※この作品はR-18です。

Fate/Over night   作:鎌鼬

16 / 21
報復法

 

 

 電話越しに早口で捲したてる慎二をどうにかして落ち着かせ、何故そうなったのかを尋ねる。

 

 慎二によれば深夜の時間帯に遠坂が衛宮士郎と桜、そして彼らのサーヴァントたちと共に襲撃。起きていた彼を遠坂が首根っこを掴み、臓硯の所在を尋ねた。慎二は魔術師ではないものの、間桐が魔術師の家系であることを知っている。そして聖杯戦争の事も知っていたのでこれもその一環なのかという考えに至り、素直に知らないと伝えた。

 

 そも、臓硯はキャスターの死体を手に入れてから間桐邸に帰っていないらしい。あの妖怪の事だから、キャスターの魔術を悪用して良からぬ事を企んでいそうだ。

 

 臓硯が居ないことを知り、そこで話が終わりかと思えば終わらなかった。遠坂は慎二を投げ捨て、臓硯の工房である地下に向かって行ったらしい。直接目にしていないが、地下から爆発音と振動があったと言っていたので間違いではないだろう。

 

 その時の爆発音と振動が尋常では無かったので慎二は携帯と財布を手に取って間桐邸から脱出。そしてその数分後には火の手が上がり、瞬く間に炎上したとのことだ。

 

 流石に遠坂凛がこんな行動をするとは俺も〝識らなかった〟。俺の記憶の中には無い全く未知の出来事だが、そういう行動を起こしかねない理由ならばわかる。

 

 その理由は、間桐桜だ。

 

 彼女と遠坂凛は血の繋がった姉妹である。先代の遠坂時臣と臓硯との間で交わされた密約により、魔術師として劣等である俺ではなく桜の方を間桐の当主にするという理由で彼女を引き取ったのだ。

 

 だが、臓硯は桜を間桐の当主にはしなかった。魔術のまの字も教える事はなく、行われるのは胎盤として相応しくなるようにと調教と調整だけ。俺が経験したように、まだ生理も来ていない幼い彼女を蟲風呂に沈め、苦しんで心が壊れる姿を見て呵々大笑していた。

 

 これを遠坂が知ったら、マトモな感性ではその非道に間違いなく怒りを覚えるだろう。だが、それが魔術の教育の一環で、正式に魔術を教えられていたのならば、魔術師としての遠坂はその怒りを飲み込んでいたはずだ。

 

 しかし、臓硯は魔術を桜に教えなかった。遠坂時臣と交わした密約を無視し、彼女の事を自分の趣味と実益を兼ね備えた道具としてしか扱わなかった。それは魔術師の視点からすれば許されない事に間違いない。すぐ様に報復を起こしてもおかしくない。

 

 そして臓硯に報復を果たそうと、遠坂は間桐邸に襲撃を仕掛けた。しかし、目的である臓硯の姿は無く、あるのは醜悪な蟲の蠢く空間だけ。そこにどんな感情があったのか分からないが、結果として遠坂は蟲蔵を徹底的に破壊し、ついでの被害なのか間桐邸を炎上させた。

 

 話す機会があったら良くやったと褒めてやろう。

 

 だけど我が家を本能寺よろしくバーニングした事だけは絶対に許さねえから。

 

 俺個人としては、家を本能寺された事には特に思う事はない。貴重品の類は全て俺の工房である廃ビルの方に移してあるし、あの家には臓硯の仕打ちと蟲蔵のイメージが強過ぎる。逆に無くなって精々したくらいだ。

 

 しかし、あんな最低最悪な家だとしても家なのだ。慎二が現在進行形で暮らしている場所なのだ。桜ならば衛宮士郎の家に泊まり込めばいいだろうが、慎二はそうはいかない。今は家が本能寺して燃え尽きたと伝えて友達の家に転がり込んでいると言っていたので寝る場所には困らないだろうが、帰る場所が無くなった事には変わりない。

 

 ホームレス慎二(ワカメ)君の完成である。

 

「さてはて……」

 

 近いうちに金を渡すから、それまではその友達の家に世話になるように伝えて電話を切る。 ソファーに身体を深く沈めて天井を見つめながら、どんな仕返しをしてやろうかと思考を巡らせる。

 

 遠坂が本能寺をした理由は推測であるが理解出来た。その感情にも納得出来るし、もっと言えば共感だって出来る。

 

 だが、それとこれとは話は別だ。

 

 ハンムラビ法典という報復法がある。目には目を、歯には歯を。やったのならばそれと同等の罰則を与えられるという至極分かりやすい内容だ。個人的に気に入っているものであり、今回はそれに習って報復を行う事にする。

 

 つまりは、やられたのだからやり返す。

 

 本能寺には本能寺を、ホームレスにはホームレスを。

 

 遠坂邸を本能寺して、ホームレス凛ちゃんにしてやる。

 

「アサシン」

 

「お呼びでございましょうか」

 

 アサシンの名前を呼べば、彼は膝をついた状態で実体化する。

 

「ちょっと敵対してるマスターの実家を本能寺してホームレスにするから手を貸してくれ」

 

「魔術師殿、出来るのならば私めにも分かる言葉でお願いします」

 

「えっとだなぁ、放火して、住んでる場所を無くしてやるんだよ」

 

「成る程、つまりは私がそのマスターの家に火を放てば宜しいのですね?」

 

「いや、それじゃあつまらんからもう少し派手にしてやろうと考えてる。その為にはお前にも手伝って欲しいんだけど……」

 

 既にどういう手段で遠坂邸を放火するのかは頭の中で考えている。しかし、それをしようと思えばアサシンの協力が必要不可欠なのだ。出来ればこの案でやりたいのだが、それを伝えて否と応えられれば諦めてアサシンに放火させるつもりでいる。まだ聖杯戦争は続いている、こんなつまらない事で溝を作りたくは無かった。

 

 しかし、アサシンは作戦を伝えるよりも前に首を縦に振った。

 

「心得ました。このアサシンにお任せを。して、如何なる策をお考えで?」

 

「まずは道具の調達からだ。出るぞ」

 

「ハッ」

 

 まだ眠っているイリヤへ手紙を書いてからソファーから立ち上がり、防寒着を着込んで部屋を出る。周囲にアサシンの姿は見えないが、契約のラインによって近くにいるのは感覚的に分かる。

 

 俺の記憶には無い未知の出来事に少しばかり困惑したが、よくよく考えれば良い機会だったのかもしれない。

 

 恐らく、向こうはあのまま同盟関係を続ける事になっていただろう。崩そうと思うと俺が行動するか、臓硯が動くのを待つかの二択しか無かった。中途半端なものでは意味が無く、やり過ぎるくらいが丁度良い。

 

 これが上手くいけば、間違いなく遠坂は激昂するだろう。怒り狂うだろう。あの綺麗なお顔を怒りで醜く歪ませるのを直接見れないのは残念だが、間違い無くそうなると確信できる。

 

 その光景を想像して、僅かに微笑みながらーーータンクローリーを求めて街中を徘徊する事にした。

 

 

■

 

 

 冬木市の深山町の住宅街。そこの丘の上にある西洋建築の館こそが遠坂凛の自宅である遠坂邸だ。屋敷の一帯も遠坂の地所であるらしく、周囲には遠坂邸以外の建物は見えない。前もって知っていたのだが、これならば周囲への被害は気にしなくても良さそうだ。

 

 遠坂邸から少し離れた場所から屋敷を見る。間桐邸とは違い、古いながらも衰えを感じさせない立派な造りであり、誰が見てもお化け屋敷なんて言わないだろう。

 

 なんて不公平なんだ。一刻も早く本能寺してやらねば。

 

 そんな使命感を感じながら携帯を取り出し、連絡網から入手した衛宮士郎の自宅の電話番号を入力する。しばしのコール音の後に電話が繋がり、聞こえた声は女の物ーーー妹である桜の声だった。

 

『もしもし、衛宮です』

 

「桜、お兄ちゃん的にはまだ衛宮は早いと思うんだけど」

 

『お、お兄さん!?これは、その、あれです!!ここは先輩の家だからそう言ったのであって!!』

 

「あぁ、うん。分かってる、分かってるから。取り敢えず電話に出てもらってあれだけど、一旦切るわ。携帯の方にかけ直すから、それで遠坂と衛宮の二人とも話せるようにしてくれない?」

 

『もしかして……聖杯戦争ですか?』

 

「それ以外に何があると?」

 

 そうですか、と少し落ち込んだ様な声が聞こえて電話が切れる。そして桜の携帯に電話をかければ、すぐに通話状態となった。

 

『もしもし、間桐先輩かしら?』

 

 聞こえたのは桜とは異なる女性の声、遠坂凛の物だった。

 

「あぁ遠坂か。おはよう。慎二から聞いたぞ?良い朝だと思ってたら度肝抜かれたぜ」

 

『あら、マスターでもない部外者なのに口を出すつもりですか?今回の事は放火による火災で話が纏まっています。もしも先輩がマスターだというのならば話は違いますけど』

 

「なら問題無いな、俺はマスターだし」

 

 イリヤを確保し、アサシンの強化を済ませたのでマスターである事を隠しておく理由は無い。桜から俺がマスターである事を伝えられているかもしれないが、ここでは敢えて俺の口から俺がマスターである事を肯定する。

 

「よくもやってくれたな。臓硯の工房を潰してくれた事に関しては札束で殴り倒してやりたいくらいには感謝してるが、家まで燃やすのはやり過ぎだとは思わないのか?」

 

『う……ッ!!た、確かにやり過ぎかなぁとは私も思ったわよ?でも、もう後の祭りだし、マスターとして相手の拠点を潰すのは当然のことじゃないかしら?』

 

 確かに、遠坂の言い分は間違っていない。今、俺たちが行なっているのは聖杯戦争なのだ。敵のマスターの拠点を潰して相手の弱体化を図る事に何の問題も無い。遠坂の口ぶりからして、監督役もそれを隠蔽するつもりでいるらしい。

 

 そして、これによって俺は大義名分を得られた。

 

 即ち、マスターの拠点を潰しても問題無いと。

 

「成る程、確かに当然の事だな」

 

『でしょう!?』

 

「だから、俺がお前の家を潰しても問題無いという事だな?」

 

 え?という間抜けな声を無視して空いている手でサインを出す。すると街で見つけて強奪してきたタンクローリーに乗っていたアサシンが頷き、エンジンを掛けた。

 

 アクセルを踏み込んだのか、けたたましいエンジン音が閑静な住宅街に響き渡り、遠坂邸へと向けて加速していく。

 

『待ちなさい、そのエンジン音は何なのかしら?物凄く嫌な予感がするのだけど』

 

「目には目を、歯には歯を、だよ。俺は自宅を本能寺させられてホームレスになったんでな。報復法に則って俺も遠坂の自宅を本能寺してホームレスにしてやる事にしたんだ」

 

『はぁ!?』

 

 携帯を耳から離し、遠坂邸へと向かっていくタンクローリーを見守る。

 

 遠坂邸は間桐とは異なり、しっかりとした魔術師が住む家だ。魔術的な防御が施されていて、イリヤの拠点であったアインツベルンの森程ではないとはいえ、防御面は優れている。

 

 そこで、その防御をタンクローリーという質量で叩き壊す。ガッチリと固められているのならば、破壊槌で粉微塵に粉砕すれば良い。

 

 

 そしてその数十秒後、タンクローリーは遠坂邸にぶつかり、積んでいた可燃燃料が引火して大爆発を起こした。

 

 

 






魔術をちゃんと教えられていたのなら桜ちゃんが蟲風呂に入ってたとしても我慢出来ていたかもしれない。だけど教えられていなかったのでブチ切れて蟲蔵を破壊、そのついでに間桐邸は炎上して本能寺した。ワカメはホームレスになった。

なのでやられたらやり返すゼェ!!とマコニキ、ウキウキの本能寺返し。これにより目出度く遠坂邸は本能寺され、凛ちゃんはホームレス凛ちゃんにジョブチェンジを果たす。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。