1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結) 作:らんどまーく
ヒトの業もちょい増し。
ご注意ください。
スイートルームのある下層はより広く、煌びやかなシャンデリアの残骸や高級そうな飾り物、床一面のレッドカーペットはなど上の階との差を目に見えて実感させる。
『こんなに水の中にいるのって初めてです!』
それらが海に沈んでいなければ、の話だが。
通信機越しに呟いたのはイエイヌだ。犬かきをする彼女の口元にある酸素ボンベ、その排気孔からは時々気泡が立ち昇っている。
『俺もだぜイエイヌ。俺らは水中だと動きにくいからな、瓦礫とかガラスに体を引っかけないようにしろよ』
ポケットに両手をつっこんだまま体をくねらせるという独特な泳法で進むのはハブ。その姿はまるで海のギャングことウツボのようだ。体が細い以外に共通項はなさそうである。
『みんなついてきてる?』
『大丈夫ですよイルカさん』
ハブを伴って先頭を行くのはバンドウイルカ、最後尾には俺とカリフォルニアアシカが。彼女がライトを点灯させたラッキー抱えて照らしてくれているので俺も何とか進むことができている。
『案内するのは全然開かなかった丸い扉でいいんだよな、ミレンさん』
『そうそう。やたら大きい奴です』
俺は一定のペースで平泳ぎをしつつ答える。
『おっけー』
目的地の水密扉の位置を知っているのはハブだけだ。館内のデータは『シークレット』扱いで内部の地図すら残されていない体たらくだった。
『それにしてもあまり外の海と変わりませんね、ここは』
生暖かい海水の満ちるこの場所にどこから入り込んだのか小さな魚やカニの姿がちらほら。既にフジツボや海藻の類が所々に生えている有様だ。
アシカの言う通りもはやこのホテルはヒトの為の施設という面影を失いつつある。
強いて外の海と違う所を挙げるなら袋入りのじゃぱりまんがちょくちょく浮かんでいること。恐らく部屋か廊下に備えてあったのだろうが、それを先頭のイルカがつまみ食いしようとしてハブに止められている始末である。
よ……も……たな
『何?』
声が……聞こえた。通信機越しのそれじゃない。
俺は目の前に浮かぶじゃぱりまんを手でどかしながら停止する。
『どうしましたか?』
振り向いてもきょとんとするアシカが居るのみ。
空耳か。そう思い彼女にひと言詫びを入れようとすると、
『まって!』
『うおっ、何だよイルカさんいきなり』
突然イルカが大声を上げ(水中なので響かせていると言った方が正しいか)、目を閉じて頭を周囲に巡らせ始めていた。
『わっ、なっ、なにか音がします』
『ああ、それはイルカさんが音を出しているんです』
イエイヌがびくっと耳を動かして慌てるのをアシカが得意げな顔をしながら言う。
たしかイルカは……元の動物の方だが、音波を出して海中で魚の位置を探るという特徴を持っていたはずだ。フレンズ化を経ても受け継がれた能力なのだろう。
だが彼女がそれをやっているということは……。
『セルリアンがいるよ! しかも大きいやつ!』
『マジで? どこだ?』
『壁のむこうだよ。えっと、建物の外!』
『なら大丈夫じゃねーか? 周りはこんだけ瓦礫で塞がってんだし入っちゃこれねーだろ』
ハブは浮き上がろうとする体を壁に手をやって支えながら言った。しかしイルカは険しい表情のままで、俺の傍に来たアシカもそれは同じだった。
『ただのセルリアンなら構わないんですが……あれはちょっとまずいかもしれません』
『ご、ごめんっ。気付かれたみた』
──よくもおとしたな
『わふっ!?』
『きゃあああっ!』
『くあああっ!』
ギイイイイン、という
『ぐっ……そこだ!』
ハブが指差す外壁にラッキーのライトを向ける。
元々はガラスの大窓があったであろう、今は崩壊した上層部の瓦礫が塞ぎかけている隙間。
『ひいっ』
その穴の向こうには大量の単眼があった。イエイヌが悲鳴を漏らすほどにおぞましいそれは、イルカの言葉が正しければ複眼の大型セルリアンの顔の一部。
『こいつは……!』
──よくも
──よくも
『ホテルを壊しやがった奴だ!』
──よくもころしたな
やはり怨嗟の声……しかしなぜ言葉を?
『ううう、あたまがいたいよう』
『あ、あうあう……』
『くそっ、うるせーなやっぱ……!』
その声は俺以外にとっては脳を揺らす音波らしい。特にイルカとアシカは頭を抱え悶え始めている。
ここに留まることはできない。離脱せねば!
『逃げるんだ! ハブさんはイルカさんを連れて先導しろ! イエイヌはアシカさんに手を貸せ!』
『分かった! このまま奥に行くぜ!』
『はいっ!』
2人が動き出すのと同時にハンドガンの速射を複眼に向かって浴びせる。水の中でくぐもった発砲の効果は低く、その瞳をこちらから僅かに逸らすのが精一杯だった。
……ごごぉん……。
俺がイエイヌ達の後を追い始めるのと同時に背後で何かが崩れる音が響く。
──おまえのせいだ
──おまえもしね
やかましい、身に覚えのない怨嗟だ。
内心で舌打ちをかましながら全力で泳ぐ。
──おまえがおとした
──おまえがころした
徐々に後ろへ引かれていくような水流の感覚、そして怨嗟の声はどんどん大きくなって行く。
先に離脱したイエイヌ達とはまだ距離があるがこのままでは俺が追い付かれてしまう。
『ラッキーさん援護を頼む!』
『既に準備中です』
>LB戦闘支援
>水中発破デコイ散布準備....散布まで残り10秒
まずい、水中での支援は通常より時間を食う……!
『うわっこいつまだ居たのかっ!?』
『だ、誰ですか!?』
イルカに肩を貸しながら泳ぐハブの隣を何か黒い物が通り過ぎ、続けてイエイヌが驚愕に目を見開いた。
真っ直ぐ綺麗なフォームで泳ぐ姿はアシカそのもの、しかしその体はライトに照らされてなお真っ黒で、顔にあるはずのパーツはセルリアンのそれとそっくりの単眼だけだった。
セルリアン(模倣型)
【フレンズ型/攻撃性〔低〕】
予測される攻撃
【打撃】【セルリウム汚染】
セルリアン!?
ラッキーと相手の容姿に意識を取られた俺は銃口を向けるのが遅れ、その隙を突いた相手は素早く俺の胴体に背中側から巻きついた。
警告 セルリウム付着
即座にデバイスがアラートを発するも俺はもがこうとはしなかった。
諦めた訳ではない。俺の体はイエイヌの居る方向に向かって急速に速度を増しながら進んでいたのだ。
『ご主人から離れなさい!』
十分に敵との距離が離れ、イエイヌ達に追いつく。すると振り返っていたイエイヌが目をギラつかせながら本物のアシカを放り出そうとした。
『よせイエイヌ!』
『ッ、は、はい』
イエイヌはこちらの指示に従ってくれ、手に纏った虹色の輝きを引っ込めてアシカを抱え直した。
『イルカのも居んのか!?』
再びハブの驚愕。そして別の黒いフレンズらしき影が凄まじい水流を残して反対側に抜けて行く。
一瞬だけこちらを振り向いた単眼のフレンズ──体はイルカそっくりのそれ──と目が合った。同時に窮地を救ってくれた存在は俺の体を解放し、イルカに似たセルリアンの後を追うようにして泳ぎ去る。
『なんだよあいつら……もしかして助けてくれたのか?』
『見た目は本当にフレンズに似てましたけど……』
ハブは遠ざかる黒い影を目で追い、イエイヌも倣う。
『ありゃキュルルの絵から生まれたセルリアンだぜ。残ってたのには驚いたな』
あれが彼の悩みの種になっていたセルリアンか。確かに俺を救ってくれたが彼の話ではそんな行動は……いや、今は前に進むことを先決させよう。
『とにかく行こう、あの子達の助力を無駄にしない』
向こうの暗闇から水を通して戦闘の衝撃が伝わってくる中、俺は困惑するハブとイエイヌに前進を促す。
『助かったよ、ありがとう』
俺は心に湧き起こる感謝の念を呟いて、背後のほの暗い水の向こうを今一度振り返った。
『ふーやっと着いたな。これがその扉だぜ』
ハブが大きなバルブハンドルの目立つ扉、いわゆる水密扉だが……それを自身の尻尾で示しながら言った。
『真ん中にトラクターの……ええと、ご主人がうんてんする時に回していたのと似た物がありますね』
『取っ手がこれなのは分かってたんだけどさ、押しても引いても開かなかったからずっとほったらかしてたんだよな』
ハブはイエイヌに答えつつ、肩に担いだイルカを揺らさないように足で扉を小突く動作をして見せる。
『う~ん』
するとイルカは身じろぎをして何度か頭を左右に振った。口元には小型の酸素ボンベを備えた呼吸器が装着され、不要な二酸化炭素を捨てる為の排気孔からぶくぶくと泡が立つ。
『は、ハブちゃんごめんね。もうおろしていいよ』
『おいおい大丈夫か? 無理しちゃだめだぜ』
『ううん。本当に大丈夫だから。ごめんね、運んでくれてありがとう』
『イエイヌさん、私も大丈夫ですので……すみません』
セルリアンの音波攻撃を受けてまともに泳げなくなっていたイルカとアシカが回復した。海の中で足手まといになったことがこたえたのか、2人はこちらが止めるまで感謝と謝罪を何度も繰り返した。
『次は迷惑にならないようにするね。もし今度あいつに出会ったら……最初から全力でたたかうよ』
『私もです。絶対におかえしをしないといけませんね』
『迷惑だなんて思っていません。意気込みはそのままで構わないのでまずは冷静に』
リベンジを誓う2人の瞳には燃える炎……ではなく、キラキラとした虹色の光が宿っている。俺は彼女達をなだめてから水密扉のハンドルに手をかけた。
『ぐ、おおお……!』
『これって回すもんなのか?』
『わたしも手伝います!』
とまあ、俺の力だけでは無理なのでハブとイエイヌと一緒にハンドルを回転させた。ドアはハンドルを完全に緩めてもなお開かず、押し開くのにはイルカとアシカも含めた全員分の力を必要とした。
がごぉん……
水密扉の向こうはグレーチングの溝が目立つ小部屋だ。水密隔壁と呼ばれる区画のひとつであり、ここで外部からの水の侵入を防ぐ仕組みになっている。その中に入った俺達はどうにかこうにか水密扉を閉め直した。
『はぁ、これで……ふー、よし。じゃあラッキーさん、頼みます』
『了解。排水ポンプを稼働します』
ラッキーのレンズに通信処理中であることを示すマークが表示され、直後に駆動する音と共に水かさが減って行く。
水がなくなると真水がシャワーとなって降り注ぎ、続けてエアブローが吹き出し俺達の体を滴らせる海水を飛ばす。
「すごいすごい! しょっぱくないお水とあったかい風が出たよ!」
「ふむ。これは私達のなわばりにもあった溝と似ていますね」
「外部吸気配管の通常開口、空気循環を確認。O2レベルは正常値です」
「ラッキーさんってたまによく分かんねーこと言うよな~。いつもは『たちいりきんしです』ばかりなのにさ」
「本来は、ここもクルー以外は立ち入りが禁止されています」
「えっ、今のって俺に向かって喋った?」
「うーん、まだお耳から水が抜けないです」
何もない部屋をうろちょろするイルカ、眼鏡をくいっとさせながら排水溝を眺めるアシカ、水を抜こうとぴょんぴょん跳ねるイエイヌにラッキーと会話するハブ……それぞれが環境の変化に対して反応する中、俺は酸素ボンベ付きのゴーグルを胸元に下ろしてハンドガンの弾丸を入れ替えた。
「よし、そろそろ行きましょう」
はーい、と全員の返事。
俺は次の水密扉のハンドルを回し、開く。
無機質な空間には白いLEDの明かりが灯っている。明るさに目を慣れさせながらハンドガンの銃口と共に視線を巡らせ、足を踏み入れる。
「ここから先は自分が先頭を行きます。セルリアンは居ないのでもし何か気付いたことがあれば教えてください」
そう、完全に気密されたこの空間にセルリアンは居ない。
「それと何か見ても近寄ってはいけません。触るのも駄目。怖いと思ったら目を閉じて、決して自分の背中を見失わないように」
「な、何があるんだよ」
俺はハブの戸惑いに答えず歩を進める。皆従順に俺の後に続くのはこの場所の異質さからか、それとも俺の雰囲気のせいか。
さて隔壁の次はまた次の隔壁だ。基本的に居住に必要な部屋は存在せず、あるのは冷たい鋼鉄の空間だけ。再利用という名目の為に惰性で作られた上層と違い、下層は頑強と実務に振ったシンプルな構造を持つ。
「静かですね……」
「音が跳ね返ってくるよ。向こう側はどうなってるのかな?」
クリア。
耳を動かすイエイヌと音波で探ろうとするイルカの声を聞きながら次の水密扉を開く。それまでより一回り広い空間は最後のエレベーターがある踊り場だ。
「おっ、これで移動すんのか?」
「待った。何かおかしい……」
エレベーターの階数が示される電光表示板は文字化けしている。それだけでなく、設備に異常をきたしていることを示す赤いランプが点滅した状態だった。
「診断を実行」
ラッキーは先んじて通信を行いエレベーターの状態をチェックする。
「非常停止状態が維持されています。設備に異常なし。この階層からのみ解除可能ですが、いかがしますか?」
「元に戻してくれますか?」
「了解しました」
ランプが正常の緑色に、文字化けした表示は1に変化する。エレベーターの籠はこの階に留まっていた。
「さて──」
開いたドアの中に何も存在しないのを確認し、イエイヌ達に振り向く。
「ここからは自分が1人で行きます。すぐに戻るので皆さんは待っていてくださいね」
「うえっ!? ここまで来て何言ってんだよミレンさん!」
「そんな、ご主人……!」
「仕方ないんだ。クルー以外は入れないような仕組みなんだから」
入場に一定以上の権限を持ったクルーとラッキービーストのペアを必要とする強固なセキュリティ……それは階下に重要な物品を保管する秘密の部屋の為に設けられたシステムだ。
とはいえここまで入っている時点でそれは意味をなさない。
半分は嘘、半分は真実。
純心なフレンズを騙すのは良心が咎めたが譲れなかった。
「最下層50階へ向かいます。エレベーター作動」
静音かつ快速なエレベーターは俺とラッキーだけを乗せ、無音で底へ下って行く。
中央に立ち、俺はじっと扉を見つめたまま微動だにしない。
「到着しました。ドアを開きます」
銃を構える。
ドアが開ききるまで、極限の集中がもたらすスローモーションは続く。
上と同じくのっぺりとした空間、しかし中にあるのは整然と壁際に並んだ何らかの書類で埋まるキャビネット、南京錠つきのロッカー、壁際に埋設されたダイヤル錠方式の金庫。
上の照明カバーから側面のキャビネット、床に至るまで飛び散ったどす黒い点々の染み。
床に散らばった、鈍い輝きを照り返す複数個の黄土色の小さな筒。
そして最も奥の壁際にもたれかかるようにして座り込む、クルーの制服を纏った何者か。
「おい」
返事はない。
相手は俯いたまま、俺の持っている物と同じ黒と白の羽模様が刻まれた帽子で見つめ返してくるのみ。
俺は銃口を油断なく向けつつ、床に散らばる空薬莢を避けて長方形型の保管庫の奥に進む。
「クルーIDは0127。複数の銃創痕あり。既に死亡しています」
「四神の保管庫は?」
「彼の真上です」
遺体の目前で止まり、視線を上げる。開いたままの金庫には何も残されていない。
「こいつが持ってるとは思えないが……」
完全に血が抜け青白く変色した死体を漁る。地上であれば白骨化しているであろう亡骸は清浄気密された空間で腐食せずに形を留めていた。
制服は血で染まり、ポケットには何も入っておらず、腰のサイドポーチの中身は彼の傍に転がるサブマシンガンの替えの弾倉だけ。
ちらりと帽子の下を覗き見ると、
「なんて顔してるんだよ」
慣れていない者が見れば絶叫するであろう男の顔。
錆色に変色した瞳は限界まで見開かれ、落ち窪んだ骨格からはみ出して視神経すら飛び出している。
死に際に叫んだのだろうか、口や鼻からは大量の血をまき散らした痕跡が残る。開いた口と伸び切った舌は憤怒を極めた般若のようだ。
「こんな死に顔は見たことがない」
「ミレン。情報を集める為、デバイスとのリンクを提案します」
「頼む」
「了解しました。リンク開始」
──LBシステム起動──
>デバイスデータリンクモード
>クルーIDNO.0127の音声記録ファイルを確認
「再生を」
>再生開始....
操作を行ってすぐ、デバイスのスピーカーからくぐもった男の呻き声が流れ出した。
『へ、下手糞な撃ち方、しやがって……あいつら……ごほごほ……ショボい殺し屋じゃねーか……』
自分が串刺しにされた際の状況がフラッシュバックする。また、銃創を負ったにしてはしぶとい。
普通は喋る余裕すらなく、どれだけ精強な軍人でも体に風穴が空いていれば呻き声を上げるのが関の山だからだ。クスリで脳がおかしくなっているのなら別だが。
『ダミーを持って行って、気付いたらどんな顔するんだろうな。けはっ、けははははごぼぇぁ』
びちゃりびちゃりと跳ねる液体の音。その呼吸音はか細く、ひゅーひゅーと抜ける音も聞こえ始めた。
この声の主はあと一息で死ぬ。それまでに何を言い残すのか、俺は耳をすませる。
『主任を信じて……よかった。ヒトなぞ、しょせんこの程度……本物は彼の、家に。だれか……フレンズの、ために……タワーへ……』
脳裏に1人の名前が浮かび上がる。それも今朝がた思い出しかけた名前を。
『ーーーッ!』
大きく大きく息を吸う音。俺は断末魔の叫びが来ることを直感した。
『くそがああああ!! なんでこうなるんだああああ!!』
怒り、絶望。
『撃てえええええ!! 撃つんだイマァァァァァァ!!! ヒトでなし共を皆殺しにしろオォォォォォーーーーッ!!!』
殺意。
>再生終了
「ジャパリパークセキュリティ主任者の名は『イマ』。セルリアンの撃破記録に唯一名を連ねたクルー……」
屋上でカンザシらと会話を交わした際によぎったアーカイブの内容を独り言ち、目の前のクルーの肩にそっと手を置く。
「俺が引き継いだ」
床に落ちたサブマシンガンを手早くチェック。壊れていない。撃てる。
予備弾倉をバックパックに詰めて密封し、立ち上がってエレベーターへ戻る。
「また弔いに来るよ」
エレベーターの扉が再度閉まる直前、俺は物言わぬ遺体に意味のない独り言を呟いた。
上階へ戻るまでの間、俺はデバイスに登録されているクルー名簿に素早く目を通す。
さして間を置かず、俺は大きく息を吐き天を仰いだ。
「そうか……イマ。あなたがイエイヌの──」
地上に戻り、彼女と初めて出会った職員用住宅地へ向かわねばならない。
LBシステム 起動
クルーIDNO.0127から受信したデータよりJaparilook立ち上げ要求
上級職員権限により強制的に表示されます
>件名:緊急のお知らせ(強制表示)
>送信者:動物研究所副所長 カコ
全職員へ
セルリアンに近付かないでください逃げてください
ヒトがセルリアンに捕食されると
>元データ欠損
──暫定クルー・ミレンの追記──
欠損部分の内容は推察するしかない。
それとこの上級職員は何者だ?
カコ……どこかで聞いた気がする名前だ。