※この作品はR-18です。

Fate/Over night   作:鎌鼬

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VSイリヤスフィール&バーサーカー

 

 

 我先にと飛び出したのは蟲達。餌は与えているが、目の前に立つ上質な魔力源(イリヤスフィール)に目を奪われたのか、明らかに食欲を剥き出しにして向かっていく。

 

 百足の様な節足の蟲が、蟷螂の様な鎌を携えた蟲が、鍬形虫の様な鋏を鳴らす蟲が、幼子に向かって迫る光景はあまりにもホラーチック。術者である俺でさえ生理的嫌悪を感じるというのに、イリヤスフィールは迫る蟲達を見据えてその顔(かんばせ)を歪ませる事なく、優しげな笑みを浮かべている。

 

 脳裏に思い浮かぶのはイリヤスフィールが蟲達に群がられて生きたままに捕食される光景。

 

 だが、同時にそんな未来は訪れないと確信している。

 

「◼️◼️◼️◼️ーーーッ!!」

 

 バーサーカーがイリヤスフィールの前に立ち、踏み込んで石造りの斧剣を振るう。

 

 斧剣に触れた蟲が消し飛ぶ。

 

 振るわれた剣圧で蟲達が弾ける。

 

 その余波が顔を殴り抜く。

 

 バーサーカーからすれば目の前のマスターを狙う脅威を払っただけなのだろうが、結果としてたった一動だけで俺の連れてきた蟲の大半が死滅した。我先にと飛び出していった蟲達は全滅し、残ったのは食欲を堪えて留まったか地上に出で来れなかった奴くらい。

 

 飛び散る蟲の破片と体液越しにバーサーカーと目が合う。

 

 その背後に、髑髏が嗤う。

 

「散レ、柘榴ノ如クーーー」

 

 攻撃の間際までその存在を気付かせない、無音の暗殺術が闇夜から放たれる。イリヤスフィールとバーサーカーを中心に飛来する投擲物の数は十二。現在地の急所だけではない。移動中、そして移動後までも見据え、先んじてそこに放っている。知性が乏しかろうが、肉体に刻み込まれた技術を見せつけられる。

 

 イリヤスフィールに回避は許されていない。行動が出来るのはバーサーカーのみ。彼女を守ろうとすればバーサーカーの急所に投擲物が突き刺さり、自身を守ろうとすればマスターである彼女は深手を負う事になる。選択肢の存在しない選択を迫られ、

 

 バーサーカーは迷う事なく、イリヤスフィールの守護を選んだ。

 

 イリヤスフィールに迫る投擲物を素手ではたき落す。その代償にバーサーカーには投擲物が吸い込まれた。人体の急所である延髄と鳩尾、そして眼球を狙った刹那の暗殺劇。歴代の山の翁に劣りはしない、生涯をかけて練り上げられた技術は鮮やか見事と称賛したくなる様な美しさを感じさせた。

 

 が、終わらない。バーサーカーの急所に突き刺さる筈だった投擲物は身体に当たり、弾かれた。

 

「◼️◼️◼️◼️ーーーッ!!」

 

 それはマスターである少女を狙われた怒りか、それとも鮮やかな暗殺技を見せた事に対する賞賛か。バーサーカーは咆哮と同時に斧剣をアサシンに目掛けて振るった。

 

「アサシン、躱せ(〝令呪使用:強制転移〟)」

 

 空中にいたアサシンではその一撃を回避する事は出来ず、また防御する事も出来ないと判断して令呪を使用した。斧剣の一閃が当たる直前にアサシンの姿が消えて空を裂き、消えたアサシンが俺の隣に現れる。

 

「あら、もう令呪を使っちゃったの?」

 

「まだ死なせるには早過ぎるんだな。それに俺、エリクサーとかガンガン使っていくタイプなんだよ」

 

 三度限定の奇跡、参加条件を考えれば実質二度までしか使用する事が出来ない令呪の重要性は理解している。が、だからといって躊躇ってアサシンを殺すという真似はしない。バーサーカーでは相手が悪いというだけであって、アサシン自体は非常に優秀なサーヴァントなのだ。

 

「にしても、肉体そのものが宝具とかズルくない?」

 

「えっへん、凄いでしょう」

 

 脳に入れていた蟲を起こし、忘却しないようにと入れていた過去の記憶からバーサーカーの宝具を思い返す。

 

 ヘラクレス(バーサーカー)の宝具は〝十二の試練(ゴッド・ハンド)〟。Bランク以下の攻撃を無効化し、11の命のストックを付与し、更に既知の攻撃に対しては耐性を得るというもの。これにより、バーサーカーを完全に殺したければ、一流(Aランク)相当の攻撃で、異なる十二の手段を用いて、バーサーカー十二回殺さなくてはならないという頭がおかしいんじゃないかと叫びたくなる様な事になっている。

 

 今回の聖杯戦争でバーサーカーを単騎で殺す事が出来るサーヴァントは召喚されていない。セイバーが行った様に一撃で複数回殺すなどの抜け道もある事にはあるにはあるが、彼女一人で倒す事は不可能と思っていいだろう。唯一可能性があるとするのならばアーチャーか。だとしてもそれは殺(・)せ(・)る(・)手(・)段(・)を持っているだけでしかなく、俺の〝識っている〟限りではアーチャーは単騎でバーサーカーに挑んで負けている。

 

 アサシンではバーサーカーを殺し切る事は出来ない。筋力、宝具のダメージを与えられるステータスはどれもがBランク以下で〝十二の試練(ゴッド・ハンド)〟を突破する事は不可能。令呪によるアシストがあればいけるかもしれないが、出来たとしても一度だけ、その上耐性を付与する事になるので悪手でしかない。

 

「はぁ……アサシン、下がれ」

 

 他に手段は無い、切り札を切る以外にバーサーカーには勝てないと判断し、アサシンに下がる様に指示を出し、代わりに俺が前に出た。

 

「……一体何のつもりかしら?」

 

「さて、何だろうな?」

 

 訝る様なイリヤスフィールの言葉と視線を嘲笑いながら流す。言葉で、態度で、行動で、格上の存在である彼女を煽る。

 

「ふざけて……!!バーサーカー!!」

 

「◼️◼️◼️◼️ーーーッ!!」

 

 外見通りに精神が幼いのか、それとも我慢という事が出来ない性格なのか、イリヤスフィールはあからさまな煽りに乗ってきて、バーサーカーを差し出した。鼓膜が破れんばかりの咆哮と同時に、突貫してくる。

 

 一歩踏み出すごとに局地的な地震が発生し、その巨体に似つかわない速度で迫るバーサーカーはまるで重量戦車。防御、回避、反撃がすべて無意味。

 

 だが、それがどうした?

 

 神話の英雄が何するものぞ。

 

 彼の王に挑もうと言うのだーーー神話の一つや二つ乗り越えなければ話にならない。

 

 意識を外界から内側に集中させる。絶体絶命にありながらも胸の内で規則的に鼓動を打つ心臓に意識を向ける。

 

「接続開始(circuit connect)」

 

 ドクリと、規則的に刻まれていた心臓が邪悪に脈打つ。

 

 眼前にはバーサーカーがあり、加速を乗せた斧剣の一撃が降りかかる。

 

 その速度ば人間の眼球を持ってしては捉える事は愚か、影を追うことさえ叶わないだろう。このままならば、俺は死んだという事実を認識するよりも早くに死を迎える事になる。絶対的な死を目前にして恐れは欠片も湧く事はない無く、静謐な精神でその一撃が落ちてきた。

 

だが、生きている。

 

 防御、回避、迎撃の全てが無意味な絶対的な死が降り注ぎながら、怪我一つ負うことなく生きている。

 

 眼前にあるのは静止した斧剣の切っ先。あと少し振り下ろされたいれば頭蓋を砕かれていたであろう場所で止まっている。その柄には担い手であったバーサーカーの手は無い。

 

 バーサーカーは、離れたイリヤスフィールの場所まで下がり、膝をついていた。

 

「何……何なのよ!!そ(・)れ(・)は(・)ッ!!」

 

 怯え、驚愕、困惑。それらの感情が入り混じった複雑な表情を浮かべながらイリヤスフィールは俺をーーー否、俺(・)の(・)背(・)後(・)を(・)見(・)て(・)叫んでいる。

 

そこにあったのは、いと悍ましき何かだった。

 

 バーサーカーよりも一回りな巨大な体躯を泥で構成した不定形の存在。手と思わしき部位があり、頭部と思われる箇所があり、女性らしいラインが見受けられる人型に見えなくはない巨人。全身から泥を滴らせながら、両腕を使ってバーサーカーの斧剣を受け止めている。

 

「流石はギリシャ神話の大英雄。数合わせの雑兵や魔術師もどきは愚か、アサシンであっても敵わないか」

 

 背後に佇むそれに向かって手を伸ばす。それは頭部を下げ、まるで愛玩動物が飼い主にじゃれ付く様に、頭部を手に擦寄らせた。

 

「だがーーーご覧の通り、彼女はそれらに当てはまらないんでな」

 

 邪悪に脈打つ心臓に意識を集中させる。自分の心臓だとはいえ、臓硯に弄られてから十年の年月が経っているとはいえ、これは人の身では余る力だ。気を抜いた瞬間に俺が食い殺されてもおかしくはない。

 

 バーサーカーは唯一の武器を奪われた。そして、片足は膝から下を失っている。人型を構成する泥はサーヴァント殺しの泥。霊基を汚染し、魂を溶かす最悪の代物。バーサーカーの踏み込んだ足が泥に触れ、その結果食われたのだ。

 

 記憶にある通りの代物ならば、サーヴァントの属性を反転させる効果もあったはずなのだが、俺という依り代が影響しているからなのかそれ以上の効果は無い。

 

 だが、それで十分。〝十二の試練(ゴッド・ハンド)〟を貫通して片足を奪えた。それはつまり、バーサーカーを殺す事ができるという事。

 

「〝蠱毒の女王〟、〝汚泥の貴婦人〟ーーー喰らえ、獣の如く」

 

 その言葉と同時に泥の人型、〝汚泥の貴婦人〟は動き出す。腕を地面に着け、頭部に大きな切れ込みを作り、泥を撒き散らしながら四つん這いでバーサーカーへと向かっていく。

 

「逃げるわよ!!バーサーカー!!」

 

 醜悪極まり無いその姿を目にしてイリヤスフィールの下した判断は逃走。あぁ、その判断は間違っていない。こんな化け物を見たら、初めに考えることは逃げる事だ。情報不足のまま戦って負けるよりも、恥を忍んで逃げて生き延びる方が利口である。

 

 当然の様に、それは俺も考えている。

 

 イリヤスフィールを抱えようとして伸ばした腕が蟲によって落とされる。それは最初にバーサーカーが蹴散らした蟲と同じ百足の様な蟲だ。しかし、全身からは〝汚泥の貴婦人〟と同じサーヴァント殺しの泥を纏っていて、英霊殺しの特性を得ている。

 

 それだけに留まらず、道路を、戦場の上空を無数の羽虫が旋回している。どれもがサーヴァント殺しの泥を滴らせ、イリヤスフィールとバーサーカーの逃げ道を塞いでいる。

 

「◼️◼️◼️◼️ーーーッ!!」

 

 逃げられないと判断し、バーサーカーはマスターの意思に逆らって〝汚泥の貴婦人〟へと向かっていく。鋼の如く鍛え上げられた腕が唸りを上げ、〝汚泥の貴婦人〟を殴る。拳圧で触れる事なく泥を弾き飛ばし、構成する泥を減らされながらも〝汚泥の貴婦人〟は命令通りに獣の様にバーサーカーに襲いかかる。

 

 サーヴァントを殺す泥に浸りながらも戦闘を続けられる事には流石は神話の英雄だと感心する。だが、この勝負にバーサーカーは勝つことは出来ない。

 

 〝汚泥の貴婦人〟は死なない、そもそも生きていない。いくら拳圧で泥を吹き飛ばそうが構うことなくバーサーカーに襲いかかる。

 

 そして何より、バーサーカーは泥に浸りながらも戦っている。自分の霊基を砕きながら戦うそれはもう自殺行為と変わりない。片足が無くなり、片腕を失い、残された片腕で這いずりながらなお戦う意思を見せるものの、すでに顔の半分が、下半身が、胴体の殆どが消えている。

 

 もう死んでいなければおかしい状態でなお戦う。その姿を、ひどく尊い物だと感じた。

 

「ーーー勝って……」

 

 それは油断だった。格上に挑んでいるというのに、してはいけない行為だと知っていたはずなのに、死ぬ事を厭わずに戦うバーサーカーの姿に感じ入ってしまったために出来た致命的な隙。

 

「負けないで!!バーサーカー!!(〝令呪使用:戦闘強制続行〟)」

 

 イリヤスフィールの身体に紋様が浮かび上がり、その量を減らす。

 

 その瞬間にバーサーカーから膨大な魔力が放たれた。

 

 それはセイバーが使用している魔力放出のスキルに匹敵するものだった。暴風と見間違うほどの出力で吹き荒れる魔力が身に纏わり付いた、そして周囲一帯の泥を吹き飛ばす。

 

「◼️◼️◼️◼️ーーーッ!!」

 

 咆哮、残された片腕を使って跳躍。魔力を放出させる事で推進力を得たバーサーカーは自身を弾丸として真っ直ぐにこちらに向かってくる。その速度は開いていた距離を一息の間に詰め、俺を轢き殺さんと迫る。

 

 あの有様ではバーサーカーはもう戦うことは出来ない。脱落する事は避けられなかった。だから、最後の力を振り絞って相打ちに持ち込もうとしているのだろう。向かってくるバーサーカーの目からは死んでも殺してやるという殺意と決意が伝わってくる。

 

 だが、決死の特攻も、俺の想像を上回らない。

 

「抱き締めろ、処女(おとめ)の如く」

 

 足元の泥が競り上がり、人型を取って新たな〝汚泥の貴婦人〟が現れる。

 

 〝汚泥の貴婦人〟とは泥を人型に型どらせた存在を指す。泥さえあるのならば、いくらでも作り出す事が可能なのだ。

 

 〝汚泥の貴婦人〟とバーサーカーが激突する。バーサーカーが咆哮を上げながら後ろに立つ俺に迫らんとするが、それは自分からサーヴァント殺しの泥に浸っていくのと同じだ。

 

 徐々に体積を減らし、魔力放出の勢いを弱めーーーそして、完全に〝汚泥の貴婦人〟の体内に沈んでいった。

 

 勝った、勝つ事が出来た。殺せる手段を用意していたとはいえ、それはイリヤスフィールの油断と慢心を前提にしていた綱渡りの戦いだったのだ。もしも初めから彼女が全力で殺しに来ていたとしたら、俺は死んでいたに違いない。

 

 最初の難関を乗り越えたと思い、安堵してタバコを吸おうとした瞬間、

 

「◼️◼️◼️◼️ーーーッ!!」

 

 〝汚泥の貴婦人〟の背中を貫いて、バーサーカーの腕が伸ばされた。完全なる予想外からの不意打ち。全身をサーヴァント殺しの泥に浸かりながらもまだ生きているなどと誰が思うか。バーサーカーの怪力を持ってすれば、ただの人間なんて掠っただけで十分に殺せる。

 

 あ、死んだと思いーーー伸ばされた手は眼前で空振った。それが本当の最後の力だったのか、バーサーカーは動かなくなり、完全に泥の中に沈んでいく。万が一を警戒し、距離を取ってもそれ以上の変化は起きない。

 

 バーサーカーの腕は、肘から先が無くなっていた。鼻先に届くか届かないかの距離で、バーサーカーの最後の足掻きは失敗に終わった。泥に霊基を汚染され、魂を溶かされ、間違いなく終わっていた筈だった。それなのに、彼はそれを乗り越えて俺の喉元にまで迫って来たのだ。

 

 その姿に恐怖するでは無く、怒りを覚えるでも無くーーー羨ましいと思った。

 

「ば……バーサーカー……」

 

「はぁ……はぁ……アサシン」

 

「御意」

 

 バーサーカーの最後を見て唖然としていたイリヤスフィールの首にアサシンが手刀を落として気絶させる。勝った気がまるでしない。バーサーカーを殺し、イリヤスフィールを手に入れるという想定していた最高の勝利を得たというのに。

 

 だが、そう思う反面、気分は清々しかった。連れて来ていた蟲の大半を殺され、令呪を一画失ったが、それ以上に得るものがあったと感じたから。

 

「が……ッ!!グゥゥ……ッ!!」

 

 その余韻に浸っていたかったが許されなかった。心臓に激痛が走り、何か巨大な物を入れられたかのような不快感が襲う。思わず膝をつき、胸元を掻き毟る。しばらくすれば不快感は残るものの、痛みは引いて立ち上がれる程度には落ち着いて来た。

 

 その代わりに、飢えと倦怠感が一緒くたになった衝動が襲って来た。

 

 心当たりはある。魔力不足だ。アサシンだけでも魔力が足りなかったのに蟲の使役と〝汚泥の貴婦人〟まで使ったのだ。心臓が特別性だからなのか気絶するまででは無いが、早急に魔力を取り込む必要が出て来た。

 

「アサシン……工房に帰る。彼女を連れて来てくれ」

 

 魔力不足の懸念は初めから考えていた事だ。そして解決する為の手段もしっかりと確保している。

 

 アサシンの抱えるイリヤスフィールを見て、暗い笑みを堪える事が出来なかった。

 

 

 






マコニキの切り札はサーヴァント殺しの泥。臓硯によって心臓にアレが埋め込まれていて、それによって大元であるアレと繋がりを持ち、尚且つアレの意思と契約を結んでいるのでアレの中身である泥を呼び出す事ができる。原作と仕様が異なっているのはマコニキとの契約による影響。反転なんて不要。ただ殺して溶かし、取り込む事だけに特化してる。

アレって一体何なんだろうか……(スッとぼけ

でも呼び出すとただ垂れ流すだけなのでもったいないと思い、試行錯誤した結果人の形をとらせて使役する事に成功する。それが〝汚泥の貴婦人〟の正体。

魔力不足、幼女誘拐、暗い笑み……うん、次回はそういう話だよ!!

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