※この作品はR-18です。

介護しちゃうよ、ユーリちゃん!!   作:ぴんころ

5 / 11
第五話

 ユーリ・エーベルヴァインはもともととある事件において復活させられた存在であり、その事件について語るのであれば永遠結晶エグザミアの持ち主たる彼女だけではなく、それを支える無限連環(エターナルリング)の構築体(マテリアル)三基についても語らなければならない。

 彼女が復活した事件では「故郷の惑星を救う」という目的を持った者が渡航してきたことから始まったのだが、その目的であったはずの彼女が今もなおこの世界に残り続けているのは何故なのか。それにはついては空の介護という目的以外には存在しないのだが、では彼女を支える三基は?

 

 その答えは、事件の原因たる少女がやってきた理由。時間旅行という点にあった。

 

「久しぶりです、ディアーチェ!」

 

「うむ。ユーリは確か一年ぶりだったな。我からすればまだ三ヶ月程度しか経っていないのだが」

 

 とある休日。家にやってきたのはマテリアルの王たるディアーチェ。彼女たち三基は、時間旅行に伴う負担のことを考えて、ユーリからすれば一年に一回、彼女たちの飛ぶ頻度で言えばマテリアル三基で交代交代に一ヶ月経つたびにユーリの元に会いに来る。今日は、ディアーチェがやって来る日だった。

 

 そして、それに伴ってすでに時期は新暦七十一年。すでに事件から五年が経過していた。

 

「む、空か」

 

「ディアーチェ。そう言えば今日はお前が来る日だったっけ」

 

 そこに、空も玄関先で騒ぐユーリの声を聞いてやって来る。

 別にディアーチェのことを空は嫌ってはいない。奪った張本人でもなければ、奪った相手の仲間ではあっても彼女を止めようとした空の仲間でもある。だからこそ彼女のことを嫌う理由も存在しなければ、彼女が空の存在しない左腕を見て、未だに自分がもっと強ければと思って顔をしかめていることも気にはかける。

 

「ユーリ。俺はしばらく出かけて来るから後のことは任せるわ」

 

「えっと、どこへですか?」

 

「管理局。人手が足りないから来てくれって」

 

 先にエルトリアに向かった三人がいるとき、その時だけはユーリ相手の応対もまともなものになる。ユーリと大元が仲間である彼女達を前にして、わざわざ敵を増やすような言動をする必要はなく、そして被害者が加害者に恨みを持つという正当性のある行動であるために、彼女達の心に余計な負荷……盟主と戦友のどちらにつくかという考えをつけさせないため、とユーリはこの行動の理由を考えているが、その実態を知ることはできていない。

 

「あ、なら私も」

 

「ディアーチェの相手をすることができるやつがいないだろ」

 

「でも……」

 

「なんか会ったら呼ぶさ」

 

 そう言って、悪いなとディアーチェに謝って空は出かける。これについて行ったとしても空がちゃんと話しかけてくれるわけではないし、ディアーチェを一人置いておくわけにもいかない。ついていくと言ったとしても、エルトリアから来たことで体にかかる負担というのはとても大きいことや、ディアーチェが来るために一週間程度は二人して休みを取っていることも合わせて、ユーリはこの場に残ることにした。

 

 

 

 

 

 歩く最中、空は無感動に端末をいじる。実際のところ、彼は別に呼び出しを受けたわけではない。ただ、今の状況で、高町なのはという知り合いが絶望的な怪我から復帰したという情報から一ヶ月近くが経った今でも、その事実に対する感情を持て余してしまっている現状で、ディアーチェがいる時の普段のユーリに対する態度をそのまま維持できる自信がなかったのだ。

 

「空は、青いなぁ……」

 

 今日も事件がどこかで発生していて、その対処のために空戦魔導師が飛び交っている。それを飛べなくなったために、魔導師として動くことができなくなったために地上から見上げて呟く。滅多に得られない一人きりの時間。それをこんなことのために使うのはもったいないという思いがないわけではなかったが、それでも今の心境で黙って見ているだけでは、すでにある程度は自分の中で納得をつけることができた「飛べなくなったことへの絶望」とでも呼ぶべきものが再燃して来そうだった。

 

「どーして飛べなくなったんだろうなぁ……」

 

 理由は考えるまでもなく、己もクロノから危険性を説かれ、その上で選択した道。だから、それでユーリを恨むのはお門違い。そのことは彼も理解している。だが、だからと言って理性は納得できても心は納得できないことなんてたくさんある。

 これまでの闇の書事件によって家族を、友人を、大切な人を奪われた相手に、『八神はやては何も悪くない!』と宣言しても、一定層からは支持を得られても一定層は「知ったことか。そいつが闇の書の主であることには変わりはない」なんて返されるように。かつては嫌悪していたそれと同種になってしまったことを理解しながらも心は納得することはない。たった、それだけの話。

 

「……違和感しかねぇ」

 

 二年経つのに、いいや、二年経ったからこそ。改めて握った槍は片手で構えるしかなく、両手で握ったとしてもこれだけのブランクがあればかつてのようには戦えない。昔のように構えても、どうしても片腕という事実から違和感しか持てない。その事実が、彼には多少堪えていた。

 誰もいない公園で行われるのは、多少でも槍をかじったことのある人間からすればお粗末としか言えないであろう突き。鋭さもなければ速度もなく、そもそも気迫すら欠けている。武芸者にあるまじき代物。

 心の中にある二度と戦えないという諦観により、彼の戦いに対する気迫というものは死んだ。たったそれだけの事実が、かつて暴走状態にあったユーリがーーー一目惚れによる補正があったとはいえーーー見惚れた武芸を完璧に死滅させていた。

 

「ふん……っ!」

 

 それでも振るうのは、その希望なんて何もないと言わんばかりに淀んだ瞳の奥にかすかにある希望のためか。

 『高町なのはが復活したという事実』がもたらしたものは二つ。一つは今も空を飛べる後輩に対する嫉妬とそれに伴う見当違いの憎悪。俺は飛べなくなったのに、という、高町なのはに非は一切ない憎悪。

 そしてもう一つが、話に聞いた、重傷、二度と魔導師としては戦えないかもしれないレベルの怪我ですら治すことができる今の管理局であれば、もしかしたら自分も治療できるのではないかというありえないであろう未来に対する期待。それを捨てきれていない。

 

(無理だろうけど)

 

 降って湧いた希望を切り捨てるように槍を薙ぐ。それでもその可能性に目を向けることを止めることができない。

 

 今の技術では無理かもしれないけど、もしかしたら数年後には治せるようになるかもしれない。

 高町なのはが不断の意思でリハビリをした結果治ったのなら、その時にまで体を鍛えておけばもしかしたら治せるようになるかもしれない。

 

 そんな、小さすぎる希望に、空は目を向けずにはいられなかった。

 

 それは、振り払おうとしても頭に少しずつ染み渡ってくる希望という名のタチの悪い毒。成功するかもしれない、なんてかすかにでも思ってしまえば、それが失敗した時に立ち直れないかもしれないという恐怖。それを頭の中で理解しているのに、どうしても切り捨てられない希望。実例ができてしまったという事実が、完全に諦めきれていた空の脳内に亀裂を入れていた。

 

 ぶぅん、と槍が空を薙ぐ。仮想敵などいない。ただがむしゃらに、型なんて存在しない演舞を行う。見られたものではない代物だったが、それでも空の心を落ち着けるには多少の効果がある。

 

 それを頼りにして、少しでも己の中から希望を一つ一つ捨てていかないと。今の自分を形作っている全てすら空は忘れてしまいそうだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。