1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結) 作:らんどまーく
ちょっと長くなり過ぎたので分割、残す所あと1話です。
エロはごめんなさいアネガではもう発生しません。キョウシュウでミレンが滅茶苦茶にされたりしたりするのを待ってて(懇願)
澄んだ風が青空を抜け、目の前の小さなキャンプファイヤーの木組みからぱちぱちと火のはぜる音が鳴る。
俺が立っているのは草原地帯。オオミミギツネ達の住処兼店舗である『草原ホテル』が芸術的なガラス張りの外観でもって周囲の緑と青空と虹色の塔を映し出す、地平から吹く風の通り道である。
雲一つない青空を貫くフィルタリングタワーの機能、そしてかばんさんを──サーバルの記憶も含めて──取り戻してから今日で1か月近く。塔の整備に代表されるクルーとしての仕事は、今日この日に大きな区切りを迎えようとしていた。
「胸の奥の埋火に両手をかざし──」
目の前の彼らに向けた弔いの歌。海底の保管庫、塔の上、研究所跡の地下……あらゆる場所に散っていた彼らの遺体を集め、浄化の炎で送り出していた。左肩の先から最後の残り火を見たのは、足元で見守るラッキーだけだ。
風に乗って、賑やかな笑い声がかすかに届く。ホテルの中とその前の広場では今頃『かばんさんが無事で良かった&サーバルの記憶が元に戻って大変良かったの会』がたけなわを迎えているのだろう。
「いつか大きな風を呼…………」
「ミレンさーん!」
先に気配を察知し振り返って待つこと数秒。駆け足で向かって来るのはジャパリロゴ付きのジャージを纏う黒い短髪の少年だった。ここにはあのツチノコも認める隠密術(こそこそ動くだけ)を使って移動したのだが……やはり歌ったのがマズかったか。
「ようキュルル。こんな離れた場所までどうした?」
「食べる前にトレーニングでもしようかと思って!」
「トレーニング?」
予想と違う答えである。それは俺にとっては日常に組み込まれた儀式だが、目の前で汗を拭う少年にそのイメージは定着していない……まあ前と比べると軟弱な印象は薄くなったし、中々ボーイッシュに変身したものだとは思う。
見た目のイメージは大事だな──勝手に人物評を改めていると、彼はふんすと鼻を鳴らして言った。
「ぼくも『パーククルー』になりたいんだ! でも色々足りないみたいだからまずは体を鍛えようと思って。髪も切ったんだよ! ほら、ミレンさんみたいでしょ?」
「うーん参考にする相手をかなり間違ってますねえ」
「えー? そんなことな──」
「こらーキュルルー! どこ行ったのー!?」
「わっ、カラカルだ! また勝手に離れたのを怒られちゃう!」
「さらばじゃキュルル……君のあの変な髪形は忘れない」
半笑いで茶化す。半分は本心。
「もうやめてよー! ええとええと、はいこれ!」
そんなキュルルは慌てながらも肩から提げていたメッセンジャーバッグを開き、中から何かを取り出して俺の手に押し付けるようにして渡してくる。幾重もの色鉛筆の線がフレンズ達の姿を描くそれは、スケッチブックの見開きを大きく使ったあの集合絵だった。
絵の中心でかばんさんとサーバルが笑って手を繋ぎ、その隣でクルーの制服を纏う男とイエイヌが彼女達をにこやかに眺めている。周りを囲う沢山のフレンズ達も手を繋いだり笑ったりしていて、ありとあらゆる幸運への祈りが込められているのが一目で分かるほど。
「じゃあぼくは戻るね!」
「キュルル」
「えっ?」
俺はおどけた口調をやめ、静かに言った。
「フレンズと自分を傷つけないよう、あまり根を詰めずに生きろ。これ、ありがとうな」
「…………うん! また後でね!」
「あー追加でちょっと待て。この絵、君がいないから勝手に余白に描いとくぞ」
「え、あ……うん! ありがとう!」
きょとんとしていた彼は満面の、屈託のない子供らしい笑顔を浮かべて走り去った。草を踏みしめて行く足音に、もはや未練の残り香はない。
「ごしゅじーん!」
「イエイヌ」
キュルルをどやすカラカルの声と入れ替わる形で、尻尾を左右に揺らす彼女が現れた。俺とかばんさん作の料理や特製じゃぱりまんに舌鼓をうっていたのか、頬には食べかすが残っている。
「急に姿が見えなくなったと思ったらこんなところに……だめですよ! もしセルリアンが出たらどうするんですか!」
「ここ最近全然出なくない? それに小さい奴なら俺でも」
「つべこべ言わないでください!」
「すみませんでした」
めっちゃ頭を下げて謝罪し、向き直れば困惑を浮かべるイエイヌがいた。怒りすぎたのを後悔しているのは明らかで、俺はいつものように彼女の頭をひと撫でして微笑みあう。それが俺と彼女の、ありとあらゆる未練への始末のつけ方。
「こんなところでたき火をしてたんです?」
「いや。彼を……インガを見送ってるんだ」
「えっ!?」
驚いて周りを見回すイエイヌに軽く説明した。インガの残した遺書──死んだ時に何かして欲しいことや願いを綴る手紙のようなもの──に書かれていた内容を行っているだけなのだと。
「『他にもクルーがいるなら一緒に塔の見える場所で燃やして欲しい。私1人なら宙へ打ち上げて欲しい』ってね……ここには彼の友人達もいる」
腐敗を防ぐ為にインガと海底保管庫のクルーだけは先に焼いていたので、目の前の消えかけになった炎には骨だけをくべた形である。イエイヌはゆらゆらと揺れる小さな火を見つめながら胸に両手を当て、静かに瞳を閉じる。そう、いつかの祈りを捧げる修道女のように。
それにしてもインガの願いが前者で良かった……良くはないが、とにかく願いを叶えてやることはできた。後者であったなら手段がない。ラッキー曰く彼が開発した『超小型打ち上げロケット』なるガジェットならばカプセル詰めの遺灰ぐらいなら大気圏外に飛ばすことも可能だそうだが、その在庫はもう残っていなかった。
どうして土の下ではなく『宙』なのか、彼が望む最期の理由は示されていなかった。想像するに、遺灰がサンドスターを浴びる可能性を嫌ったのではないだろうか。火葬した場合でも、骨はきっちり密閉式のケースに入れて欲しいという旨が記載されていた。
「ほらかばんちゃん、あそこ!」
「ほんとだ。やっぱりサーバルちゃんの耳はすごいや」
仲良さげに連れ立つ主賓達の声が思考を中断させた。以前より背が縮み、肩に少しかかる黒髪が大人びた印象を醸し出すかばんさんと、見た目は特に何の変化もないサーバルだ。
「探しましたよ、ミレンさん」
声も少し高い。サーバルの大きな耳の先っちょに目線が来ている辺りひと回りは大人だが、もはや俺と同年代というには若すぎる容姿に変わっていた。とはいえそんな彼女が穏やかに微笑みながら風になびく髪を手で抑える様子は、やはり尋常でない破壊力を保持しているのだが。
「はやくいこーよ! みんな待ってるよー?」
「待ってる?」
「えっと、そろそろゴクラクのおふたりがライブショーをやるみたいで」
「えっ、そうだったの!?」
「サ、サーバルちゃん……話を合わせてよぅ」
いまいち分からんがお呼びらしい。素っ頓狂な声と顔のサーバルに渋い顔をするかばんさんを眺め、ひとつ苦笑を漏らした俺は火が残っている木組みに向き直りがさがさと手を突っ込む。
「わわわっ、熱くないの!?」
「
僅かな骨となった彼らを小さなケースに集め、隣にあらかじめ建てておいた小さな石碑の中へ安置し、片手の合掌で儀式の終わりとした。
「ミレンさん、もしかしてそれ──」
「ええ。『彼ら』です」
「かばんちゃん?」
かばんさんはやおら石碑の前に立ち、両手を合わせて静かに頭を下げる────彼女にはインガ達の献身の全てを教えたのだ。
耳と一緒に首を傾げていたサーバルも真似をして、それにイエイヌも加わる。風がひゅうと吹き抜ける中、俺達はしばらく石碑と塔に向かい合って鎮魂の祈りを捧げ続けた。
──幸運を、クルー。
戻る際に後ろから彼の声が聞こえた。俺は小さく振り向いて、ゆっくりと頷く。
彼らの魂は風となり、永遠に燃え続ける火の穂となる。
受け継いだその火を決して絶やしてはならない。そして必要とあらば……フレンズの為に放つのだ。
「あー! ふたりが戻ってきたのだー!」
「はいはいまた何か壊れました? それとも壊しました?」
いつでもどこでも明後日の方向に全力疾走なアライさんがぴょんこぴょんこと飛び跳ねている。パーティー会場となったホテルの手前には大勢のフレンズが集まっていて、その間をオオミミギツネ達やラッキービーストがまだ忙しなく動いている最中だった。……こんな場でもレースに没頭していたのか、汗だくで草の上に大の字になるチーターとプロングホーンの姿もある。
「こわさないのだ! ミレンさんはアライさんをなんだと思ってるのだ!?」
「いやーでも結構壊してると思うよー。昨日も乗り物を動かなくしちゃったしー」
「うぐぅ!」
別に問題はない。機械も道具もいずれは壊れる物だ。アライさんの場合はギリギリまで耐久度が減った物や経年劣化した物をピンポイントで破壊、という名の発見をしてくれるから決して悪いことでもない。そのおかげで隻腕になってしまった俺の代わり……という訳ではないが、かばんさんに実物を使ってある程度の知識と技術を仕込めたのもありがたかった。
「ごめんごめん。それで、壊してないなら何の用かな?」
「よくぞ聞いてくれたのだ! 実はミレンさんとラッキーさんに」
「プレゼントがあるぞ」
「アライさんの言葉を取らないでほしいのだー!」
「取ってやったのだ。ふふふ」
「口調を真似するのもやめるのだー!」
フレンズの輪から歩み出たのはカタカケフウチョウとカンザシフウチョウ。以前よりも明るい声色であることが多く、積極的に島のあちこちでフレンズ達の様子を見守っているという島の長達。アライさんとの付き合いも地味に長く、親しい友達の会話を交わした彼女らはそれぞれ大小の包みを手にしていた。
「まずこの大きい方はミレン」
「じゃーん」
「……ポンチョ?」
中央に煌びやかなジャパリロゴが描かれた黒い上衣だ。全く同じ色のいで立ちをした2人が広げているので、一体になっているように見えてしょうがない。
「マントだぞ」
「それもただの布ではない。我らの毛皮や羽だけで作った本物の黒のマントだ」
よく見ればその表面は柔らかい羽毛だった。中央には青、黄色、そして赤や藍色の刺繍で描かれるジャパリロゴ。もしかしてこの刺繍の原材料はフレンズ達の羽根だろうか──視線を感じて顔を上げると、にっこり満面の笑みを浮かべるリョコウバトと、どことなくドヤ顔なロードランナーと目が合った。
「機能性も折り紙つきだ。左肩を覆うように着ればマント、ばさりと広げれば雨風を防ぐポンチョに早変わり。ミレンが使う収納袋や武器の動きも妨げないようになっているぞ」
「肩掛けマントだ。カタカケだけに」
「おーこれはすごい」
実際に着用してみると(ダジャレに苦笑しながら)その言葉以上の着心地。これならいつもぷらぷらさせている左袖もあまり気にならないし、フレンズに要らぬ気遣いをさせることも減るだろう。
ばさっ。
その場で回転すれば左肩から伸びたマントが風を切って翻る。動きも申し分ない。
「カッコいい! 早速スケッチ描かなきゃ!」
「ちょっと私見てなかったわよ! ミレン! もう1回ばさーってやって! ばさーって!」
「撮りましたか、助手」
「ばっちり撮ったのです、博士」
「「じゅるり」」
「さてもうひとつはこれだ」
わいわいと明るい(?)喧騒が沸き起こる中、もう片方の小さな包みの中身がお披露目される。
「これは帽子だよな」
かなり小さいが、帽子だ。標準仕様のクルーハットのミニチュア版のようで、両サイドに黒と白の羽根飾りが絵の具で描かれている。思い当たる画家である少年は俺とスケッチブックを交互に見つつ、凄まじい勢いで色鉛筆を動かすのに夢中なようだ。
「これはミレンのラッキービーストに」
破損した自立機能はどうにか修復したが、欠損したラッキーの両耳は予備のパーツもなく、仕方なく簡易な蓋で隠していた。見る度にやるせなさが募る痛ましい姿だったが、帽子を被せてみるとかなり中和された。素晴らしい。
「ラッキーさんかわいー!」
「絵になる! どっちもすごく絵になるよ!」
得ることがあれば失うこともある。取り戻せないものも多い。俺とラッキーは確かに体の一部を失ったが、得た物の方が明らかに大きいのだ。それを今、心の底から実感している。
「ありがとウございます。とても嬉しいでス」
「本当に嬉しいよ。皆さん、ありがとう」
喜びをその場で跳ねることで表す、帽子を被ったラッキー。深く頭を下げる、ジャパリロゴのマントで左半身を覆った俺。そんな俺達にフレンズ達が安堵混じりの賛美を与えてくれる中、草原を明るい太陽の風が吹き抜けて行く。