※この作品はR-18です。

1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結)   作:らんどまーく

39 / 67
かんばんさんたち、登場


お宝を探すふたり

「……目です。持って……ません」

 

 ラッキーの声だ。一定のイントネーションなのにどこか咎めるような雰囲気を感じる。それに他に誰かの気配が……。

 

 瞼を開けば薄っすらと日の出の赤と空の青が夜闇をかき消そうとしている時間だった。

 客車の寝袋の上で仰向けに眠っていた俺の両隣にはロバとイエイヌがそれぞれ抱き着くようにして寝息を立てていて、どうにか解きほぐして体を起こす。

 

「やっぱり持って行くのは駄目じゃないかなー」

 

「でもでもせっかく見つけたお宝なのだ! 欲しいのだ!」

 

 運転席からはどこか間延びした声とキンキンやかましい声という対照的な女の子達の会話が聞こえる。

 声の主達は車両の外に居るらしく、客車の中からでは獣の耳と尻尾の黒い影だけしか見えない。俺は静かに運転席に歩み寄って行く。……大きな耳の子の影がぴくりと揺れた。気付かれたかもしれない。

 

「駄目です。それはクルーの所持物です。持って行ってはいけません」

 

「ほらー。ボスもこう言ってるし、やっぱりそこに居るヒトの物なんだよー」

 

「ぐぬぬ……ならこっちの棒なのだ! いかにもお宝なのだ!」

 

「そっちも駄目だと思うよー……」

 

 座席に置かれたバックパックのベルトに差したショットガンがぐらぐらと揺れている。

 すかさず大股で踏み込んで、黒い手袋をはめた小さい手を運転席のシート越しにむんずと掴み上げた。

 

「やめるんだ」

 

「ぬおああああ! だだだ、誰なのだあああああっ!?」

 

「なな、なんですかっ?」

 

 目覚めのアラームよりうるさい甲高い悲鳴が辺りに響き渡って、後ろで寝ていたイエイヌが飛び起きた。

 

 

 

 

 

「ご、ごめんなさいなのだ……」

 

  【哺乳綱 ネコ目 アライグマ科 アライグマ属 アライグマ Procyon lotor】

 >アーカイブプログラム起動....アーカイブレベル〔64〕

 フレンズとのリンク成功

 

「ごめんねーおにーさん」

 

 【哺乳綱 ネコ目 イヌ科 キツネ属 フェネック Vulpes zerda】

 >アーカイブプログラム起動....アーカイブレベル〔64〕

 フレンズとのリンク成功

 

 先に謝罪の言葉を発したのは黒と白の髪に小さな獣耳を持つ小柄なフレンズだ。藤色の服の胸元に可愛らしい黒いリボンを巻いていて、タヌキのような縞模様の尻尾が黒いスカートの向こうに垂れている。

 

「こっちの子はアライさんって言うんだけど~、いつも考えなしに突っ走っちゃうんだー。ちょこっとドジなだけで悪気はないから許してあげてー?」

 

「フェネックゥー!?」

 

 毒舌を交えて自己紹介をしてくれたのは淡いベージュ色の印象を受けるフレンズ。顔と同じくらい大きな耳が非常に目立ち、ジト目にも見える半分閉じた瞳は一度見れば忘れられなくなるだろう。

 

 アライさんとフェネック……2人合わせて「ばすてきコンビ」。ばっちり記憶に残っている。

 

「許すも何も。大事な物を適当に置いていた自分が悪いんだ。だから気にしないでくださいね」

 

 憧れのような念を目の前のフレンズ達に抱きながら、被り直したアウトドアハットのつばを摘まんでくいっと上げて目線を通す。

 

「おおお……!」

 

「優しいおにーさんでよかったねー。アライさーん」

 

 目をキラキラさせるアライさんの瞳にむずがゆいものを感じながら背負い直したバックパックにちらと意識を向ける。

 

「ありがとうなのだ! てっきりボスがお宝を独り占めしているのかと思っていたのだ!」

 

「それはそれでボスの物ってことになるんじゃないかな~……」

 

 ショットガンとハンドガンはどちらも弾を抜いて安全装置をかけている。少々焦りすぎたかもしれないが……。

 

『この棒はなんなのだー? この筒? みたいなのもきれーなのだ!』

 

『ここの穴に入れるんじゃないかなー』

 

『おお! この棒とセットなのだ!?』

 

 そのままミラクルで発砲まで持って行けてしまうような予感がする。能天気に盗みを敢行しようとしていた際の状況を語るアライさんを見ているとあながち有り得ないとも言えないのが怖い。

 それと、アライさんを留めてくれていたラッキーは沈黙を保ったまま運転席からこちらの様子をじっと眺めている。怒っているとかそういう訳ではなく、単にそれがラッキーの通常なのだろう。

 

「ええと……改めてはじめまして。ミレンです。隣のこの子はイエイヌ」

 

「はじめまして! イエイヌです!」

 

「よろしくなのだ! アライさんはアライさんなのだ!」

 

「フェネックだよー」

 

 客車から降りたイエイヌにドヤ顔で胸を張るアライさんと間延びした声を発するフェネック。性格はどこか対照的だが妙にバランスが取れているコンビだ。

 

「そっちに居るのはロバなのだ? 久しぶりなのだ!」

 

「ご無沙汰です、アライさんにフェネックさん」

 

「やー。この前はじゃぱりまんありがとねー」

 

「いえいえ~」

 

 ロバとはもう面識があったようで親し気な会話を交わしている。

 

「おふたりはここで何をしているんですか?」

 

 イエイヌの問いに対し、2人は客車の窓から顔を覗かせていたロバから再びこちらへと視線を向けた。同じ質問をしようとしていた所だったので俺は黙って彼女達の言葉を待つ。

 すると間を置かずにアライさんがイエイヌとの距離をがばっと詰めて、八重歯を見せながら「待ってました」と言わんばかりの笑顔を浮かべた。

 

「アライさんたちはお宝を探しているのだ!」

 

「お、お宝です?」

 

「そうなのだ! お宝を見つければみんな元通り! ハッピーなのだ!」

 

「は、ハッピー……」

 

 確かにアライさんはハッピーかもしれない。

 そんな失礼だが同時に確信をついているであろうジョークは心の中に仕舞っておくことにした。

 

「そのお宝をかれこれ長いこと探してるんだけどー、全然見つからないんだー。だからー、一旦かばんさんっていうヒトに会いに行こうとしててー……んー?」

 

 ぴたっと言葉を止めたフェネックが耳をぴくぴくと動かして、やがて小さな笑みを浮かべながら後ろを振り返った。

 

「来てくれたみたいだよアライさーん」

 

 ネコ科の頭部を模したような車両が薄明の向こうから姿を現した。それは薄く日の出の光を背に受けて、短い草の生えた道のわだちを綺麗になぞって走っている。運転席に乗った人物は、身を乗り出してこちらに向けて大きく手を振っていた。

 

「かばんさんなのだー!」

 

 アライさんがぴょんこぴょんこと飛び跳ねて、体全体を使って歓迎の意を表す。

 

 バスはカフェテラスの敷地の真ん中にゆっくりと進入して停車した。運転席から降りたかばんさんは表情に期待を露わにしつつ、結った黒髪を揺らしながら足早に歩み寄ってくる。トラクターの客車からボスがぴょんと飛び出して、フェネックとアライさんもかばんさんの傍に駆け足で寄って行った。

 

「ミレンさん、イエイヌさん。また会えて嬉しいです」

 

「かばん」

 

「ラッキーさんも。もちろん会えて嬉しいですよ。アライさんとフェネックさんもここに居たんですね」

 

 KP放射を確認 対象のカテゴリ【フレンズ】

  【哺乳綱 霊長目 ヒト科 ヒト属 ヒト Homo sapiens】

 >アーカイブプログラム起動....アーカイブレベル〔7〕

 クルー確認【IDNO.0924】

 暫定ガイド権限保持者名「かばん」

 ステータス【正常/生存】

 クルーとのリンク成功

 

 ……ヒトはヒトでもフレンズとして認識されているようだ。これまでに確認してきたアーカイブレベルの数値から想像するに、ヒトのフレンズは彼女以外には観測されていないのかもしれない。

 

「かばんさーん」

 

「久しぶりなのだー! また背が伸びたのだ?」

 

「うーん、ど、どうかな……測ったことないし」

 

 アライさんがぴょいんぴょいんと跳ね回りながらまとわりつく、という芸当をかばんさんに仕掛けている。しかし彼女も慣れているのか、アライさんを両手でやんわりといなしながら俺の目の前までやって来た。

 

「ミレンさん?」

 

 デバイスの表示が彼女の顔の近くに出ていたせいで凝視していると受け取られたらしい。かばんさんは首を小さく傾げている。

 

「すみません。いつも綺麗だなと思って見とれていました」

 

「えうっ!?」

 

「本当ですけど冗談です。迎えに来てくれてありがとうございます」

 

 しゃっくりのような声を上げて頬を染めるかばんさんに頭を下げた。弄った時の反応が一々可愛いのでやみつきになりそうだ。

 

「ご主人ー」

 

 ぐっ、と袖を引っ張るイエイヌの何かを期待しているような眼差し。俺は軽く笑って答えた。

 

「イエイヌはいつも可愛いよ」

 

「わふふ♪」

 

「ミ、ミレンさん……」

 

「ロバさんも可愛いですから」

 

 いつものように頭の上の耳を包み込むように撫でてやればイエイヌの上機嫌な声が漏れ、客車の窓から頭を突き出してくるロバにも苦笑しながら同じことをしてやった。

 

「おにーさんは『フレンズたらし』なんだねー」

 

「ちょっと待ってフェネックさんどこでそんな言葉を覚えたのかな」

 

「ふふふ~」

 

 フェネックはジト目をにやけさせながら俺に意味深な含み笑いをしてのけるのだった。

 

 

 

 

 

 やいのやいのとした雰囲気に包まれたカフェテラスを後にしたのはすっかり太陽が顔を出してからだった。

 俺達はカフェテラスに残るロバに別れを告げ、ボスが運転するバスに乗って共にかばんさんの研究所へと戻ることにした。

 

「かばんさんかばんさん。ちょっとほーこくしたいことがあるのだ」

 

「なんですか?」

 

 道中、車内において他愛のない会話の最中にアライさんがやや真面目なトーンで切り出した。

 出会って間もないがそんな彼女は珍しいと確信できたので、俺は背筋を伸ばしてじゃれつくイエイヌに目線で断りを入れてから2人の会話に耳を傾けた。

 

「『ししん』は見当たらなかったのだ。この辺の高いところは全部見て回ったから、今度は下の方を探してみることにするのだ!」

 

「ありがとうございます……でも、それはちょっと待ってもらえませんか?」

 

「なぜなのだ?」

 

 かばんさんは隣でにぱっとクエスチョンマークを浮かべているアライさんから目の前の俺へと視線を移す。

 

「ミレンさんはデータベース……ええと、限られたヒトだけが入れる図書館みたいなものなんですけど、それを調べてくれるんです。沢山の情報があると思うので、もしかしたら四神の位置も判明するかもしれません」

 

「そ、そんなことができるのだ!? やっぱりヒトのフレンズはすご……ミレンはヒトであってるのだ?」

 

「ええ、ヒトですよ」

 

 俺はイエイヌとかばんさんとアイコンタクトを交わしてからそう答えた。馬鹿正直に「自分はセルリアンです」などと答えても要らぬ混乱を招くだけだ。

 

「ならアライさんも手伝ってあげるのだ! 別の島のだけど、としょかんにも行ったことがあるのだ!」

 

「文字は読めますか?」

 

「ち、ちょっとだけ。すこーしだけ『ひらがな』が読めるのだ」

 

「じゃあお気持ちだけありがたく頂戴いたします、ということで。すみません」

 

 ぐぬぬ~、などと声には出さないが、そんな風にしか見えない顔をしたアライさんがやがてほぅっと息を吐き、真っ直ぐ俺を見つめ返してくる。

 

「し、しょうがないのだ。そういうのはせんもんかにおまかせなのだ。でも助けが必要ならいつでもアライさんを頼るのだ!」

 

「ありがとうございます。まあ、こっちもどこまで調べられるか分からないのであまり期待しないでください」

 

 胸を叩いてふんすと鼻息を漏らすアライさんに感謝を述べて、それからは互いの詳しい自己紹介(殆どこちらが聞かれまくってるだけだが)をしたり、車内でロバからもらっていた食料で朝食を済ませたりして昼前にはかばんさんの研究所に到着した。

 

「きょてんに戻ってきたのだー!」

 

「ちょっと疲れたねー」

 

「かばんさんが来てくれて助かったのだ!」

 

「そうだねー。かばんさーん。合羽も乾かさなきゃだしー、先にちょっと休むねー」

 

「分かりました。本当にお疲れ様でした」

 

 そんなやり取りをして先に研究所の中へ入って行く2人の背中を見送る。

 俺もこれからの『仕事』に向けて内心で大いに覚悟を決めつつイエイヌと歩み出そうとするが、横で呟かれたかばんさんの消え入るような言葉に思わず足を止めた。

 

「アライさんとフェネックさん、本当に優しいフレンズさん達なんです。のろまな私にずっと付き添ってくれて……」

 

「かばんさん……?」

 

「ごめんなさい、ひとりごとです。……私達も戻りましょう。調べ物の前にさばんなの研究所跡でのこと、教えてくださいね」

 

 かばんさんはそう言って横を通り過ぎて行く。俺は豆鉄砲を食らったように立ち尽くし、深々と被り直された彼女の帽子の羽根を見つめることしかできなかった。

 

「かばんさん、泣いてましたね……」

 

「……行こう」

 

 イエイヌが哀し気に目を細めていて、俺はぐっと顎を引いてから彼女の手を取り、確固とした足取りで歩き出す。

 

 かばんさんの問題にはおおよそ見当がつき始めていた。

 

 ──何も覚えてないの……なんだか自分が自分でなかったみたい──

 

 ──何もかも元通りに!──

 

 ──きっと忘れてた間の出来事を埋めようとして──

 

 ──元通りでハッピーなのだ!──

 

 

 何を元通りにするのか、何を取り戻したいのか。

 それはきっと、かばんさんの……いや、この島に住まう全てのフレンズ達の願いなのかもしれない。




LBシステム 起動

アーカイブデータベース閲覧モード

職員クリアランスレベル4
一部アーカイブはロックされます

ようこそ クルー・ミレン




──セルリウム──
セキュリティクリアランス2以上保持者のみ閲覧可能


ジャパリパーク新島群、南端付近のアネガエリア近海において発見された未知の物質の1つ。
外観は黒いヘドロのような液状で、性質はサンドスター・ローと同じく敵対異生物セルリアンの増強やフレンズの持つけものプラズム(通称KP)の減衰であり、やはりサンドスターとは互いに打ち消し合うとみられている。
サンドスター・ローと違い揮発性が低く凝固性に富み、初期の研究においてはあらゆる物質に対する優れた保存力を発揮した。



以下、セキュリティクリアランス1以上保持者のみ閲覧可能
緊急時につき全クルーへのアクセス権が解放されます


先日の降雨で報告された「黒い雨」が海底火山より噴出するサンドスター・ローによって発生している、という調査結果が複数の研究員よりもたらされた。
また、海底火山から溢れたサンドスター・ローが海水によって冷やされ凝固、それ以外にも何かしら特定の条件を満たすことでセルリウムへと変質しているのではないかという仮説も研究員達から一定の支持を受けている。
雨を浴びた一部のクルーには意識障害の兆候が見られる。
更に、まるで獣に回帰したような行動を取るフレンズや凶暴な黒い体色のセルリアン等の出現がアネガを始めとして他のサンドスター濃度の低いエリアでも確認され始めた。
前者を暫定的に「ビースト」後者は弱点部の石を守る硬い外殻を持つことから「殻付き」と呼称する。

パーク運営の安定化に向け、更なる情報の収集と対応策の立案が進められている。


追記.1
全セキュリティクルーの発砲制限を解除した。ゲストの安全を最優先に行動、対処せよ。

追記.2
セルリウムに汚染されたクルーは必ず隔離せよ。
特に銃器を所持した者に対しては発砲も含め一切の躊躇をしないこと。



──暫定クルー・ミレンの追記──
パーク運営の安定化とやらは失敗に終わったことがこれまでに得た情報から確定している。
セルリウムに関しての情報も以前かばんさんと博士達から聞かされた物と変わらない。
重要なのは「フィルタリングタワー」またはそれに関わってくるであろう「四神」の情報だが、どちらもデータベースの索引検索には引っかからない。
タワーについてはパーク混乱期に本来の建造目的から外れた仕様に変更しようとしていた形跡が見られ(かばんさんの研究所に残されていた紙の資料には「セルリウムをフィルタリングする」という概要しか記載されていなかった)、まともにアーカイブ化されていない可能性がある。
よってデータ捜索のアプローチをより広範にし、一見すれば無関係な職員の個人日記ファイルなども漁る必要がある。
まずは研究所跡で発見した遺書の主やその周辺の人物から当たってみることにしよう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。