※この作品はR-18です。

介護しちゃうよ、ユーリちゃん!!   作:ぴんころ

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第二話

「ぐ……ッ! がぁ……!」

 

 暗い室内で、淡い青銅の魔力光を纏う。

 たったそれだけのこと、それだけのことでしかないはずなのにその部屋の主は苦悶の声を漏らす。

 放つたびに走る激痛。少年の体が魔力を放つことを受け付けないかのような拒否反応。それも全ては魔力を生成するときに、己の神経を貫くリンカーコアの破片が励起するため。そのことを理解しながらも少年ーーー空は魔力行使を止めようとしない。

 隣の部屋にいるはずのユーリは、その魔力行使があまりにも小さすぎるために気がつかない。かつての彼に比べれば、青銅の魔力光はあまりにも頼りなく、吹けば飛ぶような小ささだった。

 

 

 

 

 

 新暦六十八年。空がユーリと出会ってからすでに二年が経過していた。それはつまり、空が魔導師としての道を閉ざされてからの期間でもあるのだが。

 

 空としては最悪なことに、基本的にはユーリは空の介護を目的としていることもあってそのスケジュールはほとんどが一致している。朝、同じ時間帯に出勤して、帰りはわずかばかりユーリが早く終わって迎えに来る、そういった形。なので、局員としては珍しいことに、その休みまでほとんどが被っている。

 

 そして今日もそんな一日。空とユーリが共に家にいる一日であり

 

「久しぶりだな、空」

 

「ああ、久しぶり。最後に会ったのっていつだっけ?」

 

 そして珍しく、クロノ・ハラウオンが遊びに来ている日でもあった。

 

 年齢としてはクロノの方が下なのだが、魔導師としての経験の豊富さがあったために、空が魔導師であった頃にクロノから指導を受けた縁で、プライベートであったとしてもクロノは敬語を使うことなく空と会話をする。

 ユーリからしても、クロノがやって来ることは普段自分には見せてくれない素の面をさらけ出して空が会話するという事実から、その訪問は歓迎できることであった。

 

(やっぱり、空は私以外と話すときは皆が言う昔の、魔導師だった頃の空のままなんですね)

 

 空の介護……と呼べるだけのことをしていると自信を持って言えるのかどうかはユーリ自身にはわからないが、それでもこうして彼の生活を支えることを考えると、彼の心労にしかならないであろう自分ではなく、クロノのように気を許すことができる相手の方がいいのではないかと思うことが多々ある。それでも生活のサポートをしている現状、自分じゃダメだと思うからやめます、なんてことをいきなりできるはずがない。

 

「そういやクロノはどうして今日来たんだ?」

 

「なんだ? 来たら悪いのか?」

 

「そう言うわけじゃないさ。けど、いきなりこっちに来る理由がないだろ」

 

「いや、あるさ」

 

 クロノは、やって来たとしても魔導師としての会話を行うことはない。空にかつてのことを思い出させるようなことは、決して話題に出さない。

 

「彼女のことだ」

 

 けれどそこには例外が一つだけある。

 

「……あいつのか」

 

 空の瞳がすっと細められる。そこに触れることは許さないと言わんばかりの表情。友人に対して向けるのとは違う、敵意を漏らした状態。彼が、ユーリ・エーベルヴァインという少女に触れたからこそ、その敵意は漏れ出した。

 

「ああ。ユーリと一緒にいても辛いだけだろう? それなら、もういっそのことユーリとは離れてしまった方がいいんじゃないか? ……君が、最初にどうしてユーリの介護を受け入れたのかは知らないが。そういうのも一つの手だとは思う」

 

「知ってるだろ、クロノ? 俺は腕がないからいくつかの行動をまともにできないんだ。そこを代わりにしてくれる相手が必要なんだって」

 

「ああ。だが、わざわざユーリでなくても……」

 

「それで介護してもらうことになったら、他人に迷惑かけることになるだろ」

 

 迷惑をかけることを良しとしない。その発言だけを聞いたならば素晴らしい発言なのだろうが、そこにあるのはユーリを人間扱いしていないという事実だけ。ユーリは人間ではないから、彼女を使(・)用(・)することに対してなんら痛痒を感じていないことを、今この場で発覚させた。

 

「……っ」

 

 クロノはその言葉に歯噛みする。空は、何一つとして犯罪を犯していない。闇の書事件でリンカーコアを蒐集された人物たちと同じように、あるいは家族を失った者たちと同様に、奪った相手に対しての憎しみはあって、けれどそこから犯罪へと繋がるようなことなど何一つとしてしていないのだ。

 だから、それは間違っていると断定したくとも、それはただクロノの思う間違いでしかない。

 

「それに、お前も知ってるだろ?」

 

「……君が、管理局に未だにいられる理由か」

 

「ああ」

 

 苦い顔をするクロノに頷く。対外的には『戦えなくなった魔導師の支援』や『魔導義肢の検体』として管理局に未だにいる空。けれど理由としてはそれだけではなく、空を手元に置いておくことで、もしもの際になのは、フェイト、はやての三名が揃っても真っ向勝負であれば勝てないであろうユーリを管理局に在籍させて防衛戦力として扱うため。

 

「結局のところ、管理局からすれば俺はいなくなっても問題ないんだよ。通信スタッフだったり、検体だったり、管理局の福利厚生だったり理由をつけて今も入れられてるのは、あいつを手元に置いておきたいからなんだ」

 

「それは……」

 

「俺の治療は、なくなった腕に関してはともかく、魔法に関わる部分なんて地球じゃどうしようもないのは知ってるだろ? だからこっちの世界にとどまる必要があるし、こっちで何か職を見つけようにも俺はこの世界出身じゃないから特に何か履歴書に書けるようなものもないんだ。そうなったらただのニートだ」

 

 少し笑うようにして言う空に、クロノも乗っかった。

 

「さすがにその歳でニートはごめんだな」

 

「だろ?」

 

 それから数時間。大事な話に関してはユーリに関わるあれこれだけだったようで、そこからは本当にただの友人として会話を行う。そこにはユーリ関連の重たい空気が流れることもなく、クロノが知る限りの誰かの近況を話したり、あるいは逆に空の方から知っていることを話したり。そんな程度の会話を行なって、クロノは帰っていった。

 

(よかった)

 

 それを見て、空の様子を確認して。ユーリは心の中でそう思う。

 

(空の気分転換になったみたいです)

 

 休みが重なると、誰か一人は必ず空たちの様子を見にくる。

 それは、ユーリがひどいことをされていないのかの確認だったり。空やユーリが一緒に生活していて何かしら溜め込んでいたりしないかの確認だったり。加害者と被害者が共に生活する中で、何かしらの犯罪が発生したりしないか、二人のメンタルは大丈夫なのか。二人に対して多少の息抜きをさせる意味合いで見にくることが多かった。

 とりわけクロノは男友達だからか空のガス抜きに来ることが多い。ユーリの様子を見に来ることが多いのは女性陣で、空のガス抜きにくるのは男性陣と役割はほとんど分かれているようなものだった。

 

(でも)

 

 その中で一つだけ気になったことはあった。それは仲間の近況を聞いている時。高町なのはが、リハビリによって復帰したと聞いた時。その一瞬だけ瞳に暗いものが宿っていたのが、ずっとその瞳を向けられてきた彼女だからこそ気がついた。

 

(なんて声をかければいいんでしょう……)

 

 声をかけるべきか、それともかけないべきか。かけたとしても何と言うべきか。大丈夫、なんてことは決して口にはできない。そもそも彼の心はあの日、ユーリによって未来の可能性を削られた時点で大丈夫なはずがない。

 

「おい」

 

 そこに珍しく。本当に珍しく、空の方からユーリに対して声をかける。普段、ユーリから声をかけるのとはまるで違う、能動的な行動。最後に声をかけられたのはいつなのか。少なくとも月単位で数える程度には声をかけられていないとユーリは記憶していた。

 

「は、はいっ!」

 

 だからか、多少驚き、声が上擦る。けれど空はそんなユーリの状態に頓着しない。

 

「後で相手しろ」

 

 それは、ユーリと空のコミュニケーションで唯一空からの能動的なもの。

 どうしようもないほどの暗い感情が出てきて、それをぶつけるための掃き溜めとしてユーリを使用するだけのこと。

 そんな形であっても空に必要とされたことに心の内側に歓喜が湧くユーリは、一つ頷くのだった。

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