Fate/zero × MTG のクロスでも書こうかなと 作:栗鼠科.aka.メスガキ撲滅委員会
覇者と呼ばれた男の脳裏に、一瞬、過去の記憶が通り過ぎた。
『これが最後の戦いとなるだろう』
なぜ今になって、こんな事を思い出すのか。その胸騒ぎに、ジョー・カディーンは不安を覚えた。
―それはミラディンにおける最後の記憶。
―――――
地響きが聞こえる。まるで止まぬ地震のように、砂が跳ね続けている。敵が迫っている、ファイレクシアの大軍が、最後に残った希望の一片までも、根こそぎ喰らい尽くさんと、押し寄せているのだ。
1人の女性が、ジョー・カディーンの背後に立った。『刃砦の英雄』と呼ばれし女、優れた統率力でオーリックの残存兵力を纏め上げ、
「逃がせる者は逃がせました」
「そうか…」
「あなたと共に戦えたこと、誇りに思います」
「私も同じ気持ちだ」
夕焼けの中、二人の英雄は、遥か遠くの敵軍を見据えながら、最後になるかもしれない言葉を交わした。
「…思えば、過去の我々は、実に愚かしい事をしていたものだ。共通の敵がなくては、団結もできんとは」
「しかし、今こうして、我々の心はひとつになっている」
「そうだ。いま、ミラディンのすべての
「明日を、未来を、勝ち取らねばならない」
「…負けられんな」
「はい…」
敗北が確実である事なぞ、2人には、既に判っていた。敵の数はいくらか、千や二千では済むまい、何万という大軍が来ているはずだ。近隣の駐屯地からの連絡が途絶えて、しばらく経つ、備蓄も尽きかけ、兵士の疲労や心労は限界に達しようかというほどで、どうあっても敗北の二文字しか見当たらない状況になっていた。完全な負け戦だ。
ファイレクシアの侵略軍はあまりに強かった。死を恐れないのはオーリックも同じ、だがファイレクシアは、死を取り込んで強くなっていく、不滅の軍隊だった。殺されてから改造されるのはまだマシなほうで、潜入諜報員の報告によれば、奴等は、人を生かしたまま兵器に変えてしまう事すらあるという。毒と洗脳と拷問により、信念や誇りすら壊されて、多くの兵士が口を割らされてしまった。屈強な騎士達がファイレクシアの奴隷へと改造され、かつての味方に刃を向ける。女子供も関係なし、ファイレクシアに属さぬ生き物は全て、見るも無惨に殺されてしまう。そして、その死体から、新たなファイレクシアの一兵が作り出されるのだ。そして、かつての仲間が、いま、この場所に迫っている。
最後の時が近づいていた。地平線を覆い尽くさんばかりの数、砂鉄の砂塵をまき上げて、数千数万の大軍が迫ってきていた。
「いよいよか…」
「ええ…。―副長! ここへ!」
刃砦最高の英雄の言葉が、強く響いた。呼び出された士官はすぐにその前に立ち、オーリック式の敬礼をして、片膝をついた。
「残存兵力各員に伝達! 敵が迫っている、武装して集合せよ! 非戦闘員以外は全員だ!!」
「はっ!」
ほどなくして、刃砦に残った全兵力が揃った。調和者隊の聖騎士を始めとし、ロクソドンの戦闘修道師から、補充兵も、工人も、戦える者は全員。
そして、刃砦の英雄はその先頭に立ち、言った。
「ファイレクシアの大軍がすぐそこまで迫っている! 数万の大軍だ!」
敵は何倍もの兵力であると聞かされてもなお、誰一人として、声一つ上げなかった。
「そうだッ! 我々は決して怯まぬ! 決して倒れぬ! 白の太陽の導きの下、戦い続ける者であるがゆえに!!」
「オオーッ!!」
激励に呼応するかのように、兵士達は吼えた。
「剣を掲げよ! 槍を掲げよ! 伏して死ぬなぞあってはならぬ! 戦い続けるのだっ!!」
「オオーーッ!!!」
「オーリックの誇りを!! ロクソドンの怒りを!! レオニンの気高さを!! やつらの体に刻み付けてやるのだッ!!」
「うオオォォッ!!」
侵略軍が立てる地響きに負けぬようにと、大きな声で、高らかに、兵士達は叫んだ。
そして最後に、台に上ったのは、覇者と呼ばれた男、ジョー・カディーンだった。
一個大隊にも満たぬ群衆を前にして、覇者は言った。
「これが最後の戦いになるだろう。皆、今までよく戦ってくれた。…これが最後の言葉になる、心して聞いてもらいたい」
誰一人として、声が出せなかった。
「我らはわずか一個大隊、千人に満たぬ、敗残兵にすぎん。だが諸君は、それぞれが一騎当千の、残るべくして残った古強者であると、私は思っている」
その言葉に、覇者の洗礼に、全ての兵士が身震いした。陶酔にも似た昂揚感が胸の奥底より込み上げ、もう涸れて無くなったと思っていた熱情が奮い起たされ、今再び、力強く確固たる戦意を覚えていた。
「ならば我らは! 諸君と私で! 総兵力100万と1人の軍集団となる!!」
「オオオォォォッッ!!!」
もう一度、空気が震えた。
「さあいくぞッ!! 刃砦100万の力、やつらに見せつけてくれるッ!!」
「オオオオッッ!!」
「ファイレクシアの雑兵どもよ! 聞くがいい!! これが! ミラディンの咆哮だッ!!」
総司令の合図と共に、門が開け放たれた。地響きを掻き消す程の喊声と共に、兵士達がなだれ出ていく。
「全軍突撃ィィッ!!」
「オオオオッッ!!!」
きっと誰もが、死を恐れていないのだろう。もう何も残されていないこの地表で、最後の1人になっても、かれらは戦い続けるのだろう。
厳格という言葉を骨に刻まれて生まれたロクソドンは、きっと、いまあるすべてが許せないに違いない。だから戦っているのだろう。
それはオーリックやレオニンも同じだ。許せない、絶対に許してはならない、そう思うからこそ、かれらは戦っているに違いない。
「突撃ィィッ!!」
夕闇の中、ジョー・カディーンは叫んだ、二色の光を放つ聖なる剣を手にして。
―――――
「―イバー! セイバー!!」
過去の映像の中から呼び戻され、セイバーは
「いったいどうしたというのだ」
「いや…、なんでもない…。ただ…すこし、昔を思い出していた…」
「まあいいが。さっさと移動するぞ。日は高いが、奴らは何をしでかすか、わかったものではないからな」
セイバーとケイネスの組み合わせによる、堂々とした日中行動。これが、現在行なわれている、威嚇行進作戦であった。示威行為には示威行為で返す、挑発には挑発で、それがセイバーの策だった。
行き先はハイアットホテル、ケイネスが以前使っていた城であり、仮の拠点。そこには、ロードエルメロイが創造せし、様々な武具があるという。今回の目的はそれだ。未だ満足に戦えない状態のランサーを連れて行くのは難しい、そのため、ケイネスはホテルに戻ることができなくなっていた。そこで賭けに出た。最後の守りにも等しいセイバーを護衛に就け、敵を誘い出すと同時に、武器兵器の調達に向かう。
セイバーを欠いたアインツベルン城の守りは脆弱なものとなる。しかし、衛宮切嗣には令呪がある。マスターだけが持てる、自分のサーヴァントに対する絶対命令権。三度限りと言えども、一時的に、条理や法則すら無視可能な特別。今回の場合は『一瞬での長距離移動』がそれに当たる、令呪ひとつで
しかし―
「奴らにも頭は付いているようだが、脳は入っていないらしいな」
ケイネスの前に大きく出て、右腕を上げて制止を促し、セイバーが言った。ケイネスにも、それがどういう意味かは分かっていた。
「ひさしぶりだねえ、男前のセイバーさぁん?」
白昼堂々と、濃厚な血の臭いを振り撒きながら、ライダーが実体化する。
本部の方で何か揉めているのか、代わりの監督役は派遣されて来てない。聖杯戦争を始めた御三家のうち、既に遠坂と間桐の両当主が死亡していて、残る一角、アインツベルンの本籍は海外であり、その当主は本国の城で報告待ちである。つまり、この聖杯戦争、最早、誰一人として、止められる者が居ないのである。完全なルール無効、規定も規則も存在しない。それはライダーのような
「監督役が殺された夜からずっとだ」
「何の話だ?」
「あれは
なぜわざわざ危険を犯してまで監督役を殺害したのか、その理由は、目の前の相手が教えてくれた。セイバーの問いを聞き、ライダーは大きな声で笑い出した。体をくの
字に曲げて、おもしろおかしくてしょうがないといった風に、まるで狂った様に笑った。そして笑いの余韻を残したまま、ライダーは剣を抜いた。
「だったらどうする…? だったらどうする!? 許せないとでも言うつもりかい? こいつぁ戦争なんだぜェーっ!!」
高らかに叫びながら、ライダーは剣を振りかぶった。
―――――
「さっきからずーっとよぉ、書類と睨めっこしてよぉ、それ、何かおもしろいのかよ」
それは第四次聖杯戦争が正式に始まるよりも少し前のこと。遠坂時臣からの指示で、早くもサーヴァントの召喚を行ない、恐らくは誰よりも先に、いち早くサーヴァントと出会った男、言峰綺礼。彼のサーヴァントというのは他でもない、
「おもしろいから見ているのではない、興味深いから見ているのだ」
「男の写真をか? おまえホモか?」
「断じて違う。…どう見えているかは知らんが、こう見えても既婚者だ、娘もいる」
「へえぇ。堅物そうな顔して、ヤルことはヤってんだねえ」
なんてことはない、内容も意味も理由も無い、どうでもいい会話だった。この頃のライダーはまだ、言峰綺礼というマスターに対し、関心を抱いていなかった。言峰綺礼も同じく、ライダーの自制がまだ利いていた時分であったため、聞いたことのない名前の、どこの国の伝説や神話に登場するかも分からない、正直言ってどうでもいいサーヴァントだと思っていた。そのため、二人の関係は、ただの協力者同士に過ぎなかった。
「どれどれ、ちょっと見せてみな」
唐突にそう言って、イクサヴァは書類をひったくった。
「・・・・・」
「エミヤキリツグ? こーんな冴えない男の、どこが興味深いってんだい?」
「…その男は何かを掴んだ、答えを得たのだ。私はそれが何であるかを知りたい」
「答え? 何の答えだ?」
「ふむ…、哲学的な表現だが…、生まれてきた意味…と言ったところか」
「…難しいこと考えてんね、アンタ」
真っ当な人間としての幸せを感じられず、まるで自分が人間ではないかのような、奇妙な非現実感に苛まれていた頃の言峰綺礼である。そんな彼は、衛宮切嗣という男に興味を示した。書類上の衛宮切嗣は、各地の戦場を転々とし、主義や理想なぞ見えない転身を続け、延々と人を殺し続けてきた男だ。そんな男が、金のためなら雇い主を選ばないような傭兵が、この度、アインツベルンに雇われた。それは当然、聖杯戦争のために。そして―言峰綺礼からすれば、驚くべき事に―アインツベルンのホムンクルスとの間に、なんと一児を儲けたというのである。
「私は知りたいのだ…、人を殺す事でしか自分を表現できない男が、世界に絶望し、それでも生きざるを得ない男が、どうして聖杯戦争に参加したのかを」
つまるところ、言峰綺礼は、衛宮切嗣という男に、自分を重ねていたのである。似た境遇にあると思われる衛宮切嗣が、何らかの意志を持って、自分の居場所である戦場を捨ててまで、それまでの衛宮切嗣であれば全く触れようとしなかったであろうはずの、聖杯戦争という魔術師同士の戦いの場に赴いたのだ。そこには確実に、何らかの意志が存在する。それはつまり、衛宮切嗣は自分を見つけたという事に違いない。言峰綺礼はそう考えた。
未だ自分という人間を知りえない言峰綺礼からすれば、それはなんとしても掴みたい情報であった。何の目的も無く、願いや希望すら存在しない、それでも、『願いを持つ者を優先的に選出する』という聖杯に選ばれた以上、言峰綺礼には、自覚していないとしても、願いが存在する筈なのだ。その正体を知るという事は、自分の正体を知るという事である。自分がどういう人間であるかを知りたいと思う言峰綺礼は、聖杯戦争を通じて、衛宮切嗣という男を通じて、それを知ろうとしていたのだ。
一方でイクサヴァはというと、まったくもってどうでもいいという感じで、さして興味を示していなかったが。
そして聖杯戦争が始まって、さっそく血を見ることになった。
ライダーの蛮行を目の当たりにして、言峰綺礼は答えに一歩近づいた。その血肉の惨劇を見て、かすかに心が震えたのを感じた。しかし、不思議な事に、不快感はまるで感じなかった。ただ少し、後片付けが面倒だと思っただけで。ただ少し…、面白そうだと思っただけで…。
言峰綺礼はその翌日、とうとう答えを知る事になる。バーサーカーの出現、そして惨殺、虐殺。刎ねられた人の首がネオンをバックに浮かび、雑多な臭いの路上の中に、鮮血の香りが強烈に漂い、血溜まりは蛍光灯の光を受けて妖しく映えた。
「…っ!」
気が付けば、手に汗握って、見入っていた。頭部を踏み抜かれた者を見たとき、まるでボールをゴールに叩きこんだ時のような爽快感があった。背中からゆっくり貫かれた者を見た時などは、焦らされるような、もどかしいような、それでいて興奮を覚える白熱があった。両腕を引き千切られて死んだ者を見た時なぞ、思わず声を上げてしまいそうになるほど、どうしようもなく感動していた。しかし、そんな感動も長くは続かず、そればかりか、自分の正体を知ってしまったが故に、葛藤に苦しむ事になる。
繁華街の空に現れた天使の姿。輝く二又槍を手にしたその姿は実に神々しく、正しく、誰がどう見ても天使であった。言峰綺礼は気付かされる、間違っていたのは自分だった…と。
その後、言峰綺礼は仲間を手に入れた。ライダーは良きパートナーだった。その道に目覚めて間もない言峰綺礼に対し、まるで教師のように、イクサヴァは様々な惨酷を教導した。自分は独りじゃない、もう抱え込まなくていい、自分らしく生きればいい、そう言ってくれる
―――――
そして今、言峰綺礼は初心に帰る。世界にはもう一人だけ、自分を理解してくれる存在が居る、そう思えばこそ、衛宮切嗣という人間が分からなくなったために。
「クソッ! ここにきて言峰綺礼か…!」
アインツベルン城の結界に触れたその人物の正体を知ると、衛宮切嗣は悪態をついた。セイバーとの視角共有により、今現在、市内にてライダーと交戦中である事はわかっている。であるにも関わらず、そのマスターである筈の言峰綺礼が、何故か、アインツベルン城に単身で来ているのだ。恐らく、いや、まず間違いなく、その背後には、言峰綺礼とライダーに協力している、アサシンの姿がある。となれば、さっそく、ここで令呪を一角使わざるを得ない状況に陥ったという事になる。
「衛宮切嗣! 聞こえているのだろう!? お前と話がしたい!」
門前にて、言峰綺礼は大声で言った。しかし、衛宮切嗣はこれを無視、まるで相手にしない。
衛宮切嗣は即座に戦闘準備を整えた。そこに、ランサーが実体化する。
「最初から最後まで、予定通りにはいかなかったな…」
「どうするつもりです? 私も、戦えなくはありませんが…」
「いや、いい。
「お気を付けて…」
「ランサーには周囲を警戒してもらう、舞弥と協力し、奴と一緒に来ているであろう、アーチャーなりアサシンなりを見つけてくれ」
衛宮切嗣はそう言って、無線機をひとつ投げ渡し、重装備で部屋を出た。
ランサーはその後姿を見送ると、静かに目を閉じ、戦士達の武運を祈った。恐らくはこれが最後の戦いとなる、ランサーの第六感が、そう言っていた。死なせてはならない、そう思い、まだ死ぬわけにはいかない、そう覚悟する。そして、戦場へと赴いた戦士達の、無事の帰還を願い、手を合わせ、祈りの言葉を捧げた。
蹴り抜かれた正面の鉄柵、押し開かれる玄関、敵はすぐそこまで来ていた。