※この作品はR-18です。

Fate/Over night   作:鎌鼬

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VSランサー

 

 

「ギィーーー」

 

 深夜の冬木。冬場の寒さの厳しい風に煽られながら、高層ビルの屋上にそれはいた。

 

 全身をボロが目立つ黒い外套で覆い隠し、右腕に拘束具を嵌めた人影。顔は髑髏を模した仮面に隠されていて判別する事は出来ない。アサシンのサーヴァントが、ビルから街を見下していた。

 

 別段、これと言って何を注視している訳では無い。早い時間であれば街を行く人を監視していたのだろうが、今の時間帯は遅く、直に朝と呼べる頃を迎える。アサシンに知性は乏しい。彼は忠実にマスターからの命令を実行しているだけに過ぎない。

 

 即ちーーー囮。潜伏先不明のランサーを誘い出す為に目立つところを陣取れというオーダー。

 

 アサシンのマスターである間桐誠一の把握しているサーヴァントの現在地はセイバー、アーチャー、ライダーだけのもの。セイバーとライダーは基本的にはマスターの側から離れる事はしないし、アーチャーは状況によりけりではあるが前者と同じようにマスターの側にいる。間桐誠一が掴めていないのはランサーの位置だけなのだ。

 

 暗殺者であるはずのアサシンが目立つ場所にいる。普通ならば罠だと考えて様子を見るか、あるいは手出しは考えないだろう。

 

「ーーーよぉ、良い夜だな」

 

 不意に声をかけられ、アサシンが振り返る。すると足音を立て、金属をこすり合わせるような音を響かせながら暗がりから青い戦闘装束を身に纏い、朱槍を携えた男が現れた。

 

 知性が乏しくとも、記憶力まで喪失しているわけでは無い。獣のような眼光でアサシンを睨む男こそ、待ち望んでいたランサーのサーヴァントだ。

 

 普通ならば上記の通りに行動するだろうが、生憎とランサーの取り巻く状況は普通では無かった。マスターからの令呪により、ランサーは全てのサーヴァントと一度は戦わなくてはならず、撤退しなくてはならない。明確ではあるものの長期的な命令のせいで強制能力は衰えているのか宝具を使って殺害を企てていた事もあるが、基本的にはランサーは己の矜持に従ってマスターの命令通りに行動する。

 

 すでにランサーはアサシンを除いた五騎のサーヴァントとの交戦を終えている。残る相手はアサシンのみ。己を縛る制約を取っ払い、全力で戦う事を望んでいるランサーからしてみれば、罠だと分かっていても飛び込まない道理は無かった。

 

 たとえ罠だとしてもそれを食い千切る。それが出来るだけの実力と自信がランサーにはあった。

 

「陰険な風体だがアサシンのサーヴァントで相違ないな?」

 

「オマエ、ランサー、ダナ?」

 

「ハッ!!俺がセイバーにでも見えたか?」

 

「ク、ククッ、ククククーーーッ!!」

 

 嘲笑うかのような笑い声をあげながらーーーアサシンは躊躇うことなくビルから飛び降りた。

 

 人間がそれを行えば死は免れないのだが、サーヴァントはそうではない。ビルの僅かな凹凸に手足の指を掛けることでビルの壁面に張り付き、蜘蛛を連想させる挙動で重力に逆らいながら逃走を開始する。

 

「逃すかよーーー!!」

 

 それを見逃すランサーではない。自身もビルから飛び降り、逃げるアサシンを追跡する。こちらはビルの壁面を蹴り、道路を挟んだ向かいのビルの壁面を蹴るという方法でだ。夜が深いので人目につく心配は無い。

 

 逃げる黒影と追う蒼影。通常ならば直線に進むだけのアサシンの方に軍配があがるはずなのだが、ランサーの敏捷はアサシンのそれと同等値。それに加えてルーンによる強化で底上げをしているので三角飛びというロスの多い動きでありながらもジワジワとアサシンとの距離を詰めていく。

 

「ギィーーーッ!!」

 

 このままでは追いつかれると知性の乏しい頭で判断したのか、左手で黒塗りの短刀(ダーク)を数本取り出し、それをランサーに向かって投擲した。夜闇に紛れて高速で迫るダークは防がれる事を、躱される事を前提に投げられている。例えその朱槍で防いだとしても、仮にその獣じみた体捌きで躱されようとも、その上でランサーに届くように投擲されている。

 

 ランサーの視界は自身に迫る凶器をしかと捉えていた。その上で獰猛な笑みを浮かべ、そ(・)れ(・)を(・)無(・)視(・)す(・)る(・)。

 

「ナーーー!?」

 

 命中を確信するアサシンだったが、予想していた未来は訪れない。確実に当たるはずだったダークは突然軌道を変え、ランサーを避けるようにして通り過ぎていったのだ。

 

「流レ矢ノ、加護カ!?」

 

「おぅ、正解だ。俺に投擲は通用しねえぞ?」

 

 アサシンが流れ矢の加護と呼んだそれは正確には〝矢避けの加護〟という飛び道具に対する防御スキル。これを所持しているランサーは狙撃手を視界に納めている限り、どのような投擲武装も通用しない。余程のレベルならばこの場合には当てはまらないのだが、アサシンはそのレベルに達していない。

 

 これにより、アサシンの主戦法であるダークの投擲が封じられた。

 

 しかし、それによる動揺は一瞬だけ。確かに主戦法が封じられたのは痛手である。だが、それは所詮数ある内の殺しの技の一つに過ぎない。知性が乏しいが故に感情の揺れは少なく、本能的に身に付いた暗殺者としての判断が次の殺害方法を導き出す。

 

 突然アサシンが進路を変える。地面と水平に移動していたのを上向きに変えて建物の屋上へと移動し、屋上から屋上へと飛び跳ねるように移動しだした。

 

 無論、ランサーもそれを追う。寧ろ壁面を蹴って移動するよりもこちらの方がランサーとしては動き易い。踏み込みを強めてギアを上げ、それまで以上の速度でさらにアサシンとの距離を詰めていく。

 

 そして互いがトップスピードで移動をして暫くした時にアサシンが動いた。目の前にあった避雷針を掴むことで速度を落とすこと無く180度のターンに成功させ、逆手に持ったダークでランサーに向かっていった。槍の間合いを一息で詰め、超接近戦による戦闘に挑む。

 

 頸動脈を狙って振るわれるダークの一閃。常人であれば斬られた事に気付くよりも前に絶命するそれをランサーは腕でアサシンの手首を抑える事で止め、それだけでは無く無防備な胴体に蹴りを叩き込んだ。

 

「グギァーーーッ!!」

 

 手応えは確かにあった。サーヴァントであっても膝を着くような一撃を叩き込んだという確信がある。

 

 しかし、アサシンは苦悶の声を上げて無様に転がり回りながらも、即座に体勢を立て直して逃走を再開させた。

 

「チッ!!薬でも決めてやがるな?」

 

 サーヴァントの中には再生能力を持つ者もいる。だが、アサシンはその類のサーヴァントでは無いとランサーは即座に看破した。そして戦うのならば即死を狙うのが上等かと考えながら追跡を再開する。

 

 冬木の街を舞台にした逃走劇は朝が来るまで続くかと思われたが唐突に終わりを迎える。アサシンが逃げ込んだ先は四方を廃ビルに囲まれた空き地。アサシンの逃げ足であったとしても、それよりも先に朱槍の投擲がアサシンに届くだろう。

 

「鬼ごっこは終わりか?」

 

「ク、クク……」

 

「あぁ?何笑ってやがる」

 

 朱槍の穂先を向けられてもアサシンは静かに笑うのみ。薬物を決めている事や言動がおかしかった事からそういうサーヴァントかと思ったが、これまでで見せられた体捌きや技術は間違いなく一流のそれだった。故に何かを企んでいるのかもしれないと、警戒しながらアサシンに問いかける。

 

「ココガ、貴様ノ、死地ダ!!」

 

 

次の瞬間、ランサーは死を感じた。

 

 

「ーーーッ!?」

 

 濃密な死の気配を感じとり、全身に寒気が襲う。それの出所はアサシンでは無い。

 

 前方?右方?左方?後方?

 

 否ーーー全(・)方(・)位(・)か(・)ら(・)だ(・)。

 

 廃ビルの壁が砕け、何かが飛び出してランサーに襲い掛かる。反射的にそれを槍で斬り払い、目視し、それの正体を知った。それそのものを見た事は無いが、類似したものならば生前に戦場で何度も見かけた事がある。

 

 それは特濃の呪い。正を蔑む負の塊。生者を汚し、死者を穢す最低最悪の呪詛。人間の女のような姿を象ったそれは斬り払われたを気に留めることなく、もう片方の腕をランサーに向かって伸ばした。

 

「テメェ……!!これが何か分かってやがるのか!?」

 

「真ッ当ナ、オマエ、コレ、効ク」

 

 直接触れるのはまずいと判断してルーン魔術で炎を放ちながらランサーは叫ぶ。それは自身の危機からではなく、これの危険性を知っているから。誰かが操っているようだが、一度これが解き放たれればこの街などあっという間に死都に成り果てるだろう。いや、街(・)一(・)つ(・)で(・)済(・)め(・)ば(・)御(・)の(・)字(・)か(・)。下手をすれば世界の危機だとこれまでの経験から判断できた。

 

 人型が一つだけならばルーンで吹き飛ばしてそれでしまいだった。だが、アサシンは言った。ここがランサーの死地であると。

 

 それを肯定する様に残る三方の壁からも同じような人型が現れ、更に人型を構成している泥が上で網目を作って蓋をする。

 

 これによりランサーの逃げ場は無くなった。四体の呪詛の人型に囲まれ、足場は垂れ流される泥によって無くなりつつある。時期に自分はこの泥に飲まれて脱落するだろうと自身の運命を予想しーーーランサーは決意する。

 

 たとえ自身が消滅するとしても、あれは消し去ると。

 

「オーーーオォォォッ!!」

 

 跳躍して自身の身体をルーンで保護し、頭上の網目の蓋を突破する。いかにルーン魔術であっても相性が悪かったのか、ランサーは身体に直接泥を浴びてしまっている。純粋かつ圧倒的な呪詛が流し込まれ、激痛が走り、霊基が蝕まれるのを感じながらもランサーは朱槍に魔力を込めて宝具を解放しようとしていた。

 

 アレを遠隔操作する事などそれこそ神でなければ不可能。ならば、この近くに術者はいるはずだと、この周囲一帯を吹き飛ばす為に。

 

 その判断は間違っていない。人型の呪詛ーーー〝汚泥の貴婦人〟の術者である間桐誠一はこの近くにいる。ランサーの宝具が放たれれば巻き込まれるほどの至近距離にいる。

 

 だが、ランサーはミスを犯した。アサシンから目を離したという些細なミスを。

 

 誰だって腹を空かせた肉食動物の群れを前にした時、目の前で飛んでいる羽虫に注意は向かないだろう。今のランサーにとって大した脅威では無いと判断されたアサシンは、その羽虫に等しかった。

 

 問題があるとすればーーーその羽虫には、人を殺せる毒があったという事。

 

 ランサーの朱槍に魔力が集い、紅い閃光となって程走る。身体を弓なりに反らして投擲姿勢を取る。

 

 

「突き穿つ(ゲイ)ーーーッ!!」

 

 

「死ネ」

 

 

その背後で髑髏が嗤った。

 

 

 アサシンの右腕の拘束具が解放される。そこから現れたのは異形の腕だった。左腕と比較しても倍以上長い、まるで架空の存在であるとされる悪魔のそれを思わせる赤い腕。それはランサーの背中に伸ばされ、身体を貫いた。

 

「何ーーー!?」

 

 ランサーは貫かれ、胸に赤い掌が咲いた時になってようやく気がついた。痛みがないのだ。肉体的、精神的不調もまるで感じない。だが、赤い掌の中心で脈打つ虚ろな心臓を見た瞬間に最大級の警鐘が鳴らされた。

 

 

死ぬぞと、早く宝具を放てと。

 

 

「妄想心音(ザバーニーヤ)」

 

 

 そしてランサーが行動を起こすよりも先に赤い掌は閉じられ、虚ろな心臓は握り潰された。虚構の心臓が破壊されたことにより呪いは成立、実像の心臓が共鳴して握り潰された。

 

 かくして暗殺は成就した。ランサーは投擲しようとしていた朱槍を落とし、全身を弛緩させる。

 

「ギィーーー」

 

 右腕を抜き取る間際、アサシンはランサーの心臓を掴み取った。そして用の無い死体を眼下で蠢いている〝汚泥の貴婦人〟に向かって蹴り落とし、廃ビルの屋上に着地した。

 

 まだ温かく、血の滴るランサーの心臓。それをアサシンは髑髏の面をズラして口を露出させ、丸呑みした。空き地からはランサーの死体を貪っているのか、粘着質な音が響いている。

 

 二月五日。聖杯戦争の正式な開始から四日目にして、三騎目のサーヴァントが脱落した。

 

 






実は聖杯戦争始まってから四日も経っているという事実。

槍ニキ戦決着。アサシンで正面から戦っても勝てるわけが無いのでそれよりも危険な〝汚泥の貴婦人〟を見せびらかす事で槍ニキから余裕を奪ってアサシンへの注意を反らし、その先に宝具でハートキャッチ。

宝具の仕様が違う?この小説オリジナルだよ。

これによりハサン先生が強化!!ようやくマトモに話す事が出来るようになったぞ!!

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