ゲームとリアルの旅人 作:のーる
街の建設も大分軌道に乗ってきた。
あちこちの居住地を巡りながら少しずつ人をスカウトしていき、その内噂が広まって自分から移住を希望する者も現れ始めた。
現在の人口は50人を少し超える程度。
未だに多くの住人が農地の開墾や瓦礫の撤去に追われているが、朝夜問わずに働くプロテクトロンとアサルトロンによって作業は急速に進んでいる。
所々に板材を貼り合わせて作った居住用の小屋も完成し、街としての体裁が整う日も近いだろう。
僕は街の中央の丘を登って、表向きの支配者である管理官がオフィスとしている建物へと向かう。
現在はそのオフィスを囲うようにして木の板塀が建てられており、オフィスの周囲の様子は外からでは伺えないようになっている。
それに一般の住民が管理官のオフィスへ出入りする機会は滅多になく、一度塀の内側に入ってしまえば、そこで何をしても外からは分からない。
僕はオフィスの前まで来ると、ゲームを開始して物資の調達へと向かう。
ゲームをしている最中に何時間経とうと現実世界では一秒程度しか経過していない為、ゲーム開始時に誰にも目撃されていなければ再出現の時も安全なのだ。
僕は補佐官という管理官の代理として活動する役職に就くことで、このフェンスの中に頻繁に出入りしても怪しまれる事はない状況を作り出し、それによって物資の補給を毎日行っていた。
中には、どこから物資が運ばれてくるのか疑問に思う住民も居るが戦前の凄い技術でどうにかしているんだろう、と強引に納得させている。
戦前の技術と言っても文明が崩壊した現代の人間には何だか凄い技術、くらいの認識しかない。
なのでこんな説明でも結構、誤魔化せるものなのだ。
これまで変異生物やスーパーミュータントの集団に襲われる事はあったが、幸い人的被害は殆ど出さずに撃退している。
一度、瀕死の怪我人を出してしまった事はあったが、他に手の施しようがなくスティムパックを打った所、怪我が治り結果としてスティムパックの効果が実証出来たのは不謹慎だが嬉しい収穫だった。
しかしロボットの損壊率はゼロとは行かず、やはり多少の被害は受けてしまう。
現在稼働しているロボットは七十体程。
少し多すぎるくらいではあるが、もし大規模な襲撃があればやはりこの位の戦力は欲しい。
街が出来るまで後少し。
僕は今日もFallout4のゲームの世界で弾薬や武器をかき集めていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
街を作り始めてから三ヶ月程が経過した。
瓦礫の山だった廃墟は、一部ではあるが既に居住地と呼べる程度の賑わいを見せており、居住地の人口も既に百五十人を超えている。
これはこの世界の基準で言えば驚く程に多い数字だ。
ロボットに守られた安全な居住地がある。
そんな噂を聞きつけて大勢の人がこの街、カンパニーを訪れた結果だった。
だが流石にもう全ての住人をクラスBの住人として受け入れる訳にはいかない。
本来クラスBの住人は移住者を効率良く集め、街の管理階級を作る為に生み出したが、あまり数が多すぎても意味がないだろう。
現在、クラスBの住民は七十人程で既に街の半数以上がクラスCの住人となっている。
クラスBの住民には物資の管理や通貨との交換、クラスCの住民の労働状況の確認、街を防衛する兵士の役割を任せている。
つまり街の労働者の中でも体制側により近い所で働く公務員のようなものだ。
そしてクラスCの住民の内、希望者には街から土木作業や農業などの肉体労働を割り当てて、その労働時間に応じた報酬を支払っていた。
ちなみにカンパニーでの通貨には、迷った末にゲームと同じキャップを使う事にした。
この街で使う通貨に必要な条件とは、大量に調達が可能で、尚且つ偽造しにくい事。
キャップは戦前の技術を使って作られているので偽造は困難だし、現実世界にも昔はヌカ・コーラが存在していたらしいが、数百年前に売られていた清涼飲料水のキャップなど、そう多くは見つからないだろうというのがキャップを選んだ理由だ。
この街で生産した作物や僕がゲームから持ち出した物資は全てロボットにより管理されていて、クラスBの住民が管理する店でキャップと引き換えに住人に渡されている。
店で売られている商品は全て値段が決められているし、ロボットが不正がないか監視しているので、売上の誤魔化しは難しい。
そしてクラスCの住民がこの店で買った商品を使って、料理店などの店を開くこともある。
クラスCには肉体労働が割り振られるといっても強制ではないし、他の仕事で食いつなぐ事を選ぶのも自由だ。
街には今、散髪屋やマッサージ屋、飲食店に売春宿まで存在しているし、中にはこの街で手に入れた物資を持って他の居住地と交易をしている者もいる。
夕方、今日の仕事を終えた僕が街を歩いていると、屋台のテーブルに置かれたラジオから女性の声が流れてきた。
「グッドイブニング、カンパニーの皆さん。 今日のお相手は私、レイラです。 さて、まずは昼のニュースの続報。 最近、南の村フロウティがスーパーミュータントに――――」
このニュースはカンパニー内にある放送局……、とは言っても無線募集ビーコンの隣に小屋を立てただけの簡素な場所から放送されている。
居住地の運営が軌道に乗り始めた頃、ふと家具にラジオがある事に目が行き、カンパニーでもラジオ局を作れないかと考えた。
そこで唯一、ラジオ放送が可能な設備、無線募集ビーコンに目をつけ現実に持ち出してみたところ、この無線募集ビーコンのスイッチ部はパネルが開くようになっていて、その中にレコーダーとマイクがある事が判明した。
出来ることはリアルタイムで音を電波に乗せて届ける事と、一度録音した音を繰り返し放送するだけだったが、それでも十分ラジオ局としての役割は果たせる。
今はクラスBの住人に毎日のニュースを伝えさせているだけだが、いずれはクラスBによるニュースは残しつつも、他にも複数のチャンネルを作りクラスCにも電波を解放したいと考えている。
いわば、公共放送と民放のようなものだ。
その日は屋台でテイトとニンジンのスープ、そして粉末ポテトを食べて、自分が住居にしている小屋へと向かった。