※この作品はR-18です。

1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結)   作:らんどまーく

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海上ホテル.4 処理

「おかえりなさいご主人っ!」

 

「おおっと」

 

 イエイヌが俺に抱き着いたのはエレベーターの扉が開いてすぐのこと。

 

 温かい体ともふもふの尻尾、何よりも向けられる優しさは死の香りに凍りかけていた心を解きほぐしてくれるような心地に包まれる。

 

 ……いや、心地などではない。実際にその通りだ。彼女のような存在が居てくれるからこそ自分を見失わず、彩りに満ちた世界は保たれる。

 

 逆に言えば彼女達が居なければ冷たい灰色の世界だけだ。やはりこの世界の人々も、一部のヒトでなしに辟易する社会で揉まれていたであろうことはもはや否定のしようがない。

 

「そんでミレンさん、探し物は見つかったか?」

 

「え? あ、ああ」

 

 壁に寄り掛かりながらとぐろを巻いていたハブに呼ばれ、無意識にずっと撫でていたイエイヌの頭から手を離す。ぎこちない所作だったのか、ひんやりとした床で足を伸ばしていたイルカとアシカも疑問を瞳に浮かべていた。

 

 今は忘れよう。滅び去ったか大きく衰退したか、どちらにせよ現在進行形のヒトに用などない。

 

「残念ながらここに四神はありませんでした。ある場所は判明しましたけどね」

 

「そっかー。ここまで頑張ったのに無駄足にならなくてよかったぜ」

 

「では、四神はいったいどこに?」

 

 アシカが眼鏡の位置を直しながら立ち上がる。俺はまだ抱き着いて尻尾を振っているイエイヌの頭を見下ろた。

 

「この子のおうちです」

 

「えっ?」

 

 イエイヌは目をぱちくりさせながら俺を見上げる。他の面々はしばらく理解できず、徐々にその意味を咀嚼して色めき始める。

 

「ど、どういうこと? ししんってイエイヌちゃんが持ってるの?」

 

「え、え」

 

「と、灯台下暗し……ということなのでしょうか」

 

「え、え、え」

 

「まー待てって。イエイヌが持ってるわけじゃねーんだろ?」

 

 なあミレンさん、とハブが続ける。俺は頷き、困惑と焦りで硬直していたイエイヌの頭を再度撫でた。

 

「正確にはこの子の元の主人が──」

 

 

 ごおぉぉん……。

 

 

「わわっ、上からすごい音が」

 

 俺の言葉を途切れさせたのは遠く上の方から響いたとおぼしき重低音。音に敏感なイルカはびくっと身を強張らせ、不安げな眼差しで天井を見上げる。

 

「施設上部に激しい損傷が発生、著しい崩壊が進行中。速やかな脱出を推奨します」

 

 ラッキーはその両耳を黄色く点滅させつつ、いつもより早い口調で警告した。

 

「詳しい話は後で。今はここを出てかばんさん達と合流しましょう」

 

 その場の全員が俺の提案に頷き、出口へ向かって共にひた走る。

 

 ホテルの崩れ方が激しくなればここへの出入り口も閉ざされてしまう可能性がある……そうなってはおしまいだ。俺だけなら構わないがフレンズを犠牲にするわけにはいかない。

 

『うおっ、あいつらまだやってるぜ』

 

 下層の水密扉から再び水中に身を浸して上へ向かう途中、水没したスイートルーム前のロビーではアシカとイルカの姿を模したセルリアン達と複眼の大型セルリアンの戦いが未だに繰り広げられていた。

 

『あの子達、やっぱり私達にそっくりだね……』

 

『そうですね、イルカさん……』

 

 2人は廊下の角から広場を覗き見て静かに呟き合う。

 

 見た目は体の色と顔を除けば似ている。戦い方は……俺には分からない。巨体のセルリアンを翻弄するように泳ぎ回り、隙を見て尻尾を叩きつけたり何か音波を出している、ということくらいか。

 

『ミレンさん。先に行っててくれないかな?』

 

『結局ここを通らないとミレンさん達は上に戻れませんよ。だからあのセルリアンを引きつけなければいけません……あの子達だけじゃ厳しそうですし』

 

 俺達の拒否にかぶせるように言ったアシカが挑むような笑みを浮かべ、隣のイルカと頷き合う。

 

『さっきのおかえしもしなきゃだからね』

 

『ミレンさん達が行ったら私達も向こうの隙間から外に出ます』

 

 口惜しいがここは彼女達の言う通りにするべきだ。水中での戦闘は専門家でなければ足手まといにしかならない。

 俺はイルカからラッキーを受け取ってイエイヌとハブの気持ちを代弁する。

 

『分かりました。ですがどうか無理をしないで』

 

『うん!』

 

『はい!』

 

 2人は瞳に虹色の光を灯しながら頷き、予備動作なく凄まじいスタートを決めた。

 特にイルカのスピードは水中のそれとは思えぬほど高速で、一瞬で彼我の距離を詰めてセルリアンに鮮やかな回転蹴りを見舞った。

 

『うわすっげ! 見ろよ、あのデカいのがちょっとふっ飛んだぜ』

 

『すごいですイルカさん!』

 

『見物してないで行くぞ2人共!』

 

 俺はイエイヌとハブを伴い戦闘が激化するロビーを突っ切って空洞のエレベーターに進む。まずは2人を浮上させて、俺もワイヤーを手繰り寄せて上を目指す。

 

 

 ──にがさない

 

 ──ひとごろし

 

 ──よくも

 

 

『させませんよ!』

 

 振り向いた水の向こうでは音波を放つ寸前の呪詛を漏らし出した……つまり低く唸り出したセルリアンにアシカが突撃をしかけ、彼女そっくりのセルリアンと共に尻尾を叩きつけるという光景が繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

「走れ走れ!」

 

 本来の空気のある層に戻ったとはいえ俺達にひと息も吐く暇はない。

 下からもたらされる激しい揺れがホテル全体を襲っていて、新たな亀裂と崩落があちこちで始まっていたのだ。走らなければ死ぬ。

 

「っ! 脇に避けろ!」

 

 先頭を行くハブの叫ぶような指示に従って廊下の端に飛び退く。すると天井の一部が大きく剥がれ落ち、ずしぃんという衝撃音と共に床に突き刺さる……危なかった。

 

「助かったハブさん!」

 

「ご主人……!」

 

 俺は振り返って鉄筋の剥き出たそれに肝を冷やし、イエイヌは走りながら俺の傍に寄る。

 

「気をつけろよ2人とも。さすがに限界みたいだからな」

 

 ハブは素早く、それでいて鋭さを増した眼光を周りに向ける。

 

「最後に見納めだぜ……!」

 

 歯を食いしばる彼女の横顔は名残惜しさから歪んでいるようにも見えた。

 

 壊れて行く物を見るのは決して楽しいことじゃない。自分が好きだった物なら尚更だ。

 残念ながら俺には彼女を慰める言葉も、その権利もなかった。

 

「ミレン! ここだ!」

 

 屋上に出た途端カタカケの呼ぶ声が響く。いつでも飛べるようにハーネスを準備したカンザシ、リョコウバトも傍に居た。

 

「脱出だな!?」

 

「ええ!」

 

 もはや大穴に達しようとしている亀裂を全力で飛び越え、行きと同じく俺はリョコウバト、イエイヌとハブはカタカケとカンザシの手を取って空へと舞い上がった。

 

「かばんさん達はあそこで待っていますわ!」

 

 ホテルから幾分か離れた洋上、そこにデフォルメしたクジラのパネルで装飾されたプレジャーボートが浮かんでいた。帆を模した屋根の上で何事か叫びながら全力で両手を振っているアライさんとチーター、中からも待機組のフレンズが何人か顔を覗かせている。

 

「ミレンさん!」

 

「ミレンッ! 大丈夫!?」

 

「っ、落ち着くんだ。まだ終わってない」

 

 ボートの先端部に降り立つや駆け寄るかばんさんを追い抜いてチーターが俺の胸に飛び込み、彼女の体を引き剥がしながらかばんさんの前に歩み出る。

 

「目的は一応達成しました。ですが水棲のセルリアンに襲われ、イルカさんとアシカさんが我々の為に足止めを」

 

「じゃあ、あのホテルの状態は……」

 

 頑丈な基部のおかげで形を保ってはいるが、てっぺんのクジラのハリボテは粉々と化し、元々のホテルの外観はより大きく失われつつあった。

 

「下でまだ戦っています。彼女達とよく似たセルリアン……キュルル君の絵から生まれた2人も共闘して。どうにかして助けなければ──」

 

「待つのだ! 水の中から何か来るのだ!」

 

 いったい何が?

 一瞬の静寂を置いて、同じ気持ちを共有する全員の目線が水中を見つめるアライさんに向く。

 

 

 ザ……パアアアアアン……!!

 

 

 ホテルよりも手前の水面を指す彼女の指を追えば、その直後に轟くような音と水飛沫を上げながら濁り切った巨体が姿を現す。

 

 ヒトの……恐らくはヒトでなしを食らったであろうそれ。奴はフレンズへの脅威。

 俺の意識は急速に冷え切った物へと変化する。

 

 ボートに積まれていた荷物からショットガンを手に取り、スラッグ弾を込め、安全装置を解除。

 

 ジャキンッ。

 

 パーククルーの未練を引き継いだこの手で──

 

処理する(殺す)

 

 

 ──LBシステム戦闘支援開始──

 セルリアン(大型)×1

 【機械型/攻撃性〔高〕】

 予測される攻撃

 【超音波】

 発砲制限フリー 対処せよ

 

 

「何あれ気持ちわるっ!」

 

 顔を引きつらせたチーターが嫌悪の言葉を放った。

 

 暗い海中でよく見えなかった姿、それはどろどろと黒く濁った体表面とセルリアンにしては不揃いな形をした大量の目が主で、気味の悪さは殆どがそれに起因している。

 

 その全貌は船舶の艦首と旅客機の羽を合わせたようなスクラップのようだった。いったい何をコピーすればこうなるのか……大破し沈む船と海に墜落する飛行機のイメージがふと脳内で交差する。

 

 

 ──ゆるさない

 

 ──おまえのせいで

 

 

 やはり怨嗟。そしてそれは俺に向けられている。

 一部のセルリアンは言葉を発することができるのだろうか。しかし周りの反応を見る限り理解しているのは俺だけらしい。

 

 そういえば俺の胸を串刺しにしてくれたセルリアンも声を発していた。あの時はたしか……

 

 

 ──しね

 

 ──しね

 

 

 そう、それだよ、それ。

 

「なんか唸ってるのだ!?」

 

「こっちにくるよー?」

 

「みんな逃げてー!」

 

 浮上したセルリアンの後を追ってイルカとアシカが現れ、ぜえぜえと肩で息をするイルカの声が周囲に響いた。それを皮切りに、セルリアンは俺達の乗るボートに向かって一直線に突き進み始める。速い。

 

「ラッキーさん! 全速力で桟橋に戻って!」

 

「わかったよ、かばん」

 

「浅瀬に行けば追ってこれなくなるはず……!」

 

「何をやってるのだアムールトラ! 危ないのだ!」

 

 桟橋とセルリアンを交互に睨み付けていたかばんさんの視線がはっと上に向く。船尾に居た全員、そして銃口を定めようとしていた俺も背後を振り返った。

 

「グルルルルル……!」

 

「ひいっ」

 

「わわわ」

 

 ボートの屋根の上には低い唸り声を上げるアムールトラの姿があって、彼女はまさに獣がするような低い姿勢を取っている。その鋭い眼差しは当然セルリアンに向けられていて、あまりの威圧感からかオオミミギツネとブタさんが小さく悲鳴を上げた。

 

「今度はちゃんと守るから」

 

 彼女はその場の誰に告げるわけでもなく呟くと、全身から虹色の光を散らしていよいよ跳躍の体勢に入る。

 

「よせ!」

 

「待ってアムールトラさん!」

 

 俺とイエイヌの制止を待たず、ダンッと踏み切る音と小さな揺れがボートにもたらされる。四つ足の獣が体を伸ばしたようなシルエットが曇天の空を舞い、水飛沫を上げながら向かってくるセルリアンへと吸い込まれ、轟音が発生する。

 

「グルルルァァアアッ!!」

 

 雄叫び。それを放ちながらアムールトラは食らいついたセルリアンの体のあちこちに爪を振りかざした。

 

 >敵外殻にダメージ

 

 どかん、どかん、という音の度に虹色の破片が舞い、水面に浮かぶセルリアンの推力が減衰して行く。しかし止まることはなく、疲労困憊にあるイルカとアシカとの距離はかなり離れてしまった。

 

「すごい」

 

 誰かが喜びをはらんだ言葉を漏らす。

 しかし俺のデバイス上では敵の外殻に損傷を与えたという表示のみ。浮かんだままの表面を壊され、しかし敵が潜水もせず留まろうとするはずもない。つまり、

 

「マズいッ、離れろアムールト……」

 

 

 ──よくも

 

 

「ガアアアアッ!」

 

 >敵弱点部露出

 

 

 ──よくもころしたな

 

 

 ギイイイイイイン。

 まさにそう表現せざるを得ない不協和音の塊、閉鎖空間でないにも関わらず耳を塞ぎたくなるようなそれが辺り一面にまき散らされた。

 

「あにゃあああああ! めちゃくちゃうるさいのだあああああ!」

 

「あんたもたいがいよたいがい!」

 

「チーターさーん。たしかにアライさんはうるさいけどー、あそこまでじゃないよー。うーん、頭がいたいねー……」

 

「ぶ、ブタさん……草原のホテルを、頼んだわよ……」

 

「ち、ちょっとオオミミさん冗談はやめてくださいって!」

 

「絶対元気だろこいつ」

 

 被害は甚大だ。じゃない、一部のフレンズを除いて健在だ。問題は──

 

「アムールトラさんっ!!」

 

 至近距離でそれを食らった彼女はまるで棒人形のように海へと落ち、小さな水飛沫が上がる。

 セルリアンはアムールトラに目もくれず再びこちらに向かって速度を増した。このままではどうやっても桟橋に至るまでに追いつかれるだろう。

 

「アムールトラさんっ! 助けなきゃ……!」

 

「よすんだイエイヌ」

 

「なんでですか!? 今助けないと」

 

「接近すればあの音波だ。だから俺がやる」

 

 そう言って俺はイエイヌを押し留めた。

 アムールトラのおかげで敵の弱点は露出している。位置は……真上だ。このボートの屋根からでは射角が足りない。

 

「かばんさん、自分が空から狙い撃ちますのでそのまま桟橋へ退避してください。カタカケさんかカンザシさん、申し訳ないけどどちらか運搬を頼めますか?」

 

「では私が──」

 

「私にやらせてください!」

 

 カタカケを遮ったのはリョコウバトだ。鬼気すらも感じさせる面持ちで、瞳に宿った虹色の光は元の深みを覆い隠す程の輝きを放っている。

 

「もうその筒を怖がったりしませんわ! 私だってアムールトラ様のように皆さまをお守りしたいんです! ですから……!」

 

「分かりました。ではリョコウバトさんにお願いします」

 

「ミレンさん!」

 

 彼女なら大丈夫だという確信を得てリョコウバトのハーネスにDカンを繋げると、後ろから俺の名を呼ぶかばんさんの声が響く。

 

「私だってパーククルーの1人です! このままあなたとリョコウバトさんに任せて逃げるなんてできません!」

 

「なら……」

 

「戦います。えっと、『戦って勝利する』ですよね」

 

「……ええ」

 

 短い作戦を伝えれば頭の回転の速いかばんさんは瞬時に理解し、ボスにボートの速度を下げるよう指示を飛ばした。

 

「何があっても揺らさないように。そのままこの位置を維持するんだ」

 

 速度を落としたボートが背後へ離れて行く。上空に舞い上がった俺とリョコウバトはその対角線上にセルリアンを捉え、じっと相手の接近を待つ構えに入った。

 

 >スコープ拡大

 >有効射程まで残り100メートル

 

 スラッグ弾の最大射程距離およそ200メートル、そこに敵の弱点である石が入るまで銃口を海面に向けたまま硬直。しかし鳥のフレンズの特徴か、滞空するにあたっては僅かな上下運動が生じる。

 

「そのままだ。何があってもそのまま」

 

「はい……!」

 

 リョコウバトの腕がよりきつくハーネスのベルトを掴み、かすかに虹色の光が散った。

 その直後に揺れは収まり、俺の体は空中でぴたりと静止する。

 まるで時が止まったように、真空管の中で留まり続ける羽毛のように。

 

 >残り50メートル

 

「そのまま……」

 

 リョコウバトの藍色の羽が1枚舞って、銃身を撫でる。

 

 >残り10メートル

 >弱点部射程圏外

 

 セルリアンの複眼がこちらを見上げ、敵の艦首部にあった石がそのドロドロとした体で隠される。

 

 

 ──よくも

 

 

 まだだ。

 

 

 バシュゥゥゥ……!

 

 

 信じた輝きが背後から飛来、放物線を描いたそれが俺とリョコウバトの眼下を抜けてセルリアンの複眼へと着弾した。

 

 海の色と対比を描く明るい赤の炎。かばんさんの放ったフレアガンの弾頭が敵の目を眩ませ、その巨体を僅かに揺らした。

 

 赤い輝きは銃身から舞い落ちる羽をより鮮やかに煌めかせ──

 

 

 >弱点部射程圏内

 

 

 バガンッ!

 

 

 ──よ くも

 

 ──ころ し

 

 

 気に留める価値すらない音。壊れたラジカセのようなノイズを残しセルリアンが形を失って行く。

 

 ざあぁ……

 

 虹色と黒の粒子が波風にさらわれて、やがて銃口の向こうは揺れる水面だけとなった。

 

 

 >撃破

 >戦闘支援解除

 

 

「……ハント完了。終わりだよ、リョコウバトさん」

 

「う、上手くできたでしょうか……?」

 

「バッチリです」

 

「ああよかった、お力になることができて」

 

 リョコウバトは大きく息を吐き、再びその頭の羽の動きに合わせて俺の視界が緩やかに上下運動を始める。

 

「本当にありがとうございますミレン様。私、怖い物を克服できた気がしますわ」

 

「礼を言うのはこちらの方です。さあアムールトラを探さないと……ん?」

 

 答えながらデバイスで周辺の走査を行う。しかし後ろが何やら騒がしい。

 

「アムールトラ様!?」

 

 リョコウバトが空中で向きを変えると、視界に映るのはかばんさんのボートのデッキに横たわるアムールトラとそれに群がるフレンズ達。いつの間に救出されたのだろうか。そして無事なのか。

 

「どうした、息をしてないのか!?」

 

「ミレン様フックが外れてませんわああああああああああ」

 

「お、落ち着いてくださいミレンさん。アムールトラさんは大丈夫ですよ」

 

 降り立つや否や俺は居ても立っても居られずリョコウバトを引きずりながら駆け寄ってしまった。当然かばんさんに押し留められる。

 振り向くとエビ反りになったリョコウバトが困り切った目を俺に向けていた。すみませんとしか言いようがない。

 

「絵から生まれたセルリアンがこの子を届けた?」

 

「はい。アムールトラさんを届けてくれたんです。すぐに海の中に潜って居なくなってしまいましたけど……」

 

 リョコウバトに土下座する勢いで謝った後でかばんさんに話を聞いた所、溺れていたアムールトラを救ったのはあのイルカとアシカの姿をしたセルリアンだということらしい。

 

 やはり味方……それも知性を持ったセルリアンだ。

 

「追いかけようとも思ったんですが流石に疲れ切ってしまって」

 

「お友達になれたかもしれないよね。残念だなあ」

 

 そう言いながらデッキでだらんと横になるのはアシカとイルカ。

 俺は例の2人と共闘して大型セルリアンを食い止めてくれた礼を述べたが、それに対する返事はというと。

 

「ご褒美に今度気持ちいいことしてね♪」

 

「えぇ……」

 

 滅茶苦茶いい笑顔で言う物だから困惑した。「はい」とも「いいえ」とも即座に返せないお願いは勘弁して欲しい。まあどちらかと言えば「はい」ではあるが。

 

 蛇足だがフレンズとこういう会話をするだけで『職員規定違反』なる警告がデバイスに表示され、セキュリティクルー通告が俺のデバイスに送られるという現象が起きる。これをマッチポンプというのだろうか。

 

「アムールトラさんはあんな無茶をして大丈夫なんでしょうか? 目も覚ましませんし……」

 

「現在のアムールトラは、サンドスターの一時的な不足によって休眠しているようです。命に別状はありません。なので大丈夫ですよ、イエイヌ」

 

「本当ですか!? よかった~」

 

「ミレンも大丈夫そうでよかった~♪」

 

 すぐ傍で座り込むイエイヌもラッキーに励まされ笑顔を浮かべる。あとチーターが俺の腕を抱き込みながら尻尾まで巻きつけてくる。警告が増えたので一度デバイスの電源を落とした。

 

「……みん、な……まもる……」

 

 眉間に皺を寄せ、アムールトラはうわ言を繰り返している。

 

「もう守ってるよ、君は。誰よりも立派だ」

 

 軽く彼女の肩を撫でてやると少しだけ表情が和らいだ。呼吸も落ち着いたように見える。

 

 

 

 

 

 それからは何事もなく、俺達の乗るボートは波間の上を静かに移動した。

 

「みんなおかえりー!」

 

「かばんちゃーん!」

 

「うわっ、さ、サーバルちゃん……!」

 

 到着すると帰りを待っていたらしきキュルル達の出迎えを受けた。サーバルは相変わらず元気いっぱいでかばんさんに抱き着き、カラカルとキュルルは生暖かい視線を注いでいる。

 

「ど、どうしたのサーバルちゃん。何かあったの?」

 

「ううん。かばんちゃんを見たらなんだかすごく嬉しくなって」

 

「そ、そうなんだ……えと、僕も嬉しいよ」

 

「いつの間にか仲良しなのだ。これってもうアライさんたちはいらなくないのだ?」

 

「まーまー。『元通りにしよー』って言うのがさいしゅーもくひょーだからねー」

 

 かばんさんとサーバルのスキンシップを眺めつつ、何やらアライさんとフェネックが小声で話し合う。

 

 元通りか……たしかかばんさんも俺のフィルター体質を発見した時にそんなことを言っていたような。

 この島自体、そして大切な友達の記憶。アライさん達はどちらかというと後者を重視しているのだろう。

 

「そ、そのフレンズさん……もしかしてアムールトラさんじゃ」

 

「ん、ああ、そうだよ」

 

 キュルルはアムールトラをおんぶするイエイヌに慌てて歩み寄った……が、寸前で踏みとどまり、伸ばしかけた手も引っ込める。

 

 記憶といえばこの2人もだ。

 失ってから経過した時間は絶対にこちらの方が長い。アムールトラもキュルルが何者か、そして自身とどんな関わりがあったかはもはや思い出せないと語っていた。

 

「大丈夫、ちょっと水に落ちて気を失ったんだよ。今は平気さ」

 

「そ、そうなんだ……なんだかぐったりしてるからびっくりしちゃって。あ、ごめんちょっと忘れ物っ」

 

「ちょっとどこ行くのよキュルル」

 

「スケッチブック取ってこないとっ。カラカルは待ってて」

 

「なによあの子。最近ちょっと様子が変なのよね」

 

「変?」

 

 カラカルは片目を瞑ってこちらの問いに頷く。

 

「そ。また絵を描き出したのは良いんだけどなんか必死なのよ。あーでもない、こーでもないって何枚も描き直してるし」

 

「キュルルさん……」

 

 背を向けた彼の名を呟くイエイヌの寂しげな声。

 あの気まずげな面持ちは気になるが……まあ、深く踏み入れはしまい。『好き』に必死になるのも程度こそあれど健全なことだ。

 

「ん?」

 

 誰かに肩を遠慮がちに叩かれ振り向く。振り向けば恥ずかし気にサーバルを抱いたかばんさんが居た。

 身長差からかその微笑ましい姿はまるで母と娘のようにも見え、俺は自然と笑みを漏らす。かばんさんの顔は更に赤くなる。

 

「す、すみません。それであのう、み、見つかりました?」

 

「四神は……屋内でお話しましょうか」

 

 今朝は澄み切っていた空。

 それはいつの間にか曇天に変わっていて、どんよりとした黒みを帯びつつあった。









 ──LBアーカイブ──

【模倣型セルリアン】

当アーカイブは近々【セルリアン】の項目と紐付けされる予定。


コピー型セルリアン、単にコピータイプとも称されるセルリアンの種別。
空から降り注ぐセルリウム、またはフィルターを通らず放出されるサンドスター・ロウから発生する物と、セルリアンが直に接触、捕食することによって生み出される物とが確認されている。

多くの研究者は非模倣型を含む全てのセルリアンが何かしらの物体を模倣しているという推測を導き出した。
研究初期においては模倣する対象は無機物のみと考えられていたが、フレンズを模したとおぼしきセルリアンの目撃証言が多数寄せられたことより生き物、有機物の模倣の可能性も示唆されている。

非公開研究所では現在もセルリウム及びサンドスター・ロウの研究が進行中。
より広範なデータを得る為、国の許可が下り次第、動物やフレンズ、死刑囚等を用いた生体実験が開始される。





 ──暫定クルー・ミレンの追記──
 死亡したクルーのデバイスとリンクしたことでより多くのアーカイブへアクセスすることが可能となった。
 模倣型セルリアンのデータには画像も残されており、その中にはサーバルそっくり(体色は別)なセルリアンの姿もある……が、キュルルの絵から生まれた単眼の模倣型セルリアンは確認されていなかったようだ。

 それと、生体実験が行われるより前にパーク全体への非常事態宣言、及び全職員へ向けた退去勧告が発令されている。

 実験に用いられるはずだったヒト(材料)が搬入されていたかどうかまでは不明だ。
 まだ生きているか、死んだか、それともセルリアンと化したか……どのみちパーク内に存在するなら処理するだけだ。

 もしかしたら俺が気付いていないだけで既に何人か処理しているかもしれない。昔の仕事と変わらないが、こちらの方が健全なやりがいがある。
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