとやらには目を通しておいた方が良さそうだ。

 

「あれっ……行き止まりです。土とか岩でふさがっちゃってます」

 

 イエイヌが立ち止まり、前方の土砂と瓦礫の山の端から端までを走りながら言う。車両が並んで2台通れるほどの幅が全て埋没してしまっているのだ。

 

「ミレンさん。ここから上に出られないかな?」

 

 バイパス壁面の埋め込み型の梯子を指差すアムールトラ。数メートル上にはマンホールの蓋のような物が見える。

 

「ここは、サバンナエリアのカフェテラス・スペースに繋がっています。付近のラッキービーストによれば、フレンズ、ロバのみが確認できます」

 

「よし。じゃあ2人は先に上ってくれ。俺はバックパックにラッキーさんとボスを取り付けて行くから」

 

 素直に従った2人は先に地上へ脱出した。

 開いたマンホールからは月光が差し込んでおり、俺はデバイスの暗視機能を切ってしばらくそのたおやかな光の筋を見つめてからバックパックにラッキーとボスを固定した。

 

 梯子に手をかけて光の元へ向かう。イエイヌがひょっこりと顔を覗かせ、はやくはやくと急かしたげに口を開けたり閉じたりしている。

 

 

 

 ありがとう

 

 

 

「何か言った?」

 

「いいえ」

 

「言ってないよ」

 

 バックパックに装着されたラッキーとボス、そのどちらの声でもなかった。間違いなく後ろから聞こえたのだが……。

 

「そっか」

 

 この場所にはもっと多くの光と風を入れるべきだろう。

 洗い清める必要があるのだ。

 長く留まった黒いモノと、血の匂いを。











LBシステム 起動

アーカイブデータベース閲覧モード

職員クリアランスレベル4
一部アーカイブはロックされます

ようこそ クルー・ミレン



──ジャパリパーク──
超巨大サファリパーク。日本近海太平洋上に突如として出現した新島群がヒトの手によりテーマパーク化された姿。
地形、植生、動物、サンドスター。そしてフレンズ。あらゆる自然と神秘が詰まった楽園。



以下セキュリティクリアランス3以上保持者のみ閲覧可能



前述の文章は、貴重な動植物や神秘物質の学問的な研究や、民間人向けの娯楽施設などを絡めて用い世間に公表される表向きの姿である。
本来の価値は軍事転用可能な研究及び技術開発と、敵対または同盟諸外国に対して要衝地である新島群の自国領土アピールを行うことにある。
運営には多数の民間企業が名を連ねているが、その全てが実質的に国によって管理されたダミー企業。


──暫定クルー・ミレンの追記──
試しに職員用のアーカイブデータベースにアクセスしてみたが初っ端のアーカイブから「これ」で軽い頭痛を覚えずにはいられない。

イエイヌと出会った住居施設から受けたハリボテのような印象や景観を損なうモノレールに覚えた違和感、研究所の地下に残されていたモノなどがこのアーカイブが真実だと裏付けている。つまり、ジャパリパークの「明るい雰囲気」は心のない低級な作り物で(全てがそうではないはずだが)、その原因がヒトの打算や野心その他諸々にあるのだと。

とはいえ現段階ではこのアーカイブにさほど重要性を感じない。
なぜならこの島には輝きに満ちたフレンズ達とそれを脅かすセルリアン共しか確認できていないからだ。これは島に散って活動するラッキービースト達から得た情報なので間違いない。

他のエリアや本土がどうなのかは知らないが、軍事的要衝地に全く干渉せず(これは日本に限らない)、地下深くにクルーの遺体が残されているような状態を放置しているあたり、もはやまともに機能している人間組織は存在しない可能性が高いと思われる。

それにしても、俺の記憶にある日本という国家はこんなしたたかな真似ができる程の胆力など持ち合わせていないはずだが……。
ここが別世界であるという実感と同時に、やはり「ヒト」の存在が消えずして優しい世界など訪れない、という考えにも確信を得られそうだ。
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