※この作品はR-18です。

ゲームとリアルの旅人   作:のーる

9 / 10
新たな段階

本棚を分解して作った木の板の上に、えんぴつを使って直営店の売上の帳簿をつけていく。

一応直営店で店員にも売上を記録させてはいるが、それは商品の種類と売れた個数だけの簡素な物で、実際のキャップの動きはこちらで計算しなければならなかった。

 

居住地を裏から管理する為に便利なので補佐官という役職についた僕だったが、最近は仕事に追われている。

居住地の住民が増えた事で経済活動も活発になり、その分経理の必要性も増したし、他の仕事も増えた。

 

義務教育制度がないので当然ではあるが、この世界の住人の教育レベルは低く、文字は簡単な数字と単語くらいしか読めないのが当たり前だし、算数もせいぜい足し算引き算が出来るくらいだ。

 

中には元々行商人をやっていたりして計算が得意な者も居るが、それでも小学校レベルの知識に過ぎない。

その中においては現代の日本人として当たり前程度の教養でも、貴重な技能として評価されており、僕がクラスA職員として勤務する事に不満を持たれる事はあまりない。

しかし上の階級を名乗っている以上、それなりに義務も果たさねばならず、日常の業務だけでも一苦労だった。

 

幸い、この世界に来てから全ての言葉が日本語に聞こえるのと同じように、英語の文章に関しても見ただけで母国語のように意味が分かる。

今の僕の補佐官としての仕事は管理官の代理人としての伝言係、経理、ロボットの燃料の管理、新たな住人の登録などだ。

 

一応、クラスC職員の内、少しは文字を書いたり計算が出来る人間が居れば個人的に雇うという形で助手として使ってはいるが、僕一人に降りかかる仕事は多く助手に計算を教えて少しでも仕事を楽にしようと試行錯誤している。

更に人が増えるような事があれば、ロボブレインをもう一体位増やしても良いかもしれない。

 

今の所、クラスA職員は僕を入れて三人。

一人は居住地を守る警備隊の隊長であり、変異生物の襲撃の際に勇敢な働きを見せ、現場からの人望が厚い事からクラスAに昇進させた。

Fallout4の中で最も性能の低いT-45パワーアーマーも支給しており、警備兵全員に与えられているロボットへの命令に関してもより高い権限を認めている。

燃料節約の為に普段は休止状態にしているカンパニーの最大戦力、セントリーボットの起動も彼の権限の内だ。

 

もう一人は医者であり弾丸の摘出や傷口の縫合等、外科的な技術を持っている。

スティムパックがあるとは言っても、やはり体内に弾丸を打ち込まれたり、傷口が汚染されている場合はそのまま打ち込むのは危険であり、彼の存在は大きな助けになっていた。

 

このカンパニーが出来て早半年。

人口もついに四百人を超え、定住はしていないが行商等で出入りしている人間を入れると更に多い。

 

クラスB職員は未だに七十人程度だがロボットのサポートがあるので、街の警備や店の管理は不足なく行えていた。

 

売上の誤魔化しや不正等は、それなりに厳しく―――と言っても特に悪質な場合を除けばまずは忠告で済ます程度だが―――、監視しており彼らもクラスBの階級は失いたくないのだろうか、あまり問題を起こす人間はいない。

 

クラスCの方も街中では主にアサルトロンが暴力行為や強盗等に目を光らせており、治安は比較的良好だ。

酒場での喧嘩やスリ程度は発生しているが、この世界では大した事ではない。

 

ただカンパニーの存在は周辺の集落にも大きな影響を与えている。

 

この世界の経済は元々物々交換で成り立っており作物や魚、家畜の肉、銃や銃弾が主な商品だった。

ただそういった物は需要と供給のバランスが不安定で、例え食料を持って他の集落に行っても、そこで求めていたのは違う物で交換に失敗するという事も珍しくない。

 

しかしカンパニーが通貨を発行し始めて、それと引き換えに直営店で商品が得られる事を保証した事は、カンパニー以外にとっても大事件であった。

 

このキャップを持っていれば、カンパニーで様々な商品と交換してくれる。

その事実が広まった事でキャップはカンパニー以外でも通貨として使われだし、結果として居住地同士の商取引が一気に増加した。

 

しかしその結果、周辺地域の交通量が増え、行商人を狙う野盗やスーパーミュータントをも引き寄せてしまったのだ。

 

野盗ならば最悪でも行商人を殺してキャップや商品を奪うだけだが、スーパーミュータントの場合は襲った人間を仲間にして数を増やす事もある。

 

この世界のスーパーミュータントは体質が違うのか、それとも体内のFEVが特殊な進化を遂げたのか、人間の体内に自分の血を大量に取り込ませる事で、人間をスーパーミュータント化する事ができる。

 

目撃者の話によれば生きている人間の腹を割いて、そこに自分の腕を切って大量に血を注ぎ込むという方法を取るらしいが、FEVの培養液が無くても増殖できるのは大きな脅威だ。

 

その対策をしたい所ではあるが、現在稼働しているロボットを増やして周辺地域を巡回させる事は難しい。

新たなロボットを増やそうとした場合、その日の弾薬以外の物資の補充を大幅に減らさざるを得ない程に、持ち出せる総重量を圧迫してしまうので、ロボットは出来る限り温存して、持ち出しの頻度を減らしたいのだ。

 

 

そして燃料補給の問題もある。

セントリーボット以外のロボットは内部に複数個収納されたフュージョンセルで稼働しているが、平常運転ならば五日に一個程度の消費速度であるフュージョンセルも、戦闘になりレーザーを撃ったりすれば瞬く間に消費される。

一度アサルトロンの頭部レーザーを試してみた事があったが、恐ろしい速度でフュージョンセルが消費されていったので現在は採用していない。

戦闘中にフュージョンセルを使い果たして、急に行動不能になるような燃費の悪すぎる兵器は使い辛いからだ。

 

もし街から離れた場所で戦闘になれば、最悪そこでフュージョンセルを使い果たして機能停止してしまい、無駄にロボットが失われる恐れもある。

 

フュージョンセルの補給自体は、きれいな水の大量生産による売上と各居住地に作った武器大商店によって問題なく行えているが、新たにロボットを増やす際は慎重な対応をしたかった。

 

最近は街道を旅する人間を警備する傭兵業も盛んになっているし、取り敢えずは彼らの自助努力に期待するつもりだった。

 

 

 

 

 

 

頭を使った後の軽い頭痛を感じながらも、仕事終わりの僕は街を散策する。

人口が四百人を超え、このカンパニーは周辺地域において最大の街となった。

 

街には木や鉄の板で作られた小屋が立ち並び、以前とは比べ物にならない程の活気に溢れている。

 

クラスC職員とは言っても、カンパニーの管理官から与えられる仕事が給料が安い肉体労働しかないというだけで独自に店を始めようが、民間で働くことを選ぼうが自由だ。

 

現在、周辺の農地で農作業に従事しながら暮らしているのは二百人程で、残りの百人以上のクラスC職員は店主や店員、傭兵等を生業として生計を立てている。

 

しかし様々な職業が生まれた事で貧富の差が拡大している印象も受けた。

 

実際、カンパニー側からクラスC職員に与える仕事の報酬は安い。

彼らの仕事は主に農作業だが、防衛の都合から農地の面積を拡大しようにも限度があるし、第一雨の日等は仕事も休みにせざるをえない。

どういう理由かは分からないが、幸いここには明確な四季がない。

時期によって寒くなったり暑くなったりはするようだが、降雪がある程ではなく、一番寒い時期でも種類によっては農作物が栽培出来ない程ではないらしい。

だがやはり暑い時期の方が作物の成長も早く、収穫量も多い。

 

そういった気候的な事情や農地の面積を考慮すれば、どうしても報酬は少なくせざるを得ないし、雨が続けば仕事がない日が続くのもやむを得なかった。

 

一応、労働者一人が質素に暮らしていけるだけの報酬は与えていたが労働力にならない子供がいたりする場合は厳しい収入だろう。

 

まあ、別に構わない。

僕の目的は自分が楽しく暮らせる街を作る事だし、貧富の差が生まれるのも経済が発達すれば当然だ。

 

ただ街のシステムが崩壊しては困るので、問題は一つ一つ解決していく必要はあるが。

 

 

 

僕は普段良く使っている屋台に行き、屋外に置いてあるテーブル席に腰掛けた。

レイザーグレインのパンと、幾つかの野菜とバラモンの肉が入ったスープ、そして酒を注文してからふと周りを見渡す。

そこにはこのカンパニーに来る前から着ていたのだろう質素な貫頭衣を身にまとっている者も居れば、この街の直営店で買ったであろうシャツとジーンズを身に纏った比較的身なりの良い者もいる。

 

僕は動きやすいように軍作業服を着ているが、この服装は少し周囲から浮いているようだった。

 

その中に直営店の内、銃と弾薬を扱う店で店員をやっている二十代後半くらいのクラスB職員の姿もあった。

彼はフランネルのシャツとジーンズを身に付け、目の前のテーブルには大きなバラモンのステーキが置かれている。

隣にはまだ十代と思われる女性が座っており、媚びたような笑みを浮かべて彼にしなだれかかっている。

彼は酒のグラスを上機嫌そうに傾けながら女性の肩に腕を回していた。

 

初期にこのカンパニーに所属したクラスB職員達も元々は、暮らしに困って新たな居住地の建設という不確かな話に飛びついたその日暮らしの貧乏人。

 

だがカンパニーの設立から半年が経過した今では、高給が保証された富裕層としての振る舞いにも慣れた様子で良い家に住み、美味い物を食べ、男の中には愛人を囲っている者もいる。

 

彼を見つめていると、あちらも僕に気がついたようで少し気まずそうにしながらも頭を下げて挨拶をしてきた。

 

クラスA職員はこの街の最高階級という事もあり、クラスB職員にもそれなりに敬意を払われている。

勿論、その代償として相応の働きを示さなければならないが、今の所は僕がクラスA職員であることに疑問の声は上がっていない。

 

しかし早く街に来ただけの人間がクラスBという特権階級についているのにはやはり不満の声も多く、クラスB職員は僻みや妬みの的になっている。

 

僕としても、この街の特権階級で居続けたいので階級制度を廃止するつもりは断固として無いが、クラスB職員が特別な存在ではなく少し早くカンパニーに所属しただけの人間という事は事実。

 

それにクラスB職員の中には子供を妊娠している者もおり生まれた子供の階級をどうするかという問題もあるし、この先、人が更に増えていけばクラスBの職員だけではカンパニーの仕事を回せなくなるだろう。

 

 

(待てよ……、クラスBが特に教養もない普通の人間だということが問題なんだ。 だったらいっその事、職務を分けるなんて中途半端な形ではなく本格的に街の支配階層を作ってみようか。 高い教養と格式を持つカンパニーの貴族として……)

 

 

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