1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結) 作:らんどまーく
決してセルリアンとエロは絡みません。
「それでご主人、これからどこへ行くんですか?」
発情モードの終わったイエイヌが荷台から首を突き出してきた。俺は膝の上に置いた電子タブレット(借りパク中)に視線をやりながらひとつのランドマークを挙げる。
「ライブ会場っていうのがあるらしいからそこかな」
フレンズさんが多く集まりそうな場所である。無差別に「かばんさんってどこにいるか知らないですか?」と聞く所存。
「あっ、わたし知ってます。ぺぱぷっていうアイドルの方たちがそこで歌ったり踊ったりしてるって」
やはりペンギンアイドルたちの居所だったようだ。PPPと書いてぺパプ……すまない、8話はあまり見返していないので記憶が薄い。マーゲイさんが可愛かったり声真似が上手すぎだったり鼻血出してぶっ倒れてたり可愛かったりする所くらいしか……本当にすまない、ペンギンフレンズさんたちは「頑張ってるフレンズさんたちだなー」ぐらいの感想しか思い出せないのだ。うむ、けもフレのネコ科の子に弱いのだ。すまんな。
「ぼーっとしてどうしたんですかご主人? もっとエッチなことして欲しいんです?」
「ちゃうわーい。ああほら、見えてきたよライブ会場」
指差す先にそれはあった。池や堀の多い風景の中でただ1つの人工物が例のライブステージだろう。ステージを照らすように配置されたスポットライトやらスピーカーといった機材が分かりやすい特徴である。
トラクターを空いたスペースに停め、俺とイエイヌは無人のライブ会場に入った。既に日が傾いていて、本来賑やかな場所も夕暮れの中ではどこか侘しさに包まれている。
「ここがらいぶ会場なんですねー。初めて見ました」
「俺も(実物は)初めてだなあ。しかしライブ会場ってこんなんだったかな……?」
ステージの後ろの方、裾部分からはり出す形になっている六角形型の連なったパネルに違和感を覚える。アニメの舞台にこんな物はなかった気がするのだが……。
「……くんくん? ご主人そこに誰か」
「ちょっとそこの方たち! 今はライブ会場に入っちゃ駄目ですよ!」
「ヒエッ」
イエイヌが匂いを察知してすぐにパネルの裏から何者かが現れた。露わになったのは黒い斑紋と薄黄色の服、そして何より特徴的な眼鏡姿の――
「マ、マーゲイさん……」
思わず声が上擦ってしまった。
彼女はマーゲイ、ネコ科の尻尾と耳を持つフレンズだ。けもフレのネコ科のフレンズよろしく首元のリボンがキュートである。あとどこか自信ありげにつり上がった眉毛も可愛らしい。身長差でその視線はこちらを見上げる形になっている。
「そうです。あなたは……あまり見ないフレンズの方ですね。そちらのフレンズさんもお初かと」
「ああ失礼をば。自分はミレン、こっちはイエイヌさんです」
「はじめまして。イエイヌです」
誰だよお前ら的な目で見られていたのでこちらから自己紹介すると共に頭を下げると、マーゲイは表情を綻ばせて眼鏡をくいっと手の平で持ち上げた。
「どうもはじめまして。ぺパプのマネージャーをやらせて頂いてるマーゲイです。さっきはいきなり大声を出してごめんなさい。でも、今日はここは関係者以外立ち入り禁止なんですよ?」
「本当にすみませんでした。非公開のリハーサルでしたか?」
「その、そういうわけではないんですが……」
俺の質問に曖昧な返答をするマーゲイ。彼女の眼差しは不安の色をたたえて揺れている。何かあったのだろうか?
「なにかあったんですか?」
質問を重ねようすると先にイエイヌがマーゲイの前に歩み出ていた。鋭い。
「えっと……部外者の方にお伝えしていいのかどうか。でも……」
「本当にご迷惑なら構わないんですが、そうでないなら聞くだけ聞かせてもらえませんか? なにかしらお手伝いできるかもしれませんし」
俺の言葉にマーゲイは少し悩む素振りを見せるが、やがて話す気になったのかこちらにきちんと向き直った。
「実は……音が出ないんです」
「音がでない?」
イエイヌの返しにこくりと頷くマーゲイ。
「はい。ライブで使っている音の鳴る道具があるんですけど、それがうんともすんとも言わなくて……明日は朝からライブがあるので、それまでにどうにかしないといけないんですが……」
「壊れちゃったんですか?」
「分かりません……私じゃ何も分からなくて……ぺパプのマネージャーなのに……はぁ」
彼女はがっくりと肩を落としてしまった。今までにそういったトラブルに見舞われた経験がなかったのだろう。どうにかしてやりたいものである。
「ご主人……何とかしてあげられませんか?」
イエイヌがジャケットの裾をくいくいと引っ張りながら言う。考えることが同じとは気が合いますね?
「やってみよう。マーゲイさん。よければその道具を見せてくれませんか?」
こちらの申し出に最初は戸惑っていたが猫(今回は見知らぬヒトとイヌ)の手も借りたい状況にあったのだろう。やがてステージの舞台裏に案内してくれた。
まずは音楽を鳴らす道具。ミキサーでいいんだっけ? 俺は音響機器が専門ではないが特別おかしなところはなかったと思う。
「確かに再生されない……。ああでもアンサーは返ってきてるな。ならこいつは正常か」
「たくさん突起がありますね。ぽちぽち。たのしー!」
「ああっ駄目です駄目です、曲が入れ変わっちゃうんで弄っちゃ駄目ですー!」
「こらこらイエイヌくんやめたまえ。すみませんすぐ元に戻すんで」
丸めた手でスイッチを弄るイエイヌはまるで好奇心旺盛な猫である。ずっとあの施設に居たからなのか、見慣れぬ物に対しては興味が抑えられないのかもしれない。
その次はブレーカー。ライブ会場の裏手に設置されているスケルトンフレームの配電盤である。ポジションランプは全て緑色に点灯しているようだ……あとなんか引っかかれた跡があるんですけどこれ明らかにフレンズさんがやってますよね? まあとりあえず蓋オープン。
「えっ、それって開くんですか? どうやったんですか?」
あなたがやったんですね? とだけ言うと探偵感が出る。
俺の右隣でマーゲイが驚いた様子で蓋を見ていた。あと俺の左腕に引っ付いているイエイヌも見ていた。
「ここを押して、浮いた取っ手を90度回して引っぱるんです。やってみます?」
知らないということはブレーカーの存在も同じだろう。落雷などでブレーカーが落ちた時には一連の動作が必要になるかもしれない。まあどうせそれもボスがやってしまうのだろうが何でも知っておいて損はないだろう。というかスピーカーも直しに来てくれよボス。
「えっと、こう。んん? こう、ですか?」
「す、すみませんちょっと失礼」
「あ」
完全に猫の手で引っかいているマーゲイの手を取る。手取り足取り……この場合は指取りだろうか? 普通の女にやったらセクハラ。フレンズさんならセーフ。
「これを指で押して、これを握って、こうです。それでですね、もしここの緑色が赤色になってたらこの一番デカいレバーが下がってるはずなので上に押し上げてください。そうしないと多分音は出ないわライトも点かないわなので」
「な、なるほど……わ、分かりました。もっ、もう大丈夫です」
「本当に? まあ時間も押してますしこの辺で」
マーゲイの声がぎこちなく顔も赤らんでるような気もするが夕日に当たってそう見えるだけだろう。まさかエロゲーじゃあるまいし触っただけで好感度が上がるなんてこと……。
いや待てイエイヌの時がまさにそうだったような。
「ご主人わたしも! わたしもやりたいです!」
「えっ? あ、ああこらこら時間が無いと言っておるでしょうに」
こちらに向かって手を伸ばすイエイヌの頭をくしゃくしゃしてみる。
「はぁい♪」
目を細めて嬉しがるだけだ。なんでもかんでもお触り即発情なんてあり得ないと思いたい。もしそうだったら「フレンズさんと握手できない=かばんちゃんに会っても握手すらできない」の最悪コンボが発生しかねん。
視界の端ではマーゲイが手をもじもじさせてるが見て見ぬふり。きっと配電盤の蓋を開けられたのが嬉しくて震えてるとか静電気で毛が逆立ってて気持ち悪いとかでしょうよええ。
「さ、さて……あとはスピーカーぐらいか……」
俺の身丈ほどもある巨大な屋外用スピーカーが2基、ステージの端にそれぞれ設置されている。俺はドライバーを取り出しながら向かって右側のスピーカーに近寄った。
「だ、大丈夫でしょうか……?」
「ちょっと中開けて確認してみますね」
まあスピーカーの線が抜けてるということもあるだろうし悲観してはいけない。俺は不安げなマーゲイの声に明るく答えて前面のパネルを外し、
「なんだこのゲル状の……グリス、なわけが……」
黄土色のドロドロの何かがスピーカーの内部を満たしていた。
俺はパネルを持ったまま硬直してそれを見ていた。というより、見られていた。
「ご主人ッ!」
「ぐえっ」
背中のバッグを思い切り引っぱられたようだ。体が一瞬宙に浮かんで、少し遠ざかったスピーカーから出てくるそれと目が合った。
「セ、セルリアンですっ!」
マーゲイがその名を叫んだ。
セルリアン――ジャパリパーク唯一のエネミー。そいつは気味の悪いゲル状の体をうねらせ姿を変える。俺より一回り大きい直方体。中心のくぼんだ円盤のようなそれはまるでステージ上のスピーカーを模しているかのような……擬態、のつもりなのだろうか。
セルリアンの光のないひとつ目がこちらを捉えている。アニメと違って随分と気持ちの悪い見た目である。
「グルルルルル」
庇うように俺の前に出たイエイヌが唸った。こちらに向けられているわけでもないのに恐怖すら感じる圧がある。
「ご主人。命令してください」
戦うにしろ逃げるにしろさっさと決断した方が良さそうだ。こちらは3、相手は1で思ったよりはデカくない。
「よし本気で頼む!」
「ガアアッ!」
イエイヌが雄たけびを上げながら飛びかかった。
ゴォンッ!
強烈な右クローがセルリアンの中心を捉えた。僅かに光る虹色が彼女の軌道に沿って尾を引いている。
衝撃でくの字に折れ曲がったセルリアンはステージの背景に叩き付けられたがまだ爆発四散しない。確か石だ。石が破壊されていないのだろう。見える範囲では奴の石は確認できない。最悪の場合、大型黒セルリアンのように石を覆い隠してしまっているかもしれない。
「ウウゥッ」
イエイヌが追撃の為の前傾姿勢をとった。するとセルリアンが重力を無視して浮き上がり、むくむくとふくらんで……何かする気だ!
「離れろ!」
ギュイイイイイイイイイイイイン!!!!
うわっうるせえ! ぶっ壊れたギアみたいな音がしやがる!
「――!」
「――――!」
音波(多分ただのデカい音)攻撃で2人の声が聞こえない。間一髪飛び退ったイエイヌは獣耳と人間の耳をどうにか一緒に塞ごうと両腕で頭を覆うが、ふらふらと後退って尻もちをついてしまった。マーゲイも同じような格好で歯を食いしばり堪えている。
俺がやるしかない。
延々と爆音を鳴らすセルリアンを睨み据えるとさっきイエイヌが殴ったあたりに亀裂が入っているのが確認できた。ちょうどスピーカーの部分にあたるそこからはブロック状の粒子がぽろぽろとこぼれ落ちている。
ミュートしろオラァ!
心の中で叫びながらドライバーをナイフ投げの要領で思い切り投擲する。俺の手を離れたドライバーは回転しながら真っ直ぐ狙った場所に吸い込まれていき――
グサァッ!
ギュイイッ……イイ……イ……
「お、音が小さくなって……! っ!」
「私も行きますっ!」
イエイヌが真っ直ぐ駆けると同時にマーゲイがステージの六角形パネルの端を伝うようにして素早く登る。なんて身軽な。プロのボルダラーも真っ青だ。
「ウガァッ!」
「ミャアアッ!」
パッ、カーーーーン!
イエイヌに吹っ飛ばされたセルリアンは飛び降りてきたマーゲイにクローを叩き付けられ、粉々に砕け散った。
「まさかあんなところにセルリアンが隠れているなんて……」
「驚きましたね。そうだ、スピーカーは……」
まあ、あんなのが居るんじゃボスも出てこられないわけだ。
呟くマーゲイに俺は相槌を打ちながらステージを見回す。
セルリアンが居なかった方のスピーカーは無事であった。誰かが足でも引っかけたのか単にスピーカー側のケーブルが抜けていただけだ。
「問題はあっちか……」
奴が居た方は中身の振動版ユニットやら配線やらが飛び出し、見るも無残な姿を晒していた。これは酷い。細かくパーツ毎に分割されてしまっている。
「ぼろぼろになってますね……」
「ど、どうしよう明日のライブが……そんな……」
呆然と膝をついてしまうマーゲイ。俺は彼女の肩に手を置き、
「大丈夫。直しますから」
「へぁ」
やっぱなんか変な声出しますよね?
イエイヌと遊んだ時のデジャヴを感じるが今はそれどころではない。バラバラのスピーカーの前に腰を下ろしバッグの中から工具を取り出し床に並べる。
「ラジカセとは格が違いそうだなぁ」
上等だ。必ず直してやる。
「うぅ……」
少し暑い。毛布か何かだろうが横になった俺の体に乗っかっている。
気が付いたら寝床の上ではよろしくない。ああいや、覚えているぞちゃんと。イエイヌとマーゲイと一緒にセルリアンをやっつけてそれから壊れたスピーカーを夜なべで修理したのだ。構造を理解しながらだったから日の出までかかってしまって。最終チェックを無事に終えたら疲れと眠気でふらふらしてきて、楽屋か控室だかにマーゲイさんに案内してもらって……覚えてないなそこから先は。多分寝たのだ。つーか全体的に記憶の後半がおぼろげすぎる。
それと少し重いんだがこの毛布。この辺そんなに寒くないでしょうに……。どかそ。まだ瞼を開けるのが億劫なぐらいには眠いのだ。
引っ掴もうと手を動かすが掴みどころが分からない。ん、低反発枕のような感触が返ってきた。
「ひっ」
は? なんか可愛い声がしたぞ。
あー分かった。これ毛布じゃなくてイエイヌだ。また発情モードになってたりしないだろうな。とりあえず重たいし横に転がしてやろう。
「みゃあっ」
………………ちょっと待て声が違う。
一気に覚醒する意識に逆らい、俺は瞼をぴくぴくさせながら開いていく。すると、
「……ミ、ミレン、さん……」
借りてきた猫のように縮こまり、真っ赤な顔で震えるマーゲイと目が合った。
ネコ科のフレンズ全般がエロいとずっと思っていましたが今でも思っています。