私、レフィーヤ・ウィリディスは一人自室で頭を抱えていた。
別に、風邪で頭が痛いとかそういうわけではない。私の脳裏に、ある一つの事柄が何度振り払っても浮かんで来るからだ。
──ベル・クラネル、それが私の頭を悩ませる
私の所属するロキ・ファミリアとは違う、小さなファミリアの構成員。そう、ただそれだけだった筈の存在だ。
しかし、当初はレベル1だったあいつはとんでもないスピードでレベルアップを重ね、遂には私と同じレベル4にまで到達してしまった。
私のように、頼もしいファミリアの仲間の万全のバックアップがあったワケではない。
なのに、私や、伝え聞いただけのアイズさんの記録を塗り替えるスピードでのレベルアップを達成してしまったのだ。
そんな彼の活躍を聞いて、ズルをしている、チートをしている等と嘯く輩がいるが、そんな事は有り得ない。
下界に降りた神々が使える力は著しく制限されており、
これは、どんな神であろうと逆らえない不文律であるのだとロキ様から聞かされた。
それに、
あの見るからに純朴そうなあいつが、その手の腹芸が出来るとは到底思えなかった。
……恐らくではあるが、何か特殊な【スキル】の類でも発現したのだろう。
経験値、レベルアップに関わる【スキル】など聞いた事もないが、私の【エルフ・リング】も相当なレアスキルだ。
【スキル】に関しては未知の部分も多く、どんな【スキル】であっても
本当にそんな【スキル】を持っていたのだとしたら羨ましい事この上ないが、他の者からすると私の【スキル】も羨ましいものに映るらしいから、他人の芝生は青いという事なのだろう。
ともあれ、自分の【スキル】を大いに頼りにしている私としては【スキル】も含めてその冒険者の実力であると思いたいので、仮にベル・クラネルがそういった【スキル】を持っていたとしても、文句を言える立場にはない。
むしろ、そんな事も頓着せずに彼の事を誹謗中傷する馬鹿共の事を考えると苛々して来る。
ズルやチートで、強くなんかなれる筈がない。だから、悔しいがあのベル・クラネルの強さは
たとえあいつが気に喰わなくても、それだけは認めないといけない。そうしなければ、私も彼を中傷する輩と同じ存在に成り下がってしまう。
……おかしい。なんで私は、あいつを擁護するような事を考えたのだろうか。
あいつは、気に喰わない。
当然だ。他のファミリアだというのに、憧れのアイズさんに直々に稽古をつけて貰うなど、図々しいにも程がある。
……まあ、その件を口実に私もアイズさんに稽古をつけて貰う事が出来たので、その件に関しては思うところがないわけでもない。
いや、待て。たしかあのヒューマンは、それ以降も度々アイズさんに気にかけて貰っていた筈だ。
聞いた話では、
盗み聞きした限りでは、偶然街で会って話しただけらしいが……逆に言えば、割と人付き合いが苦手なアイズさんが自分から話しかけたという事をも意味している。
アイズさんは、少なくともあいつの事を悪く思ってはいない。それだけは、私にも理解出来た。
……気に喰わない、気に喰わない、気に喰わない。
なんであいつばっかり、アイズさんに眼にかけて貰っているのだ。
なんであいつばっかり、あんなスピードで強くなれるのだ。
なんであいつは、私の事をちっとも気にしてくれないのか……!?
……待て、今私は何を考えた?
私の事を、気にしてくれない……? なんで、そんな事を思ったんだろう?
あいつは、気に喰わない奴の筈だ。
それは、あいつがアイズさんに眼をかけて貰っているからだ。
……じゃあ、
少し、考えてみた。
初対面で抱いた、
アイズさんも、あいつに向ける眼は恋する乙女というより、失礼だがペットを可愛がる飼い主のそれに思える。
そして、アイズさんに気にかけて貰っている事を除けば、誠実で度胸もあり、自分より強い相手に向かっていく胆力もある。
なにより、私はあいつ相手に相当失礼な態度を取ってきた筈だが、あいつは私を蔑視する事なく、努めて丁寧に応対してくれていた。
顔つきも中性的で粗忽なイメージはないし、体つきも華奢だがしっかり筋肉は付いている。
聞けば、割と面倒見も良いのだという。彼に助けられたという人の話は、随所に転がっている。
多少考えなしの部分もあるが、冒険者としての心得はしっかりと持っているように思えた。
……何より、あいつはティオナさんが言うように、物語の
数多の困難を打ち破って強くなり、強大な敵を打ち倒す
彼は本当にそんな器があるのではないかと、確かに思わせる部分があった。
「私は、あいつと……」
──言葉が、出て来ない。
私自身、自分がどうしたいのか、全く分からなくなっていた。
あいつを叩きのめしたい? 違う、別にそんな事は望んでいない。
あいつと仲良くなりたい? 違う、あいつは超えるべきライバルのようなものだ。
一人のヒューマンとして好感が持てる部分がないでもないが、私がしたいのはそんな事じゃない。
……あいつに、認めて貰いたい……?
「……そっ、か……」
ようやく、私はしっくり来る答えを得た気がする。
私は、あいつを叩きのめしたいワケじゃない。
仲良くなりたい気持ちや競い合いたい気持ちはあるが、それだけじゃない。
──私は、あいつに認めて貰いたいんだ。
私が憧れるアイズさんのように、
以前一度だけ共闘した事はあるが、あの時と比べればレベルが上がった分私もあいつも相応に強くなっている筈だ。
自分の力を、試してみたい。
そんな、久しく湧いて来なかった衝動が、私の身体を突き動かそうとしている。
自分の力が、何処まであいつに通じるのか。それが見てみたい。
それには、共闘では足りない。けれど、所構わず襲い掛かればファミリアの皆に迷惑がかかる。
……それなら、
幸い、此処はオラリオだ。
後は、実行に移すだけだ。
……あいつは、今でもアイズさんに稽古をつけて貰っているらしい。
時刻を見れば、そろそろ稽古が終わる時間帯である。
私は、覚悟を決めて出立の準備をした。
目指す場所は、あいつとアイズさんの訓練場所。幸い、既にあいつがどういうルートを通って帰るかは調べがついている。
「待っていなさいよ、ベル・クラネル……っ!」
私は愛用の杖を持って、ファミリアのホームを出た。
私自身気付いていなかったが、その時の私の顔は……。
──まるで恋する乙女のような、華やかな笑顔だったらしい。
書きたかったから書いた。悔いはない。
本当は一話完結の予定でしたが、前後編構成になりました。
ツイッターでベルレフィのイラストを見て、びびっと来たものでつい。
後編はきちんとエロあるで。戦闘?エロ書くのにがっつり戦闘描写は無粋だと思うの。