デート当日。
別に狙ったわけではないが、前日にユーリはなのはの家に泊めてもらったこともあって、出会うのは前日の昼間以降。
これまでも出かけたことはあるはずなのに、デートとして出かけるのは初めてなために、ユーリは緊張していた。
「うぅ……なんだか人目が気になります」
初夏の季節。すでにユーリは慣れたミッドチルダの夏。けれど、己の格好には慣れていないために、羞恥を掻き立てられる。
待ち合わせ場所まではまだ少し離れているが、けれど時間は一時間近く前。問題なくたどり着けそうな時間帯。
だからこそ、羞恥に顔を赤くすることができていた。
ユーリは、まさしく「夏に合わせた」という言葉が似合う己の姿を確認する。
真白な、膝丈のノースリーブワンピース。白い肌とベストマッチな色合い。
ユーリの服装を決めるファッションショーの初期、ミニスカートや膝丈のスカートなど様々な意見と共に発生した、靴下をどうするのかという話は、はやてがこのワンピースを持ってきた時の「シンプルイズベストや!」という叫びとともに、サンダルを履かせることで素足をそのまま見せることに決定した。
ユーリの髪型はどうするのか、という白熱した議論については、最終的にユーリの肌を(プログラムなのでその辺り問題ないはずだが)守るために、日差しを防ぐために麦わら帽子を被ったユーリの姿は、小柄な、線の細い彼女の体躯も合わさって、深窓の令嬢という雰囲気を醸し出していた。
まあそれも、羞恥に顔を朱く染めていなければの話だが。
「あうぅ……」
言うまでもないことだが、ユーリはプログラム体であるために空と出会った当初から成長はできていない。よって見た目はそのまま、当時小学生だったなのは達とほとんど同程度のままである。
そんな少女がおしゃれをして、恥ずかしがりながらもそわそわしている。そんな状況を見て、周囲の人たちはデートだとある程度は察して、温かい視線を送る。それが恥ずかしくて早足になるせいでさらに様々な人の目に止まり、余計に温かい視線が増えていく。
そんな悪循環にユーリは気がつくことなく、空との待ち合わせ場所まで走って向かう。待ち合わせの場所は駅前。どこに向かうのかも決まっていないデートは、けれどどこに行くにも都合がいいようにと駅を待ち合わせとしたのだ。
(空は、もういるんでしょうか)
今はまだ待ち合わせの三十分ほど前。いるとは思えない。思えないがきょろきょろと辺りを見回すユーリの瞳には小さいものだが確かに期待の色。もしもいてくれるなら。
それは、空もこのデートを楽しみにしてくれていた証明になるのではないか、と。
淡い期待。自分のことなんてそういう意味では何も思っていないだろうと思ってはいるし、ユーリは自分が何をしたのかを忘れてはいない。たとえ空が来ていたとしても、それはユーリを楽しませるために、という可能性だってある。
けれど、最近の空の様子を見て、そんな自分にとって都合のいい可能性をユーリは考えたかった。
「ぁ……」
見つけた。見慣れた服装なのに、今日に限ってはどことなく違って見える。小さな声には確かな歓喜が混じり、その姿に対して向ける視線にもわずかに熱が篭る。
「空!」
走り寄る。抱きついてしまいたくなるような衝動を抑えてユーリは話しかける。
「ん。時間よりも随分早いな」
「はい。昨日から楽しみで……」
声をかければ気がついて空は振り向き、いつも通りの表情のまま、特にユーリの格好に対して言葉を発することはしない。
「それで、今日はどこに行くんだ?」
わざわざお出かけって言ったんだから普段とは別のところだろうけど。そう言う空は別に意識はしていないようで平然としている。
「えっと。デパートに行きたい、です」
「デパート?」
いつも行ってるだろ、というような顔をしている。
「デパート、って言っても、普段行ってる食品売り場とかじゃないですよ?」
「ああ、そういうことね」
行きたいところにまではまだ理解が行き届いていないが、それでも『普段と違うところに行く』という目的だけは察したようで、理解の色は瞳に見えた。
「それじゃいくか」
「はいっ!」
今回のこれはデートだぞ、と幾度となくクロノとエイミィによって念押しされたので、手を差し出す空。普段の夕飯の買い物などの時には行わないそれに、ユーリは少し跳ねる心のままに笑顔を見せてその手を取った。
「どうして服を褒めないの……!」
それを、後ろから目撃する人物がいた。
どうして休ませないと人事部の怒りを食らった上司によってほとんど強制的に有給を取らされた高町なのはである。
有給をもらった直後にはどうするべきかと悩んでいたが、そんな時にユーリと空のデートという事実を知った彼女は、その二人のデートに不安しかなかったので後ろから追跡している最中なのである。
(それでも幸せそうなことには変わりないんだよね……)
けれど、そんな不安とは裏腹に、目の当たりにしているユーリは幸せそうな笑顔で。わずかばかりホッとしているのは事実だが、これまでの二人の関係性を知っているといつ何時、何があるのかわからないので追いかけることを選ぶのだった。
断じて、興味があるからではない。
「ユーリ、大丈夫かなぁ」
デート。デートである。なのはは体験したことがないがデートである。ユーリが、好きな相手とデートをできる事実をとても喜ばしいと感じている心に嘘偽りなど誓って存在しないが、だからと言って相手が相手であるために不安は残る。そこに男性が女性の服を褒めるという要素がなかったために、ついつい心配の言葉を口にするのは仕方のないことだった。
(今の所は問題なさそうな感じだけど……)
ユーリが、空の差し出した手を握る姿を視認する。空もそこまで表情を出してはいないが、それでもいやそうではないことを確認。
「追いかけないと……」
歩き始めた二人の後を追って、なのはもその場を移動し始める。一体何を目的としたデートなのかは知らないし、どこに向かうのかも知らないが。それでも追いかけることにためらいはない。普段から休みがそこまで多くないので給料に関してもかなり溜まっている。なのでもしもあの二人が、ユーリから昨日聞いた当初の予定を変更して、遊園地をはじめとしたお金のかかるところに行ったとしても問題はない。
「フェイトちゃんたちにも言われてるしね」
ここに来られなかった、ユーリの服を決めた時にいた幼馴染二人からも頼まれている。なのははいい子なので、そんな友人二人の頼みを無視するつもりはなかった。
「あ、っと。追いかけないと……」
そんなことを口にしているうちに見失いかけていた。魔法の使用は決められた土地と、私有地でない限りは認められず、こんなデパートのような土地では事件でも起きないかぎりは、ましてやたかが出歯亀のために魔法の使用なんて、たとえサーチャー程度であっても降りるはずがなかった。
なのはも急いで、けれど決して目立たぬように歩き始める。その姿に、二人が気がつくことはなかった。