時空管理局本局所属執務官ピア・ニッシモンは、休暇を申請し、第97番管理外世界地球に行くために本局の中継ポートに来ていた。働き詰めだったピアの休暇申請に人事部は二つ返事で申請を受理。異形についての調べ物があるにしろ、小旅行の気分で羽を伸ばすことにしたのであった。
「……久しぶりの地球ね。懐かしいわ……地球側の中継ポートの管理は……ギル・グレアム元提督だったかしら。挨拶しないとね」
地球側の中継ポートは月村邸とギル・グレアム邸にあり、今回は伝手のある後者を使用することにしたのである。
『第97番管理外世界地球・ギル・グレアム邸に転送します』
一瞬の浮遊感とともに転送が行われる。景色が変わり、無事に転送されたことがわかる。
「おっ?来た来た。久しぶりだね~ピアっち」
「お久しぶり。ピア」
ピアを出迎える声、それはギル・グレアム元提督の使い魔リーゼロッテとリーゼアリアだった。二人はピアが執務官になる前、指導教官であったため、非常にお世話になっている。そして同じく二人の弟子であるクロノ・ハラオウンと歳が近かったこともあり、可愛がってもらっていたのだ。
「お久しぶり。ロッテ、アリア。もぅ、ピアっちはよしてよ。私もいい歳なんだから」
「ははは。でもピアっちはピアっちだしねぇ。今更だよ」
「ふふふ。ピア、父様には会っていくのでしょう?」
「ええ、茶菓子も持参しているわ。少し相談したいこともあるし」
「じゃあ行こうか。父様も会いたがってたよ」
二人に先導され、応接室に通されるピア。応接室には立派な髭を携えた老人が待っていた。ギル・グレアムである。
「おお、ピア。待っていたよ。久しぶりだね。さぁ掛けなさい」
「グレアム提督。お久しぶりです。失礼します……あ、これ、お土産です」
「ありがとう。アリア、お茶を入れてくれないか」
「はい、父様」
しばらくしてお茶が運ばれてくる。近況や世間話をして旧交を深めた後、ギル・グレアムは本題を聞く。
「……それで……私に相談があるのだったね……私に出来ることだったらいくらでも協力しよう」
「はい……ついこの間の任務でのことなのですけど……」
ピアは第8番管理世界アラルガンでのことを話す。魔力反応も生体反応もなく、女性を性的に襲う生物のこと、自身も被害にあったが助けられたこと、その生物に似たような造形の生物の描かれた書籍が地球にあった気がすることを。
「……なんと……」「ピアっち……」「ピア……」
衝撃的な話に二の句が告げられない三人。ピアは取り繕うように言葉を発する。
「あはは……もう終わったことですし、犬にでも噛まれたと思っておきますよ……はは……」
強がりにしか聞こえないセリフに思わず、リーゼロッテとリーゼアリアはピアを両側から優しく抱きしめる。
「ピア、いいのよ泣いても……我慢なんてしないで……」
「そうだよピアっち……そんな顔して言っても強がりにしか聞こえないよ……」
「ロッテ……アリア……ぐすっ……そんな……こと言ったって……うぅ……どうしたら……いいのよ……! あんな訳のわからない生物に犯されて……初めてだったのに……痛かった……気持ち悪かった……! なんでもっと早く助けに来てくれなかったの……なんで私がこんな目に………! うぅ……ぐすっ……うわああああああああああぁぁぁぁぁぁ…………!!!」
今まで抑えていた気持ちが一気にあふれ出すピア。いくら気丈に振舞おうとも無茶苦茶に犯された心の傷は癒えるものではない。ピアは優秀で気丈な執務官ではなく、一人のか弱い女性に戻って思いっきり泣くのであった。
「……ぐすっ……ありがとう二人とも……すっきりしたわ……」
「いいってことよ!」「ふふふ。よかった」
「ピア……君は抱え込むことが多すぎる。もっと発散することを覚えなさい」
「ふふふ……そうですね。気を付けます。また何かあったら愚痴でも何でも聞いてもらっていいですか?お祖父様?」
「ああ、いつでもどうぞ。わが孫よ」
四人の間に穏やかで優しい時間が流れる。するとおもむろにリーゼロッテが口を開く。
「そうそう、ピアっちを助けたヴィーオロンってどんな男だい?お姉さん、気になるなぁ……」
「ふふふ……私も気になるわぁ……何せピアを窮地から救った王子様だもの。ねぇ、どうなの?」
「……えっ!?わ…私とヴィーは別にそんな関係では……」
「ヴィーだって~もう愛称で呼ぶような仲なんだ~アツいねぇ」
「これは……ふふふ……ピアにも春が来たのね。おめでとう」
「なんと……ピア、休みが合ったら連れてきなさい。我が孫にふさわしいか試してくれよう」
「父様ジジ馬鹿~」
「もぉ!三人とも!からかわないで!」
「ははは……まぁ冗談はこれくらいにして……例の生物のことだ。私にも詳しいことは分からないが、おそらく“妖怪”というたぐいのものではないだろうか」
ギル・グレアムは孫娘をからかうのをやめていきなり本題に突入する。まぁ半分以上は本気で言っていたのであろうが。ジジ馬鹿ここに極まれりである。
「もぅ……いきなり本題に入らないで下さいよ……それにしても……“妖怪”ですか?」
「そうだ。私の古い知り合いに妖怪に詳しい者がいてな。ピアの話を聞いて、その者を思い出した」
「……!その方に連絡をとっていただくことはできますか?」
「可能だよ。少し待っていなさい」
そう言ってギル・グレアムは席を外す。幸先のいいスタートを切れたことにピアは内心驚いていた。
「妖怪ねぇ……なんで地球原産の怪物が次元世界に現れたんだろ?」
リーゼロッテがふと呟く。
「確かに。どうやって移動したのかしら……?」
リーゼアリアも疑問を投げかける。
「わからない。それを含めて詳しい話を聞いてみようと思ってる」
三人が妖怪についていろいろ考えていると、ギル・グレアムが戻ってきた。
「待たせたな。会ってくれるそうだ。今は日本の○○県△△市にある水杜神社に住んでいるらしい。名前は音羽葉子、いや今は滝峰だったか。詳しい住所はこれだ」
「日本ですか。となるとまた中継ポートを使わないといけませんね」
「大丈夫だ。飛行機で行きなさい」
「……えっ?でもパスポート持ってないです」
「大丈夫だ。こんなこともあろうかと用意しておいた」
「……ええ!?……偽造じゃないですよね?」
「……はっはっは……大丈夫だ。ちゃんと使えるよ」
「……それならいいですけど……ありがとございます。では早速日本に向かうことにします。短い間でしたけどお世話になりました」
「うむ。元気でな。またいつでも来なさい」
「ピアっちまたね~」「ピア、またね」
三人の家族の見送りを受けて、ピアは空港に向けて出発するのだった。
かなり無理やりかもしれませんがようやく神楽シリーズの人物が出せました(名前だけ)