異形たちに性的に蹂躙されながらも気丈に耐えていたピアに救いの手が伸ばされる。回収部隊隊長のヴィーオロン・セロだ。
「うおおおおおおぉぉぉ……そこをどけぇ!!」
ヴィーオロンが裂帛の気合いと共に、一方的な情事に耽っていた異形を殴り飛ばす。魔法弾は通じなくとも、殴れはするらしく、突然の衝撃に驚いたのか蜘蛛の子を散らすように逃げていく異形。
「……くそ……逃げたか……。倒しておきたかったが……まぁいい。今はニッシモン執務官を優先しよう」
そう言って男は異形に蹂躙されたピアに近づく。
「……くっ……おのれ化け物め……何てことを……ニッシモン執務官!意識はあるか!? 回収部隊のヴィーオロンだ!」
「……うぅ……ヴィーオロン隊長……? はい……なんとか……」
弱弱しいながらも意識はしっかりしているらしく、なんとか言葉を絞り出すピアにヴィーオロンは安堵の溜息をつく。
「よかった……意識はあるみたいだな。ニッシモン執務官、もう大丈夫だ。安心してくれ。……救護班何してるんだ、早く来い! ……おい、男は来るな、女性だけだ」
ヴィーオロンはピアの惨状に配慮して女性を向かわせる。
「回収班はいるか? 付着した体液と思われるものは採取しろ。分析班に回すんだ」
何かの手掛かりになるかもしれないと、回収班も呼ぶ。
「わかりました……これは……ニッシモン執務官、失礼します」
付着した白濁液を回収し、容器に詰める回収班。
「回収しました。分析に回します」
「頼む。救護班、ニッシモン執務官を早く安全なところへ」
「わかりました。ニッシモン執務官、もう大丈夫ですよ。失礼します」
救護班によって担架に乗せられたピアは運ばれていく。ヴィーオロンは悲痛な表情でそれを見送った。
「もっと早く駆けつけられればよかったのだが……すまないニッシモン執務官……しかし本当によくわからない生物だったな……女性を性的に襲うなんて聞いたことがない。分析でなにかわかればいいのだが」
ヴィーオロンはつぶやいたあと、報告のためにベース基地の帰路についた。
意識のはっきりしていたピアは、ひとまずベース基地に運ばれ、こびりついた汚れを落とすためにシャワー室を利用していた。
「……………………………」
無言でシャワーを浴びるピア。シャワー室には強い水音だけがこだましている。
「……っ………ひっく……ぐす……」
身体はきれいになっても異形に初めてを奪われ、蹂躙されつくした心の傷は治らない。気丈な執務官は、人のいない個室でシャワーの音に紛れ、一人声を殺して泣いた。
ひとしきり泣いたピアは身体を念入りに洗った後、シャワー室の鏡の前に立つ。
(うわぁ……ひどい顔……。こんな顔じゃあ気を遣われてしまうわね……よし……!)
ピアは気合いを入れなおすかのように頬を叩くと、身体を念入りに拭いて服を着る。
(……よし……!報告に行きますか!空元気でも元気のうち!)
そう言い聞かせてピアは指令の待つ執務室へと足を向けて歩き出した。
執務室に到着したピアを待っていたのはベース基地指令のスフォルと回収部隊隊長のヴィーオロンであった。
「ニッシモン執務官! もういいのですか? もっと休まれたほうがよかったのでは?」
「いえ、大丈夫……とまでは言いませんが、落ち込んでいてもしょうがありません。報告しておいた方がいいこともありましたし……」
「そうですか……無理はなさらないでくださいね?」
「お気遣いありがとうございます。それとヴィーオロン隊長、助けていただいてありがとうございます」
「……いや、もっと早く駆けつけられればと思っている。苦しい思いをさせてしまって申し訳なく思う」
「そんな……助けていただいただけでもありがたいです。お気になさらないでください」
「そうか……だが不可抗力とはいえ裸も同然のあなたを見てしまった……すまない」
「……その……すみません……お見苦しいものをお見せしてしまって……」
「……っいや、その……そんなことはない……綺麗だったと思う……って俺は何を言っているんだ!?」
「……………………………」
「……………………………」
お互いに顔を赤くしてうつむいてしまうピアとヴィーオロン。
「……ゴホン」
居た堪れなくなった空気を打ち消すため咳払いをするスフォル指令。
「もういいですか? ニッシモン執務官、報告したいことがあるとういうことでしたが……」
「……はっ…はい。私があの生物に不覚をとった原因でもあるのですが……あの生物は、魔力反応はおろか、生体反応も無かったのです」
「……馬鹿な! そんな生物いるはずがない。あの生物は殴ることができたし、あなたに触れていたではないか」
「ヴィーオロン、落ち着きなさい。ジャミングされていた、ということはないのですか?」
「私の感知能力に賭けてそれはありません。組み付かれた時も反応がありませんでしたし、目に見える状態でジャミングをかける意味もないと思います」
「ふむ……たしかに。不思議な生物ですね……ヴィーオロン、分析班の結果はどうだったのですか?」
「はい……ただの精液だったそうです。該当する生物はデータベースにありませんでした。完全に新種です」
「大した手掛かりにはならなかったということですね……わかりました。とりあえず住民には厳戒令を出しましょう。特に女性の一人歩きは厳禁だと。ヴィーオロン、頼みます」
「わかりました。それでは」
「……あっあの……」
一礼をして執務室をあとにしようとするヴィーオロンにもじもじしながら声をかけるピア。
「どうしたニッシモン執務官?」
「あ……あの、助けてもらったお礼がしたいので、連絡先を教えてもらえないでしょうか……?」
「……あっ……ああ、構わないが」
そのいじらしい姿に動揺しながらもなんとか言葉を返すヴィーオロン。二人は連絡先を交換するとしばらく見つめあう。
「ゴホン、厳戒令の件、頼みますよ、ヴィーオロン」
「……はっ…はい。わかりました。それではこれで失礼します。ニッシモン執務官、またな」
「……はい……!」
嬉しそうなピアと再び視線を交わし、ヴィーオロンは今度こそ退室する。
「……さて、ニッシモン執務官、ヴィーオロンは堅いところがありますが誠実な男です。よろしくたのみましたよ?」
「……えっ……?……あはは……ありがとうございます……って何言ってんだろ私」
「ははは……まぁそれはそれとして、あなたはこれからどうしますか? あの生物の件はうちの管轄になるわけですが」
「そうですね……関わってしまった以上何とか調べてみたいと思います。少し心当たりがありますので」
「なんと……あの生物に心当たりが? お聞きしてもよろしいですか?」
「はい。以前訪れた世界であのような造形の生物が描かれた書籍を読んだことがあるんです。眉唾物の話なのであまり期待はしてないのですが」
「そうですか……どんな情報でもいいので何かわかったら教えてくださいね?……ちなみになんという世界なのですか?」
「はい。第97番管理外世界地球です」
プロローグはこれで終わりです。次は地球での話。