ゲームとリアルの旅人 作:のーる
三畳ほどの狭い部屋。
ある物と言えば畳の上に敷かれた座布団と壁に掛けられた時計、ゲーム機とテレビのみ。
蛍光灯の白い光が照らす、窓も扉も存在しない部屋で、僕はテレビの画面に集中していた。
二百年前に起こった核戦争で荒廃した世界を舞台としたゲーム、フォールアウト4。
主人公が眠っていたVault111内で僅かな銃や回復アイテムを集め、僕は連邦へと踏み出した。
僕はただゲームをしているだけ、そうではあるのだが、このゲームには大げさでは無く僕の命がかかっている。
ただのゲーム好きの大学生だった僕が、今置かれている異常な事態に巻き込まれたのは、ほんの昨夜の事。
最近の日課通り、夜の十二時近くまでこのフォールアウト4をプレイした後、普段通り眠りについた。
そして背中の痛みを感じて目を覚ました時には、朝方の薄ぼんやりとした太陽の光の下で、荒野の真ん中に全裸で倒れていたという訳だ。
訳の分からないまま周囲を見渡すと、地面に一枚の紙が落ちている事に気が付く。
その紙を拾い上げ、日本語で書かれていた内容を見ると、そこには理解しがたい事が記されていた。
『その世界でこれから生きるあなたに、せめてもの力を。 ゲーム開始、と発音するとフォールアウト4が置かれた部屋へと移動できます。 そのゲーム内で得られたアイテムを、その世界に持ち帰る能力を授けましょう。 細かいルールは下に記します』
その前置きの後に、持ち帰るアイテムは各居住地のワークショップの隣にあるコンテナに入れて下さい。
但しワークショップで作れる家具や一部の構造物、クラフト系以外の装置もアイテムと判定し重量を設定した上で持ち帰れるようにしておきます。
難易度はノーマル準拠、但しファストトラベル、待機は不能。睡眠は出来ますが、体力回復だけで時間は経過しません。
一日にプレイ出来る時間は現実の時間で六時間まで、但し主人公が死んでしまえばその日はそれで終了です。
現実世界での二ヶ月毎に進行状況はリセットされます。
セーブは不能です。
その他、色々なルールが長々と記されていた。
直ぐには受け入れがたい事実だったが、かと言って裸であてもなく荒野を彷徨く訳にもいかない。
半信半疑ながらもゲーム開始、と呟いて見れば、この部屋に飛ばされたという訳だ。
とにかく今はあの荒野を生きる方法を手に入れなければならない。
紙に書かれていた情報が正しければ居住地のワークショップの隣に設置されたコンテナが、ゲーム内の物資をあの世界へと持ち帰る方法らしい。
Vaultジャンプスーツを身にまとった主人公に10mmピストルで武装させた後は、まずはVaultの入口付近のアイテムを回収する。
体力を回復するスティムパックは三個しかないし、銃弾は僅か。
心もとないにも程がある物資の量だが、すぐ目と鼻の先にある居住地サンクチュアリには、弱い虫系のモンスターが何体かいるだけだった記憶があるし、何とかなるだろう。
僕はサンクチュアリへの下り坂を走っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
200年もの間、主の居ない家を守り続けていたMr・ハンディ、コズワースをコンパニオンにした後、建物の中を漁りつつ巨大ゴキブリのラッドローチと、毒液を吐き出す突然変異の蠅ブロードフライを片付けていく。
小さい虫系モンスターに銃弾は却って時間がかかるので、Vaultで拾ったセキュリティバトンを使って一気に片付けた。
ざっと全体を回ったあと、サンクチュアリのとある家の裏手にある地下食料保管庫へと入り、食料に金の延べ棒、スティムパックなど多数の物資を回収する。
フォールアウトの世界の戦前の食物は、200年前の超ビンテージ物であり、しかも放射性物質で汚染されている。
不安に思わないでもないが、とりあえず荒野で何も食べる物が無いよりは、あった方がマシだろう。
そう考えて、回収できる物は全て回収した。
先ほど、ワークショップの隣に置かれていた黒い金属製と思われる箱を確認したが、これは普通のコンテナと違い重量制限があるらしい。
始めてコンテナを開いた時に表示された説明によると、この重量制限は主人公が持ち歩けるアイテムの重量と等しい。
現在の主人公の持ち運び限界重量は240なので、コンテナの制限も同様になっていた。
パワーアーマーを装備した状態では限界重量が大幅に増すはずだが、今は残念ながらそこまで進んでいない。
一部のロボットも持ち出し可能だそうだが、残念ながらコズワースは不可能なようだ。
「さて、と。 とりあえずどうするか……。 まずは武器と食料、水……、あと着るものかな」
ゲームを終わらせて、コンテナの中の物資を現実に持ち帰るには、寝ることが可能なベッドに対してアクションを起こし、出現するコマンドから睡眠では無く、ゲームの終了を選べばいいらしい。
他にもこの部屋の時計で時間制限の六時間が経過すると強制的に終了となり、コンテナのアイテムは持ち帰れないが、次回は最後に立ち寄った居住地からゲームを再開出来る。
まだ今日の分の持ち時間かなりあるし、近くのレッドロケット・トラックストップまで足を伸ばしてみるか……、と考えかけるも思い直した。
偶然外で強力な敵に出くわさないとも限らないし、仮にそうなって今日物資を持ち帰れなければ荒野の中で、何も持たずに一日を過ごす羽目になる。
時間は残っているものの、今日の所はコンテナに必要と思われる物資を移して、ベッドを選び出現させたコマンドからゲームを終了させた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふぅ……」
岩陰に座りながら、缶に入った清潔な飲料水『きれいな水』と箱詰めにされたスティック型のケーキ『ファンシーラッドケーキ』で腹ごしらえを終えた僕は一息ついた。
きれいな水は若干鉄臭かったし、ファンシーラッドケーキは砂糖がじゃりじゃりしていて甘さがしつこすぎたが、胃に物を入れた事で力が沸いてきた。
ゲームを終了させた後、意識が遠くなり、気が付けば再び荒野の上に座り込んでいた。
持ち帰ったアイテムは僕の周囲に無造作に散らばっており、ゲームのように何処かに自動で収納される訳ではなかったらしい。
せっかく食料や水、武器などを持ち帰ったが残念ながらリュックサックもない状態では全てを持ち歩く事は難しそうだ。
僕は緑のフランネルシャツ&ジーンズを着て、10mmピストルを右手で持った後、恐らく500ml程度の内容量と思われる『きれいな水』を一つ、もう片手で持って荒野を歩き出す。
残念ながら、持ってきた食料は運ぶ事ができないが、人間一日位何も食べなくても、直ぐに命に関わる訳ではない。
それよりもこの誰も居ない荒野の中で夜を迎えるのだけは避けたかった。
(遠くに建物らしきものが見えるから、ひとまずそこへ行ってみようか。 ……そういえばゲームを開始した時は、まだ朝だったようだけど、帰ってきた時も同じくらいの明るさだった。 ……もしかしてゲームをしているときは、こっちの世界での時間が経たなかったりするのかな)