※この作品はR-18です。

Fate/Over night   作:鎌鼬

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聖杯戦争・開幕

 

 

 笑う、嗤う、破顔う。けたたましく、金切り声を上げるが如く大声で笑う。普段であれば臓硯の監視の目を恐れ、例え工房内だろうが感情的に振舞うことはしないのだが、この時ばかりそれは出来なかった。

 

 冬木に散らばらせた監視用の蟲を通して待ち焦がれた光景を見たから。

 

 

 ーーー穂群原学園にて朱槍を携えた青い戦闘衣服の男と黒白の双剣を構えた赤い外套の男の戦闘を見た。人間を遥かに超えた身体能力で戦闘を行う彼らは間違いなくサーヴァント。その近くには遠坂凛もあった。青い戦闘衣服の男が魔力を槍に集中させ、宝具を放つ瞬間になって部外者が覗いているのに気がついてその戦闘は決着がつくことなく中断された。

 

 

 ーーー衛宮邸にて穂群原学園で戦闘をしていた青い戦闘衣服の男と、バトルドレスを着た少女の戦闘を見た。少女は不可視の武器を携えていて、武器のリーチを測らせずに戦闘を優位に進めていたが、青い戦闘衣服の男が学園で使わなかった宝具を発動。仕留めることは出来なかったが少女に手傷を負わせ、そこで撤退した。

 

 

 ーーー衛宮邸にて少女と赤い外套の男の戦闘を見た。不可視の武器と黒白の双剣を交え、本格的に戦闘が始まるところで少女を召喚した衛宮士郎が令呪を使用して少女を強制的に停止させた。そして遠坂凛といくらかを会話し、共に衛宮邸の中に入っていった。

 

 

 〝識っている〟、〝識っている〟。その展開を〝識っている〟。俺の記憶にある通りに、寸分違わずに同じ進行を辿っている。現に蟲を通して衛宮士郎と遠坂凛がサーヴァントを連れて冬木教会へと向かっている姿が見える。

 

 あぁ、ようやく始まるのだ。待ち望んでいた夜が始まるのだ。彼の王へと挑む為の下準備をようやく行うことが出来るのだ。高ぶる気持ちが抑えられずにみっともなく、狂ったように笑い続け、俺の感情に呼応するようにこの部屋に蠢く蟲たちがギチギチと嫌悪感を掻き立てる不快な音を鳴らしている。

 

 臓硯は妖怪だ。好きか嫌いかで問われれば、殺したくなるという第三の選択肢が即座に出るだろう程に醜悪である。が、蟲を使役するという手段は悪くは無い。魔術師としては最低レベルな俺が手っ取り早く戦力を揃える為には臓硯のような使役魔術が都合が良かった。

 

 流石にあの妖怪のように人を苗床にする様な足(・)が(・)つ(・)く(・)手段では無く、普通に卵生で増やす様にしているが。

 

「アサシン、出るぞ。俺たちの夜を始めよう」

 

「御意」

 

 一頻り笑い、落ち着いたところで実体化して側に控えていたアサシンに声を掛けて蟲蔵から出る。冬の裂けそうな程に強い寒さが火照った身体に丁度いい。熱のこもった息を吐き出し、冷たい外気を目一杯吸い込んで熱を溜め込んだ身体を冷ます。

 

 今日の為に、王に挑む為に備えて来た。魔術師と戦う手段も、サーヴァントと戦う手段も用意してある。勝ち筋は確かに存在している。が、それだけで勝てる程に聖杯戦争は甘くは無い。勝ち残る算段はあるが、一手間違えれば即座に終了する綱渡りのような状況なのだ。

 

 感情の赴くままに、テンションに従って行動するのは嫌いでは無いが、今回は我慢する事にする。

 

 予定通りに事が進むのならば、この後はイリヤスフィールが現れてバーサーカーとの戦闘が始まるだろう。正確な場所までは流石に把握していないが冬木教会周辺には監視の蟲を配置している。バーサーカーという破壊兵器と言っても差し支えのない存在が戦うのだ、目につかない筈がない。

 

 

「さぁーーー超越の夜(Over night)の始まりだ」

 

 異形の蟲達を従え、山の翁(アサシン)を従え、戦場となった夜の冬木に足を踏み出した。

 

 

■

 

 

 不可視の武器を携えた少女ーーーセイバーとイリヤスフィールの従えるバーサーカーとの戦闘は、マスターである衛宮士郎がセイバーを庇うという〝識っている〟通りの幕切れを迎えた。普通ならば即死してもおかしくはないが、衛宮士郎の体内にはとある聖遺物が埋め込まれている。それの正式な所有者であるセイバーが召喚されている以上、例え未完全な繋がり(ライン)だとはいえ現在の所有者である彼が死ぬことは無いだろう。

 

 その光景を蟲を通して観戦し、イリヤスフィールの目的地を先回りする。衛宮士郎が死にかけだとはいえ、近くで戦闘があったとなれば遠坂凛がアーチャーを連れて現れてもおかしくはない。あれは甘いところはあるが、精神は魔術師としてしっかりとしている。いざとなれば非情な判断を下してもおかしくはない。

 

 そうしてイリヤスフィールが十分に彼らから距離を取ったのを見計らい、姿を見せる。

 

「こんばんわ、アインツベルンのマスター」

 

「あら、貴方もマスターなのかしら?」

 

「その通りだよ」

 

 イリヤスフィールは記憶にあった通りの幼い外見の少女だった。長い銀髪が街灯に照らされて幻想的に輝き、ルビーの様な赤い双眼が真っ直ぐに俺を見据える。ホムンクルスと人間のハーフであるからなのか、人形じみた計算された美しさの中には幼子の様なあどけなさが混在している。

 

彼女の顔を見た瞬間、目を奪われた。

 

これまでの興奮とは違う高揚を感じ、

鼓動が不自然に加速する。

 

 それらの感情が何であるのかーーーその正体を探ろうとする思考を頭から追いやる。これから戦う相手は間違いなく今回の聖杯戦争で最強の英雄だ。余計な事を考える余裕など存在しない。考察ならば、戦闘が終わってから幾らでも出来る。

 

「間桐誠一……そっち的にはマキリと言えば伝わるか?」

 

「マキリ?貴方みたいなのがマキリのマスター?」

 

「イヤイヤ、御三家の枠は俺よりも優秀な妹に取られたよ。俺は聖杯のお情けでマスターになった様なもんだ」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

「だから、ね?こう、俺が死なない程度に手加減をしてもらえるとすっごくありがたいんだけど……ね?」

 

「ごめんなさい、今の私は機嫌が悪いの。加減無しで殺しに行くわ」

 

「Sadistic……!!」

 

 花の咲く様な笑顔で言われたからしょうがないな〜許しちゃおうかな〜って考えそうになったけど、よくよく考えれば普通に殺人宣言である。衛宮士郎のせいで不完全燃焼なことは理解しているのだが、あまりにも殺意が高すぎやしないだろうか。

 

「おいで、バーサーカー」

 

「◼️◼️◼️◼️ーーーッ!!」

 

 イリヤスフィールの呼び掛けに応じる様にして顕現するのは鋼の巨人としか形容の言葉が出ない様な大男。曝け出された上半身は極限まで鍛え上げられ、身に纏う空気だけでもトップクラスの大英雄である事を否応無しに理解させられる。

 

 事前に見たセイバー、アーチャー、ランサーは決して弱くは無い。だが、目の前の狂戦士は彼らよりも頭二つは抜きん出ていた。

 

「唵 呼嚧呼嚧 戰馱利 摩橙祇 娑婆訶(オン・コロコロ・センダリマトウギソワカ)ーーー」

 

 即座に魔術回路を起動させて詠唱する。途端、近くにあったマンホールの蓋が弾け飛び、そこから夥しい数の蟲たちが這い上がってくる。

 

 間桐の蟲たちは一見しただけで通常の虫ではない事が分かるので、神秘秘匿の概念に則って一般人には見せない様にしなくてはならない。臓硯の様に小型のものならば影に隠して連れてくる事が出来るが、俺の使役する蟲の中には人に並ぶ様な、あるいは人よりも巨大なサイズのものが混じっている。その為、下水道を通って連れてくる様にした。

 

 このアイデアは前回の聖杯戦争に参加した叔父さんから頂いている。

 

 サンキュー叔父さん。臓硯に中指立てながら安らかに眠ってくれ。

 

「アサシン」

 

 それだけでは足りない。いくら戦闘用に育てたとはいえ、相手は今回の聖杯戦争で最強のマスターとサーヴァント。例え他の参加者の目があって、手札がバレる事になろうが全力で挑まなければ勝ちは無い。

 

 最高の勝利条件はバーサーカーを打倒し、イリヤスフィールを確保する事。トップクラスの大英雄を使役出来るイリヤスフィールの魔力量は遠坂と比較しても桁違いに多い。魔力不足の問題を解決するために、生きたまま捉えて魔(・)力(・)タ(・)ン(・)ク(・)と(・)し(・)て(・)利(・)用(・)す(・)る(・)。それが不可能だとしても、俺たちが生き延びる事が最低条件。

 

 逆に敗北条件は俺が死ぬ事だ。それだけは何としても避けなければならない。最悪、蟲達とアサシンを犠牲にしてでも生き延びる。そうすればこの先が苦しくなるのが目に見えているが、それでも死ぬよりかはマシだ。

 

「やっちゃえ、バーサーカー!!」

 

「貪り喰らえ、蠱毒の住人ーーー!!」

 

 

 鋼の巨人が吠える。

 

 山の翁が闇夜に紛れる。

 

 異形の蟲たちが金切り声を上げる。

 

 

 今ここに、聖杯戦争初日の最後の戦いが始まる。

 

 

 






おや?マコニキの様子が……?


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