※この作品はR-18です。

Fate/Over night   作:鎌鼬

3 / 21
遠坂凛

 

 

「頭痛い」

 

『魔術師、無事カ?』

 

『大丈夫だけど念話は控えてくれ。頭に響く』

 

 アサシンの心配するような言葉にぞんざいな言葉を返してしまうが、そのくらいに頭痛が酷いのだ。

 

 昨日、臓硯と別れて工房に帰ってから気分転換に酒を飲んだのがいけなかった。想定していた最低よりも良い状態で聖杯戦争に挑める事を祝おうとして開けたのだが、気分が良くてついつい飲みすぎてしまったのだ。加えて酔った勢いそのままに準備に時間を費やしてしまって、睡眠時間は一時間も取れなかった上に二日酔い状態だ。その上、アサシンの維持に最低限とはいえ魔力を使っているからなのか身体が重い。

 

 二日酔い、寝不足、魔力不足の三重苦が酷く辛い。

 

 出来る事ならば思う存分に寝たいのだが、今日中に済ませておきたい用事があるので朝早くからアサシンを連れて出ているのだ。

 

 向かう先は穂群原学園ーーー慎二と桜、そして俺が通っている学校だ。とはいえ、俺は三年生で自由登校を迎えているので最近は登校していない。進学するつもりは無く、学校には間桐の家を継ぐと言ってある。まぁ実際には俺の身体を乗っ取った臓硯が、なのだが間違いでは無い。

 

 三重苦を堪えながらもこうして学校に来た目的は二つある。

 

 一つは桜がライダーを使って俺の指示通りに動いたかの確認。

 

 もう一つはキャスターのマスターである葛木宗一郎が黒だという情報を手に入れる為。

 

 前者の方は然程心配していないのだが、後者の情報を手に入れるにはあまりにも早く来すぎてしまった。校門から学園を見渡しても、部活動の朝練に参加している生徒しか見えない。

 

 出来れば後者の情報を先に手に入れておきたかったが仕方ない。挨拶をしてくる下級生に返事を返しながら校舎の裏まで移動する。

 

 冬場の校舎裏は不自然なところは見受けられない。違和感も感じず、一瞥した程度では何も無いと判断して通り過ぎてしまうだろう。

 

 だが、俺は知っている。ここに何があるのかを知っている。今の眼では見る事が出来ないだけだ。

 

 故に、視界を切り替える。

 

 右手を右目に添えて魔術回路を起動。蟲による改造により通常の眼球とは別の機能を持つ眼は切り替えられた視界の中で異質な物を捉える。

 

 草むらの影から溢れる紅い光。掻き分ければそこには魔法陣が刻まれていた。待機状態のそれの効果を見るだけで読み解ける程に俺の魔術師としての才気は無い。だが、この魔法陣の齎らす効果を俺は〝識っている〟。

 

「おはようございます、間桐先輩」

 

 背後から声を掛けられる。中腰の姿勢から立ち上がり、振り返ればそこにいるのは紅いコートを羽織った黒髪の女子生徒。一般人ならば対処を考えなくてはならないが、彼女は一般人では無い。

 

 遠坂凛。冬木の当代の管理者であり、第五次聖杯戦争のアーチャーのマスター。そして、我が妹である桜の実の姉。

 

「おはよう、遠坂。こんな朝早くから、こんな場所に何の用だ?まさか……俺の身体か!?」

 

「そんなわけないでしょう!!……ハッ!!んん!!」

 

「取り繕おうとしても遅いから」

 

 学園内での遠坂の評価は高い。容姿端麗、文武両道、才色兼備の優等生だと言われているが、それは猫を被っている彼女の評価だ。少し煽ってやれば簡単に素顔を引きずり出せる。

 

 遊んでて面白い相手というのが俺の評価だ。

 

「はぁ……それで、間桐先輩はどうしてここにいるのかしら?」

 

「多分同じ用事だと思うぞ?」

 

 そう言いながら地面に刻まれた魔法陣を指差せば彼女は顔を顰める。そして膝をついて宝石を掲げ、なにやら詠唱を始める。すると魔法陣は徐々に輝きを薄れさせ、終いには消えた。

 

「消したのか?」

 

「いえ、残念だけど私でも完全に消すのは無理だわ。恐らくはサーヴァントのスキルか宝具ね。発動したら内部の人間をドロドロに溶かして吸収する悪質な結界だわ」

 

「ヒューッ!!そのサーヴァントのマスターさんは過激派だねぇ!!」

 

「ふざけないで。私の目の黒い内は発動させてなるものですか」

 

 囃し立てるような言葉に遠坂は怒りの感情を露わにしていた。それは魔術師として神秘が露見してしまうようなやり方に対して、そして無関係な人間が巻き込まれるようなやり方に犯人に対して怒っているのだろう。彼女のそんな姿を見ると、魔術師の全てが臓硯のような外道では無いと分かって安堵する。

 

 まぁ、この下手人はライダーで、そうするように桜に指示を出したのは俺なんだけどね!!

 

 俺はこの聖杯戦争の流れを大まかにとはいえ〝識っている〟。その通りに進めて都合よく終わらせようとは考えていないのでどうなろうが知ったことではないが、だからといってこの〝識っている〟というアドバンテージを失うのはあまりにも惜しい。

 

 なので桜からライダーの宝具や情報を聞き出して結界を学園で展開出来るように準備しておけと唆しておいた。無論、ライダーを強化させようという魂胆ではない。結界を用意しておく事で、学園は自分の縄張りで手を出すなと主張すれば良いと。

 

「それにしても学校に結界ねぇ……十中八九、下手人は学校の関係者だな」

 

「えぇ、学校で戦うことになった時に魂喰いをさせてサーヴァントを強化するつもりでしょうね」

 

「案外マーキングかもしれないぞ?ここは自分の縄張りだから手出しは許さないっていうアピールとか。そうでもないと遠坂はまだしも、俺みたいな落ちこぼれに簡単に見つかるような杜撰な隠し方はしないだろう」

 

「一般人には隠して、関係者なら簡単に見つかるようにしておいたってわけね?成る程、確かに有り得ない話じゃないわね」

 

「ま、どれが正解なんて分からないんだから考えるだけ無駄だけどな」

 

 そう言ってその場から立ち去ろうとする。桜が指示通りに行動しているのかを確認するだけのつもりだったが、偶然だとはいえ遠坂と話をする事が出来た。未だに三重苦は続いているが、美人と話が出来た事で気分が良くなる。この気分のまま、葛木宗一郎の情報を得るつもりだったが、

 

「待ちなさい」

 

 遠坂の静止の声に足を止める。振り返れば、遠坂は右手を銃のような形にしてこちらに向かって指差していた。

 

「おいおい、天下の遠坂様がカツアゲかよ!!ここでジャンプしろってか!!」

 

「違うわよ!!……間桐誠一、貴方はマスターかしら?」

 

 鎌かけだろうその一言に反応しそうになるが、臓硯相手に鍛え抜いた表情筋で太々しく笑う事で誤魔化す。

 

「違うよ。俺みたいな落ちこぼれじゃあマスターなんかには選ばれなくてねぇ。遠坂も予想しているだろうけど、間桐のマスターは桜が選ばれたよ」

 

「それはあくまで御三家の枠として桜が選ばれたってだけでしょう?貴方も落ちこぼれだとしても魔術回路を持っていることには変わりない。だったら疑って当然だと思うのだけど」

 

「あーあ!!疑心暗鬼の塊かよ!!これだから胸の無い奴は器もちっせえなぁ!!」

 

「Anfang(セット)ーーー!!」

 

 予想していたのはガントの一撃だったが、胸が無いという言葉が余程頭に来たのか、遠坂が選んだのは物理攻撃、それも頭部を狙ったハイキックだった。しかもご丁寧に魔術による強化まで施されている。

 

「唵 呼嚧呼嚧 戰馱利 摩橙祇 娑婆訶(オン・コロコロ・センダリマトウギソワカ)ーーー」

 

 それを受けるという選択肢は無い。同じようにこちらも魔術による強化を施し、上半身を晒すことでその一撃を躱す。

 

「避けるな!!」

 

「無茶言うなよ。頭が柘榴みたいになるわ」

 

 肉弾戦であるのなら我流のなんちゃって拳法とは言え心得はあるので相手にはなるが、魔術合戦になればこちらが圧倒的に不利だ。なので反撃はせずに遠坂のパンチを、キックをひたすら避け続ける。

 

「あぁもう、落ち着けって。そろそろ人が集まる頃だ。折角の優等生の化けの皮が剥がれちまうぞ?」

 

「うっ!?……そうよ、落ち着きなさい遠坂凛。優雅たれ、優雅たれよ……」

 

 額に手を添えながら自己暗示のようにブツブツと呟く姿を見て笑う。本当に面白い奴だ。

 

「えぇ、あんな彼女も出来たことのない落ちこぼれなんかよりも私の方がずっと上よ……」

 

「相手が居ないのはお前も一緒だろうが。俺の場合はあれだ、好みに合うのが居ないんだよ」

 

「へぇ、そうなの。だったら好みを教えてもらっても良いかしら?」

 

 遠坂の目が座っている。正直に言えって眼で訴えている。これは適当に誤魔化したらさっきの焼き増しになると判断し、両手を挙げて降参の意を示す。

 

「背は小さい方が良いな、庇護欲が湧くくらいのサイズだと実に好ましい。胸の大きさも中途半端よりもいっそ無いくらいが良いね」

 

「……あのぉ……待って、それって……」

 

「うん、そう言うことだ」

 

 それだけで遠坂は俺の好みを察したのだろう。言いにくそうにしていたが肯定を聞いて手で顔を覆い隠した。知らなきゃよかったという声が聞こえる。

 

 その隙にこの場から離れる。遠坂の追ってくる気配は無い。

 

『魔術師、アレ、コロサナイ?』

 

『彼女は魔術師だけどマスターかどうか分からない。殺すのはマスターだと判断出来てからだ』

 

 それにしてもやはり遠坂と言うべきか、流石は遠坂と言うべきか、俺に対して圧倒的な優位を取っておきながらも抜けた対応をしてくれる。マスターかどうかの鎌かけをした時に、然りげ無く両手に視線を向けていたまでは良かったが、それ以上探そうとしなかった。あの状況なら、悪評が流れるのを覚悟してでも俺に服を脱ぐように指示して令呪を探すべきだった。

 

 冬の乾燥した空気で乾いた唇を舌で舐めるーーーそこにはマスターの証である令呪が刻まれていた。

 

『さて、キャスターのマスターの情報を集める。護衛は頼んだぞ』

 

『御意』

 

 桜が指示に従っているかの確認は済ませた。あとは葛木宗一郎がキャスターのマスターであるという疑いが持てるほどの情報を集めるだけだ。

 

 その事を俺は〝識っている〟ので襲撃しようと思えば出来なくも無いのだが、そんな事をすれば臓硯から疑いの目を向けられる事になる。今の俺ではアサシンを含めた手札全てを使っても臓硯を殺し切る事は出来ない。

 

 故に今は雌伏の時。あの妖怪の目を掻い潜りながら、俺の目的に向けて行動する。その為ならば妹であろうが、妹の実姉であろうが、全て利用する。

 

 魔力不足の倦怠感はまだあるものの、気がつけば寝不足と二日酔いの不快感は綺麗さっぱり無くなっていた。

 

 






凛ちゃん登場。いやぁ、本当にいいキャラしてて使いやすいわぁ。

マコニキの女性の好みは低身長で無乳らしい。低身長……無乳……あっ(察し

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。