※この作品はR-18です。

Fate/Over night   作:鎌鼬

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間桐臓硯

 

「ふぁあ……ねっむ」

 

 アサシンを召喚した影響で不足していた魔力を回復させる為に眠りについて起きたのは昼過ぎだった。ショートスリーパーなので普段ならば4時間も寝れば十分に休めるのだが、思ったよりも消耗していたらしい。

 

 その理由は分かる。俺には魔術師にとっての必需品である魔術回路の数が5本しかないからだ。

 

 魔術師と呼べるのかすらどうか分からない体たらくなのだが、この本数であっても今の間桐からすれば見込みがあると妖怪ーーー祖父の間桐臓硯は言っていた。

 

 それだけで今の間桐がどれだけ落ちぶれているのかが分かってしまい、腹を抱えて笑いたくなる。

 

 時計を見れば午後3時を回った辺り。まだ眠気が残っているので寝直したくはあるのだが、生憎とサーヴァントを召喚したら見せるようにと臓硯に言われているのでそう言うわけにはいかない。約束の時刻まではまだ空きがあるが、寝直すには時間は無い。

 

 実家暮らしならばその日の内に見せて惰眠を貪っていたのだが、俺は間桐の家にはいない。新都の一角にある廃ビルを間桐の財力で買取り、そこを俺の工房として使用している。聖杯戦争の時期が迫ってからは工房に引きこもりっぱなしで、実家に帰っていないのだ。

 

 不便かと聞かれれば不便だが、それでもあの妖怪のいる実家で暮らすよりはマシだと断言出来る。俺の願いは臓硯からすればどうでも良いと一蹴されるものでしか無い。監視の目もあって満足に休む事さえままならない。俺の計画が臓硯にバレれば間違いなく邪魔をされる。それを防ぐ為にも実家から出る事は最低条件だった。

 

 時間を潰す為に本棚から一冊の本を引き抜き、ソファーに寝転がりながらそれを開く。使い込まれ、年季が入っているせいでページがくたびれ、色褪せているそれには文字が何も書かれていない。

 

 白紙のページを魔力を宿した指でなぞれば、そこから手書きの文字が現れる。

 

 この本は俺の記憶にあるこの世界の事を書き記したメモ帳のようなものだ。誰にも見せるわけにはいかないので俺の血を混ぜたインクを使用する事して、魔力に反応して浮かび上がるように細工を施したのだ。

 

 パラパラと捲り、目当てのページを見つけ出す。今回の第五次聖杯戦争の参加者とサーヴァントの真名がそこには書かれていた。

 

 衛宮士郎ーーーアーサー王(セイバー)

 

 遠坂凛ーーー英霊エミヤ(アーチャー)

 

 言峰綺礼ーーークー・フーリン(ランサー)

 

 間桐桜ーーーメデューサ(ライダー)

 

 葛木宗一郎ーーーメディア(キャスター)

 

 メディア(キャスター)ーーー佐々木小次郎(アサシン)

 

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンーーーヘラクレス(バーサーカー)

 

 アサシンの項目を二重線で消し、その下に自分の名前と呪腕のハサン(アサシン)の名を書き込む。令呪が配布されて良かった。もし選ばれなかったとしても大丈夫なようにそちらのルートは考えていたが、有った方が楽が出来る。

 

 訂正をし、次に考えるのは誰から戦うか。アーサー王(セイバー)は彼のお気に入りで、求婚をしていたので排除。メデューサ(ライダー)は我が妹である桜に呼び出されたサーヴァントなので、序盤から敵対するのは悪手でしか無いのでこれも排除。

 

 残るのは英霊エミヤ(アーチャー)、クー・フーリン(ランサー)、メディア(キャスター)、ヘラクレス(バーサーカー)となる。

 

 固有結界の担い手に因果逆転の魔槍の所持者、神代の魔術師に世界でもトップクラスの知名度を誇る大英雄。豪華過ぎて涙が出てくる。

 

 呪腕のハサン(アサシン)は決して弱いサーヴァントでは無い。筋力、耐久は記憶にあるものよりも一ランクダウンしているが敏捷、魔力、幸運は記憶通りのまま。スキルに関しても劣化無しで、気配遮断もA+の一級品である。専らはクラスの通り暗殺者としてマスターを狙わせるのが定石なのだろうが、正面戦闘も出来る程には強いのだ。

 

 決してアサシンは弱くは無い。ただ、周りが強過ぎて相対的に弱く見えるだけなのだ。

 

 加えて俺というイレギュラーが召喚したせいなのか、俺の〝識っている〟臓硯に召喚された当初の知性が乏しい状態で召喚されてしまった。これについては対処法があるのでその通りにすれば問題無いだろう。

 

 となれば最初に狙うのはランサーかキャスターだろうか。アーチャーに関してはのちにマスターの遠坂凛がセイバーのマスターである衛宮士郎と同盟を結ぶ事になるので、相手をしようと思えばセイバーとも戦う事になる。アサシンの強さは知っているが、だからといって一対二をさせようとは思わない。

 

 そうやって数分間メモ帳と睨めっこしながら考えーーーバーサーカーを狙うことに決めた。

 

 普通ならば愚行だと笑われるような決断だが、勝算はある。それに、この機を逃せばバーサーカーを倒す好機を逃してしまうのだ。

 

 間桐、遠坂、そしてアインツベルンの三家は聖杯戦争の基盤を作り上げた魔術師たちの子孫の家系で、それぞれが上質な霊地を有している。序盤ならばまだしも、中盤以降にもなれば霊地の有無で消耗差が如実に現れてしまうのだ。それに遠坂や間桐とは違い、アインツベルンの霊地は冬木の郊外にある。周囲一帯は森であり、そのものが天然の要塞として役割を果たしているのだ。

 

 つまり、引きこもっているアインツベルンを攻める事は攻城戦を仕掛けるのと同意義である。ちょっと酷過ぎて笑ってしまう。

 

 故にイリヤスフィールを狙うのならば森から出て来た時を狙うしか無い。そして記憶にある限りでは、戦闘が可能な時刻に森から出てくるのは聖杯戦争初日の夜くらいしか無い。

 

 無論、無策で向かうつもりは無い。アサシンとは別に戦う手段は用意してあるし、切り札だって持っている。そもそも、令呪が現れなければサ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ン(・)ト(・)無(・)し(・)で(・)聖(・)杯(・)戦(・)争(・)に(・)参(・)加(・)す(・)る(・)つ(・)も(・)り(・)だ(・)っ(・)た(・)の(・)だ(・)。

 

 だが、そうなると別の問題が浮かんでくる。朧げな記憶を思い返す事で何とか物語の大まかな流れは把握しているが、俺の行動が原因でそれの通りにいかなくなるという点。そもそも、それに関してもアサシンを召喚している時点で手遅れだ。ストーリーに大きな齟齬が発生しないうちに行動に移した方がいい。

 

 初戦の相手を決め、行動を起こす時期を決めた。臓硯との約束の時間まで、どうやって聖杯戦争を戦うのか思考する時間に費やした。

 

 

■

 

 

 臓硯との約束の時間が迫っていることに気が付き、タクシーを使って間桐邸に帰宅した。

 

「こんな有様だから幽霊屋敷とか言われるんだろうなぁ」

 

 長年過ごして来た我が家は一言で言えば幽霊屋敷としか言えないような有様だった。外壁は蔦で覆い隠されていて、窓硝子はヒビ割れている物がある。門から玄関までは中庭を通るのだが、全く手入れされていないので荒れている。

 

 幽霊屋敷と近所から噂されても反論出来ないのが悲し過ぎる。

 

 荒れた中庭を通って玄関へと辿り着き、インターフォンを押す。来客を伝える事は大切だって古事記にも書いてある。

 

「はいはーい……って、マコ兄じゃん。どうしたの?」

 

 出迎えてくれたのは一つ下の弟の、海藻のような癖の強い髪が特徴的な慎二(しんじ)だった。学校から帰ってきたばかりなのか、穂群原学園の制服姿のままだった。誠一という名前の誠はマコトと読む事が出来、そこからマコ兄と呼んでくれている。

 

 ちょっと間抜けかもしれないが、愛称っぽくて気に入ってる。

 

「ただいま、爺さんに呼び出されたんだけど……あ、これお土産な」

 

「お、駅前のケーキ屋のじゃん」

 

「人数分買ってきたから分けて食べろよ?」

 

「え?……3つしか入ってないけど」

 

「お前、桜、あとライダーの。間違ってないだろ?」

 

『誠一、儂の分はどうした?』

 

 嫌悪感を掻き立てるような嗄れた声がホールに響き、影から蟲が這い出して集合し、人の形を作る。

 

 一見すれば杖をついた小柄な老人にしか見えないが、あくまでそれは外見だけを見た時の話でしか無い。幼い頃から蟲蔵へと叩き込まれていた俺は、俺から正体を教えられて蟲蔵を見せられた慎二は、その老人の本性を知っている。

 

 間桐臓硯。五百年以上の時を生きる、人喰いの妖怪。

 

「爺さんは、ほら、血糖値があれかなって思って、ね?」

 

「戯けが。この身体になってから血糖値なんぞ関係無いわい」

 

「洒落になってないよ爺さん……」

 

 確かに人ではなく蟲である臓硯の健康は人の物では考えることが出来ないのだろうが、そこまで堂々と言われると自虐ネタっぽく聞こえてしまうのでやめてほしい。事実、慎二はドン引きしている。

 

「言われた通りにサーヴァント召喚したから見せに来たぜ」

 

 霊体化していたアサシンに念話で指示を出し、実体化させる。知性が乏しいはずのに家の雰囲気を感じたのか、臓硯の気配を察したのか、膝をついて頭(こうべ)を垂れて顕現する。

 

 それを見て臓硯は愉快だと言わんばかりに笑い声を上げた。

 

「呵呵ッ!!よくやったぞ誠一。よもや此度の聖杯戦争で間桐から二人もマスターを出すとは儂も想像しておらんかったわ」

 

「違う、間違えるな。間桐のマスターはあくまで桜だ。俺はお情けの自由枠で選ばれたに過ぎないよ」

 

 聖杯戦争に参加するマスターは聖杯によって選ばれ、御三家は優先的に令呪を配布される。一番初めに令呪が現れたのは桜で、俺のは最近になって現れた。これだけで聖杯は桜の事を間桐の人間だと認めていると分かる。

 

 とはいえ臓硯が喜ぶのも理解できる。聖杯戦争の勝者は一人だけ、どうあがいてもバトルロワイアルの戦いだ。同盟を結べば勝率が高くなるとはいえ、最終的には殺し合うのだから背中にも気にかけなければならない。

 

 だが、間桐から二人のマスターが出た事で話は変わる。間桐は臓硯をトップとしたカーストが築かれている。例えマスターになったとしても、あの妖怪の気分一つで命を奪われる事実に変わらないのだ。裏切りを考える必要が無くなるというのはそれだけで大きなメリットになる。

 

 まぁ、それもマスターが二人とも臓硯には逆らえないという前提が無ければ成立しないが。

 

「約束通りに俺は自由にやらせてもらう。間桐として動きたかったらライダーの方を使え。頼み事程度なら駄賃によりけりだけど聞いてやるがな」

 

 本音を言えば自己強制証文(セルフギアス・スクロール)を使って臓硯の行動を制限してやりたかったが、メリットとデメリットを測りに掛けて考えた結果、口約束程度で済ませることにした。相手の行動を縛るというメリットは惜しいが、こちらの行動が縛られるというデメリットがあまりにも大き過ぎるのだ。

 

「うむ、好きにせい。元より今回の貴様の参加は全くの予想外であったからな。だが、忘れるなよ?」

 

「分かってる。絶対に死ぬな、だろ?」

 

「そうじゃ。儂としても可愛い孫が死ぬのは堪えるからのぉ」

 

 堪えるのは俺が死ぬ事ではなくて次の身体が無くなる事だろうに。ここまで良く回る口だと感心してしまう。

 

 ともあれ、これで間桐邸で済ませなければならない用事は終わらせた。持ち帰らなければならない物も無いのでアサシンを霊体化させ、踵を返す。

 

「なんじゃ、もう出るのか?夕餉くらいは食べて行ったらどうだ?」

 

「急に参加が決まったから色々と忙しいんだよ。それに御三家に余計な疑いかけられても面倒だろ?」

 

 桜の顔を見ておきたかったが、靴が見えないので今頃は衛宮士郎の家にでも行っているのだろう。あいつが魔術師だという事はすでに臓硯の口から桜に伝えられている。令呪が現れたら教えるようにと頼んであるので、それが開始の目安になる。

 

 気をつけてな、という臓硯の心無い言葉に手を振って返して玄関の扉を閉める。

 

 あの妖怪は俺の手綱を握って聖杯を狙っているだろうが、甘いとしか言いようが無い。確かに生きた年月は前世と今世を合わせても臓硯には届かない。が、胸に燃える渇望(いのり)の強さは決して引けを取らないと信じている。

 

 精々今の内に笑っていろと内心で呟き、間桐邸を後にした。

 

 





ハサン先生がちゃんと召喚したはずなのにHFルート見たいな話し方になっているのはそういう仕様。他のサーヴァントの心臓モグモグすると強くなるぞぉ!!

マコニキ、家に帰ったと思ったら妖怪と腹の探り合いという高度なプレイを始める。間桐に生まれた瞬間から臓硯が一番の敵なんだよなぁ……

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