テーブルの上に乗せられ、スピーカー状態になっている携帯から聞こえてくるのはけたたましい程の爆発音。発信源からは距離が離れているのか耳を痛める程では無いのだが、電話越しでもその甚大さは伝わってくる。
そして通信相手である間桐誠一は、それを聞いて笑っていた。
『クカカカッ!!聞こえるかよ遠坂!!いい感じで大爆発したぞ!!お前に見せられないのが残念な程になぁ!!これでホームレス凛ちゃんの爆誕だ!!あ、やべ、笑い過ぎて呼吸が……』
遠坂凛の自宅を爆発した、それが余程ツボに入ったのか、誠一の呼吸が乱れてそれを整えようとしているのが分かる。
それを聞かされた遠坂凛の顔は、無表情だった。しかし、それは何も感じていない訳ではないと彼女の顔を見た者なら理解出来る。この無表情は、怒りが限界を突破したからこその表情なのだと。
「……間桐誠一、一体何のつもりで私の家を爆発させたのかしら?」
『ふぅ、ふぅ……あぁ、ゴメンゴメン、何で爆発させたのかだっけ?さっきも言ったように我が家が本能寺されたからだよ。やったのならやり返される覚悟はあったんだろう?まさか、自分がそうされるとは思わなかったとかつまらない事を言うんじゃないよな?そうだとしたら萎えるぞ』
ミシリと、遠坂の手元にあった湯飲みが軋みをあげる。見れば器にはヒビが入っており、そのまま力を入れれば砕けてしまいそうな状態になっていた。
『まぁ、もう一つあるんだが……開戦の狼煙?いや、宣戦布告って言った方が合ってるな』
「宣戦布告、ですって?」
『あぁ、そうだ。今回の聖杯戦争で残っているサーヴァントは俺のアサシンを含めて四騎だ。バーサーカー、ランサーは俺が倒して既に脱落済み。キャスターはあの妖怪に操られているみたいだが、ほとんど死んでるのと変わらんからな』
「待ちなさい、それってつまり、貴方がアサシンで三騎も脱落させたって事なの!?」
『そう言ったつもりなんだが、理解出来なかったか?』
嘘を言っているようには聞こえない。サーヴァントたちに目をやるが、経験豊富な彼らでさえも、誠一の言葉を否定せずに肯定するような仕草をしているではないか。
信じられなかった。バーサーカー、ランサーの強さは直に見て知っている。キャスターも臓硯に操られて劣化しているだろうが、セイバーの対魔力を貫く程の技量だと理解している。
そんな彼らを、真っ向勝負には向かない筈のアサシンのサーヴァントで打倒したなど、到底信じられる話では無かった。
『信じられないというのならご自由にどうぞ。確認を取りたいのなら教会を訪ねれば、あの性根の腐った外道神父なら喜んで教えてくれるだろうさ。残るサーヴァントはたったの四騎なんだ、引きこもってるなんてつまらない事はやめて、ドンパチかまして愉快に殺し合おうぜ』
「ちょっと待て!!」
誠一と遠坂との話し合いに割って入ったのは衛宮士郎。テーブルを強く叩き、身体を乗せながら携帯電話の向こう側にいる誠一に向かって叫ぶように話しかける。
衛宮士郎と間桐誠一との間には特に交友関係は存在しない。士郎は間桐桜と間桐慎二の兄という程度の認識しかしていない。だからこそというべきか、彼からすれば誠一の行動理由が分からなかった。
「あんた、こんな事をして一体何が目的なんだ!!」
『目的?
「なーーー」
誠一の言葉に思わず絶句する。声色から伝わってくる通りに、誠一は言葉通りに何も思わずに事を起こしたと感じてしまったから。
『元々の予定しては遠坂邸に手を出すつもりは無かったんだけどさ、ウチが本能寺よろしくバーニングされた訳じゃん?その理由がウチの妖怪ジジイにあるとしても、黙って見過ごすわけにはいかなかったのよね。ならどうしようかって考えて報復法に則ることにしたんだよ。知ってるでしょ?目には目を、歯には歯をってやつ』
「たった、たったそれだけの理由で遠坂の家を燃やしたのか……!!」
『あぁ、お前がそれだけのと評価した理由で燃やしたよ。これは聖杯戦争なんだぜ?最低限のルールさえ守れば何をやってもいいバトルロワイアルなんだ。言っておくけど、俺でもまだ優しい方だぜ?何せ、前回の聖杯戦争じゃあ衛宮切嗣の方がもっと過激な事をやらかしてるんだからなぁ』
「ッ!?待て、親父が、そんな事をしていたのか……?」
『してたぞ?セイバーのマスターとしてな。詳しく聞きたかったらお前が召喚したセイバーに聞くといい。そいつが前回に衛宮切嗣が召喚したセイバーだからな』
誠一の言葉に士郎は視界を絡むような錯覚を覚える。十年前の公式では原因不明の震災の光景がフラッシュバックし、体勢を崩しそうになったところをセイバーに支えられる。いつもなら彼女に謝罪の一つでも入れるのだがそんな余裕は無かった。
何故なら、衛宮士郎は衛宮切嗣という人物の事を知らないから。知っているのは十年前に彼に助けられ、養子として引き取られて以降の彼の事だけ。十年前に地獄から救い上げてくれた人物が、人様の家を燃やすよりも酷い事をしていたと言われて信じられるはずがなかった。
『もっと詳しく知りたいのなら外道神父に聞くといい。あいつは一時期、衛宮切嗣のストーカーをやっていたからな。複雑な心境で教えてくれると思うぞ』
「無駄話はそこまでにしてもらえるかしら?」
話の流れを断ち切ったのは遠坂だった。もっとも、それは士郎を庇ってという理由では無く、間桐誠一という人物を完全に敵として認定したからこその判断なのだが。
「えぇ、分かったわ、間桐誠一。そういうのなら、その宣戦布告を受けてあげるわ。命乞いしたところで絶対に許さないのだから覚悟しなさい」
『ハハッ!!今日まで何の成果も挙げられていないのによく吠える!!精々頑張る事だな』
その言葉を最後に電話は切れた。桜が慌てて誠一の電話番号へと掛け直すが、電源を切ったかそもそも携帯を壊したのか繋がる事は無かった。
遠坂は立ち上がり、アーチャーを伴って外出しようとする。桜はそれを止めようとするものの、ショックを受けて項垂れている士郎の事を心配してどちらを優先すれば良いのか分からずに右往左往している。
遠坂邸を燃やすという、誠一からすれば何の考えなしに起こした一手。それが間違いなく、彼らに深い亀裂を与えていた。
「うーん、まぁ予想通りといえば予想通りだな」
深山町内、遠坂邸から程よく離れた場所で衛宮邸を監視していた蟲と視界を共有し、赤いコートを羽織って外出する遠坂凛の姿を確認する。
プライドが高い彼女の事だから、自宅を燃やして適当に煽ってやればすぐに行動に出るのは予想出来ていた。衛宮士郎に関しては、義父である衛宮切嗣が人様の家を燃やすよりも非道な事をやっていたと伝えればショックを受けるだろうと思っていたし、桜はそんな彼を心配して側にいるだろうと想像出来た。
これで遠坂凛は孤立し、俺の事を探して昼夜問わずに冬木の街を歩き回るだろう。霊脈上にある拠点を失った以上、魔力の回復に関しては以前よりも困難になるだろうが、衛宮邸に入り浸っていた事と、魔力の消耗がそれ程酷くはないアーチャーを使役しているから然程痛手ではないかもしれない。
まぁ、遠坂邸を本能寺出来たし、煽ってやったから良しとするか。
出来る事ならば衛宮士郎も外に出て桜だけが家に残っていて欲しかったのだが、それは流石に望みが過ぎるだろう。少なくとも、遠坂の性格を考えればそう簡単には衛宮邸に戻る事はしないはずだ。
集まっていたマスター3人が2人に減ったと考える事にしよう。衛宮士郎の性格上、立ち直って行動を起こすとしても桜の事を家に置いて行動する筈だ。その時を狙えば良い。
問題があるとすれば残っているマスターたち全員から俺の正体が正確に把握され、敵意を向けられることになった事くらいだろうか。アサシンのマスターが正体不明であったというメリットが失われるのは少しばかり痛い気はするが、正体を隠し続けていれば聖杯戦争が硬直するのが目に見えていたのだ。多少の痛手は受け入れてでも、場をかき乱した方がこちらとしても動き易い。
『魔術師殿、ただいま戻りました』
『お帰り、ご苦労だったな』
『あの魔術師は中々のやり手だったようですな。幾らか魔力を溜め込んだ宝石を見つけました』
『お前は本当に有能だな!!』
戻ってきたアサシンが思わぬ戦果を持ち帰ってくれたようだ。遠坂の魔術は宝石を利用している事は〝識っていた〟。遠坂邸を燃やすと決めたのは割と考え無しなのだが、そうすると決めてからは出来るのなら遠坂の妨害をしてやりたいなぁとは考えていたのだ。
霊脈による魔力の回復の阻害と宝石の補充の妨害が出来れば上々だろうと思っていたが、アサシンのお陰で魔力の込められた宝石を入手する事が出来た。間違いなく大戦果だろう。
『これから如何されますか?』
『一先ずは様子見だな。先にライダー狙い、続いてアーチャー狙いで動く。セイバーに関しては無視だ。交戦することになってもやり過ごすぞ』
『御意』
深山町でやる事は無くなったので工房がある新都へ戻る事にする。アーチャーを先行させて偵察させている事も考えたが、俺のサーヴァントがアサシンであると公開したのでマスター殺しを恐れて近くに待機させているだろう。もし発見されても、まだ人の目のある時間帯なのですぐ様交戦という事にはならない筈だ。
そんな初歩的なことまで忘れる程に怒り狂ってるのなら話は別だが、その時はその時で教会に掛け合って遠坂にペナルティーを与えて貰えば良い。あの外道神父の事だ、嬉々としてペナルティーを与えてくれるに違いない。
時計を確認して、ここから工房に戻るまでのおおよその時間を計算する。丁度正午あたりには帰れるだろうか。恐らく、帰った頃にはイリヤも目を覚ましているだろうから、何か食べれる物を買って帰ることに決め、予め呼び出していたタクシーに乗り込んだ。
行動と電話だけで場をかき乱していくスタイル。なお、マコニキ的には考え無しの模様。
呪腕先生はマジで有能だから。第五次のメンツが戦闘方面に振り切れてるだけで、真剣にアサシンやってればマジで有能だから(必死の叫び