1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結) 作:らんどまーく
キョウシュウ編は書き溜めチャージしますのでしばしお待ちを。
「準備は終わり、ですね」
草原ホテルでのお祭り騒ぎから数日後、朝焼けが始まる前。俺はイエイヌのおうち……彼女が動物だった頃の主人である『イマ』の住居を後にするところだった。少し儚げに呟いたイエイヌの横顔をぼんやりと青みがかった日の出前の外光が照らし、その綺麗な瞳をより一層美しく際立たせている。
彼女は静かに「行ってきます」と告げ、外で待つ俺に振り返った。
「いいのか?」
「はい」
「しばらくは戻ってこれない。海を渡るんだ、きっと長くなるぞ」
「それならなおさらですよ。それに──」
ゆっくりとイエイヌが俺の胸に鼻を埋め、尻尾を振りながらはにかむ。
「やっぱり、ずっと同じ匂い。わたしの帰る場所です」
「…………そうか」
自分が何者であるか、そんな探し物をするような歳じゃない。俺はただ頷いて、イエイヌと連れ立って木立の間を抜けて行く。
「そうだイエイヌ。あまり左側に立たないでくれるかな」
「え……?」
「そっちはほら、撫でにくいからさ」
「…………はい!」
日の出に負けないぐらい太陽のような笑みを浮かべたイエイヌを撫でて、手を繋ぐ。この役目は元の主人であるイマにこそ相応しいのだが……分かってくれるだろうか。
「お待たせラッキー」
「おはよウございまス。ミレン、イエイヌ」
トラクターのエンジンを入れて待ってくれていた帽子姿のラッキーに挨拶をし、乗り込む。行き先はアネガ唯一の港である日の入港。職員用住居を出発し、小鳥のさえずりが心地良い朝もやの林を抜ける。
「向こうから匂いが近づいて来るような──」
しばらく座席でイエイヌと寄り添っていると、不意に彼女が鼻をひくつかせながら立ち上がる。その鋭敏な嗅覚の察知にワンテンポ遅れる形で、俺の耳にも接近する足音が届く。聞き覚えのある、同時に強いデジャヴを感じる声と共に。
「待ちなさーーーい!!」
「あーらやっぱり」
あの時は「どいて」だったかな──もはやトラクターを追い越すのではないかと思わせる猛烈な勢いで、木々の間から差す朝陽にその長い金髪を煌めかせているのはチーター。狩りの主を幻視させるそのフレンズは、辺りの木で眠りから覚めようとしていた鳥を羽ばたかせた。
「はあはあはあ……」
「お、おはようございますチーターさん。そんなに急いでどう」
「私も連れてって!」
荷台に飛び乗り、がし、と俺の両肩を掴んだチーターの目には懇願と不安の色が表れ、続けてまくし立てる。
「まだ頼みを聞いてもらってないわよ! ほら覚えてるでしょ、うみべであなたが」
「チーター」
鼻先がくっつきそうなぐらい顔を寄せてくるチーターをやんわりと押し返す。俺の声が冗談を言う時のトーンではなく、それなりの付き合いになった彼女はそれを拒絶だと勘違いして瞳に涙を滲ませる。
意外と心配性なんだよな。思わず笑みをこぼしつつ、俺はチーターの頭にそっと手を置いた。
「むしろこっちからお願いしようと思っていたんだよ。一緒に行こう。君、最近あまり見ないから言う機会がなくて」
「わーよかったーーー!!」
「んぐぅぇ」
首を絞める勢いで抱き着くチーターをイエイヌが引きはがすまで、歓喜の声は辺り一面に響いていた。
聞くところによれば彼女が最近姿を見せなかったのは「持久力をつけるため」という目的でアネガ中を走り回っていたかららしい。プロングホーンと共に鍛錬に励んでいた本人曰く「持久力がなければつければいいじゃない」と思ったとのことで、それは最終的に「全力疾走をやめて8割に抑えて走ればOK」という結論に辿り着いたのだとか。その持久モードですらパークの車両を容易く追い抜くスピードなのだから、やはりフレンズの能力は桁が違うのだと再認識させられたのだった。
「日の入港に到着しまシた」
「ミレンさんたちが来たよー!」
「あっちからかばんさんも来とるでー!」
ラッキーの運転するトラクターに揺られ、到着するは日の入港。戦いの跡がすっかり綺麗にならされたそこには船出を見送る大勢のフレンズが詰めかけていて、俺達に気付くや別れの挨拶をしに群がってくる。少し離れた場所に到着したかばんさん達とこちらとに集団が分かれ、中には行ったり来たりを繰り返すフレンズの姿も。
「本当に行っちゃうんだなーミレンさま……遠く離れてもこのロードランナー、ずっと応援し続けてますからね!」
「ミレン。イエイヌとチーターをよろしくな。特にチーターはまだまだ持久走の詰めが甘いんだ」
「ちょっとプロングホーン!」
「ふふ、冗談だ。お前はもうどんなけものにも負けない、本物の最速さ。だからその足で2人を守ってやってくれ」
ロードランナーとプロングホーン。大地を疾走するフレンズの熱い励ましと連帯感は心を繋ぎとめる紐となり、俺達の縁をより強く結びつけることだろう。
「ミレンさんたちがいなくなるのは寂しいヌ~……ぺパプも帰っちゃったしヌ~……」
「だめだよオグロヌー。こういう時こそ笑ってなくちゃ! また何か好きなことを見つけようよ!」
「そ、そうだヌ~。ルルの言う通りだヌー。ミレンさんに教えてもらった色、忘れないように……そうだ、絵の描き方をあの子に教えてもらうヌー」
「ミレンさん、短い間だったけどありがとう! 『けもゆーそーきしだん』の私がずっと応援してるからね! 実はプロングホーンも仲間なんだよ?」
「ワシミミズクに教えてもらった『けものの槍』を持つメンバーだけの集まりだ。この2人とは気が合うし、なわばりも近いから一緒にこの島の見回りをしているのさ。……そんな顔をするなロードランナー。お前を仲間外れにする訳ないだろう」
オグロヌー、トムソンガゼル。しなやかに草原を行くフレンズの穏やかな気質が、俺達の心に明るい色を差してくれる。
「じゃかじゃかじゃんじゃん♪ どう? ミレンの『ギター』の真似だけど、結構上手くできてると思わない?」
「ちょっと待って弦が切れてる弦が。30秒で直すから貸して」
ナミチスイコウモリ。海辺のイベントの後から音楽にハマったようで、しかもなぜかギターの演奏を始めたらしい。おまけに上手だ。天性の素質がもたらす音の波は俺達の心に響き続け、あらゆる不幸の音を遠ざけるに違いない。
「ジャイアントパンダちゃん起きてってば! あ、ミレンさん! 私、アードウルフちゃんと一緒に皆のすみかや遊び場を直すお仕事、始めました!」
「私も自分の心配じゃなくて、みなさんの力になりたいと思うようになりました。ミレンさん達のおかげです……本当にありがとうございました」
小柄で自分に確固たる自信がなかったフレンズは、今では持ち前の器用さを活かした職人としてあちこち引っ張りだこらしい。彼女達の献身とその勇敢な心は、俺達にとって大切な指針となる。
「ミレンさん、イエイヌちゃん。どうか元気で……私も頑張るか──ひえっ!?」
「アムールトラさん……私、あなたに会えて本当によかった……!」
「イエイヌちゃん……ありがとう……」
イエイヌと抱擁を交わすはこの島の未練の繋ぎ目、フレンズの中で最も初期にビースト化を経たアムールトラ。そんな彼女を避ける者はもう誰もいない。強大な力を友の為にのみ振るう優しい心は、これ以上ないくらい島の守護者として相応しいものだ。
「ミレンさん! イエイヌさん! ぼく、絶対に強くなってパーククルーになってみせるよ!」
「なんか最近熱いのよこの子。フウチョウ達は『ねっけつ』って言うんだけど、何のことかしら? でもま、元気なのは良いことよね」
島中を駆けずり回りながらフレンズの良い所を勉強しようとしているらしいキュルルと、連れ添い見守るカラカル。キュルルはある時を境に自ら使命感を得たのか、その様子は熱血漢と評して問題ないくらいの熱量を帯びている。そのひたむきな姿勢を俺も持ち続けなければ。次から片腕となった穴埋めの体幹トレーニングを増やしてみるか。
他にも多くのフレンズ達の列を抜け、係留された船へと辿り着く。かばんさんの使っていたバスの駆動部、その改良型が前を、その後ろに客車とトラクターの荷台部分が連結するオリジナルの船列。
かばんさんとサーバルはヒョウ達に肩をばしばしと叩かれ、最後の激励を受けていた。その後ろではアライさんとフェネックがホテルの従業員たるオオミミギツネ達、そして大量の荷を運んで来たロバと共にジャパリロゴの目立つ箱を船に乗せ換えている最中で、それをボスや島のラッキービースト達が補佐している。
「かばんさん……もう、思い残すことはありませんか?」
声をかけると、かばんさんは純真な子供のような笑みを浮かべた。目元に浮かんでいた涙の雫を拭って帽子を被り直した彼女は、埠頭に集まったフレンズ達を眩しいものを見るように眺め、最初に出会った頃と同じはきはきとした口調で答える。
「仲良くなったフレンズさんとお別れするのは……やっぱり辛いです。でも、いつまでも甘えてちゃ駄目なんです。ミレンさんが言ってくれた通り、ちゃんと向き合わないと」
「もっと肩の力をぬこうよ、かばんちゃん! 大丈夫! 今度は何があっても忘れないよ!」
ぐっと親指を立てるサーバル。気のせいか、彼女の尻尾が震えているような──。
「あれ? 箱が1個多いような……」
「んー、そうかぁ?」
「1個多いです! 私、運んだ数をきちんと覚えてますもの!」
「なんの騒ぎでしょう?」
サーバルの様子を意識に留めつつ見物に。荷物置きと化したトラクターの荷台の前でハブ達とロバが積まれた段ボール箱を見下ろし、険しい表情で(特にロバが)ひとつひとつを検分しているようだった。
「これです! この箱が違います!」
「見た目は一緒だぜ?」
「私が運んだ物じゃないんです! 間違いありません!」
「じゃあ最初からあったんでしょうか?」
「いいえブタさん。私達が運び入れる時に箱はひとつもなかったわよ」
「じゃあ、これはどこから……」
オオミミギツネが箱にその大きな耳を当て「音はしないわね」と呟き、ロバとブタが首を傾げる。そこにニヤニヤと八重歯を覗かせたハブが身振り手振りを交え、脅かすような調子で言った。
「こういう話知ってるか? この『だんぼーる』っていう箱に似たセルリアンがいてだな、興味本位で蓋を開けたフレンズをまるのみに……」
「ひいっ、やめてくださいよハブさん!」
そろそろ予定の時間が迫っている。フレンズ同士の楽しいやり取りを見ていたいという未練を適当に断ち切り、俺は間に割って入った。
「はいはい、開けて確認してみましょ」
「きき、気をつけてくださいね……!」
「ははっ、ブタさんがビビってやんのー♪」
「こーらやめなさいハブさん」
封はされておらず、ぱかりと開いた箱の中には……茶色のフードに光る赤い光がふたつ。
「なんだ、ツチノコさんじゃ」
「ア゜ァ゜ア゜ァ゜ァ゜ーーッ!」
「ヒエーーーッ!?」
「まさか本当にセルリアンッ!? このっ、出てきなさい!」
「うおおやめろはなせたのむううう!」
緑色に光る瞳の主による何とも言い表しようのない悲鳴でこっちまで声を上げてしまった。箱に潜んでいた密航者は俺の悲鳴に反応したイエイヌの手によって引きずり出され、困惑の視線の数々に対してこんな弁明を始めた。
「おお、オレもそろそろ一度キョウシュウに戻ろうと、だから一緒にこの船にだな」
「リョコウバトさんに運んでもらえば良かったじゃないですか。先にペパプの皆さんと一緒に帰ったマーゲイさんとか、ダブルスフィアのコンビみたいに」
「落ち着かないんだよォ! わっかるだろ! この島に来た時ので空の旅はこりごりだってんだ!」
「えぇ……」
「ミレン、出航予定時刻が迫っていまス」
そろそろ時間だ。気を取り直し、俺は周りに集っていたフレンズ達に出立を告げて船へと乗り込む。ツチノコはまた箱の中に戻った。
「ようやくですか。我々は早く故郷に帰りたいのですよ」
「ヒトは相変わらずお別れ前が長いのです」
「でハ出航しまス」
トラクターと連結したバスの客車が係留から解かれて波間を進み始め、変わらずにくつろぐコノハとミミが片目を開けて呟いた。いつもと違って横柄な物言いでもなく、口の端に薄っすらと笑みすら浮かべている。
「サーバルちゃん、大丈夫?」
「う、うん……」
乗り込んだサーバルがへりに縋りつき、その場で縮こまっていた。俺はかばんさんの隣に膝をつき、サーバルの青くなった横顔を覗き込む。
「ご、ごめんね。ちょっと、その、なんでもないから」
「船で海を渡るのが、怖いですか?」
まぶたをぎゅっと閉じる仕草が返事だった。彼女の震えの正体は、まだ溶かされずに残っていた未練だった。
「サーバル。思い出したばかりで怖がるのも無理はありませんが、あれからそれなりの時間が経っているのです」
「あの時とは状況が違うのです。頼もしいクルーが増えていますし、急に嵐が来ることもないでしょう」
「そ……そうだよね……」
キョウシュウの長達の気遣う言葉に、サーバルはまだ顔を青くしたまま小さく頷く。その後ろからアライさんが顔を突っ込んで、いつもの自信満々な顔により一層謎の自信を滾らせる。
「心配いらないのだ! 今度こそアライさんが舵を取ってみせるのだ! 黒い雨でも嵐でもセルリアンでもどんとこいなのだー!」
「まーアライさんはともかくとして、海も天気もおだやかだから平気だと思うよー。それにねー」
「大丈夫だよっ!」
「うみゃっ!?」
フェネックが視線をずらしたへりの近く、声と共に海面から顔を出したのはライトブルーの髪とセーラー服が特徴のバンドウイルカ。彼女は尻もちをついたサーバルに向けて、底抜けのない明るい表情を見せる。
「アシカちゃんと私達が送って行くよ! 見て見て!」
「この方たちは……あの時のセルリアン、さん?」
波の間から現れたのは彼女と仲良しのカリフォルニアアシカ、そしてそれぞれと良く似た
「可愛くなったでしょー? いつの間にかこうなってたんだ!」
イエイヌに答えながら自分の体で海面に円を描くバンドウイルカ。彼女と手の平を合わせる虹色の体を持つセルリアンは俺を見るや動きを止め、手を突き出してきた。
握手を求めているのだろうか。不思議な弾力を持つ手を握り返すと小さく虹色の光が放たれ、相手は無言のままにっこりと笑う。
「ね、可愛いでしょ! 名前はセルカちゃん! 向こうはセシカちゃんね!」
「なるほど、ミレンと四神の輝きで……」
おーーーい!
「あっ、ほら! 皆手を振ってるよ! おーい!」
ミミの呟きを遮った遠くからの呼び声に振り返る。埠頭を埋め尽くすフレンズ達、そしてその後ろからぽつぽつと現れたフレンズ型のセルリアン達──単眼でない──が手を振り飛び跳ね、口々に別れを、そしてあらゆる幸運への祈りを大にしている最中だった。
「あっ! フウチョウさん達が!」
その中からふたつの黒が舞い上がり、大きな長方形の黒い布をばさりと広げる。
い っ て ら っ し ゃ い !
げんきでね
ありがとう
またきてね
子供らしい字で描かれた中央の文字を囲う、沢山のカラフルな言葉が刻まれた横断幕だった。文字は声と共に風に乗り、俺達の胸に溶け込んで行く。
「ありがとう! 必ずまた!」
「アムールトラさーん! いってきまーす! みなさんもお元気でー!」
「プロングホーン! ロードランナー! あんた達もちゃんと走りなさいよー!」
埋火を暖かく燃やし続ける、最高の餞別だった。船に乗るフレンズ達も別れの寂寥を喜びに変え、手を振り、それぞれの大切な友へ声を投げ始める。
「っ、っ……!」
「かばんちゃん……」
口を手で覆い大粒の涙の嗚咽をこらえ、片手を大きく振るかばんさん。彼女をじっと見上げたサーバルは瞼を閉じて立ち上がる。やがてぱちりと目を開いた彼女が軽やかにバスの屋根に飛び移って、離れ行く埠頭へ手を振り返しながら叫んだ。
「みんなー! 私がんばるー! キュルルちゃんとカラカルも色々ありがとーうみゃああっ!?」
「サーバルちゃん!?」
「お任せください」
四つん這いから両の足で立ち、調子に乗って小ジャンプを繰り返したサーバルが海に落ちる。それを柔らかく受け止めたアシカとセシカがとんとんとバレーボールを打ち上げるようにしてサーバルを宙に浮かべ、
「はーーいっ!」
バンドウイルカとセルカが勢いよく飛び上がり、宙にあったサーバルの体勢を整えて更に高く放り投げる。
「みゃみゃーーっ!」
照らす太陽と水飛沫の煌めき。高々と宙を舞うサーバルは虹色の塔を背にして宙返りを決め、屋根の上に着地する。両手を大きく広げてポーズを取るや、埠頭からどっと歓声が沸き起こった。
「サーバルちゃん大丈夫!?」
「うん! もう大丈夫だよ! すっごい楽しかった!」
最後の未練が音もなく、前へ進む為の糧として姿を変えた瞬間だった。向日葵のような笑顔でかばんさんに抱き着くサーバルを俺達は温かく見守り、見送る声は港が水平線に隠れるまで続いた。
そうして──あらゆるものが穏やかな航海が始まる。船は西から北へ進路を変え、かばんさんの故郷であるキョウシュウエリアへと向かうのだ。
「で、これからどうするんだっけ?」
青空と雲の間から垣間見える虹色の塔。それを少し充血した目で眺めていたチーターが、ふと思い出したように俺へ水を向けてきた。他の面々の多くが「また聞くの?」という表情をしたからか彼女は頬を紅潮させ、
「だ、だって私ずっと走り込みしてたんだもん。ミレンが島の外に行っちゃうって聞いて、慌ててついて来たんだもん」
「オレもミレン達がどうするつもりなのか、聞きたいぞ」
「あら。箱蛇じゃない」
「箱蛇言うな! キッキッシャー!」
未だに段ボール箱に体を収めて唯一外に出した顔を赤くするツチノコと、生暖かくもニヤニヤとした視線を向けるチーター。意外と相性が良いのではないだろうか、と口には出さないよう気を付けつつ「まあまあ」と執り成した俺は言葉を続けた。
「パークのエリア間の通信が途切れているから、まずはキョウシュウの『データセンター』に行って通信を回復したい。ついでに向こうのフィルターや各施設の状態も確認しておきたいな。後は物資の補給とか──」
「ミレン。私、難しいことわかんにゃい」
「かばんさんの故郷に行って色々見て回ります」
「なるほど!」
「走ることしか頭にねーんじゃねーのか、こいつ……」
ふにゃりと猫の口をしたチーターがぽんと手の平を合わせた。身振り手振りが俺がふざけている時のそれに似ているのは気のせいだろうか。
「ミレンさん、あのぅ」
「向こうに着いてからです……必要な物があるかどうか、確実には分かりませんからね」
マントの裾を引いたかばんさんに苦笑を返す。何かを欲する視線の意味は、最近強くなった『戦い方を教えて欲しい』という彼女からの要請だ。悲劇を繰り返すまいという意思は、自然と俺へ教授を乞うという形で現れた。
上級職員の権限で閲覧可能となったアーカイブデータは、フレンズ達の為に活動した職員達の組織『けものフレンズ』の拠点の存在をキョウシュウに示していた。当然、射撃訓練用の施設も併設されている可能性が高い。『訓練用の弾がない』という理由で銃器に触れされることを避け続けた俺にとって、そのアーカイブの内容を教えることは相当にはばかられたが……命の恩人であるかばんさんの涙混じりの懇願(おまけに手も握ってくる)には勝てなかったのだ。
「ですが……かばんさん。やはり自分はあなたには──」
「ぬおあああおぼれるのだあああごぼがぼげぼ」
「またやってしまったねアライさーん。お魚は浅瀬じゃないと捕れないよー」
「だ、大丈夫ですか? 私に掴まってください」
「なに溺れてるんだあの子……」
真剣な言葉を遮るわちゃわちゃ声。視線を向ければアシカにしがみついてひーひーするアライさんの姿が。
「おーい! 海はばっちりへーおんだよ! それと、まだ見えないけど陸地が近づいてるみたい!」
先行して海の様子を探って来たバンドウイルカが空中で弧を描き、すたっと船首に降り立った。アネガからさほど距離のないキョウシュウに辿り着くのは、そう遠くない未来だろう。
ま、なるようになるか──。
「ミレンさん?」
「まずはあなたの里帰りを楽しんでください。そして、また始めましょう」
「……はい!」
返事は彼女の、花の咲くような笑顔。
「おー、雨が降ってるのだー?」
「てんきあめだねー」
「すごいすごい! 虹色の雨だよ、かばんちゃん!」
空を見上げ、誰もが頬を綻ばせた。
蒼天から優しく降り注ぐ雨が、海の道を、未来への道を七色に照らしている。
つづく。
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>ようこそ クルー・ミレン
● 【イエイヌ】
リンク済みのフレンズ
アーカイブレベル〔78〕
非新島群生息動物
島外動植物持ち込み登録者「イマ」
現在の管理者「ミレン」
PTSD、うつ、人間不信等の精神疾患を持つイマが特別に持ち込みを許可された大型の雑種犬。
「りえ」という名前は死去した彼の一人娘と同一であり、接し方もペットに対するそれを逸脱する。
私、及び上級研究員カコの発案である『フレンズセラピー』の効果次第では人為的なフレンズ化対象となる可能性もあるが、その際には本人の意思を重々確認すること。
※犬であってもイマにとっては娘である。これを最大限留意しなくてはならない。入れ替えと増員の激しい暫定職員達はマナーを欠くことがままあるため、病院送りにされる者が続出する可能性がある。近々運営部と人事部にはクレームを入れる予定。
アーカイブデータ最終更新者
上級研究員 インガ
── 暫定クルー・ミレンの追記 ──
イエイヌがフレンズ化したのはヒトがパークから姿を消した後だ。現在の彼女は元の主人の姿をおぼろげにしか覚えておらず、唯一それと分かるのは匂いだけなのだと言う。
そして俺は全く同じ匂いをしているらしい。
最初から「ご主人」と呼んだのも、それが理由なんだとか。