※この作品はR-18です。

介護しちゃうよ、ユーリちゃん!!   作:ぴんころ

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第十話

「どうですか、空?」

 

「……やっぱり違和感はあるな」

 

 ユーリの目線が向くのは右腕。失われたはずのその空間には、人間に近いものでありながらも機械じみた部分も見え隠れしていて、一目で義手だとわかるものがある。新暦七十三年、空の右腕が喪失してからすでに二年が経ち、そこでようやく、魔力式の義手が完成した。腕がないために機器を扱うことができない空は、今の所は被験体という形で管理局にしがみつくような形になっているが、それもユーリを置いておきたいからだと理解できているから、空はそこまで喜べていなかった。

 

 そして何より、空は魔力を行使するたびに激痛を感じることになる。そんな、常に痛みを感じながらの作業などまともに集中できるはずもないとして、空はやはり通信スタッフから外されているのだった。

 

「精細な動きもできそうにないし……」

 

「まだまだ改良の余地がありそうですね……」

 

 見つめる義手はまだ五指が別れたりすることはなく、ただ物を握るだけのことしかできそうにない。聖王オリヴィエが身につけたという義手によく似ている。むしろそれをモチーフにしたのだと言われても納得できそうだ。

 

「……とりあえずこれで十分だろ」

 

「そう、ですか?」

 

「まあ、な」

 

 箸などを持てるわけではないが、それでも腕に何もないという違和感はどうにかなった。それだけでも十分なことだった。

 今はまだ試作品でしかなく、数も一つしかない。そうでなくとも、たとえ完成品になったとしても魔導師を魔導師として復帰させるための代物でしかない以上は、この義手に求められるのは武器を持てることと、肉弾戦になったとしても耐えうるだけの耐久力ぐらい。よって、空の日常生活を支えるには決して足りることはない。

 

「ユーリ、何かして欲しいこととかあるか?」

 

「へ……?」

 

 その発言は、ユーリにとっては全くの埒外の言葉だった。何せ、ユーリにとっては空の腕をどうにかするのは当然のこと。たとえそれが、己が原因ではないとしても、そういうものだと認識していた。

 けれど、それは空からすれば違う。少なくとも、今回は右腕に関する所業。それは、ユーリが何かをした結果ではなく、彼だけのこと。それなのにユーリから施される形で右腕をもらっている以上は、何かを返さなければ彼が納得いかなかった。

 

 空がそう言ったら

 

「え、えっと。少し考えさせてもらってもいいですか?」

 

「そりゃ、お前がして欲しいことなんだし。思いつくまで待つけど」

 

「はい……」

 

 今も、空の中には左腕に関しての憎悪が残っている。けれど、だからと言って全く関係ないところにまで持ち込もうとは思えなかった。

 

 

 

 

 

「それで、どうなったんだ?」

 

「どうなったって……」

 

 空がクロノと二人で話をしている最中、右腕の義手についての話に移り、そこで言うことを一つ聞くことになった、という話をしたところ、当然のことながらその内容について話が及ぶ。

 

「どこか一緒に出かけてほしい、だと」

 

「なるほど、デートか」

 

「いや、出かけるだけだろ」

 

「本気で言ってるのか?」

 

 本気で呆れている気配。外から見ていればユーリの感情はわかりやすい。いや、はっきりとはわからなくてもある程度は察することができる。そういう意味でのクロノの呆れ。

 

「むしろデートになる理由がないと思うんだけど。お前にはそれがデートになる理由がわかるのかよ」

 

「まあ、そりゃわかるさ。そうじゃなかったら、わざわざデートなんて言葉を使わないさ」

 

「それもそうだな。……なら、どういうことなのか教えてくれよ」

 

「それはダメだな。お前が自分で気がつかないと意味ないさ」

 

 即答。一切の躊躇なく。

 

「そういうものなのか?」

 

「そういうものさ」

 

 

 

 

 

「デート」

 

「デート」

 

「デート」

 

「なんで三人揃って同じ言葉を繰り返してるんですか?」

 

 それほどまでにユーリの言葉がなのは、フェイト、はやての三人には衝撃的だったのだろう。少なくとも、これまでの関係性を知るこの三人からすれば、ユーリと空の間でデートという言葉が出てくるとは思わなかった、ということだ。なのはに関しては右腕を失った時の会話で多少は空のユーリに対する態度が柔らかくなっていそうであることを察していたために、残りの二人ほど驚くことはなかったが。

 

「そ、それでユーリは私たちに何を相談したいのかな?」

 

「デート……デート……」

 

「フェイトちゃん、戻っといで? 今はユーリの相談なんやし」

 

 デートと呆然とつぶやき続けるフェイトを、はやてが戻そうとする状況を見て放置してもいいのかこれと慌てていたユーリだが、なのはから促されたことで本題に戻る。

 

「そ、それで、デートをすることになったんですけど。どういう服を着るのが正しいのかわからなくて……」

 

「可愛い、と思ってもらえそうな服だよ!」

 

 なのはの間髪入れない断言。ただしそれはあまりにも抽象的にすぎる。

 

「……基本、私の服ってすでに大体が見られてますし」

 

「あー」

 

 そもそも、毎日顔を合わせているのだ。どうしようもなく服装に関しては今持っているものでは目新しさがない。だからこその相談。そういうことだと理解してなのはは根本的なところから問いかけ始める。

 

「まず、二人のデートの予定はいつなの?」

 

「明日です」

 

「ってことは、もう持ってる服で決めないとダメだよね?」

 

「そうですね」

 

 さすがに今から買いに行くのは無理でしょうし、とユーリは言う。時刻としてはすでに午後三時。今から服屋に行って可愛いと思うものを延々と探すのは難しい。というのも、空の右腕は未だに殴る、握る、程度のことしかできない試作品なので料理を行うなどの繊細な作業はどうしようもなくできない。それこそ、出前を取るために電話を、なんてことすらもできない。すでに端末に登録してあるものに対して連絡を入れるならまだしも、一度も取ったことのない出前となると、新しく番号を入力する必要があるので電話を破壊する。

 

 なので、ユーリに連絡が来ない限りは、基本的にユーリが空の飯を用意しているのだ。

 

「あ、連絡が来ました」

 

 そんなことを言った直後に、空から連絡が来たのだが。

 

「空くん、なんて?」

 

「今日はクロノさんたちと飲むことになった、らしいです」

 

 なのはの先輩、すでにユーリと出会った時点で十五歳だった空はすでに二十四歳。なので問題なく飲める。唯一の恐れといえば酔っ払って何か壊したりしないか、という程度だが、空の酒癖はそこまで悪くないことをユーリは知っている。なので、心配はしていなかった。

 

「なんや。さっきデートって聞いた時も思ったけど、最近ユーリは空さんと仲ようやっとるんやな」

 

 昔やったら、『飯いらない』だけやったやん、とフェイトを戻したはやても会話に加わる。

 

「まあええわ。デートの服装、やったよね? それなら……」

 

 視線が、ユーリの全身に回る。そして、ユーリがデバイスを持っていないことを思い出してあちゃー、と言葉を漏らす。

 

「バリアジャケットの応用で、着ていく服の種類を決めてから貸し出そうかと思ったけど……」

 

「ユーリ、デバイス持ってないもんね」

 

 なのはの苦笑。そう、ユーリは未だにデバイスを持っていない。ユーリ自身、デバイスを持つ必要がない程度に強いので、端末だけで十分なのだ。

 

「なら、しょうがないよね」

 

 そこに、フェイトも加わる。うん、仕方ない、なんて言っているフェイトの視線は集まった場所、なのはの家のクローゼットに向いている。それを察してなのはも仕方ないよね、なんて言い出す。ユーリには、その理由がわからない。

 

「今、私が持ってる服を貸し出すよ」

 

「へ?」

 

 なのはの目に恐ろしいものを感じているユーリだったが、私も似合いそうなの持ってくる、とフェイト、はやてが出ていくと、そこでようやくそれが現実だと気づいたのだった。




空くんは別に飲みに行ったわけではないです。クロノに誘拐されただけです。
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