1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結) 作:らんどまーく
これから先はエンディングまでほぼこの調子です。
フレンズ総出となる『うみべちほービッグイベント』は2日目の朝にエンディングセレモニーを迎えた。
踊りの得意なフレンズによる華やかなダンス、歌うのが得意または好きなフレンズによる合唱が行われ、最後は運営企画側ということでかばんさんとマーゲイ、ついでに俺に対する拍手喝采によって締め括られた。
会場の外では未だに興奮冷めやらぬフレンズ達の喧騒が満ちている。
「賑やか賑やか」
俺はブラックコーヒーの入ったカップを片手に、縄張りに戻るフレンズ向けにラッキービーストらが運行するバス、トラクター、そしてモノレールの動きを監視していた。
フレンズ……今は生身のヒトが1人追加されたが、その集団の安全を見守るのもクルーの役目である。
「皆さん落ち着いてよかったですね!」
「睡眠不足なだけなんじゃない」
「でも昨日はすごかったですよ? 夜のイベントはぜーんぶ『ミレンさまを探せ!』ゲームに変わっちゃったんですから」
楽し気に言うイエイヌは目を細め犬歯をちらつかせるような笑みを浮かべた。
「うーんホラー」
昨日はフウチョウ達のアドリブアンコールによって1曲歌い、なぜかそれで会場のフレンズ達を発情させるという事案を発生させたのだ。触れるより効果の高い毒をまだ持っていたとは驚きだった。範囲も酷い。
俺は自身の謎の能力に苦笑いしながらアウトドアハットのつばの曲がりを直す。
しばらく歌うことはあるまい。
「あっ、かばんさんです!」
「来た来た」
イエイヌが先んじてスタッフルームのドアに駆け寄って行った。俺は画面から目を離し、椅子から立ち上がってぱたぱたと揺れる尻尾を振り返る。
「わっ。イエイヌさん」
「わふ~♪」
「よしよし」
かばんさん……イベント期間中は白いワンピース姿だった彼女も今は元のアウトドアスタイルに戻っていた。
飛びついたイエイヌを受け止め撫でる手にロンググローブをはめ、黒く艶のあるくせ毛の上にはクルーのシンボルである羽根付きハットが乗っている。
彼女は俺の姿を認めると少しだけ顔を赤らめ、それからにっこりと可愛らしい笑顔を見せてくれた。自然なその笑みに心が躍り、俺も笑って会釈を返す。
「イエイヌは甘えん坊だよなあ。ミレンさんが妬いちゃうぜー?」
茶化すような言葉を放ちながら部屋の壁に寄りかかるフレンズはハブ。
いつもの胸元にリボンの付いたパーカーを着て、短いスカートからはみ出た蛇の尻尾は楽し気に揺れている。
「えっ、えっ、わたしそんなつもりじゃ……違うんですご主人! これはそのつまりかばんさんとご主人がツガイであることが原因であって」
「な、何言ってるのイエイヌさん!?」
「こーらハブさん。お客様をいじるのはやめなさい」
イエイヌとかばんさんのダブル混乱が起き、ハブを横から突っついたのはオオミミギツネ。横にはブタさんを伴っている。
「わりーわりー。気にすんなよイエイヌ。ミレンさんも」
「気にしませんて。ブタさんとオオミミギツネさんも来てくれてありがとうございます」
3人は草原でホテルを運営している珍しいトリオだ。今回のイベントでは自分達のホテルの宣伝をついでにさせてもらう、という条件だけで出店運営を行ってくれた。
出会った時からそうだが、殆どこちらがしてもらってばかりで彼女達には頭が上がらない。
「ヒトと一緒に居ると落ち着きますものね。かばんさんもミレンさん、どちらもとっても素敵なヒトですし」
柔和な笑みを浮かべたブタさんがかばんさんと俺を交互に見ながら言う。イエイヌは無言で激しく首を縦に振り、今度は俺の体に飛びついた。
「リョコウバトです。皆さんを連れて参りましたわ」
「いっちばーん!」
「遅れたのだー! へぶっ」
「こけるよアライさーん……って、もう遅いかー」
礼儀正しくリョコウバトが会釈をしてから入室、その後ろから1着(?)のチーターがブレーキング。その足元へとヘッドスライディングを決めるアライさんに、のんびり歩むフェネックとが姿を現す。
フレンズの足音はまだ続く。
「イルカさんってば、アライさんじゃないんですからあまり走ったら駄目です。私達、陸ではそこまで動けないんですから」
「分かってるよアシカちゃん。でもあの2人を見たら思わず走りたくなって♪」
イベント、特にショーにおいて多彩な芸でもって盛り上げてくれたカリフォルニアアシカ、バンドウイルカのペア。
「こ、こんにちは……」
「アムールトラさん!」
おずおずと顔を覗かせるアムールトラ。直後にイエイヌがタックル染みた抱きつきを仕掛け、小さく「ひえっ」と悲鳴が上がる。
「さて」
「我々で最後だぞ」
優雅にその場で交差したカンザシフウチョウとカタカケフウチョウの手によってドアが閉められる。
俺は全員を部屋の中央へ招き入れ、椅子や床の好きな場所で楽にするようにと頼んだ。
「それでミレン、手伝って欲しいことって何かしら?」
「平たく言うとお宝探しだよ、チーター」
立ったままさらりと髪をかき上げたチーターに返しつつ、デスクの上に乗っていたラッキーに目線で合図を送る。するとそのつぶらな瞳が光の線を放ち、吊り下げられていた白いスクリーンに幾つかの画像を映し出した。
照明の明るさを落とし、皆の視線がスクリーンに注がれる。
数名を除いた全員がすぐに首を傾げた。
「探すお宝、というのはこれなのですが」
「『ししん』なのだ!」
首を傾げなかった内の元気な1人がスクリーンを指差して、クイズの答えを知っている子供のように得意げな声を張り上げた。
隣のジト目をしたフレンズがくいくいと彼女の袖を引っ張って後ろに下がらせ、俺は軽く頷いた。
「そう。この石の板のような物は『四神』と呼ばれています。実はある場所の目星はもう付いているんですけどね」
「ふーん。それってどこにあるの?」
「この施設から少し離れた海上の建物……半壊して、放棄されている一番下の階さ。君も行ったことがあるって聞いたけど」
「あー……あのホテルね。覚えてるわよ、うん」
チーターが頭をかきながら渋い顔を見せ、他のフレンズも「あーあれか」といった様子で頷いている。その中でオオミミギツネだけは唇をきゅっと結びながら俯いて、ハブとブタさんがそっと彼女の肩に手を添えていた。
「その『四神』は具体的にどういう物なんでしょうか?」
頭脳明晰な女性がするようにアシカが眼鏡をくい、と持ち上げた。
オオミミギツネが仲間に小さく笑みを向け、再び真っ直ぐ目線を戻したのを俺は横目で確認する。
「これは神聖なお守り──」
スクリーンに映し出される画像が変化し、真上から撮影された火山の火口部が映し出される。
キューブ状に凝固したサンドスターの柱が火口の穴から連なって天へと伸びており、その柱の始点、火口の先端から少し下がった辺りに青い光の膜が浮かんでいる写真だ。
「これはお隣の島、キョウシュウエリアの火山の写真です。この青い光が見えますか? これは火山から噴き出すサンドスター・ローという物質、セルリウムに似ているのですが……それらを浄化してくれているんです。我々はこの青い光を『フィルター』と呼んでおり、それを作り出しているのが」
「『ししん』なのだ!!」
ジト目のフレンズがぐいぐいと肩を引っ張ってアライさんを下がらせた。
彼女にとっては大きな思い出、それも自らが関わった栄光の記憶のキーアイテムに違いない。
「ところで皆さん、この島で黒い雨が降った時……海辺に住んでいる方には『海のご機嫌が悪くなった時』と言った方がいいですね。そういった時はどうなさってます?」
「んー、流石にあぶねーからホテルに引きこもってるかな」
「私達も海から上がって建物の中に避難しています」
「それはなぜ?」
俺の言葉にハブが「そりゃあ」と続ける。
「セルリアンがやたら湧くからだよ。黒い奴とか、妙に固いのとか、デカいのとか……とにかく面倒なのがさ」
「セルリアンフロー、だ」
カタカケフウチョウがぽつりと呟いた。
薄暗い室内で溶け込んだ見た目の中で、青い胸元の羽と頭の部分とがまるで笑顔のように浮き出ている。
「セルリアン風呂だって? 掃除のことならブタさんに言ってくれよ」
「ち、ちょっとセルリアンのお掃除は苦手なので~……」
「違う。セルリアンフローだ」
リボンのような黄色い羽がひと際目立つカンザシフウチョウがかけ合いにツッコミを入れた。
「我々は黒い雨、セルリウムレインと共に生きている」
「だが島に住む多くはその意味を知らない。いや、忘れているのだ」
いつものような演技染みた口調ではなく、真剣に、そしてどこか苦々し気な雰囲気を滲ませたフウチョウ達が語り始める。
俺とかばんさんは目を合わせ、不介入の意思を確認した。
「忘れるって……何を? 黒い雨が降ってる時は外出禁止、ってことぐらい皆知ってるぜ?」
「あの雨を沢山浴びたらビーストになる、ということもか?」
「は?」
息を飲む音が部屋の隅から聞こえた。イエイヌの隣からだ。
「黒い雨が降り、セルリアンが湧く。そのセルリアンはどこへ行くのだ?」
「そりゃ……雨がやんだ後にフレンズがやっつけてるんだよ、俺だってやってるし。他のフレンズも戦うのが得意な奴ならそうするじゃん。ていうかあの雨を浴びたらビーストになるっての、初耳だぜ」
「この島では稀に黒い雨が大量に降り、そうすると『セルリアンフロー』という現象が発生する。凶暴で、危険なセルリアンが我々を傷付け、食らう」
「奴らを止めるのには普通のフレンズの力では及ばないのだ。だから誰かが……大きな力を持った誰かがセルリアンを間引く必要がある」
「それがビーストだってのか?」
「その通り。それに、お前には一度ビースト化について忠告を与えたことがあるぞ」
「だから知らねーって。聞いてたら忘れねーだろ?」
ハブはポケットに片手を突っ込みながらうんざりした口調で言う。フウチョウ達はやるせなさそうに首を横に振り、彼女に憐憫の光を灯した瞳を向けた。
「な、なんだよ」
「数年前だ。私はお前にそれを教えた」
「それでもお前は
「お、俺が?」
静寂が薄暗い部屋の全てを包む。
いや、アライさんが何か言おうとしてフェネックに口を塞がれてもがもがしてはいるが、とにかく静寂だ。
「オオミミギツネとブタよりも出会う以前、お前はとても仲の良い友達を持っていた。覚えているか?」
「え、ええ……?」
ハブは困惑の表情でフードの上に手をやった。そんな彼女に皆が視線を注いでいる。目の前に立ったフウチョウ達も同じく。
「な、なんの話をしてるのかわかんねーよ。ずっと仲が良いのはオオミミとブタさんだし、しかも俺がビーストだった? そんな訳……」
「ビーストになったフレンズは大きなチカラを得る。だがそれは自らのサンドスターを過剰に消費する諸刃の剣。しかもサンドスターを使い果たしたビーストは……やがて本当の獣に戻ってしまうのだ」
「よしんば獣に戻らなくとも記憶を失う。ビーストになる前の記憶を、それもたいていは一番大切な思い出を」
そう言ってカタカケフウチョウの瞳が部屋の隅をちらりと伺った。一瞬のことで、彼女がどこを向いていたのかまでは分からない。
「お前は元々この島のセルリアンハンターだった。ある日黒い雨が、それも大雨が降って大規模なセルリアンフローが起き、お前は友達を守る為に自らビーストになったのだ」
「そういうフレンズが過去に何人も居た。だから、我々は教えるのをやめたのだ」
「わかんねえってば……そんなこと言われたって……」
遂にハブは頭を抱えてうずくまってしまった。尻尾を体に巻き付け、とぐろを巻くようにして震える姿からはいつもの面影が消え去っていて、痛ましさすらある。
「ハブさん……」
さっきとは逆に、オオミミギツネがハブの肩に添えて名前を呼んだ。震えが収まらないのか、彼女はハブの頭を優しく抱きしめた。
「フウチョウさま。私やオオミミギツネさんもビーストになったことがあるんでしょうか?」
ブタさんはハブの背中を撫でつつ、不安げな面持ちをこの島の長達に向ける。
「我々が知らぬ時、知らぬ場所でビースト化した者も少なくはない。お前とオオミミギツネに関しては分からない」
「ちょっと待って。もしかして私もビーストになったことが……」
「お前は、ある」
「えーっ!?」
チーターがその切れ長の瞳を目一杯見開き、長い尻尾をぴーんと伸ばして甲高い声を上げた。
「う、う、嘘よねっ?」
「本当だ。お前も自分から雨を浴びに行った。理由はハブと同じだ」
「全力疾走でな。止める暇もなかったぞ」
「嘘でしょ……」
仮に俺がそうだと言われても簡単には信じないだろう。
己の過去に起きた重大事にも関わらず、当の自分は覚えていない。それを他人に言われて納得できるはずもない。
「狙ってビーストになる者ばかりではない。不運な者がたまたま雨に当たってビースト化することも当然ある。だが、目的や意志を持たない奴はすぐにサンドスターを使い切ってしまうのだ」
「そうして動けなくなったビーストにじゃぱりまんを食べさせてフレンズに戻していたのだ。放っておけば獣にまで戻るからな。我々にはそれぐらいしかできなかった」
「ち、ちょっとお待ちいただけますか。この話、私達だけが聞いてて大丈夫なんですの?」
「うん。すごく大事なことみたいだし、みんな知らなきゃまずいような……」
リョコウバトとイルカが他の総意を受け持った意見を述べたので、かばんさんと俺とが交互に言葉を継ぐ。
「本当はイベント中にお知らせするつもりだったんですが流石に収集がつかなくなりそうだったので……あと、あの、私とミレンさんが不在だった時間もあったので……」
「この場に居ない方には各地のラッキーさんが折を見て説明してくれます。分かりやすく、昔話を語るようにね」
「アムールトラさんも、ですか?」
と、それまでじっと成り行きを見ていたイエイヌが初めて声を上げた。
左右色違いの瞳に咎めるような色を帯び、真っ直ぐフウチョウ達を見つめている。
「アムールトラさんも……自分でビーストになったんですか?」
「分からない……」
「分からない、ですか?」
イエイヌの低い声にカタカケが沈痛な面持ちで頷く。
「我々がアムールトラを認知した時には既にビースト化していたのだ。凄まじく強く、数多のセルリアンをなぎ倒し、なぜかサンドスター切れを起こさないように上手く力をセーブしていた」
「今日に至るまで数度のセルリアンフローを経た。それでもアネガの平穏が続いて来れたのは彼女の力による所も大きい」
「ただ……どうにかして、無理にでもフレンズに戻すべきだった。だが我々はそうはせず、アムールトラを体の良いセルリアンハンターとして、他にビーストが増えてしまわぬことを期待しながら利用し続けた」
「なんで、なんで教えてくれなかったんですか! アムールトラさんはずっと……ずっとのけものにされていたんですよ!」
瞳から雫をこぼしたイエイヌがフウチョウ達の肩をがくがくと揺さぶる。
他のフレンズはおろおろと当惑し、俺とかばんさんは目配せをする。
「すまない……我々には覚悟がなかったのだ」
「傷付き、倒れ、忘れてしまう覚悟が。友の為にビーストになる道を選んだハブやチーター、己が身を挺したミレンのように」
その時、アライさんの「むー!」という声が一際大きくなった。見やれば、フェネックが俺に「気にしないでね~」と口の動きで伝えて来て、目の前をゆらりと通り過ぎるアムールトラを妨害しないようアライさんごと身を引いていた。
「アムールトラさ……」
彼女はイエイヌの体を優しく押し退け、俯いたままフウチョウ達に1歩踏み出す。
いよいよかばんさんは焦った様子でアイコンタクトを取って来るが、俺は小さくかぶりを振った。
「すまない、アムールトラ」
「情けない長で、すまない」
アムールトラがもう1歩踏み出す。手を伸ばせばフウチョウ達に届く距離で、彼女達は静かに瞼を閉じ──
「気にしてないよ」
「「え?」」
「私、そんなの気にしてない」
カンザシとカタカケが唖然としているのは初めて見る。ぱち、ぱちと何度か大きくまばたきをして、それでも何を言うべきか分からず揃って口をパクパクさせていた。
アムールトラはそんな2人を見て穏やかに口元を綻ばせる。
「皆の事を考えられるフウチョウちゃん達は立派だと思うよ。確かに昔のことは忘れちゃったけど……でも、全部失くした訳じゃないの。それにね、私がビーストで居たからセルリアンに食べられずに済んだ子も居るかもしれないし、散々暴れた私のことを友達だって言ってくれる子も居るんだよ。だから……えーと、何て言えば良いのかな?」
「終わり……じゃねーな。今が良ければ全て良し、だぜ!」
人差し指を高く突き上げたのはハブだ。にやりと八重歯を覗かせて、先程の憔悴した彼女はもう居ない。
あまりの変わり身の早さに周りのフレンズはオオミミギツネとブタさんを除いて皆目を丸くしている。
「回復が早い。流石サボり魔ね」
「おいおい俺でも聞こえるってのオオミミ。そのデカい耳ハムハムしちゃうぞ♪」
「やめてー!」
「っと、おふざけはここまでにしといて」
ハブはポケットに両手を突っ込む飄々としたスタイル、そしてその切れ長の瞳孔を持ってフウチョウ達を見つめる。
被捕食者の本能からか、彼女達は少しだけ肩を縮こませた。
「アムールトラも言ったけどさ、あんま気にすんなよ。結局もうどうにもならない過去の事なんだぜ? それにさ、あんまり後悔してっと俺が命……命かな? 気合いでいいか。気合いを張った相手に失礼じゃんか」
「そうそう、ハブの言う通り大事なのはこれからのことよ。私達は後ろ向きには走れないんだから」
「うん。私もそう思う。カタカケちゃんもカンザシちゃんも、これからはビーストじゃない私を頼ってね」
チーターとアムールトラの尻尾が拳を突き合わせるように軽く交差して、そこにハブの尻尾が割り込む。
「大事なことはちゃんと言うんだぜ? じょーほーきょーゆーってやつ? しっかりしてくんないとハムハムするからな~」
黒衣のフレンズ達は手を繋いだまま同時に涙を溜める。頬を伝ってそれが落ちる前に、彼女達は震えるハーモニーにひとつだけ言葉を乗せた。
「「ありがとう……」」
「わ、わたくしも、な、涙が止まらないですわ……!」
「なんだかよく分からないけど、みんな仲良くなれて良かったね!」
「イルカさんは相変わらずですね」
「むーむー! ええい、いい加減離すのだフェネック!」
「離したよ~」
「ぬぬぬ~……はあ、もういいのだ。大人なアライさんは皆を見守るのだ……」
やり取りに対する反応は三者三様だったが、俺は取りあえず部屋の照明を元の明るさに戻した。
「皆さん」
わちゃわちゃするフレンズ達に微笑むかばんさんにアイコンタクトを取り、彼女は皆の前に立って注目を集めた。
「パークのサンドスター濃度が薄い地域に降り注いだ黒い雨は『異変』のひとつとして記録され……フレンズの方達にも名前だけは広まっています。これはキョウシュウの時よりも難しく、大きな仕事になります。私とミレンさんだけでは達成できないくらいの」
そこで俺も歩み出ると、全員の視線が俺とかばんさんの両方に注がれた。
「お手伝い頂きたいのは四神の回収からセッティングまで……つまり一連の流れの全てになります。しかし何があるか分からない。危険なこともきっとあるはず。ですから参加については皆さんの意思に──」
その場の全員が即座に強く頷いた為、俺は言葉を飲み込んだ。
かばんさんと共に、帽子を取って深々と頭を下げる。
「ミレンの為なら何でもするわよ! とにかく『虹色のとう』に『ししん』を持って行くのよね? でもそれで具体的にどうなるの?」
「塔は黒い雨を浄化する為の人工的な施設。元々ヒトが作り、キョウシュウの火山のデータを元に改造を加えた建物だよ。稼働データがないからはっきりとは言えないけど、さっき見せた『キョウシュウのフィルターの効力を落とす代わりに範囲を広げたもの』を空に張り巡らせる機能を持っているはずだ」
「んんー……?」
「つまり、四神を正しい場所に持って行けば危険な黒い雨が降らなくなるってことですね。そのフィルターが張られるおかげで」
アシカが再び眼鏡をくいっと持ち上げながら要点だけに言い直してくれ、へにゃりと曲がっていたチーターの尻尾が形を持ち直す。
「待ってくれミレン、稼働データがないとは」
「言葉の通りですカタカケさん。あれは、そもそも動いたことすらない」
「なんと……では我々はずっと塔ではなく、ただ海のご機嫌によって生き長らえて来たのか」
「我々は何も知らず、ただ無為に、何の責務も果たせなかったのだな……」
黒衣の長達は身震いして小さく呻いた。俺はそんな彼女達の傍に歩み寄って、目線を合わせる為にその場で膝をつく。
「君達の責任じゃない。そもそもそんな義務を君達が負うべきじゃないんだよ」
「だが……」
「そもそもあれはヒトが管理すべき物だ。本当ならヒトの不誠実と不始末に君達を巻き込むなんてしてはいけない。だからむしろ……謝るのはこちらの方だ。いや、謝らせて欲しい。本当にごめんなさい」
彼女達は俺の謝罪に困惑しながらも、島の長である自分達の知りもしない事象がぽんぽんと出現することに少なからずショックを受けていた。
これもヒトの置き土産だ。
ヒトが残した真っ当に誇れる物の代表格といえばラッキービーストだが、それ以外はどうだ?
ロクでもない一部の権力者の個人的かつ低俗な欲求を満たす為の建築物。
何をしていたのかは知らないがセルリウムを扱っていた秘密の研究所。
挙句の果てにはヒトの死体。殺し合った形跡すらある。
──流石にいい加減にしろよ。
心の埋火がまたひとつ大きくなるのを感じ、自戒の被せ蓋に重しを乗せる。
「終わったですか」
「ぬあーっ!?」
低く平坦な声と特徴的なアライさんの叫び声がほぼ同時に響き渡った。
いつの間にか部屋の片隅に博士と助手が佇み、その無音と気配の小ささと言えばフェネックですら目を見開いたほどだ。
「カタカケ、カンザシ。色々と思うことはあるでしょうが、やらなければならないことが決まっているだけまだマシなのです」
「さあ、皆で協力して海上ホテルへ向かうのですよ」
「目的地へは海と空の両方から向かいます。外の桟橋で編成を伝えるので皆さんは待機していてください」
説明会を強引に終わらせた助手と博士に従い、俺は指示を出して締め括った。
「ミレン。お前にだって義務などないはずですよ」
スクリーンを丸めて仕舞い込んでからラッキーと共に部屋を出ようとした時、助手……いや、ワシミミズクが俺に向かって静かに語りかけた。
「お前が関わったわけではないのです。ヒトが我々にしたことも、パークの崩壊も」
その声は慰労を持ちかけてきた時と同じ深みを帯びていて、俺以外の誰にも見せないもう1人の彼女だった。
俺は帽子を深くかぶり直し、そんな鳶色の瞳を持つフレンズに微笑みかける。
「目を瞑ることができない。それにもうクルーの1人なんだ、権利相応の義務と責任は果たすよ」
「……おかしいのです。どうしてお前もかばんも、他人のせいで苦しまねばならないのですか」
ワシミミズクは顔を伏せ、小さく震える手で俺の腕にしがみつく。
俺はそんな彼女の頭にそっと手を乗せた。
あえて彼女が言おうとしない過去がある。
ビーストと化し、またはセルリアンに食われることで忘れ、だが今は平穏に生きているフレンズが決して知り得ない闇、業、未練。
それらはパークのあちこちに残されている。
「もう苦しむことはないよ。終わらせるから」
俺が……パーククルーの俺が終わらせるのだ。
人選はミレンの判断で。