1しか知らない男が2の世界へ来てしまいフレンズに求められまくるお話(完結) 作:らんどまーく
「チーターさんもう1回! もう1回かけっこしましょう!」
「いいわよイエイヌ! 受けて立つわ!」
太陽の光差す草原を走りまくっているフレンズが2人。
現在、ホテルへの道中は思ったよりも長く途中で休憩を取っているのだが。
「やってるなー……」
体を動かしたくてうずうずしていたらしく、イエイヌとチーターは停車した瞬間に荷台から無駄に洗練された動きで飛び出していったのだ。
俺も最初は2人と一緒にフリスビー遊びをしたり全力疾走をしたりして遊んでいたのだが――
「あああああー!」
「ぬぬぬぬぬー!」
新緑を駆ける疾風のような彼女達について行けるはずもなく。疲れ果てるのもマズいと思ったので今は大人しく水筒を傾けながら日光浴中である。
「あー! また負けましたーっ!」
「ぜえぜえ……あなた、まだまだ元気そうね……私はもういいわ……」
今再びチーターに僅差で敗北を喫したイエイヌを眺めて思う。俺と競争した時の数倍は速度が上がっていやしないかと。足元から虹色の光……のような物まで舞っているし。
まあ、俺の時は手加減してくれていたのだろう。こっちは所詮ナマモノの人間だ。
ピピピ、ピピピ……
「おっと。おーい2人ともー、そろそろ出発するから切り上げてー」
タブレットに設定していたアラームが出発の時間を告げてきて、俺は思考を一旦切った。
「へええ! チーターさんは遠くからいらしたんですね!」
「そうよー。ま、遠くって言っても草原だって私のフィールドだし?」
トラクターの運転に集中しているためあまり後ろの荷台で交わされている会話には混じらないが、聞こえてくる話にはそれなりに耳を傾けている。
イエイヌの質問に対する返答を聞いている限りどうやらチーターは普段住処としているちほーから遠征に来たようであった。普段はさばくちほーの近隣の荒れた台地や隘路辺りを爆走しているのだとか。本人曰く最速を極めるためとのこと。
キキー……。
「ご主人、この匂い」
「ああ、あそこ……」
ブレーキ(音鳴りが激しい)を踏んだ理由は遠くの進路上にふらふらと漂う黒くて丸い物体である。どうみてもセルリアンです。
相手はこちらに気付いていないのか背を向けているようだが、さすがにこのまま進むことはできそうにない。
「迂回しようか」
「私に任せなさい!」
「えっ」
チーターが意気揚々と突撃して行った。そこそこの距離が離れているのにも関わらず彼女は数秒後にはセルリアンの背後まで迫り――
……? 腕を振り下ろしたのにセルリアンがまだ……あ、チーターが体当たりで吹っ飛ばされた。
「っておいおい……!」
「チーターさん!」
イエイヌと一緒に慌てて駆けつける。俺がうつ伏せで倒れているチーターの前に庇い立った時、イエイヌは一足先にセルリアンに蹴りをお見舞いしていた。
虹色の粒子を散らす彼女のキックでセルリアンが四角いキューブをばら撒きながら転がって行くが、まだ起き上がる。というか浮かぶ。
「イエイヌ! 石を狙って石!」
「ヘシってなんですかご主人!?」
「あーいやそれでもあってるけど、とにかく君が蹴ったとこになんか硬そうなモン出てるでしょあれだよあれ!」
まくし立てながらセルリアンの胴体に露出した物体を指し示す。どこか柔らかそうな表面と違い明らかに硬質で形がくっきりしたそれを。
「っ! あれですね!? てえい!」
イエイヌクローでパカーンと撃破されるセルリアン。スピーカーの時もそうだったがやはり一定以上のサイズのセルリアンは石が体内に隠れてしまっているのだろうか?
「んぐぐ……」
「チーターさん!」
呻き声に振り返るとチーターが芋虫のように這いつくばっていた。骨でもやられたのかと心配になり抱き起す。イエイヌも慌てて駆け寄ってきた。
「大丈夫か!? 気分悪くないか!? どっか痛むか!?」
「ふ、ふふ……大丈夫、平気よ。ちょこっと威力が足りなかったようね」
不敵な笑みを浮かべるチーターではあるが生まれたての子鹿のように足をぷるぷるさせているわ、綺麗な顔も土で汚れているわで非常に情けない姿である。
「……まあその、無事でよかった」
彼女の勇姿に関しては心に留めておくとして、とりあえずハンカチで顔を拭いてやってから抱き上げる。スレンダーな見た目通りではあるが、めっさ軽い。
「ち、ちょっと! お、おおおろしなさいよ!」
「いやどす」
降ろしたらまた土で汚れたり怪我をするかもしれないだろ、という言葉を飲み込んでトラクターまで戻る。最初はうるさかった彼女も荷台のそばに着く頃には大人しくなっていた。
「ごめんイエイヌさん俺のバッグに青くてデカいシート入ってるから敷いてくれない?」
「わかりましたー! えーと……これですね、っと」
「ありがとう。ほらチーターさんもう手を離して。それともうちょいで目的地だから横になって休んでて」
「あ……うん。わかった……」
やけにしおらしいというか心ここにあらずといった様子である。名残惜しそうに俺のジャケットから手を離してこちらをちらっと見上げ、顔を真っ赤にして俯く様はまるで恋する乙女……ああ……今気付いたけど思いっきり彼女の体触ってたわ。やっぱ触るとダメか?
「よ、よし……あとちょっとでホ……目的地だから。休んでてくださいよちゃんと」
「う、うん……」
ダメです。あとこのノリでホテルとかいう単語出したら完全に頭ピンク色発言だと思う。俺はそそくさと運転席に戻る以外になかった。
「ねえチーターさん。さっきのセルリアンですけど、あんまり大きくないのにやけに固かったと思いませんか?」
「……へっ? え、ええ、そうね……固かったわ、確かに」
「わたしもご主人が弱点を教えてくれてなかったらもっと手こずったと思います」
「弱点?」
「ヘシって言って、なんだか石みたいな形のものがセルリアンの体に」
「そういえばそんなのがあったわね。ヘシって言うんだアレ」
黒セルリアンとの遭遇からは平和な道程であった。背後の会話も至って真面目である。ちょっと安心した。
「……ミレンって意外とすごいわね」
「そうなんですご主人はすごいんです! 優しくてかっこよくて色んなことを知ってて、色んなどーぐを使えるんです!」
「すごいのね……」
自慢話を当の本人に丸聞こえ状態とかちょっと以上に恥ずかしいんだが勘弁してもらえないだろうか。あとチーターは熱っぽい声で同意するのやめて。
「それにとってもいい匂いがして、気持ちよくしてくれたりも……♡」
「へ、へー……気持ちよくって、ぐ、具体的には……?」
「それはですねえ……♪」
キキキーッ。
「到着でございます!」
待てこら女子ィ! と言いたくなる衝動を抑えながらである。目的地にようやく辿り着いたのだ。
「わあ……ここがホテル……」
想像していたのよりもモダンな風合いの強い建造物である。周囲一帯に広がる自然の景観を損ねないようにしているのか建物自体は1階部分しかなさそうであり、壁面の多くがガラス張りで空と草原の姿が映り込んでいる。
「きれいなところね……」
「入ってみようか」
イエイヌとチーターも立派な建築物に見とれているようである。
俺達は連れ立って入り口をくぐった。館内は太陽の角度に沿って影がラインを引き、静けさに包まれた空間はまるで時間が止まっているかのよう。かつては出迎える従業員も居たであろうロビーは無人であり、客室名簿らしきノートとペン立てだけがそこで俺たちを待っていた。
「やっぱ誰も居な――」
「いらっしゃい!」
「ヒエッ!?」
「ふわあっ!?」
「きゃっ!?」
居たよ。
叫んだのが俺だけではない辺り「ヒトの」従業員でないのは間違いない。普通イエイヌあたりが匂いで気付く。まあ蛇柄模様のパーカーを被った女の子が従業員だとも思えないのだが。
「へへへ~。誰も居ないと思っただろ? 気配を消すのは得意なんだぜ。あ、俺はハブ。よろしくなお客さんたち」
カウンターの下からにゅっと現れたフレンズ、ハブは八重歯を覗かせて笑った。毒ヘビのフレンズか……。濃いグレーの髪と細い縦長の瞳孔を持つ目。毒や攻撃的な印象とは無縁の女の子。蛇と言うだけあってあのツチノコと似ている容姿である。
「ど、どうも。ミレンです」
「イエイヌです!」
「チーターよ。あまり脅かさないでよね」
「わりーわりー。ところであんたらここに来るまでは大丈夫だったか?」
自己紹介を済ませるとハブはカウンターに肘をつきながらガラス窓の外を見やる。なんだかマイペース。
「大丈夫というと?」
「セルリアンだよ。最近なんか多くてさ」
「居たけどやっつけたわよ。……この2人がだけど」
チーターの尻尾がぺたんと角度を失う。気にしていたのか……。
「チーターさんもかっこよかったですよ!」
「そ、そう?」
ナイスフォローイエイヌ。チーターのしょげた尻尾が僅かに持ち上がった。
「へー結構やるんだな。俺と代わってほしいぜ〜……」
「何をです?」
「セルリアンハントだよ〜駆除ってやつ? もーめんどくさくてさあ」
頬をつく彼女はあまりセルリアン退治に乗り気ではないように見える……というか「こわい」とかじゃなくて「めんどくさい」なのか。まるで雑用のノリなあたり腕っぷしが強いのだろう。
「こーら! お客さまに愚痴らない!」
「おや他にもフレンズが」
突然乱入してきたのはイエイヌとチーターより大きな獣耳が特徴的なフレンズだ。灰色のブレザー服に身を包んだ、喋り方からもきちっとした印象を受ける子で尻尾もかなり大きい。キツネのフレンズだろうか?
「うわでた地獄耳」
「でた、じゃありません! どうせまたカウンターの下でだらだら昼寝をしてたんでしょう!?」
「いいだろそんぐらい! 昼間はこういう狭い日陰で寝るもんなの!」
「なんだか騒がしい子たちね……」
「た、楽しそうですよ?」
チーターとイエイヌの反応には同意せざるを得ない。いつもの挨拶のような雰囲気を醸し出していてむしろ微笑ましいぐらい。
「楽しくなんかねーし!」
「楽しくありませんよ!」
綺麗にハモるのか……。
あとこれ以上続けさせると口を挟むのが難しくなってきそうだ。
「し、失礼。俺達ここに泊まりに来たんですけど……」
「あっ! こ、これは大変申し訳ありませんお客さま!」
すげえ完全に営業スマイルに切り替えてきた……接客業慣れしているのだろうか、彼女。
「ようこそ『ジャパリホテル2号店』へ! 当ホテルの支配人を努めさせていただいております、オオミミギツネと申します」
やはりキツネの子だった。大きな耳のキツネ……言われてみれば、どことなくあのフェネックの姿に似ているような気がする。
ホテルのロビーでは従業員(住み着いてるフレンズと言ってはいけない)の歓迎を受け、イエイヌとチーター含め3人共々部屋に案内されることに。しかもお代はタダ。これ以上高い物はないが大丈夫なのだろうか。
俺は前を歩くオオミミギツネの大きな尻尾に目を引かれながら気になることを聞いてみる。
「オオミミギツネさん。2号店って仰いましたけどホテルって他にもあるんですか?」
「あります……というより、あった、といいますか。1号店はセルリアンに壊されてしまって……もう閉店したんです」
「そうだったんですね。失礼を」
大きな耳が力なく垂れている。それにしてもセルリアン……なんてことを。パークにおける災害としてバリバリ活動中のようである。施設破壊とかまるで地震や津波である。
……いかん沈黙が痛い。話題を間違えたか。だがもう部屋に着いた。
「こちらがお部屋『星の間』となります。何かご用がございましたら――って、ブタさん!」
豚だって? さすがにいきなりの罵倒はキツい。つーか俺太ってないし……いや違う、誰かフレンズが居る。
「し、支配人! ごめんなさい今掃除が終わったところで」
ぱたぱたと掃除道具を両手に持って部屋から飛び出してきたのは白とピンク色の可愛らしい格好のフレンズだ。ブタ……と言われればそんな感じかもしれないが、白いショートヘアの似合う女の子である。ブタはブタでもミニブタのフレンズではないかと思う。
「すみませんお客さますぐ出て行きますので〜あっ」
「っぶない!」
部屋と廊下のと間の仕切りで足を引っ掛け、前のめりに倒れこむブタ……呼び捨てはあかんな。ブタさんをとっさに受け止めた。
「大丈夫ですか?」
両手がふさがってる状態で転けたら労災確定。本当に危ない。ヒヤリハット。
「ふえっ? あ、あ、は、はいぃ〜……♡」
ああそうだ。ラッキースケべで発情だよ!
普通はどんだけ頑張ってもちょっとドキッとして終了なのが10段階くらいは飛ばしてる。
ブタさんは頬を染めたまま小走りで去っていった。俺はぼんやりとその後ろ姿を眺めて諦めの境地を味わう。
「ブタさん走っちゃダメですよ! もう。……すみませんでしたお客さま。こちらがお部屋の鍵でございます」
「あ……はい。ありがとうございま」
ふにゃ。
「ひゃっ」
おああ……! 振り返ったら意外と距離が近くてオオミミギツネの大きなお耳を掴んで……! 身長差ァ……!
「お、おきゃ、お客さまぁ……♡?」
「申し訳ありません!」
全力で謝りつつ部屋の中に退散した。部屋が和室だったので畳の香りで多少は落ち着く。
「皆さんご主人の良さを分かってくれてうれしいです♪」
「分かるっていうかさあ……」
ぜんぜんわからん。あとイエイヌが無駄にいい笑顔。それとチーターは畳で爪研がない。
「な、なによう。あんたがフレンズ触るのと同じことじゃない」
「習性みたいに言わんといてくだせえ……」
諦め。俺はどうしようもないフレンズ特効の毒持ちなのだと。毒ヘビならぬ毒ヒト。
「ていうかチーターさん土汚れ落とさないか?」
セルリアンとのバトルで白いシャツと斑模様ネクタイが汚れたまんまである。そのまま寝っ転がられると畳がヤバい。
「じゃあ後でこの辺走ってくるわ」
草に擦り付ける気かい。
「風呂入ろうよ、風呂」
部屋のちゃぶ台に置かれた館内案内を開きながら提案する。ホテルには温泉もあるらしい。稼働してるかは謎だがそこはボスに期待したい。
ジャパリパークに来てから一度もお湯に浸かる機会がなかったのだ。いい加減、体の汚れを落としてリフレッシュしたかった。
次回、お風呂ックス。