ゲームとリアルの旅人 作:のーる
Fallout4のゲームの中。
僕が操るキャラクターは、サンクチュアリヒルズの畑から作物を収穫していく。
それを一度ワークショップに収納すると、クッキングステーションを開き、植物でんぷんを作成していった。
材料はテイト、トウモロコシ、マットフルーツ、綺麗な水。
綺麗な水はサンクチュアリに大量に設置した浄水器を使って、ワークショップの中に二百個近く用意されており、収穫した作物を次々に植物でんぷんへと変えていく。
植物でんぷんは一つ作るたびに10の経験値が手に入るので、レベルが低い内ならこれだけでも効率的にレベリングが可能なのだ。
このゲームのルールとして、現実世界の二ヶ月毎に進行状況はリセットされるし、キャラが死んでしまえばその日はもうゲームが続行出来なくなる。
なのでメインクエストは無理に進めようとせずに、マップの北西部を中心に活動しながら物資を収集していた。
現在解放している居住地はサンクチュアリにテンパインズの断崖、サンシャイン・タイディングスCo-op、オバーランド駅、レッドロケット・トラックストップ、アバナシー・ファームの6箇所でありゲームを開始してから一時間以上はこれらの居住地を回って店や行商人から綺麗な水と引き換えにキャップや物資を仕入れたり、作物を収穫する事で潰れる。
その後は北西部の敵が出現するロケーションを回ってジャンクや武器、弾丸を回収して一日の作業は終わりだ。
足を伸ばしてもせいぜいダイアモンドシティとその付近までであり、旅をしている範囲はマップ全体から見ると一部に過ぎないが、それでも簡単に一日六時間が潰れてしまうFallout4の奥深さは大したものだった。
今日もゲームの制限時間が迫り、リアルへの持ち出し用のコンテナに弾薬を中心に様々な物資を詰めていく。
リアルでの経済は物々交換によって成り立っているが、どの場所でも安定した価値を持つのはやはり弾薬だ。
現在リアルでは火薬が装填された通常の弾丸ですら作成出来る場所が限られているらしく、需要に対して供給が圧倒的に少ない状況で、ゲームから持ち出した弾薬を店頭に並べると直ぐに売れてしまう。
引き換えに得られるのはやはりガラクタや食べ物が中心だが正直言ってそれらを大量に貰っても、収納場所に困るだけだ。
初めの内は、対価として貰った品物を他の集落で売ろうとした事もあったが、弾薬や武器、食料以外の物資は需要の度合いが場所によってまちまちだし、食料品は腐りやすいという欠点がある。
ゲームから物資を持ち込むことが出来る事に対しての隠れ蓑として始めた商人の真似事だが、最近はする意味が薄いように思えてきた。
それにこの世界に来てから既に一ヶ月半は経ち、これまで六ヶ所の集落を回ったが、安全に暮らすことが出来る大規模な居住地等聞いたことがない。
考えてみればこの文明が崩壊した上に変異生物やスーパーミュータントが闊歩する世界において、広範囲を完全に防御出来るだけの兵力と物資を確保するのは容易ではない。
もしかしたらこの世界に安全で快適な拠点等存在しないのではないかと、最近では思い始めている。
(………だとすれば、作ればいいのか?)
幸いゲーム内からロボットやタレットを持ち出す事は可能だし、その気になれば安全な拠点が作れなくもない。
だがリアルではゲームとは違ってロボットやタレットが使用する弾丸は無制限ではないし、動力源としてフュージョンセルも消費される。
それに守りやすく近くに水源がある場所も見つけなければならないし、周囲に脅威となる勢力が存在しないかの調査も必要だ。
しかし、どれも難しいものの解決は不可能ではないように思えた。
(まずは拠点探し……、か)
ゲームの世界から帰還した僕はアサルトロン一体を伴って、T-45パワーアーマーを着用しながら低く細い木と萎びた草がまばらに生える荒野を進んでいく。
ゲームの中で強くなっても、それが現実世界に反映される訳ではないらしく、リアルでの僕の身体は日本に居た時と同じものだ。
いや、厳密には少し違った。
Falloutの世界の人間は戦前に軍が開発していたFEVの影響を受けており、肉体が戦前と比べて頑強になっているという設定があった筈だが、僕の身体も以前よりは身体能力が向上している。
もしかしたらスティムパックを注射すれば致命傷に近い怪我すら治癒するという性質まで反映されているかも知れないが、残念ながらスティムパックはまだ人間には試せていない。
しかしこの前、あえて止めを刺さずに生かしたモングレルドッグに注射してみると、急速に傷口が塞がっていったので人間にも効果がある可能性は高いだろう。
だが自分で試すつもりはないので、僕は移動中は常にT-45パワーアーマーを身に纏い傷を負わないように細心の注意を払っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
元は市街地だったらしい瓦礫の山を見下ろす小高い丘。
そこに立つ小さな建物が今の僕の拠点だった。
恐らく元は通信や気象観測を役割とする施設だったのだろう。
その丘には巨大なアンテナの残骸が転がっており、その隅に縮こまるようにして小さなコンクリート製の建造物があった。
この丘の周りはラッドスコルピオンの繁殖地となっていたらしく、そこら中に蠢く大量のラッドスコルピオンを、ゲーム内から追加で持ち出した自作のロボットを使い、強引に駆逐した。
かなりの物資を使ってしまったが、この周囲の市街地の廃墟には建設に使えそうな廃材が大量に転がっているし、この丘は遠方への見張りの場として申し分ない。
僕は暫くここに留まり、ロボットと物資を大量に蓄えていくことにした。
今日もゲームから帰還した後は、新たにロボット作業で作成してから持ち出したプロテクトロン一体を電源を抜いた状態で屋外に待機させておく。
勿論、布を被せて遠方からでは正体が分からないようにしてからだ。
この場には、同じようにして始動の時を待つロボットが既に四体存在していた。
更に持ち出した武器や保存の利く食品、弾薬を屋外に並べたスチーマー・トランクに収納して、いずれ街を作る際の物資として蓄えておく。
丘の上には物資を守る為のライトマシンガン・タレットが数機、静かな駆動音を鳴らしながら周囲を警戒していた。
その日の分のゲームを終えてからは、天気が悪い日は小さな建物の中でぼんやりしている事もあるが大抵の場合はアサルトロンを伴って周囲の探索に出かける。
この地域はラッドスコルピオンの巣窟となっていた事もあり、人通りはかなり少ない。
近くに大きな居住地もなく、秘密保持という面に関しては現時点では最適と言えた。
「っ!」
唐突に瓦礫が崩れる音が聞こえ、僕はその方向へコンバットショットガンを構える。
僕もこの世界に来てから銃の練習はしているとはいえ、急にそこまでの名人になる訳ではない。
この世界にはブロードフライやモールラット等の小型で素早い変異生物も多いし、そういった生物にライフルや拳銃の弾丸を当てるのは近距離でも容易ではないのだ。
その点コンバットショットガンならば遠距離の対象には効果が薄いという難点はあるものの、大まかに照準を合わせて撃ちまくるだけでかなり有効なダメージが与えられる。
崩れたコンクリートの欠片を飛ばして這い出てきたのは、ラッドスコルピオンだった。
ここに来たときにロボットを五体程けしかけて大体は駆除したとは言え、瓦礫の下に潜んでいて駆除しきれなかった個体もまだ居るのだろう。
アサルトロンが真っ先に右手に装備していたレーザーを使いラッドスコルピオンに攻撃を仕掛けるが、赤く輝いて空を走った光線はラッドスコルピオンの外殻を焦がしただけで貫通はしない。
僕も距離を取りながらショットガンを連発し、散弾の雨をラッドスコルピオンに浴びせていく。
ラッドスコルピオンはそれにも怯まずに果敢に僕たちに挑みかかり、振り上げた鋏でアサルトロンの足を挟んで、バランスを崩したアサルトロンの胴体に針を突き立てた。
まるで金属同士が打ち合わされるような嫌な甲高い音が響いたが、ロボットであるアサルトロンに毒は効かない。
最後はアサルトロンの左手に装備されたプロテクトロンクローが、ラッドスコルピオンの甲殻の隙間に突き刺さり、体液を吹き出しながら徐々にラッドスコルピオンは動きを止めていった。
念の為に地に伏したラッドスコルピオンに向けて至近距離で散弾を二発放ち、完全に止めをさしてからアサルトロンの損傷を確認する。
挟まれた足は、塗装が剥がれて深さ五ミリ程の傷がついているだけで稼働には問題は無さそうだ。
針を突き立てられた胴体には直径一センチ程の穴が空いていたが、幸い重要部分は傷ついていないようだった。
胴体の穴には後で、ダクトテープで鉄板を貼り付けて補修しておけばいいだろう。
しかし毎度のことながら、変異生物の常識外れの強さには背筋が寒くなる。
鋼鉄の装甲を生身で攻略する圧倒的な力と頑丈さ、そして恐ろしい酸や強力な毒素。
それは例えパワーアーマーを身に纏っていても、決して侮れないものだ。
実際にこの場所のラッドスコルピオンを殲滅する際には、四体のアサルトロンが完全に破壊されてしまった。
今まで旅してきた居住地は比較的変異生物が少ない場所に作られていたが、それでも変異生物に襲われて死ぬという話は珍しい事ではないらしい。
しかし、だからこそロボットに完璧に守られた街は多くの人が魅力を感じる筈だ。
この世界に文明の拠点を作る。
そこで可能な限り楽しく生きるのが今の僕の目標だった。
(……でも流石に今の戦力では無理だな)
オートマトロンのクエストはオートマトロンを作成可能になる所までしか進めていないので、現在作れるロボットはアサルトロンやプロテクトロンが関の山で、装備も貧弱だ。
だがオートマトロンのクエストを最後までクリアすれば、全てのパーツが作成可能になるはず。
そうすればセントリーボットやロボブレインといったロボットも作れるようになるし、強力な装備も使用出来る。
しかし後二日でゲームの進行状況が一度リセットされてしまう日であり、遠くまで足を伸ばして本格的に探索を行ったり、クエストを進めていない為に装備も貧弱。
レベルだけは高いものの、今の状況ではメカニストまで辿り着く事さえ難しいだろう。
次のゲームの周回では居住地でのキャップ稼ぎ等は並行して行いながらも、メインクエストを積極的に進め、強力なパワーアーマーや武器を集めてメカニストを倒そう。
ゲームを進めている最中に表示されたメッセージによると、基本的にこのゲームはファストトラベル不可だが、例外としてインスティチュートとプリドゥエンだけはマーカーの付近まで移動した場合に限りファストトラベルが可能となっているらしいのでクエスト進行には問題無いはずだ。
とは言え、インスティチュートに辿り着くまではとにかく長いのでB.O.S.に入隊して強力なパワーアーマー一式を貰う所までを目安として進めるつもりでいた。