※この作品はR-18です。

介護しちゃうよ、ユーリちゃん!!   作:ぴんころ

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第一話

 第97番管理外世界『地球』

 

 最近になって目をつけられたその世界は、ジュエルシード事件、そして闇の書事件の二つによってその名を知らしめた。

 

 未来のエースになるのではないかと期待されている高町なのは、それと同格に戦えるフェイト・T・ハラウオン、そして闇の書の最後の主であり、最後の夜天の書の主、歩くロストロギアとすら称される八神はやて。

 そんな、将来有望な魔導師が入ってきたこともあるだろう。

 

 けれどそこには一人、将来有望ながらも魔導師としての道を閉ざされることになった少年がいたことは、そこまで大きく知られてはいない。

 

 

 

 

 

 

 ミッドチルダが首都、クラナガン。そこに位置する管理局は、今日は珍しく事件が一切なかったために落ち着いていた。

 

「川崎くん、今日はもう上がり?」

 

「うっす。お先失礼します」

 

 通信司令室。そこから退出しようとする一人の少年。これといった特徴もない黒髪黒目のよくある日本人の顔つき。イケメンかと言われるとそうではなく、かといって不細工かと言われるとやはり頭をひねる。大量の人間を無作為に集めたら彼と同レベルの人間が大半を占めるだろう、というような人物。

 

 そんな少年の唯一といっていい見てわかる特徴はやはり、その機械仕掛けの左腕だろう。

 

 少年ーーー川崎空が時空管理局に所属することになったのは闇の書事件から一年ほど経った後。先の三名より年上であった彼は、その時点で地球における義務教育を修了したこともあって、腕を失い、左腕を義手とした状態で管理局に所属することになった。

 高町なのはたちには及ばないながらも管理局内部で見れば非常に優秀な魔力量も、その時点でリンカーコアを破壊されたことによって二度と使えなくなっていた。

 

「おっ、ちょうどいいタイミングだな、空。お前の嫁さんが来てるぞ」

 

「嫁じゃないですよ」

 

 先輩の言葉に苦笑しながら、空は己を迎えに来た少女の元へと向かう。ゆるふわウェーブの金の髪を一つにまとめポニーテールに。その顔にはメガネがかけられた少女は空と出会った時から姿が変わらず、最初に出会った時には頭一つ分程度の差であった背丈は、今ではさらにその差が広がっている。

 

「空、大丈夫ですか?」

 

「ああ、大丈夫」

 

 わずかばかり、空の声が硬くなる。それに気がつく者は対面の少女以外誰もおらず、そして少女もその理由をわかっているからこそなにも言えない。

 

 この二人の関係性は加害者と被害者。

 

 少女ーーーユーリ・エーベルヴァインが暴走をした、闇の書事件からしばらくの後に発生したとある事件。すでに記憶からは消えているが未来人の干渉も合わさって起きた事件で、ユーリを止めるために空は左腕を失い、そしてリンカーコアもその時にほぼほぼ破壊された。

 彼の両親はそんな状態でそれ以上魔法に関わらせることを良しとしなかったのだが、リンカーコアが砕けたことがわずかながらに体に影響を与えていたこともあって、地球には魔法技術がないこともあって通院のためにミッドチルダに拠点を移していた。

 

「今日、また新しい義手の案ができたんです」

 

 家へと帰る最中、ユーリは会話の起点を探そうとして彼女が担当する魔導技術を介する義肢についての話を振る。

 彼女が今所属しているのは、リンカーコアを持ちながらも魔力量が少ない、などのこのままではまともに戦えない人たちのための何かを作成する研究機関。カートリッジシステムなどを始めとした、瞬間的に己の魔力を増幅する代物。それ以外にも、今彼女が言葉にした魔力で動かすタイプの義肢。これは管理局員が自らの四肢を欠損した場合に、これまで通りに戦えるようにするためのものであり、彼女の言葉通りに今から作成開始されるもの。

 

「だから、その、それができたら空の左腕も……」

 

 ユーリは元々、あの事件の後エルトリアと呼ばれる死にかけの星に向かう予定だった。それを、我儘を言ってまで残ったのは、ユーリ自身が奪った左腕の感触を、その時の苦痛の叫びを、そして壊れたリンカーコアという現実に、魔導師として誰かを助けられる人間になる道を奪われた時の空の表情を覚えているから。

 今の彼女がこの世界に残っているのは、左腕を失い、魔導師の資格も失った、けれどミッドチルダにいる必要がある彼の助けになるため。今の彼女が管理局に所属するのも、その部署も、全ては空が普通の人間として生きていけるように、五体満足にしか見えないような、完璧な左腕を作るためだった。

 

「意味ない」

 

 そんなユーリの言葉を空は端的に、冷たい一言で斬って捨てる。

 

「リンカーコアは使えないんだ」

 

 すでに、空のリンカーコアは砕かれている。その砕かれた破片とでもいうべきものは未だ体内に残っているが、体内に存在する魔力器官の破片は神経などに突き刺さり、使用することは神経に直接刺激を与えるような状態。故にこそ、戦闘どころか軽い魔力操作程度であっても今の空には厳しすぎる代物。

 

「あ……」

 

 その時の瞳は冷徹に。だからこそユーリはもう何も言えない。

 

 左腕が存在しないために誰かがサポートしなければならない彼の生活。そのサポートを名乗り出たことで、空とユーリは同じ家に住んでいる。幸いというべきか、空は他の地球出身の面々に比べて年上であったこともあって、仕事の量は多少多く、そしてそれに伴い貯金もあった。

 何よりも、そういった世界に巻き込んでしまった身、と言ってお金の面での補助をしてくれた人たちがいたことで家に関してはどうとでもなったし、かつて戦場に身を置いていたこともあって、通信士としての役割も最初から通信士になった者達よりはーーー通信を受ける側であったからこそーーーどう伝えれば相手にわかりやすいのか、相手が必要とする情報は何かということに多少なりとも心得があって、ミッドチルダでの生活はある程度は順調に進み始めた。

 

 ユーリとの二人暮らしという点を除いては。

 

 空からすれば自分の左腕を奪った憎き相手。ユーリからすれば罪悪感を抱く相手。そもそもまともに行くはずがない。

 

「あの、今日の夕飯……」

 

 それでもユーリは少しでも関係を改善しようとして、話の起点を探し続ける。

 

 別に、ユーリがわざわざ介護する必要はないのだ。ミッドチルダの病院に入り、腕を失った後の治療をした以上は最低限一人でも暮らしていけるだろうし、管理局の仲間はそこまで気の利かない連中ではなく、何か困っていたら嘲笑うのではなく最低限助ける程度の人情はある。

 

 だからこそ、この生活はユーリの我儘で繋がれている。その自覚があるために、ユーリは少しでも関係を良くしようとしている。

 

「なんでもいい」

 

 けれどそれは空には関係ないこと。なぜこの生活を続けているのか誰も語らぬ彼の本心は、誰かに伝わることなど決してなく、そしてまた彼自身がそれで良しとしていた。

 

 二人の歩く道のりはいつものように。バランスを崩すことになったとしても問題ないように、すぐに助けられる程度の距離。けれどそのわずかな距離はユーリにとっては絶対に平時に埋めることができない距離であったし、たとえ誰が今の二人の状況を見たとしてもきっと「恋人」という関係性にはたどり着けないのではないかと思うような距離。

 

 それが、今の二人の、事件の、すなわちはユーリが暴走している最中に出会った時に、お互いに対して一目惚れをした二人の距離だった。

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