「空っ!」
ユーリは、叫ぶようにして病室に入り込んだ。やってきた連絡は、『空が事故にあった』というもの。空が運ばれたという病院にまで向かい、そこに眠る空の姿を見た。
「っ……!」
一瞬悲痛そうに顔を歪めた少女の前には、右腕すらもちぎれてしまっている空。ユーリは管理局の中にいた内通者、その人物が仕掛けた爆弾が爆発したとかなんとか言っていたのを聞いただけだが、空がその爆発によって飛んできた破片が突き刺さる形で右腕に重傷を負ったことを聞いて走ってきた。
「……ユーリか」
「えっと。だ、大丈夫なんですか?」
「大丈夫に見えるのか」
なんと言っていいのかわからずに無難な言葉を放つユーリに対して体を起こした空は、はっと嘲笑うような言葉。その言葉にびくりと体を震わせるが、ユーリを見ている空の瞳には嘲りも何も存在しない。今回の一件に関してはユーリは全く関係ない。だからこその瞳。
「す、すみません……」
「別に。お前にその辺りの機微なんか求めてねえよ」
そう言って端的にきって捨てて、自分の腕を見てこれでもうまともに生活なんてできないな、なんて自分を嘲笑うように。大怪我を負ったというのに、それによって受ける影響はかつてと同じようなものでしかないという今の己の身を嘲笑うように。そんな空に対してユーリはかける言葉が見つからない。
「だ、大丈夫です! 空の面倒は私がちゃんと見ますから!」
何を話せばいいのかわからずに、言葉にできたのは空の面倒を見続けるという宣言だけ。それすらも、今の無感動な状態の空には届いていない。じいっと見られているユーリは、言葉にできない謎の緊張感に襲われながら、空の言葉を待つ。
「別に。少なくとも病院にいる間はお前の手はいらないだろ」
「そうですけど……」
しょんぼりとするユーリ。それを見て
「辛気臭い顔するんだったら帰れ」
「……はい」
空は、そう言ってユーリを無理矢理に帰らせる。別に何か大したことをしたわけではなく、ただ冷たい目で見るだけ。それだけではあるが、『腕を失う』というかつてユーリ自身が行ったこと、その当時のことを思い出してしまっていたユーリにはそれだけで十分。その言葉を受けて、ユーリは肩を落として病室から出て行った。
「……これ、また義手とか面倒なことになるんだろうな」
それを見送って、その後に自分の腕に目を向けてそんな言葉を放つ空の瞳に光はなかった。
「空くん!」
「……なんだ、なのはか」
ユーリを帰らせてしばらく。その次にやってきたのは彼の後輩たる高町なのは。右腕を失ったと聞いて走ってきたのか、息が切れている。そんな彼女を無感動なままの瞳で空は見る。
後輩ではあるが、なのはと空の付き合いは長く、小さい頃からの知り合いであるためにプライベートでもあるのなら、特別敬語を使うことはない。
やってきたなのはは少しばかり息を詰まらせるが、それも長くはない。なのははすぐに状況を判断し終えて、そこに本来ならあるはずの姿がないことを知る。
「あれ、ユーリは?」
「帰らせた」
その言葉の直後、なのはの瞳がどうしてと如実に語る。
「今回の件にはあいつ関係ないだろ。それで罪悪感とか持たれてもこっちが迷惑だ」
「迷惑って……」
そんな言い方ないんじゃないかな、なんて咎めるなのは。それを見て空は
「迷惑だろ。今回の件では、あいつが何かしたってわけじゃないんだ。別にこれで昔のことを思い出してそっちに罪悪感を持つのなら文句はないけど。この件に関してまで罪悪感を抱かれても、なぁ?」
「ああ、そうなんだ……」
少し、なのはの見る目が変わる。別に納得したわけではないけれど
「ユーリの罪悪感がどこに向いてるかまでわかるんだ」
なんとなく、二人の間の関係性の深さをその一言で理解できたために、それ以上何かを言うことはない。ユーリが酷い目にあっているかどうかは二人の生活にそこまで口出しできないためにわからないが、それでも見ただけでどう思っているのかを空が大体読み取れる程度には仲がいいことを理解した。
「……そんなんじゃない」
「ふーん」
否定する言葉にはそこまで力はなく。けれどなのははそれで彼女の中で何か納得できるようなことがあったようだ。だから今はそれで納得して、そしてこれからのことについての話になる。
「でも、これから大変だね」
「……ああ、そうだな」
「両腕なくなっちゃったってなると……」
「いや、ユーリの方だ。あいつ、左腕がどうこうってやってたのに、今後それだけじゃ足りなくなるだろ」
自由に何かをすることができないストレスは確かに空に追加されるが、それよりもそっちのサポートをするユーリの方が大変にはなるだろうと空は語る。それを見るなのはの視線には気がついていて、けれどそれ以上何かを語ると面倒なことになりそうだとそこで黙った。
「なんだか、拗らせたアリサちゃんみたいなことを言ってるね」
「おい」
睨むが、なのはは笑って受け流す。
「だってそうじゃない。ユーリのこと心配なんでしょ?」
「だからそれは、俺がこれからの……」
「でも、自分のためではあってもユーリのこと心配なんでしょ?」
「……」
沈黙。別に自分のためと言う気持ちが全くないわけではないのだが、それでも確かにユーリがこれからの両腕がない空の介護をできるのか、ということに対する心配が全くないとも言えない。だから、そこを的確についてくるなのはの言葉にはそんなことはないとは断言できなかった。
「まあ、その辺りはいいけど」
「いや、いいのかよ」
「だって、究極的には二人の話で。私たちにできるのは二人がどうするのか、どうしたいのかって話を聞くことはできるけど。最終的には二人が行動しないとダメじゃない?」
「それはそうだけど……」
なのはは、いつもユーリから相談を受けたりしている関係で、多少ではあるがこの二人の関係に対しては大人な対応ができる。これがもしも「虐げられている」という内容の相談であったならそれはそれでいつもの魔導師として動いているなのはの一面が姿を見せていただろうが、ユーリから受ける相談に関してはそういうものではないので、どちらかというと「ただの女の子」としての一面がこの二人に関しては出てきていた。
「……お前はお前で恋愛とかそういうことをしたことないくせに、なんでそんなに上からな感じのアドバイスなんだ」
「私? 私はそんな相手いないだけだから」
「ユーノは?」
「ユーノ君はお友達で先生だよ?」
こんな会話をする二人は気がつかない。空が、なのはの「どういう関係になりたいのか」という言葉を受けて最初に口にしたのが恋愛関係に関することであったことに。
ユーノとの会話で多少未来のことを考えることになったために、その関係性について「加害者と被害者」以外の何かを見出しそうになっていることにも。
「まあ、そこに関してはいいんだけど。相手いないのによくもまあ、そんなアドバイスができるもんだよな」
「ユーリからどういう風に接するのがいいかって聞かれたことがあったからね。その時に色々と考えてみたりした結果だよ」
空は、「瀕死の重傷から復帰した」なのはを相手にまともに話をできている。そのことにも気がつかないほど、以前はドス黒い感情が湧いたのに、今は特に何かを思うことなく会話をできている事実に、多少の驚きを感じているが、それでも何か悪いことがあるわけでもない。故に普通に会話を続けて
『空!』
そんな間に、また別の人物が駆けつけたりすることになるのだった。
映画世界線だとパンフで「右腕を完全に失い」って書いてあったくせにそれが復活していたなのはちゃん。こっちの世界ではまだ失った腕を復活させられるほどの技術はないし、そもそもそんな怪我をしていない