タイトル変更。ナツ様の服装や管理外世界の人に魔法を見せてしまったことについての苦しい言い訳、何かまずいことが起こりますよ……という引きを表現してみました。
いろいろといっぱいいっぱいなピアと泰然自若とした葉子が祭壇に到着すると、そこには初花と一目見ただけで上質とわかる巫女服に千早を羽織った犬耳のかわいらしい少女がいた。犬耳少女は葉子を見つけると駆け寄ろうとして、ピアが近くにいることが分かって、そそくさと初花の影に隠れてしまった。
「葉子さん。あちらの少女は一体……? もしかして怖がらせてしまいましたか?」
「いえいえ……彼女はナツ様。この神社で祀っている神様です。かなり人見知りが激しい方ですのでお気になさらず」
「へぇ……神様なんですね………………ええっ!?……かっ……神様……?」
「そんな馬鹿な……と思いますか? あなた方の世界では眉唾かもしれませんが……ここ第97番管理外世界地球では神様は実在します」
「……っ!……管理局でのこの世界の呼ばれ方も知っていらっしゃるのですね。驚きました。神様に関してはちょっと信じられませんけど……たしかにあの少女は普通とは違う雰囲気を持っているように思えます」
「ふふふ……神様ですから。さて、神様のことも気になるでしょうが、今はあなたの治療が最優先です。その症状を治すには消毒液が必要です。桂香さんを待ちましょうか」
「え……消毒液? そんなものでこの疼きが何とかなるものなのですか?」
「ええ、ナツ様のお力があれば大丈夫かと」
そんな簡単なもので大丈夫なのかとピアが疑問に思っていると、桂香が祭殿へと駆け込んでくる。
「すみません、お待たせしました。消毒液です」
「はい、確かに。さて、ナツ様、大変申し訳ございませんが、少しお力をお貸しいただけませんか?」
「ん。そのひと、かなり汚くされてる……。まかせて」
葉子の言葉を受け、一目でピアの症状を見破ると、ナツは桂香から消毒液を受け取り、力ある言葉を紡ぎだす。
「消毒液は毒を消すもの。妖気はからだに毒。だから毒の妖気は毒を消すもので消える」
「え……?」
ナツにしては長めの言葉だが、その言葉を紡ぎだした瞬間のことである。戸惑うピアの身体から紫色の靄のようなものが現れて霧散する。
「……っ!?……いっ……今のは……?」
「あなたの身体に残っていた妖気の塊です。エッチな気分にさせていた元凶ですね。どうですか? 身体に何か異常はありませんか?」
「い……いえ……むしろ身体が軽くなりました。一体何が起こったのでしょうか?」
「簡単に言うとですね……妖気を毒に見立てて消毒液で消毒してもらったのです」
「…………え……? で……でも消毒液はバイキンを殺すものでしょう? 使用したのは妖気を消す消毒液なのですか?」
「そうですね……う~ん、まぁ、ナツ様のお力と思っていただければよろしいかと……ナツ様は救急箱で壊れたものを『なおす』ことができますからね。それと同じやり方を採用させてもらったわけです。出来るとは思っていましたが、上手くいってよかった」
「っ……事象改変……!? いや違う、何といえばいいのか……うまく説明できないわ……とにかくすごい力……!」
「……ふぅ……ピアさん、考え込むのは分からないでもありませんが、それは今ではありませんよね?」
「あ…………す……すみません……ええっと……ナツ様、ありがとうございます。貴女のおかげで助かりました」
「ん……」
戸惑いがちにお礼を言うピアにナツは一言だけ返し、そのまま葉子のうしろに隠れてしまった。
「あ…………もしかして嫌われてしまったのでしょうか……?」
「ふふふ。大丈夫……照れていらっしゃるのですよ」
「そ……そうですか……それならいいのですが……」
「これでも大分マシになった方ですよ。以前なら近付くことさえ稀でしたから……まぁ、それはさておき、お互い色々と話したいことがあるでしょうからね。居間に行きましょうか」
葉子がそう締めて一行は居間へ向かうのだった。
―――音羽家居間―――
「さて……何から話していきましょうか。とりあえずピアさんの出身からの方がいいかしら?」
話し合いは葉子が仕切ることにしたらしい。話を振られたピアは神妙な顔をして口を開く。
「まず、言っておきましょうか……私はこの世界、地球の出身ではありません」
「ええ~~~~!! ピアさん、宇宙人なの!? 宇宙人って人間と同じ姿してるんだ……へぇ~~!」
「こら初花! 話の腰を折らないの! 黙って聞きなさい。質問は後から!」
「ちぇ……は~い」
少し話の腰を折られてしまったが、ピア気にすることなく次元世界、管理局について説明していき、自分が執務官をしており、どのような仕事をしているかを順々に話していった。
「……………」「……………」
絶句している二人に対して葉子は涼しい顔をしている。自分のもつ情報と照合しているようだ。ナツはよく分かっていないような顔をしている。
「お姉ちゃん! 魔法! 魔法だって……! うぅ~ものすごく見たい! ねぇピアさん、見せて見せて!」
「こっ……こら! 初花! 無茶言わないの!」
「ん……わたしも……ちょっとみたい……」
「う……ナツ様まで……」
「そんなこと言って……お姉ちゃんも見たいくせにぃ~」
「うっ……うぅ………………その……ピアさん……私も……見たいです……」
初花とナツ様の圧力に桂香が折れる。その結果、三対の期待感を露わにした瞳がピアを見つめる。
「ふふふ……本当はいけないんだけど……ちょっとだけよ?」
執務官としてそれはどうかと思うが、この視線に耐えられる者がいれば、それはただの人でなしである。これは仕方がないことなのだ。ピアはそう自分に言い聞かせると、魔法弾を4つほど作り出す。足元にはお馴染みのミッドチルダ式魔法陣が展開される。
「おお……!魔法陣だぁ!カッコイイ!」
思わず漏れてしまった初花からの感想に苦笑しながらも、作り出された魔法弾はピアの周囲を高速で回転する。そしてその動きを止めたかと思うと部屋の四隅に飛んで行き、天井まで打ちあがった後、ピアの手元に戻ってきて消える。
「とまぁ、こんな感じです。お粗末さまでした」
「すごい!かっこいい!」「ピアさん、すごいです!」「……すごい」「やりますね」
拍手とともに賞賛を送る四人。ピアは手放しで褒められ少し照れくさそうにしている。
「さて、話を続けましょう。ピアさん、本題はこれからなのでしょう?」
「はい……実は次元世界で女性が襲われる事件が相次いでいるんです。被害にあった女性はみんな異形を見たと証言しています。私も襲われました。先ほど霧散した妖気の原因ですね」
当然の事ながら、ピアが襲われた事件の他にも同様の被害が相次いで発生していた。ピアは地球へ行く前に、同じような被害にあった人から話を聞いていたのである。
「被害にあった私自身と他の被害者の証言から、かつて地球で読んだことのある書籍で見た怪物に容姿が似ていると思って、ダメ元で調査に来たんです。結果は当たりのようですね」
「ピアさんが襲われるって……そんなに強い妖怪に襲われたのですか?」
先程の魔力弾の件も含めてかなりの実力がありそうなピアが負けた、ということを疑問に思った桂香が会話に加わる。
「そうですね……私が襲われたのは膝丈くらいの大きさのガリガリで腹の出っ張ったやつよ」
「……それって餓鬼!? 魔法が使えるピアさんがやられるとは思えないよ。そんなに強い妖怪じゃないし」
「そうね……何か想定外の事が起こったと思っていいのかしら?」
「……はい。そのとおりです。ガキというのですね……実は先ほどお見せした魔法弾でヤツらを攻撃したのですが、全然効果が無くて……よくは見ていませんでしたが霧散するかのように消えてしまったのです。お恥ずかしながら効果がなかったことに動揺しているうちに組み敷かれてしまってそのまま……」
「「ピアさん……」」
妖怪に襲われてしまった状況を語るピアを慮って心配そうに見る桂香と初花。
「ふふ……大丈夫よ、ふたりとも。そんな辛ぁい気分は……身内に吐き出したから」
「ふふふ……心がお強いのですね、ピアさん。しかし、魔法が効かなかったのですか……次元世界にとっては相当やっかいなことですわね。ピアさん、対処法を知りたいのではないですか?」
「そうですね……できることならヤツらをぶっ倒してやりたいところです」
「ふふ……そうですか……ピアさんなら出来ると思いますよ。……少し休憩しましょうか。対処法は休憩の後ということで」
「わかりました。少し上司に報告しておきます」
ピアはそう言って席を立ち、通信のために居間を出ていくのだった。だがこの時ピアは知る由も無かった。第8番管理世界アラルガンに端を発するこの“妖怪事件”が、やがて次元世界を揺るがす難事件に発展していくというその未来のことを……。
2022/8/4 追記
無形についての話題が中々挿入できませんね……もう少し改稿作業は続きそうです。もう少しだけお付き合いください。