1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結) 作:らんどまーく
※人によってはキツいと思うので(!)指定、直接的な残酷描写はありません
※アニメより良い奴です
※公式の設定はガン無視、独自設定の出自としています
ぺパプやゴクラクのライブの間に設けられた自由時間。
何人かのフレンズと新たな交流の輪を広げながら巡回していた俺は発情状態のチーターに絡まれた結果、イエイヌとかばんさんを探すという当初の目的を今だ達せずにいた。
それどころか、チーターとお互いそれなりに気持ち良くなる程度の行為に及ぶ自由っぷりを発揮してしまったことで時間を消費し、次の演目までの間に目当ての人物に挨拶できるかどうかは怪しくなっていた。
「ミレンの背中って大きいわよね~♡」
「おーいあまり体を動かさないでって」
背中にチーターをおんぶしたまま海岸沿いの遊歩道を歩く。なぜおんぶをしているのかと言うと、チーターがイカセあいごっこ等という不明かつ個人的な遊びで俺に惨敗したが為に腰が抜けてしまったからだ。こちらもこちらでまだ少し下半身に感覚が残っていてあまり強く言えないのが困り所。
「まるで最初に会った時みたいだなあ」
俺は目当ての姿を砂浜と道沿いに求めつつ、必要以上に背中に密着するチーターに向けて苦笑しながら言う。
「最初って?」
「君がセルリアンに突撃してやり返された時っすね」
「そ、そんなの知らないもん」
頬を膨らませて目を逸らしているのが声の向きから分かる。思い出したら楽しくなって来たぞ。
「『ちょこっと威力が足りなったようね』なんて言いながら足ぷるぷるさせててさあ。こっちがちょこっと以上に焦るって話」
「ぎゃーやめてやめて! 忘れなさいよ!」
「君を見る度に思い出すあの光景」
「耳噛むわよ♡」
「分かった悪かったよ。忘れるから止めていただけるかな?」
そんな傍から見ればバカップルとでも呼ばれそうな会話を楽しみながら遊歩道を進む。木目調を模した合成樹脂の道は時折緩やかなカーブを描き、時々聞こえてくる波打ちの音とカモメの鳴き声とが合わさって爽やかな道程だった……時々、チーターがごろごろと喉を鳴らして俺の首筋をざりざり舐め始めるのは勘弁して欲しかったが。
「サーバルー!」
「!」
チーターがようやく首を舐めるのに飽きてくれた頃、突然右手の高台の辺りから誰かの呼びかける声が響いた。
──サーバル。
そうだ。フレンズによって得意なことは違う、という言葉は彼女のものだ。
「ち、ちょっとミレン?」
高台の下に設けられたバスの停留所へ足早に駆け込むとチーターが慌てて首筋にしがみ付く。俺は彼女にひと言詫びを入れてから停留所の内部に設けられたベンチに座らせ、足元に待機するラッキーのポーチからタブレットを取り出し起動させた。
監視カメラ接続....
アネガ海浜公園 No021
アネガ海浜公園 No022
アネガ海浜公園 No023
アネガ海浜公園 No024
アネガ海浜公園 No025(破損)
「なにこれ。風景が沢山あるわよ」
「この上の高台の様子を見てるんだ。それともう少しだけ声を落として欲しい」
「う、うん」
高台手前らへんのカメラは確か22番……。
タップ操作を行い、小さく並列表示されていた画面を目的のカメラ映像の全画面出力に。すると、そこに映っている人物の姿がよりはっきりと判別できるようになる。
『もーどこ行ってたのさ』
──ゲストID.0117<特別ゲスト><優先保護対象>
『ごめんねキュルルちゃん。さっきチーターちゃんの声が聞こえたような気がして』
『あのスピード狂のこと? 私には聞こえなかったわよ』
──サーバル アーカイブレベル〔2〕
──カラカル アーカイブレベル〔35〕
「誰がスピード狂よ誰が」
「バレるバレる。声抑えて」
「むー……そもそもなんで隠れるのよー……」
ふくれっ面をかましているチーターの頭を軽く撫でて機嫌を取ってから(ごろごろ喉を鳴らすのを確認)画面に意識を戻す。
監視カメラに映っているのはフレンズ2名と
『チーターさんが?』
いささか短すぎる前髪と中途半端に後ろでくくる程度に伸ばした髪は緑色と黒のグラデーション。青いベストと肩から提げたメッセンジャーバッグ、七分丈のズボンといういで立ちはまるで魚釣りでもしに来たオッサンのようで、小柄な子供にしては随分キテレツな印象を受ける。
『うん。でも気のせいだったかなあ』
『風と波の音もするし気のせいでしょ。ま、あれだけフレンズが居たらあの子が居てもおかしくないけど』
「この子供は……」
「知ってる、この子キュルルって言うの。他の2人はサーバルとカラカルね」
チーターの指が画面の上を順に示す。ゲストIDのツリー表示を開いてみたがやはり「キュルル」などという名は表示されず、しかしその容姿は事前に調べていた通りのものだった。
「キュルルねえ……」
見た目もそうだがキテレツな名前も初耳、もしかするとかばんさんのようなあだ名を付けられたのだろうか?
「いやちょっと待て、かばんさんが居るな」
「えっ?」
脳内で浮かんだ名前と画面の端に一瞬映り込んだ白い布地がリンクした。すぐさま画面をスライドさせてカメラを振って映し出した人物は、高台の入り口付近に設置された大木のモニュメントに隠れるかばんさんの姿だった。彼女はどこか不安げな眼差しを麦わら帽子の下に秘め、波風にはためくワンピースの裾を手で抑えている。
「覗き見……?」
「私達もしてるけど」
「ごもっとも。ああ、他にも居るみたいだ」
画面外近くにフレンズやゲストが居る場合「の」という虹色のジャパリロゴが表示される。ロゴの数は2つで方向と距離は例の3人組から離れており、試しにそちらの映像に切り替えると思いもよらぬフレンズの姿が映し出された。
──イエイヌ アーカイブレベル〔58〕
──アムールトラ アーカイブレベル〔17〕
「イエイヌと……確かアムールトラって子ね。けどいったい何をしてるのかしら?」
「用があるんだろうね。あの3人の内の誰かに」
「ミレンもそうなの?」
「俺は……保安業務だよ」
チーターは俺の淡白な返事に首を傾げた。
さて、2人はかばんさんから更に後方に離れた位置にそれぞれ身を潜めている。イエイヌはベンチの下。アムールトラは植木壇の中。そしてやはりその視線と耳の動きはあの3人組に寄せられている様子だった。
「しかしまあなんだこの状況は……」
「大注目ね。私は違うけど」
俺に至っては覗き見される側とする側の両方を纏めて覗き見しているのだ。もはや覗き見フェスティバルである。
『それにしても喉が渇いたわねー』
『言われてみれば。私、ちょっと飲み物を貰ってくるよ!』
『私も行くわよサーバル。キュルルは? 何か要る?』
『ぼくはいい。ちょっとここで休んでるよ』
サーバルとカラカルが連れ立って高台から姿を消し、ややあってからそれまでモニュメントの洞に留まっていたかばんさんがふらりと体を起き上がらせて去って行く。
それぞれの注目する対象は差異があったようだ。かばんさんはサーバル、イエイヌとアムールトラはキュルルという少年。海をぼんやりと眺めている彼の様子を伺う2人のフレンズは動かない……という予想は、俺にとって最も馴染みのあるフレンズが動いたことで外された。
「イエイヌ……?」
手すりにもたれるキテレツな格好の少年にゆっくり歩み寄って行く足取りにはどこか迷いや戸惑いが見え、その表情は何度か俺に見せた哀しみの表情そのものだった。それまで気付いていなかったのか、アムールトラも姿を見せたイエイヌに目を見開いて植木壇から顔を突き出している。
『キ……ル……ん』
『……イ……エ……ん? どうし……こ……に?』
イエイヌの呼びかけに振り返ったキュルルが驚いた様子で声を上げた。
しかしどちらも声が遠い。集音マイクが波風を拾っているのもあるが。
「声が聞こえなくなったわよ?」
「距離が離れたし波風もあるからね。もっと近いカメラに切り替え……ああ駄目だ、25番は壊れてる」
施設のメンテナンスを殆どコンサート会場に集中させたのが仇となったか……。これでは会話の詳細を聞くことは難しい。
「ま、いいんじゃないの? あんまり盗み聞きをするのも良くないと思うわ」
「……ぐうの音も出ないね」
優雅に足を組んで髪をすかしているチーターにばつの悪い苦笑を返すことしかできない。ただそれでも、イエイヌがどんなやり取りをしているのか映像から目を離すことはできなかった。
相変わらず波風に遮られている少年とイエイヌの会話はぶつ切りで、どうやらイエイヌは彼に対し何か謝罪をしている風だ。彼女が何度も頭を下げその度に相手が反応に困っている、そのどこか空回りしているような雰囲気から険悪さは微塵も感じられない。イエイヌのことだから別に謝らなくてもいいようなことを気にかけていたのだろう。その内容にまで踏み入る必要はなさそうだと安心する。
イエイヌの独白に見える謝罪の数分が終わり、少年とひと言ふた言交わしたイエイヌはにこやかに、少年はぎこちない笑顔で握手を交わす。そしてイエイヌはまた頭を下げてから会場の方へと去って行く。
今、少年の付近に存在するのはアムールトラだけ。
「あのさチーター。頼みがあるんだけど」
「なあに?」
手の甲で顔をあらっていたチーターが視線を向けてくる。
「アムールトラをあそこから連れ出してくれないか? 適当な理由を……コンサートを一緒に観ようとか食べ歩きをしようとか遊ぼうとか走ろうとか、何でもいいから」
「ええ?」
嫌というほどではないが快諾できるような依頼でもない。彼女の綺麗なツリ目と眉がそう言いたげに曲がっている。
「お願いだよ。後で代わりに頼みを聞くから」
「なんでも?」
「無条件は無理です釣り合いが取れるレベルでお願いします」
チーターは長い尻尾をゆらゆらと左右に揺らしながら人差し指を頬に当てて、やがてすっくとベンチから立ち上がった。
「いいわよ。でも後でちゃーんと頼みを聞いてよね」
しっかり頷き返す。にやりと満足げに笑ったチーターが金髪をなびかせながら走り去り、数秒も置かずにタブレットの画面にそろそろとアムールトラの潜んでいる植木壇に忍び寄る彼女の姿が映し出される。
『むー!』
少年に気を取られているアムールトラが耳をぴくりと動かした瞬間、しなやかな体を植木壇の中に入り込ませたチーターが彼女の口を後ろから塞ぎにかかった。がさりがさりと緑色の葉が揺れているが離れた位置で海を眺める少年は気付かない。
『静かにしなさいって……私はチーター。あなたアムールトラでしょ? ミレンがキュルルと2人だけで話したがってるの。だから行くわよ』
『……』
じたばたもがき続けていたアムールトラは俺の名前を聞くやぴたりと抵抗を止め、すごすごとチーターに手を引かれながら連れて行かれる。
できれば俺の名前は出さないで欲しかったが。……監視カメラの位置を把握していたのか、去り際にチーターがこちらに向かってウインクをした。可愛い。
「さて」
とにかく状況は整った。俺はタブレットをラッキーのポーチに戻し、幾つかの指示を出す。
「ラッキーさん、追随を停止してくれ。監視カメラ22番と25番の録画も中断で。何かあればデバイスに連絡を」
「了解しました」
ひとつ深呼吸をしてから高台への階段を踏みしめるようにして上り、目当ての人物の背中に近付いて行く。
「はあ……」
キュルルという少年は相変わらず手すりにもたれかかり、黄昏ていた。
──ゲストIDナンバー0117。
それはあの研究所跡で眠らされていた生身のヒト。
特別ゲストという下らない範疇のヒトの親族である彼はパーク全域に退去命令が出された際に置いて行かれた哀れな子供だった。
哀れついでになってしまうが送り届けるべき親も既にこの世に存在していない。真っ先に逃亡を図った上級職員達(規定では全クルー退避後に脱出せねばならない)と特別ゲストが乗り合わせた航空機の反応はこの島の近海上で消失している。
「よう、少年」
「えっ? ぼく?」
振り返ったヒトの子供が目をぱちくりさせながら見上げてくる。
蛙の子は蛙ともいう。そしてヒトならば三つ子の魂百まで、だ。
どこまで読めるかは俺の観察眼次第となる。
「おじさん誰?」
誰がおじさんだコラ。
「……俺はミレン。散歩をしてたら君を見つけてな」
まあ冗談交じりの大人げない怒りは隅に置いておこう。俺も26だ。立派なアラサー。ガキんちょのおじさん呼ばわりも無理はない。
「君の名前は?」
「キュルル。おじさんがあのミレンさんなんだね」
そう言ってガキんちょは俺を上から下まで眺めて溜め息を吐く。失礼にしか取れない振る舞いは見なかったことにし、俺はサイドポーチからソーダのビンを取り出した。
「飲むか?」
「うん。喉乾いちゃった」
蓋を外して中身をごくごく飲んだ少年が「ぷはー」と手すりに背をもたれる。俺はそんなガキんちょから少し離れた位置で片腕を手すりの上に乗せ、太陽の光をキラキラと照り返す波間に流し目を向けた。
「何か悩みでもあるのか?」
「ど、どうしてそう思うの?」
「海辺で黄昏ながら溜め息を吐く奴……って言ったら普通はそう思うだろ?」
黙りこくる少年。俺は俯いている変な髪形に視線を向けた。
「話してみたらどうだ?
「実は……」
ソーダのビンを両手で弄びながら切り出した少年の悩みは誰もが陥り通過する、ごく普通のものだった。
「ぼく、フレンズさん達に助けられてばかりなんだ。よく考えたらぼく自身が他のフレンズさんを手助けできたことなんて殆どなくて、むしろ迷惑ばかりかけてる。実はさっきも友達……友達って言ってもいいのかな……とにかく以前知り合ったフレンズさんと話をしたんだけど、ぼくが迷惑をかけたのに向こうからその時のことを謝ってきて……それで、よく分からなくなっちゃったんだ。ぼくって迷惑なことしかできないのかな」
己の無力さに失望するなんてことはまともなヒトなら誰でも一度は通る道だ。
あのかばんさんとて、生まれてすぐに経験したポピュラーな悩みであるのだから。
「俺も悩んだなあ。それ」
相変わらず俯き加減な少年に多少気を許した俺は体ごと彼の方に向き直った。
「ミレンさんが? ……うそだよ」
「どうしてそう思う?」
少し前のオウム返しをぶつけてやると悩める少年は口をもごもごさせて言った。
「だ、だって『ミレンさんはすごいヒト』って皆が言うんだ。パーク中を回って色んなフレンズさんを助けて、道具を直したりもできるんでしょ? セルリアンだって沢山やっつけたって」
「誇張された噂さ。それに俺は大人だから子供の君よりできることは多いんだよ……子供にしかできないこともあるけどな」
相手の口がへの字に曲がり始めたので後付けのフォローを入れ、ひと息吐いてから話の続きを再開する。
「それにな、誰だって生きていれば他人に迷惑をかけるし、かけられたりもするものさ。もちろん俺も」
「ミレンさんが誰かに迷惑って、どんなことで?」
記憶に残っていたそのままを答えることにした。今はオブラートに包むよりその方が良い。
「セルリアンに殺されかけて……かばんさんに助けてもらった。その時一緒に居たフレンズさん達には随分心配をかけたよ」
「え……」
「ヒトの体はフレンズより脆いからな。向いてないんだ、セルリアンハントには」
俺は自分の胸の辺りをさすりながら、信じられないものを見る目を向けている少年に自嘲的に笑った。
「こ、怖くないの?」
「そこそこ。まあでも、最近は後方支援が多いしそこまで危なくないんだよ。やりがいのある仕事だしやめるつもりも無いね」
「すごいや」
純粋な敬意を向けられ、それなりに悪くない気分になった俺は相手のプラスになる部分を探すことにした。
「君はやりたいことや好きなこと、何かあるか?」
「絵を描くのが好き──」
「いいね」
「だったんだけど……」
視線で続きを促す。少しだけ明るくなったかと思われた少年の表情はすぐ何かに詰まったように暗がりを帯びていた。
「ぼくの描いた絵、セルリウムっていうのに当たるとひどいことになるんだ……」
詳細を教えてもらい、デバイスにそのまま音声文字入力として残す。なんでも、彼が絵として描いたフレンズがセルリウムによって実体化したのだと。それを聞いた俺の頭の中ではある記憶が鮮やかに蘇っていた。
俺がこのジャパリパークで目覚めてまだ日も浅く、浮ついた気分で居た頃。出会ったばかりのチーターが宿泊していたホテルで武勇伝を語ってくれた時にそんな内容の話が含まれていたのだ。
「そうか、あれは君が……」
「えっ?」
「いや、なんでも」
最近ではかばんさんが懸念事項として挙げていた内容でもある。セルリウムやセルリアンが物体をコピーする時、その物に込められた『ヒトの想い』によって性質を変えるのではないか──という推測。そして、それは恐らく事実だということも。
過去……ヒトがセルリアンの捕食を受ける被害が報告され始めた頃と、全職員に退避命令が通達された時期とでは余りにも差が大きい。『精神的ショックによる昏睡』という被害名称はやがて『死亡』という単語の羅列に取って代わるのだから。
ヒトの想いと言えば千差万別、負の感情も多分に含まれるそれをコピーしたセルリアンは危険極まりない。俺に致命傷を与えたセルリアンがそうであったように。
つまり何が言いたいかというと、危険なセルリアンの氾濫はヒトが原因だったということだ。実証も既に終わった後である。
「君のはまあ、そこまで心配しなくていいんでない」
「そうかな……?」
話を戻してキュルルの悩みである。聞けば絵に込められた
そのぐらいであれば大した問題ではないし、この後予定されている大仕事の経緯次第でこの島からセルリウムの脅威は消滅する予定である。
それから、セルリウムが触れないよう描いた絵を袋やケースに入れることである程度は対応可能……ということを教えると、悩める少年は一転してメッセンジャーバッグの中をチラチラと覗き始めた。
「じ、じゃあ今描いても大丈夫かな!?」
「どうぞー。ああでも、後でハブさんにクリアファイルでも貰いなよ。ほら、そのビン寄越しな。捨てといてやるから」
「ありがとう!」
充分にページ数の余ったスケッチブックと色鉛筆とを手にするキュルルという子供。彼は嬉々とした表情で俺と俺の背後の海とを交互に確認しながらスケッチブックに色鉛筆を走らせる。
癖はあるがごく普通のヒトの子供……どうやら親の心根まで受け継いではいないようだ。
もしもこれが裏を隠した表向きの顔で単に俺が見抜けていないだけならば、残念かつ幸運なことに、俺の人間観察眼はジャパリパークの空気によってすっかり曇ってしまったということになる。
本当に良かった。もしも目の前のヒトが腐っていたならば──
祈りと安堵の冷却。しかし同時に、心の片隅に押しやった炎がじりじりと存在を主張するのを感じる。
「なあ、もしかして俺を描いてるのか?」
気を紛らわさんと、俺は楽しげかつ熱心にスケッチを取るキュルルにわざとらしくも明るい調子で声をかけた。
「そうだよ? でもかばんさんも居たら一緒に描きたかったなあ。サーバルも……」
「どうしてかばんさんを?」
その組み合わせが出たことに興味をひかれた俺はそれとなく質問を投げかける。すると、彼は一旦スケッチの手を止めて首を傾けながら唸った。
「あの2人、前から知り合いか友達だったんじゃないかなって思う時があるんだ。あ、サーバルって知ってる?」
「見た目は知ってる。それで?」
「前にかばんさんの家に遊びに行った時になんだか、こう、かばんさんがサーバルを見る目がおかしかったんだ。別に怒ってるとかそういうんじゃなくて、すごく優しい眼差しだったんだけど。それにサーバルはサーバルで、寝言でしょっちゅう『かばんちゃん』って言うし……ぼくが知らないだけで2人だけで遊んだりしてるのかな、って」
「ほうほう……」
これは……僥倖かもしれない。
『ミレン。業務連絡です』
「どうぞ」
思わずにやけ笑いが口元に出るのを片手で誤魔化しているとアウトドアハットからラッキーの声が響く。
報告はコンサート会場の照明設備の一部が故障したというもので、それは一晩突貫工事で俺が修理した部分だった。おまけにその設備はこれから催される「ぺパプ&イルカとアシカショー」で使用される予定の華やかなスポットライトで、開始までの残り時間は僅か1時間を切っていた。
「すまん、ちょっと急な仕事が入ったから戻るよ」
「ミレンさん、なんだか嬉しそうだね」
「好きなことだからな。話せてよかったよキュルル。またな」
「うん、ぼくも話せてよかった。ありがとうミレンさん、絵ができたらあげるからね」
「そりゃ楽しみだ」
握手を交わしてから高台を早足で後にする。入れ替わりで背後からキュルルの名前を呼ぶサーバルとカラカルの声がし、それに答える元気な返事が波風に乗って聞こえた。
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──暫定クルー・ミレンの追記──
やろうと思えばラッキーさんがハッキングしてくれるそうだがそこまでする必要は無いと判断、データに関しては放置することにする。実際に確かめればいいだけだ。
彼の親のデータも同じ状態だが、そもそも特別ゲストは現在全て死亡しているので特定するだけ無駄だ。
──追記──
確かめた。処理する必要は無い。
フレンズと同じく保護対象として見守ることにする。
以上