ゲームとリアルの旅人 作:のーる
「ユウキ補佐官、今月分の食料品店の売上計算が終わりました」
「ああ、ご苦労。 机に置いておいてくれ」
補佐官の仕事を手伝わせている、クラスB職員の男が細かい数字がびっしりと書かれた木の板を差し出してくる。
彼は几帳面な性格だし、計算も得意だ。
僕は確認は後からでもいいと判断し、他の仕事を優先する事にした。
カンパニーの設立から早一年。
僕が考えた方策が予想以上に上手くいき、今ではクラスB職員達の殆どは小学校レベルの読み書き、計算が可能となり街の運営を大いに助けてくれている。
彼らが短期間でここまでの能力を身につけたのは、やはりアレのお陰だ。
僕が半年程前から進めていた計画は二つ。
一つはもう一体ロボブレインを導入し、それを教師としてクラスB職員達に学問を教える事だ。
当然自主的に学校で学ぶようにと言っても来るわけがないので、シフトを工夫して、一日九十分程の勉強を仕事の一環として取り入れた。
だが素養が無くては、幾ら知識を詰め込もうとしても意味がない。
幼少の頃から、学校で学ぶという習慣が身についていない彼らでは、このまま教育を施しても効果が薄いと考えた。
そこで素養の面を補う為に使用したのがFallout4に登場する薬品の一つ、メンタスだ。
この薬品はゲームではショー・ハイスクールで生徒の成績を上げる為の切り札として使用され、長期的な服用により明らかな知能の向上が認められていた。
これを利用すれば、クラスB職員達を街の支配層として相応しい人物に教育出来ると思い、まずは数人に管理官からの命令という形で試験的に投与してみたのだが、彼らは二ヶ月程の短い観察期間の間に以前とは別人のような知性を身につけていた。
そしてメンタスの有用性が明らかになった事で、四か月程前から僕を含めたクラスBとクラスA全員に投与を開始。
自分でもメンタスを服用するのには抵抗があったが、ゲームの校長のように知能が向上したクラスB職員に寝首を掻かれては困るので、短期的には副作用が無さそうだと判断した段階でメンタスの摂取を始めたのだ。
この薬品の効果は恐ろしい程に高く、僅か四か月程で多くのクラスB職員が以前よりも高度な仕事に従事するようになり、僕の負担を格段に減らしてくれた。
それと並行して彼らを街を支配する階級としてクラスC職員とは明確に区別し、今ではクラスB全員をコンクリートの壁に囲まれた居住区に住まわせている。
コンクリートはゲームから持ち込んだものではなく、この世界で製造したものだ。
ゲームのコンクリートは素材の中では飛び抜けて重量が重く、持ち出そうとすると直ぐに容量が満杯になってしまう。
この街も既に人口は八百人の大台に乗り、様々な人間が街に流れ込んできた。
その中にはコンクリートの製造についての知識を持つ人間もいて、彼を特例としてクラスB職員として取り立てて、コンクリートの原料となるセメントの生産を行わせていた。
ハイテクな工場を作ることなど夢のまた夢だが、近くの岩場から石灰岩を切り出してきて、釜で高温で焼成した物を砕いて粉末にするだけでも、セメントとして十分使える物が出来上がる。
今では街の建造物の建材はゲームから持ち出した家具を分解した鉄板や木の板から、コンクリートを中心とした物に移り変わっており、その分、他の分野にリソースを割く事が出来ていた。
時刻は昼近くになり今日もまたゲームの世界で物資を調達する為に、コンクリートの壁で囲まれた管理官のオフィスへと向かう。
街の人数が多くなり、クラスB職員達も知恵をつけたことで、流石に僕一人で物資調達の秘密を守り通すのは難しくなり、僕の他に三人いるクラスA職員達には全てではないが僕の能力を教えている。
ちなみに増えた一人は、メンタスの投与により特に顕著な知能の向上を見せた二十代前半の男で、彼にはもう一人の補佐官を任せていた。
ゲームの世界云々の部分は秘密にした上で、僕は自分の事を戦後の文明復興を目的に様々な物資を生み出す能力を与えられた戦前の人間だと説明した。
原理等は技術者ではないので僕自身にも分からないとした上で、彼らにも秘密の保持や、物資の生産方法を探ろうとする人間の発見と排除を依頼したのだ。
他人に秘密を明かすのには葛藤はあったが、彼らはクラスA職員として既にカンパニーでも最高の生活を保証されており、そうそう現状を変えることを望むとは思えない。
それに僕を裏切ったとしても、彼らにとってメリットは少ない。
物資の補給は僕にしかできないし、ロボットの支配権は全て僕にある事も打ち明けている。
その上で例えば僕を脅して自分が街の支配者の座に座ろうとしたとして、僕が協力を断固として拒めば彼らは何も出来ないし、僕を拷問に掛けて従わせようとでもすれば、自棄になった僕が全てのロボットを暴走させるかも知れない。
薬により知恵をつけた今だからこそ、彼らは自分にとって利益となる事が何か、冷静に判断出来ると信用していた。
僕は管理官のオフィスがある丘から街を見下ろし、ついにここまで来たかと感慨深くなる。
人口は八百人。
当初の予定を遥かに超えた人口の増加はカンパニーに様々な変化をもたらした。
現在、街で稼働するロボットは百七十体を超え、その内の殆どはプロテクトロンだ。
割合としては七割程度だろうか。
プロテクトロンは性能こそ低いが、他のロボットと比べて燃費が良く、アサルトロンと比べれば平常運転時の燃料消費は半分程度で済んだ。
フュージョンセルの供給を考えれば、もはやこれ以上ロボットを増やすのは厳しい。
きれいな水による商売にも限界があるし、フュージョンセルを売っている各居住地の武器大商店を巡るのも時間がかかる。
それにゲームから持ち出すべき物資はフュージョンセルの他にも沢山あり、これ以上ロボットを増やすと他の所に皺寄せが行きそうだった。
しかし防衛戦力の需要は現在も増え続けており、街の防衛だけではなく、広げた農地や牧場の警備にも戦力を割く必要がある。
そこで警備兵をクラスB職員だけとする仕組みは撤廃し、今ではクラスBの指揮官の下に志願兵であるクラスCの兵隊を配置する構成をとっている。
指揮官には全員にパワーアーマーを支給しており、各部隊にはロボットを兵器として配置しているので、クラスCも含めて戦闘による死者は非常に少なく抑えられていた。
そして大きな問題だったクラスBの階級の継承だが、現在存在するクラスB職員に限り、自分の子供二人にまで階級を受け継がせる事ができ、それ以降に生まれてくるクラスB職員は、自分の子供一人をクラスBにする事が出来ると定めている。
この先、更に住民が増えればクラスB職員が足りなくなるし、今代に限り一人のクラスB職員が二人のクラスBの子供を持てるという事にしたのだ。
クラスB同士の夫婦なら、四人まで自分の子供をクラスBに出来るということになる。
そしてクラスBとなった人間には定期的にメンタスの摂取が義務付けられている。
勿論、クラスCに薬が流出しないように、ロボブレインの監視下において飲まなければならない。
農地ではトウモリコシやテイト、ニンジン、レイザーグレイン、マットフルーツが育てられ、Fallout4では栽培不能だが、ゲームから持ち込んだシルト・ビーンも栽培されている。
家畜はイグアナとリス、ラッドラビットが食用として育てられており、バラモンの肉は肉牛として育てられる一部を除き労役用として使えなくなった個体を潰す際にしか得られない。
ちなみにイグアナとリスもFallout4には生きている個体は出現しなかったが、やはりこの世界に相応しい変異した生物だった。
しかし過酷な環境に適応したのか雑食性が強く繁殖力も高いので家畜としては適している。
リスは小型のモールラットに近く、イグアナも赤と黄色の異様にカラフルな皮膚を持っている。
どちらも奇妙に捻くれたグロテスクな外見だ。
Fallout4にはラッドチキンという変異した鶏も居るが、現実世界では少なくともこの地域では見られない。
ラッドスタッグ等、食肉としては有用だが凶暴性や力が強く家畜化が断念された動物もいた。
街には数多くの店が立ち並び、近隣の居住地からの客も多い。
この街のキャップは広い範囲で通貨として流通しているらしいが、やはり一番人気の商品は銃弾とスティムパックだ。
スティムパックの有用性は説明するまでもないし、カンパニーで販売しているゲームから持ち出した銃弾は他の大きな街で生産されている弾薬よりも性能が良い。
銃弾の製造は、小さな見た目に反してかなり高い技術力を必要とするらしく、銃そのものよりも作成の難易度は高い。
だからこの世界の住人は使用済みの薬莢に弾薬を再装填して何度も使いまわしているし、新品の物でも工作精度が悪く不発率が高い。
その中でカンパニーの提供する弾薬類は、店で販売すれば片っ端から売れていった。
食料や衣類、雑貨品の売上も好調で、クラスB職員に支払う給料も余裕で確保できる程にカンパニーの経済は上手く回っている。
今後も様々な問題が噴出するだろうが、それはその都度対処していけばいい。
街はこれからも成長を続けるだろうし、多くの人が集まるだろう。
最初は自分の楽しみの為だけに作った街だが、最近ではここに集まった人々が思い思いに生きる姿を見るのが何より楽しい。
この街を作り始めてから仕事ばかりだし、そろそろ私生活の面を充実させたい所だが、この分ではもう少し先の事になりそうだ。
だがそれも、悪い気分ではなかった。