1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結) 作:らんどまーく
年末はセルリアンハントが忙しいので年内完結は無理かも
イベント期間中は少々高かった波も落ち着き、広大な海は箒で掃いたように散らばる雲間から差し込む光によって静かな輝きを帯びている。
そんな海辺のイベント会場から少し離れた桟橋、そこには先んじて情報共有を行ったフレンズ達が集まっており、かばんさんの指示に従って海上ホテルへ向かう準備が整えられようとしていた。
「このベルトをちゃんと括り付けていれば落ちないですよ」
「なんだかうずうずします。これはお散歩に行きたくなる格好ですね!」
「あはは。ミレンさんにベルトの先を持って、なんて言っちゃ駄目だよ?」
かばんさんに手伝ってもらいながら胴体ハーネスを装着しているイエイヌ。
「屋上から中はいいとして1階から下に行くルートはあるかしら? あそこ、最初に水が入っちゃった所だし……」
「『エレベーター』が使えないでしょうか? たしかあの時、ぺパプの方々が上の階にいらしたので下は空洞になっていると思うんですけれど」
「ならそっからは泳ぎだな。アシカさんらに手伝ってもらえりゃセルリアンが居ても何とかなるだろ」
「ハブさん。中の案内はあなたに任せるからね」
「任せてくれってオオミミ」
ホテル内部をどう進むか検討中の元従業員フレンズ達。
「誰かを運ぶために飛ぶのは久しぶりだな。カンザシ」
「そうだなカタカケ。とてもなつかしい……本当に。だが、上手くできるだろうか」
「誰かを運ぶのは慣れていますので、何か不安があれば遠慮なく私に仰ってくださいね」
「頼もしいぞ、リョコウバト」
ハーネスの片割れのフックを物珍し気に眺めながら、空を飛ぶ者同士の会話を楽しむフウチョウコンビとリョコウバト。
「ミレン!」
手持ち無沙汰に周りの様子を眺めながら屈伸をしていたチーターが一目散に駆け寄ってきて、まだ動けないイエイヌが羨ましそうな視線を送ってくる。
「私は!? かばんさんに待っててって言われたんだけど!」
「君はかばんさん達と待機組です」
「えーっ!?」
驚愕と抗議を含めた「えーっ!?」である。それと彼女の後方で全く同じ目をしたアライさんが「ぬあああ!」と叫びながら腕をぐるんぐるん振り回し、にっこりフェネックに羽交い絞めにされていた。
「なんでなんで!? 私も一緒に行きたい!」
「君泳げないじゃん?」
「ううう~……でもでも」
「頼みポイント、使われますか?」
「我慢するわよ! ちょっと走るもん!」
とまあ、渋々全開で引き下がったチーターは憂さ晴らしをするかのように桟橋の端から端を訳の分からないスピードで往復し始めた。
「バテるまでやっちゃ駄目だぞー」
生暖かい視線をチーターに注ぎ……ふとアムールトラの姿が見えないことに気付く。どこに行ったのだろう。
皆に断りを入れてから少し周辺を歩いてみると、ウォーミングアップ中のアシカとイルカをぼんやりと眺めるアムールトラを波打ち際で見つけることができた。
「っ、ミレンさん」
鋭い獣の感覚は無意識に働く。それなりの距離があるにも関わらず、彼女はオレンジ色が主体のおさげを揺らして振り向いた。
「アムールトラ、皆もう集まってるけど……」
「ごめんなさい。すぐに行くから」
「待った」
脇をすり抜けようとするアムールトラの手を掴む。細く華奢にも見えるが容易く振りほどかれる力量差。それでも彼女は大人しくその場で足を止めてくれた。
手をゆっくりと離す。
相手の腕はそのまま掴まれた状態で固まっている。
「あそこは君にとって未練の場所、なんだろう?」
俺は崩れかけた海上の建造物を指差した。
クジラを模した、やはりハリボテのような屋上のそれは真っ二つに折れかかってその下の弱い構造物と共に波風に晒されている。ひと目で打ち捨てられた廃墟と分かる、しかも海によって他と隔絶された異様な空間がそこにはあった。
「私」
ネコ科特有の瞳が驚愕を帯びて俺の顔を見つめ……しかしそれはすぐに何かを諦めたような、それでいて申し訳なさそうな色に変わる。中空にあった彼女の腕も力が抜けたように降ろされた。
「振り切らなきゃって思ってるのに。さっきは気にしてないって言ったけど、自分のことになると全然駄目なの」
アムールトラは己の手首を交互にさすりながらぼそぼそ言った。
「辛かったら待っていてもいい。時間でしか解決できないこともあるから」
「ごめんなさい……」
「いい子だね、アムールトラ」
潤み出した瞳に笑いかけ、頭を撫でた。
彼女達はヒトと違ってこれを好いている。目を細めてどこかうっとりと、嫌なこともどこかへ吹き飛ぶ感覚……とはイエイヌの言である。
「さて皆さん──」
「ミレンさーん!」
アムールトラを待機組として再編成しつつ桟橋に戻り、さあ出陣前のミーティング……というところで、今度は俺の名を呼ぶ人物が大きく手を振りながらやってきた。
先日出会ったばかりの少年、生身のヒト。名前はキュルル。
彼はメッセンジャーバッグが大きく揺れるのも構わず元気に走っていた。
砂浜に残ったアムールトラが居ればどんな反応を示しただろう。それとチーターが彼を見て勝ち誇った笑みを浮かべているがそれは無視。彼が伴っている2名のフレンズが気になるところである。
「おはよう!」
「よう。おはようさんキュルル」
「へー、あなたがミレンさんなんだ」
の 【哺乳綱 ネコ目 ネコ科 カラカル属 カラカル Caracal caracal】
>アーカイブプログラム起動....アーカイブレベル〔23〕
フレンズとのリンク成功
「うっわー! 近くで見ると本当に大きなヒトなんだね!」
の 【哺乳綱 ネコ目 ネコ科 サーバル属 サーバル Leptailurus serval】
>アーカイブプログラム起動....アーカイブレベル〔2〕
>他複数クルーアーカイブ済データリンク開始....補正アーカイブレベル〔188〕
フレンズとのリンク成功
サーバルのアーカイブデータ……これは……
「なになに? 私の顔に何かついてる?」
「いいえ。大きな耳だと思って」
「でしょー?」
「どうもお初ですサーバルさんにカラカルさん。自分はミレン。パーククルーやってます」
疑問を脇によけて視線のピントを変え、キュルルの両隣からこちらを見上げるフレンズ達と初見の挨拶を交わす。特にサーバルの方は会えて光栄の至りだ。
頭の上の耳を誇らしげにぴこぴこと動かし、その下のさらりと流れる金髪、ぱっちりとした綺麗な瞳。ぴょんぴょんと飛び跳ねて俺の帽子に触れようとする様子は見た目の印象を更に強くしていた。
「あー! かばんちゃ……かばんさん!」
ぴょいーん、と跳ねる方向を変えたサーバルは満面の笑顔でかばんさんとイエイヌの前に着地した。
「おはよう! 久しぶりだね、2人に会えて嬉しいな!」
「お久しぶりですサーバルさん。お元気そうですね」
「ひ、久しぶり」
丁寧にお辞儀をするイエイヌと対照的にかばんさんはぎこちない笑みを浮かべた。
キュルルは視線をそちらにちらちらと向けていて少しばかり不安げな様子、恐らく俺も似たような顔をしているのだろう。
「サーバル……サーバルちゃん」
おお、行った。かばんさんからとは。
「なに? かばんちゃ……じゃなくて、かばんさん」
「ねえ、2人共なんで変な顔してるのよ」
「しー、静かにカラカル」
人差し指を口元に当てるキュルル。疑問符を浮かべるカラカルに俺は「すんません」と顔の前で片手を上げた。こちらは彼女らの会話に集中したいのだ。
「こ、今度よかったら私の……僕のお家に遊びにこない? 一緒に話をして、遊んで、僕の料理も食べて欲しいんだ」
「いいのー!? いくいくー!」
「それと僕のことはかばんちゃんでいいから……あのぅ」
「じゃあ、私のことはサーバルちゃんって呼んで!」
「う、うん。サーバルちゃん」
「なあにかばんちゃん?」
素晴らしい。
まるで親しい旧友のような会話(実際そうなのだが)に俺は内心でサムズアップを決め、ふと横を見ればキュルルも胸を撫で下ろしていた。
「2人共なんか気持ち悪いわよ」
「ひどいよカラカルー」
「どいひー」
「何よどいひーって……」
「ねえねえ!」
3人で笑いあっていると再び舞い戻ってきたサーバルがぴょんこぴょんこと会話に割り込んだ。
「みんなはここで何してるのー? 遊ぶんなら私もまぜて!」
「サーバルちゃん。今日はちょっと大事なお仕事なんだ、だから……」
「そーなんだ! じゃあ応援するね!」
「応援て」
サーバルはニコニコ笑顔だが意味が分かっているのかは非常に謎だ。
「ねえミレンさん、いったいどんなお仕事なの?」
ふぁいと! と軽いガッツポーズを取るサーバルに苦笑しているとキュルルが水を向けてくる。
「えーっとな──」
俺は事前にデバイスに記していた内容を再確認し、平易かつ優しい言葉に置き換え更に一部を省いた説明を始めた。
── LBシステム 起動 ──
テキストファイル「四神回収作戦要綱」
【地点】
アネガエリア 特別ゲスト向け宿泊所
正式名称 軌道エレベーター建設予定地再利用施設
【作戦目標】
目標1 最深部重要物資保管庫への侵入
目標2 神秘性保有物品『四神』の回収
【作戦参加者】
現場指揮者 暫定セキュリティクルー「ミレン」
待機組指揮者 暫定ガイドクルー「かばん」
随伴するフレンズ 「イエイヌ」「ハブ」「カリフォルニアアシカ」「バンドウイルカ」「・リョコウバト」「・カンザシフウチョウ」「・カタカケフウチョウ」(・付きは輸送後待機組に合流 待機組は省略リストに記載)
ラッキービースト2型及びラッキービースト1型 各組に1機
【特筆事項】
施設周辺にセルリアン反応
施設上部半壊、水没箇所あり
施設深部に1名のクルー反応 状態【死亡】
発砲制限常時フリー
──LBアーカイブ──
【特別ゲスト】
政府及び軍部高官、ジャパリパーク運営に深く関わる民間、国営出資企業の幹部などを指す。
通常の民間人ゲストとは異なる目的で入島する者のみで大半はそれぞれの任に忠実だが『群れの中の働かないアリ』を排除することはできず、一部に道徳や倫理を欠く所謂『庶民の抱く悪いイメージ通りの権力者』を抱え、その影響力はフレンズとの性風俗を目的とした非公開施設などに見られる。