1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結) 作:らんどまーく
ぺパプとゴクラクのコラボイベント企画をしていたマーゲイに相談を受けた次の日。
その日は最近の天候にありがちな薄曇りで、照り付ける日光が和らぐちょうど良い気候だった。
俺はイエイヌを連れ、数日前に訪れたばかりのサバンナエリア(さばんなちほーの正式名称)へと『ジャパリバイク』を走らせていた。
「このばいくって乗り物はとっても速いですね! 風がすごく気持ちいいです!」
チーターのような装飾が施された動物顔サイドカーに乗ったイエイヌが髪をなびかせながら笑顔を浮かべる。俺もアウトドアハットしか被っていないので乗員どちらもノーヘルの白切符大歓迎状態である。取り締まる警察は存在しないが。
研究所のガレージにあった電動バイクを勝手に動かせるようにして足として使うことにしたのだ。使用されておらず保存状態も良かったので、俺のしたことと言えばバッテリーの給電とタイヤに空気を入れてやったぐらいである。
「ああ。出力は申し分ないけど振動と音と匂いが無いのがね……」
「匂い?」
「ガソリンの匂い。それにどうせなら気筒の鼓動感を味わいたかったよ」
「???」
アクセルを捻っても何の振動も発生しない上、なんならオートクルーズで手放し運転すらできる。サイドカーを引っ張る本体側はオリーブ色のクラシカルなバイクなのに電子装備盛り盛り、不整地を突破できるようにサスが調整されていることを除けばもはや電動自動車と変わらない。愛車がキャブ車だった俺からすれば完全に未知の乗り物である。
「ごめん独り言だよ。ほら、着いた」
さて、そんな文句は程々にサバンナエリアへ到着。最初の目的地はロバの居るカフェテリア。
「えーギアをパーキングにしてと……。やれやれ、1速キルスイッチも要らんのか」
「???」
なんでもかんでも電動自動だが、こうなりゃギアチェンジは意地でもマニュアルモードにして左足でやらせてもらうとしようか。
「独り言。さ、ロバさんに会いに行こ……あいたっ」
癖でサイドスタンドを立てようとして左側に取り付けられたサイドカーに脛をぶつけてしまうという凡ミスをやらかす。電動な上にサイドカー付きのバイクは完全に初心者だ。……後で若葉マークでも付けとくか。
「いらっしゃいませミレンさんとイエイヌさん!」
「どうもロバさん。おはようございます」
「おはようございますー!」
廃車となったバンのカウンター。そこに近付くと、ロバはまるでカフェの店員さんのような柔和な笑顔を浮かべてくれた。
「またお会いできてうれしいです。ちょーっと待ってくださいね、今じゃぱりまんとソーダを……」
「ああちょっと、今日はロバさんにお話があって来ました」
「はい? 私ですか?」
「実はお願いがありまして──」
俺は彼女が冷蔵庫からじゃぱりまんやらソーダやらを次々に取り出そうとするのをやんわりとやめさせ、訪問の目的を伝えた。
「それは楽しそうですね! 私で良ければぜひお手伝いさせてください!」
「いいんですか? ああ、ロバさん。本当にありがとうございます。じゃあちゃちゃっとトラクターを直して行きますね」
まず必須の協力者を1名確保し、次は研究所のガレージにあったラジエターコアをカフェテリアに置き去りにしていたトラクターにこさえる。
「ではロバさん、3日後はよろしくお願いします。トラクターはこの辺のラッキービーストが運転してくれますので」
「分かりました~!」
「ロバさーん! またー!」
作業を終え、サイドカーのトランクにまたまた頂いたソーダとじゃぱりまんを詰めて再びバイクを走らせる。
次の行き先は先日も訪れた研究所跡だ。今度は10分とかからない。
「うーん、相変わらずここはなんだか暗い感じですね」
周囲のしだれた葉を持つ木々は日中であっても施設の周りを暗い影の中に落としている。イエイヌのぼやきも頷けるというものだ。
「確かに。他と違って荒れ過ぎだな」
「当区域における整地、整備を行うにはセキュリティクルー以外の上級クルー、最低1名の承諾が必要となります」
「ラッキーさんがむずかしいこと言ってますねぇ……」
データベースで閲覧した情報によるとこの研究所の一部は客向けのダミー施設で、本体は地下に隠すように設けられた研究施設にある。
大っぴらな宣伝計画も存在せず、物好きな一部のゲストには地下のバイパスを通らせ『秘密の研究所』に招かれたという子供騙しの満足感を与えて帰らせる。そんな、
俺は無言でバイクを施設よりも少し手前の砂利道に停め、エンジンへの電力をカットした。
「くんくん……」
3人で薄暗い木立を進んでいると、ふとイエイヌが目を細め鼻をひくつかせ始める。彼女の嗅覚は俺のデバイスよりも感知範囲が広い。さてこれはセルリアンかフレンズか……。
「アムールトラさん。そこに居ますね?」
「うっ」
歓迎すべき存在だった。イエイヌが呼びかけた木の影で虎縞模様の尻尾が揺れ、不安げに下がった眉の下の金色の瞳がそろりと覗く。俺は腰のハンドガンにかけていた手を挙げ、軽く振った。
「わ、分かっちゃった?」
「匂いは覚えてますからね♪」
とてとてと喜び近付いて行くイエイヌに続き、相手は相変わらず木の幹に隠れたまま俺とイエイヌの顔を交互に伺っている。
これが普段の彼女なのだろう、見た目と声から受ける大人びた印象とは違う恥ずかしがり屋な素振りに、思わず好ましいギャップを感じずにはいられない。
「こんにちはミレンさん、イエイヌちゃん。でもどうしてここに? もう会いに来てくれたの?」
「もちろん君に会う為にだよ。でも、ちょっとあの建物の中にも用があってね」
「あ、もしかして他の寝てるラッキーさん達を起こしに……?」
「えいっ!」
「わっ」
アムールトラはラッキービーストという目的に勘付くや尻尾を左右に揺らしながらぱっと姿を露わにして、その隙を見逃さなかったイエイヌが俺にするように彼女へじゃれつき始める。
「あ、あのあの。私もついていくからっ、だ、だからイエイヌちゃん、は、恥ずかしいから……ね?」
「前の、お返しですよっ♪」
「あわ、あわわわ」
イエイヌがひたすらアムールトラの鎖骨辺りに頭をぐりぐりと押し当てて、頬をリンゴのように紅潮させたアムールトラは小さく挙げた両手を猫の手にしてあわあわするばかり。そんな微笑ましいやりとりを目の奥に焼き付けてから、先日の夜と同じくアムールトラを伴って再び暗闇の施設へと乗り込んだ。
「イエイヌはそのまま押し込め! ……よし今だアムールトラ! ラッキーさんに合わせて反撃を!」
「はい!」
「うんっ!」
研究所跡、地上階1階。打ち捨てられた施設に立ち入って間もなく放置された丸い機械が立ち並ぶ空間でセルリアンハントが始まった。
先日のセルリウムレインの後に湧いて出た黒い蜘蛛の姿形をしたセルリアン達。そいつらは狭い場所が好みらしく殆どは研究所の中に留まっていたが、訪問者に対しては相変わらず色の無い乾いた敵意を向けて来たのだ。
「SSマイン、起爆します。ご注意ください」
ババババンッ!!
地面にばら撒かれた小型の球形群。ラッキーが使用したそれらガジェットが、イエイヌの猛攻によって追い散らされ始めた蜘蛛型セルリアンの群れの真下で虹色の小爆発を巻き起こす。
HUDに現れる『外殻破壊』という好機が無数に宙に打ち上がり、まばたきする間にアムールトラが煌々ときらめく虹色の俊撃でその全てを『撃破』に変えてみせた。
「報告。施設内のセルリアン反応は消失。戦闘支援を解除します。お疲れ様でした、ミレン、イエイヌ、アムールトラ」
「よし、よし。2人共、最高の連携だったよ」
「ご主人とラッキーさんのおかげですね!」
「うん。小さくてもセルリアンを沢山相手にすると凄く疲れるのに、さっきはミレンさんが指示をしてくれたから安心感があった。やっぱり『ぱーくくるーさん』って凄いのね」
「『パーククルー』ね。さん、さんじゃなくてね」
「えっ、そうなの?」
互いを褒め合い、施設内に残っていた小型のセルリアンを全て排除したことを改めて確認する。ちなみに、これまでに施設外部に湧き出ていたセルリアンはアムールトラという狩人の手でぷちぷちと駆除されていたようだ。
「さてまたあの堅い扉を開けなきゃだ。じゃあアムールトラ……アムールトラ?」
呼びかけた相手は少し離れた場所で機械のひとつをじっと見つめていた。その表情は正か負かも読み取れず、かといって無でもない。
「あれが気になるんでしょうか?」
「アムールトラ──」
「ここに誰かが居たの」
アムールトラは振り返りもせずにぽつりと呟いた。俺とイエイヌはすぐ傍で立ち止って彼女と同じ姿勢を取り、今はもうくたびれたシートだけが残る機械の中を共に見下ろす。
外面がへこみ、よく見れば繰り返し引っ掻いたような跡の残る機械はこの研究所で初めてセルリアンと遭遇した位置を示すランドマークでもある。無意識に真上を見上げ、天井の亀裂から差し込む弱い外光に目を凝らす。
「誰か……そう、ヒト。ヒトが居たの。ミレンさんみたいに大きなヒトじゃない。とても小さくて、私は、私はここに居て。私は…………何だっけ?」
虚空を見つめる眼差しのアムールトラがとつとつと独り言ち、最後に振り返りながら困ったような笑みを浮かべて言い添えた。
「何か思い出したいことがあるんですか?」
「それも分からないの」
イエイヌがきょとんとしながら発した問いには苦笑いだけが返された。
そんな一幕を終えて地下に進み、以前よりも早い時間でラッキーを起動させた倉庫へ辿り着く。それ以上地下には今日は潜らない。
倉庫のキャビネット内に収められていた多数のラッキービーストをイエイヌとアムールトラの手も借りて箱から取り出し、ラッキーが通信によって一斉に目覚めさせれば、部屋の床の半分を埋め尽くすラッキービースト達がフライパンの上で踊るトウモロコシのようにジャンプをし始めた。
「起動しました、起動しました」
「リンク中。リンク中」
「クルー・ミレン。クルー・かばん」
「フレンズ、フレンズ。イエイヌ、アムールトラ」
「アワワワワワ」
「わあ~かわいい~!」
「こんなにたくさんのラッキーさんを見たのは初めてですよ。そーかんですね!」
「このラッキーさん達やたら元気だな……」
約1体が約1名によってホールドされ続けていた。アムールトラはラッキービーストが好きなのだと行動の節々から感じられる、そんな光景だった。
ビースト化したフレンズは回復後も記憶障害が残る……が、それ以前の習慣や知識の全てを失う訳ではない。
過去に行われた充分でない調査結果はそう締めくくられており、失った記憶が戻るかどうか等といった重要な部分まではそもそも調べる余裕すらもなかったようだ。
「ああ~ラッキーさん可愛いなあ……♪ ひとりぐらい持って帰ってもばれないかな?」
「アムールトラ。持って帰ったら駄目です」
「うええ~?」
俺はラッキーに渋面を向けるアムールトラを静かに眺めつつ、彼女のアーカイブデータの一部を思い出していた。
LBシステム 起動
アーカイブデータベース閲覧モード
職員クリアランスレベル4
一部アーカイブはロックされます
ようこそ クルー・ミレン
──ビースト──
暫定名称。
多量のセルリウムに曝されたフレンズのこと。
特徴として言語や感情の失調が挙げられ、野生化したような行動を取ることが多い。
常に全身からKPを発する状態(いわゆるKP消費量過大状態)を維持してしまうことがこれらの特徴の主因ではないかと推測されている。
治療法は確立されておらず復調したフレンズは極少数。
パーク各地において混乱状態が続いていることから詳細な研究は遅々として進んでいない。
──アムールトラ──
元動物の詳細は別個動物データを確認すること。
現在の状態
在住エリア……アネガエリアサバンナ区分 ダミー研究施設付近
管理クルー……「かばん」「ミレン」
健康状態……正常(※ビースト化より復調)
特記事項……記憶障害の疑いあり
パーク混乱期以前の詳細はクルー編集済データベースを閲覧すること。
以下全クルー退去勧告後ラッキービースト収集データ
時系列準整列済み
一部データ破損
*暫定クルー「かばん」の漂着前後
・サバンナエリア研究施設付近を徘徊
・セルリアンに対する積極的な狩りの姿勢
*電力不足による特別ゲスト子息「%?'!#」の休眠状態解除後
・「%?'!#」を付け回す
・「%?'!#」を待ち伏せ
・フレンズ「イエイヌ」に対しセルリアン以外に初めての暴力を振るう(自衛の可能性高)
・特別ゲスト向け海上宿泊施設にて発生したフレンズとセルリアンの戦闘中行方不明
*不明な不審人物「ミレン」の確認後
・草原エリア付近渓流沿いで瀕死状態
・「ミレン」「イエイヌ」「チーター」により救出、応急手当
・上記3名を追跡後「ミレン」を強姦、その後ビースト化状態から復調
・ジャングルエリア直前の人工高架橋にてセルリアンと交戦する「ミレン」「イエイヌ」と共闘
*不明な不審人物「ミレン」の新規クルー登録後
・サバンナエリアに在住、状態は正常
・記憶障害の疑いあり
──暫定クルー・ミレンの追記──
アムールトラの記憶障害は気になるが必要以上に心配する必要はなさそうだ。少し恥ずかしがり屋で心根の優しい、戦う力を持った頼りになるフレンズが今の彼女だ。
むしろこのデータで気になるのはかばんさんと文字化けした「特別ゲストの子息」とやら。
……後でデータを漁ってみた方が良いかもしれない。