ゲームとリアルの旅人 作:のーる
風に乗り舞い上がった砂が口に入り、思わず噎せる。
しかし肺が焼ききれるような耐え難い苦しさを感じても、足を止めることはない。
俺が今立ち止まる事は、即、死を意味しているからだ。
一ヶ月程前に住んでいた居住地がスーパーミュータントの襲撃によって壊滅し、俺がただ一人生き残った。
十七までずっと住んでいた故郷と呼べる場所で、住んでいる者も良い奴ばかりとは言えないが、それなりに助け合って生きていた。
この世界では一人では生きられない。
しかし何の学問の知識も、財産もない俺を受け入れてくれる所は易々とは見つからなかった。
そうした不安と焦燥の中で、今も俺を受け入れてくれる場所を探して旅をしている。
だが今はその道中で、ワイルドモングレルの群れに襲われてしまった。
必死で逃げているが、きっと奴らは俺が疲れきって倒れるのを待っているのだろう。
だがそう分かっていても、走りをやめる訳にはいかない。
「死んで……、たまるかぁぁ!」
喉をからして叫ぶが、体はもう限界を迎えていた。
意思に反して膝が地につくことを感じ、直ぐに来るであろう終わりの時を覚悟した。
その時、連続した銃声が響き、同時に赤い光の線が空中に走る。
「……へ?」
後ろから迫ってきたワイルドモングレルの息の音が途絶え、断末魔の短い鳴き声が聞こえる。
続けて数回銃声が響き、振り向くと五体のワイルドモングレルは全滅していた。
銃弾が飛んできた方を見ると、俺から三十メートル程先の岩陰から、二人の人影が現れる。
いや、正確には違う。
二体とも全身を金属で構成されたロボットだ。
一体はまるで鎧のような頑丈な装甲を持ち、重量感溢れるずんぐりとしたロボットで、もう一体は比較的身体の線が細く、頭部には赤く光るガラスの目が一つ輝いている。
まともに動く機械などこれまでに見たことがなく、以前廃墟を訪れた時に茶色く錆び付いた機械の残骸を見たくらいだった。
「危ない所だったな」
全身鎧の奥から、くぐもったように奇妙に響く男の声が聞こえてくる。
昔に祖父から、大昔の技術は凄くて人間のように話すロボットが存在していたらしいという話を聞いた覚えがあったが、これもそうなのだろうか。
しかし声の響きは奇妙でも、どこか人間臭い声だったような気がする。
「に、人間……、なのか?」
「ああ、これはパワーアーマーといって動く鎧のようなものだ」
得体の知れない人物に対する恐怖はあったが、彼は恐らく自分を助けてくれたのだろう。
俺は一先ず礼を言うことにした。
「あ、ありがとう……、お陰で助かったよ」
「別にいいさ。 困ったときはお互い様だ。 ……ところでどうしてこんな所にいる? スカベンジャーや行商人って風でも無さそうだし」
「実は俺の住んでいた村がスーパーミュータントに滅ぼされてしまって、住めるところを探していたんだが……、いや、ですが、どこも自分達の事だけで一杯でよそ者を受け入れてくれる余裕なんてないらしくて……」
「……なる程。 それは丁度いい。 じゃあ俺についてこいよ、丁度人を集めていた所だったんだ」
「えっ!? ……で、でも人を集めているってどうして? もしかして近い内に戦いでもやるんですか?」
「いや、そういう訳じゃなくて、新しい居住地を作っている所なんだよ。 うちのリーダー……、管理官の命令で移住してくれる人を探していたんだ」
「居住地を……、作る?」
俺はその発言に警戒してしまう。
このご時世、変異生物やグール、スーパーミュータントが闊歩する土地に新たな村を作るなど容易な事ではない。
建築資材の調達や周囲の安全の確保、食料の生産等、やる事は山積みだし、例え上手くいったとしても野盗やスーパーミュータントに襲撃されて崩壊してしまう危険もある。
「警戒する気持ちは分かるが、こっちには大量のロボットがついているんだ。 パワーアーマーとこのロボットを見ただけでこっちの戦力は分かるだろ?」
「大量の……、ロボット?」
この時代、例えロボットが残されていたとしても殆どが経年劣化で破損していて、まともに動くロボットなど、とんでもない貴重品だ。
それが大量に用意されているとは、よほど保存状態の良いロボットを見つけたか、破損したロボットを直せる技術者がいるかのどちらかだろう。
少なくとも、新たな居住地を作るという大口を叩くだけの根拠はありそうだ。
「それに飯もある」
「……行きます」
結局俺の心を最終的に決めたのは、どうしようもなく騒ぐ腹の虫だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
連れて行かれたそこは、かつて街だったらしい瓦礫に覆われた廃墟だった。
爆発による破損と経年劣化で既にまともな建造物は残っておらず、ただ崩れ落ちたコンクリートや錆びた鉄筋が横たわる街だったが、よく見るとぽつぽつと人影が動いており瓦礫を退かし、荷車で運んでいる。
俺はその中を通り、廃墟の中央にある小高い丘の上に連れて行かれた。
そこには巨大なアンテナの残骸が転がっており、横には原型をとどめている四角いコンクリートの建物がある。
幅五メートル、奥行十メートル程度の建物だ。
俺を連れてきてくれたパワーアーマーを纏った男は、その建物のドアを開いた。
「管理官、新たな住民候補を連れてきました」
「ユウキ補佐官、ご苦労様です。 初めまして、私がここ、カンパニーの管理官です。 あなたの名前は?」
「え……、あっ、クレイン、です」
俺は思わずしどろもどろになってしまう。
事前にこの居住地を束ねる管理官がロボットだとは聞いていたが、その姿は俺が考えていた物とは違い、頭の透明なカバーの中にピンク色の脳が浮かんだ衝撃的なものだった。
だが管理官と名乗るロボットは俺の反応を気に留めずに次々に話を進めていく。
ここにくる経緯や特技等、幾つかの質問をされた後に、管理官は俺に向かって言い渡す。
「おめでとう、クレインさん。 貴方をカンパニーのクラスB職員として採用します。 業務の詳細はユウキ補佐官から聞いてください。 業務は明日から割り振ります」
「はい、了解しました」
「えっと……、失礼します」
俺はユウキ補佐官と呼ばれた男に連れられて、その建物を出る。
その瞬間、白昼の太陽の光が目に染みた。
「驚いただろ? でも、あれでかなり優秀なんだ」
「は、はい……、でもなんでロボットが町作りなんか?」
「……管理官はVault-Tecっていう戦前の凄い技術を持った企業のロボットらしいぜ? どうやらその企業は、核戦争後の文明復興の為に管理官を作ったんだと」
「Vaultって、あのシェルターの? 噂で名前は聞いたことがありますが……」
「まあ重要なのはロボット達は俺らの味方ってことさ。 さ、仕事の内容について軽く教えておこう」
ユウキさんの話では現在の仕事は農地の開墾と、廃墟の瓦礫の撤去、新たな建造物の建設の三つらしい。
「当分はこの場所を町の体裁に整える事だ。 でもその後は楽だよ、クラスB職員だからね」
「あの……、クラスBって?」
「ああ、ここでは住民を三つの階級に分けているんだ。 クラスA、B、Cにね。 クラスAは有用な技術を有する、または貢献度の非常に高い住民。 俺は読み書き、計算が出来るのが評価されてクラスAに配属された。 クラスBは街の建設に貢献した住人。 今、カンパニーに所属した者は漏れなくここに配属される。 クラスCは後からカンパニーに所属した人間に与える予定の階級らしいよ」
「それって、どう違いがあるんですか?」
「ランクが高い程、重要性が高くて報酬のいい仕事につけるとか。 大昔の国家だって、国家の建設に貢献した者は貴族として後々まで特権階級でいられただろ? 俺達もこの街の建設に協力すれば、街の富裕層に成れるってわけさ」
「へえ……、街作りが上手くいけば良い話ですね」
「上手くいくさ、きっと」
その後俺はユウキさんに案内されて、廃墟を動き回るプロテクトロンというらしい作業用の機械を見学したり、寝る為の小屋を見て回った。
この街には数十体のロボットがいて、それらが全てそこらの変異生物を軽く上回る力を持っているというのだから恐ろしい話だ。
「ああ、そうそう、これを持っておきな」
ユウキさんはふと思い出したようにパワーアーマーの腰部分に取り付けていたバックを探ると、中からマガジンが付けられた拳銃を取り出して僕に渡す。
「ロボットが警備しているとはいえ、ラッドローチとかブロードフライとか、小さくてすばしっこい奴らは取りこぼす事もあるからね。 護身用に持っておいた方がいい。 弾薬は10mm弾だ」
「ど、どうも」
渡された10mm拳銃はずしりと重く、頼もしい威力を秘めていることが理解できる。
今時、これほど状態の良い銃は珍しい。
こんな拳銃を新入りにぽんと渡せるということは、物資に余裕があるのだろう。
ロボットの武力と豊富な物資があれば、本当に凄い街を作れるかも知れない。
俺は降って沸いたチャンスに胸を高鳴らせた。