※この作品はR-18です。

Fate/zero × MTG のクロスでも書こうかなと   作:栗鼠科.aka.メスガキ撲滅委員会

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6月10日の三話連続投稿です(3/3)


最終決戦
24


 

 

 アスファルトの地面が揺れるのを感じた、地響きが聞こえた、セイバーはそれが戦車か何かだと思った。走り来るそれ(・・)の姿を視界に捉えたとき、セイバーの中にあったのは、困惑だった。

 

「なっ…なんだあれは…!?」

 

 それは馬…、らしきものだった。胴で繋がった二頭の馬、頭部の肉は無く、赤熱の頭蓋骨が剥き出しで、鬣(たてがみ)の代わりに髭状の骨が突き出ている、蹄(ひづめ)までもが赤熱化しており、その足跡からは火柱が立っていた。これこそは、ラクドス教団が飼い慣らした、『謝肉祭の地獄馬』。火柱を立てて走り回り、場に熱気を与える役割を持つ、ひとつの余興である。

 大好物の砂糖漬けの手と甘い心臓をたらふく食べ、元気いっぱいの地獄馬。それが、全速力で突進してきた。

 

「さあっ! 祭りの始まりだあっ!」

 

 セイバーとの鍔競り合いから飛び退き、ライダーが跳躍する。左手に持つ鎖を投げ伸ばし、走り寄ってきていた地獄馬の首に巻き付けると、それを手繰って、地獄馬の背に飛び乗った。

 既に、ケイネスは路上から離れ、周囲一帯に人除けの結界を張り、難を逃れていた。セイバーも横っ飛びの側転で、その突進を避けた。空を飛ぶドラゴンやドレイクを相手にしていたセイバーである、いくら巨体であろうと、突進しか能が無いのであれば、この戦馬は、まだやりやすい相手と言えた。しかし、戦術的な問題はともかく、表面的な問題はまた別だった。

 

「まだ昼間だぞ!? こんなっ…!」

 

 凄まじい勢いで走り抜けた地獄馬とライダーを見送り、困惑と苦渋が混じった表情で、ケイネスは理解し難いという声を上げた。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは生粋の魔術師である、ゆえに、『魔術は秘匿されるもの』という前提で動く。それが、こうも無茶苦茶な破られ方をしたために、非常に困惑している。事態の収拾や破損した公共物の修復などは、主に教会側の仕事だ。が、既に周知の通り、監督役が死亡しているため、迅速な収拾活動は望めない。これ以上の混乱は避けないと、このままでは、聖堂教会は元より、魔術協会からも、事態を収拾するため、始末屋(・・・)が送られる事になりかねない。そこで、ケイネスは言った。

 

「これ以上、奴を野放しには出来んぞっ! 殺せッ! 殺すのだ、セイバー!」

「ああ、そうだな。―切嗣は強い男だ…、持ち堪えるさ(・・・・・・)…」

 

 セイバーの言葉は信頼からくるものではなかった、だが、頼りにしているのは確かだった。これ以上、ライダーを野放しには出来ない、それはセイバーも同じ考えだった。しかし、"周囲にはライダー以外の気配は無いのだ"。ライダーが単独で居るという事は、つまり、残りの敵は、アインツベルン城に向かったはず。

 

「"一撃でケリを付けるッ(・・・・・・・・・・)!" 下がっていろ!」

 

 それでも、衛宮切嗣という男を、その身を預けた仲間を信じ、セイバーは戦闘続行を決めた。マスターに念話でそれを伝えると、加速しながら突進してくる敵を見定め、強く剣を握り、構えを取った。

 奇妙な構えだった、姿勢は低く、左手を前に出し、剣を握る右腕は折りたたんで引いていた。まるでビリヤードのキューを構えたかの様な、奇妙な構えだった。セイバーは動かない、地響きを立てて地獄馬が迫っているが、微動だにせず、それを待ち構えた。

 

「ブッこめェェッ!!」

 

 距離20メートルまで迫り、ライダーが手綱の鎖を引いて叫んだ時、セイバーが踏み込んだ。ライダーとて一サーヴァント、その動体視力は尋常ならざるものである、ゆえに、セイバーの左足が深く沈み込むのを見て、飛び掛りながら斬り込み、地獄馬の頭部を切り落とすか、もしくは自身(ライダー)を直接狙うだろうと、瞬時に判断した。ライダーは迎撃の体勢の取った、剣を左肩に構え、飛び掛ってきたセイバーと、斬り結ぶつもりらしい。その判断は正しい、初撃さえ止められれば、空中で踏ん張りの利かないセイバーなぞ、地獄馬のふたつの首に食われてしまうだけ。だが、それは、"セイバーが飛び掛ってきた場合の話である"。

 

「な…!?」

 

 ライダーは困惑した、セイバーは深く沈み込ませた左足を跳ね伸ばし(・・・・・)、引き出した右足で地面を蹴り、ほぼ真上、若干後方に飛び上がったのだ。それだけではない、セイバーは、地面を蹴る際に、右足首に回転(ひねり)を加えていた。結果、ライダーが想定していた、衝突(インパクト)の瞬間が"ずれた"。ライダーは一手を外されただけではない、セイバーは、溜めに溜めた右腕を温存し、更には全身の回転を使っている、『当たれば負ける』、本能がそう告げるほどの、力の差を見せられてしまった。

 だが、ラクドスの血魔女は止まらない。玉砕精神(こんじょう)こそ、彼女(イクサヴァ)が弟子達に教えた、ラクドス教徒の在り方である。当たって砕ける、その後のことは考えない、ただ、いまだけを楽しむ、それが、今も昔も変わらない、イクサヴァの生き方だから。

 イクサヴァは吼えた、叫んだ、この一合が負けると悟ってもなお、全力でぶつかろうとした。

 

「アアアアァッ!!」

 

 二人の剣は同時に放たれた、だが、その速度は桁が違った。空中で回転するセイバーは、その回転によって、右腕のタメが効果を失う直前に、渾身の力で聖剣を振り抜いた。その練りと筋力から放たれた一閃は、まさに光速、神速の一太刀であった。その聖剣は地獄馬の右の首を刎ね、迎撃にきたライダーの剣を弾き返し、それでもその勢いは止まらず、残った左の首に深々(ふかぶか)と斬り込んだ。

 セイバーの攻撃は終わらない。地獄馬の突進の勢いはまだ残っている、それを利用するべく、セイバーは両足を上げた。

 

(乗り上がるつもりか!? まずっ…)

 

 ライダーがそう思った時には、もう、切り落とした方の首元に左足を、ふたつの首の合間に右足を掛け、セイバーが地獄馬に乗り込んでいた。

 ライダーの剣は凄まじい勢いの剣閃に弾かれ、その右腕には痺れがあり、反撃が出せない。窮地、ライダーは、心の臓が凍りつく感覚を感じ、それと同時に、逆境に昂る精神の熱を覚えた。

 

「ブゴオオォォ!!」

 

 恐るべきは地獄馬、右首を切り落とされ、左首には中ほどまで剣が刺さり、戦争と平和の剣の炎によって、その傷口が焼かれているにも関わらず。なおを歩みを止めないどころか、傷口が広がるのも構わず、首を捻って、セイバーに噛み付こうとしていた。しかし、セイバーは、上体を持ち上げようと、突き刺さった剣を頼りに、右腕に力を入れて体を持ち上げる。すると、地獄馬からすれば、剣を押し込まれた形になり、首の捻りを押し返され、その反撃は潰されてしまった。

 

「くっ…!」

 

 地獄馬の雄叫びを聞いて突き動かされたのか、ライダーは剣を手放し、腰にある肉切りナイフへと震える右手をやった。そして、即座にそれを突き出した。セイバーの異常な耐久力を知るライダーは、胸でも首でもなく、直接顔面を狙った。が…、それは顔を掠めるどころか、大きく左へそれて、セイバーの顔の右横へと流れた。それがセイバーの左手で受け流されたのだと判ったとき、同時に、胸の中の冷えた感覚が、熱く燃え上がるのを感じた。

 

「終わりだ。滅びるがいい、血濡れた魔女よ」

 

 その言葉を聞いて、ようやく、ライダーは己の身に何が起こったのかを知った。胸に深々と突き刺さった剣、炎を纏った赤い刃、光輝く白い刃、戦争と平和の剣がライダーの胸を貫いていた。

 

「あ…あ…? っ…あああアアァァッッ!!」

 

 『一撃でケリをつける』などと言っておきながら、そんなつもりは毛頭無く、実際にはニ撃であり。真っ直ぐ飛び掛ってくるとしか思えない体勢だったのに、それは見せかけだけで、実際には後方に跳んでいて。つまり、ライダーは完全に出し抜かれていた。最初から最後まで、セイバーの手の平の上で、踊らされていたようなもの。そんな悔しさか、それとも、新しい弟子である、言峰綺礼(マスター)を置いて、先に死なねばならない後悔か、または、せっかくの新しい人生なのに、やり残した事がたくさんあるのに、早くもそれが終わってしまうからか、それとも、単に激痛からか、ライダーは血の涙を流して叫んだ。

 

「ぬうっ!?」

 

 その瞬間、"ライダーの実体が消えた"。それが霊体化ではなく、令呪による強制転移であると見ると、セイバーは止めの一撃を見送った。そして、その止めの一撃は、代わりに、地獄馬に残った最後の首に放った。

 

 

―――――

 

 

 言峰(ことみね)綺礼(きれい)は何度も冷や汗をかかされた。衛宮(えみや)切嗣(きりつぐ)の手厚い歓迎は、尋常ならざる、偏執的とも言える周到さがあった。玄関ホールのトラップ群を抜け、廊下の曲がり角の先にあった対人地雷を避け、進路方向を誘導されていると解ってもなお進んだ。軽機関銃による逃げ場の無い掃射からも、壁板を突き破り、空き部屋の中に身を隠すことで難を逃れた。その姿を追って廊下を曲がると、足元にはワイヤーが張ってあり、降り注いだ手榴弾が炸裂した。一室に逃げ込む姿を見て、同じ失敗は繰り返すまいと、壁を突き破って進入したが、待っていたのは化学物質による超高熱の爆炎だった。

 

「はあ…はあ…、くそっ。衛宮切嗣ッ! いつまで逃げ続けるつもりだ! 私はただ、お前に聞きたい事があるだけなんだ!」

 

 声が通り抜け、しんと静まりかえる廊下。残念ながら、言峰綺礼には―今のところ―交戦の意思が無くとも、衛宮切嗣はそうではないらしい。

 

「話を聞きたい…、いや、聞かせてほしいのだ。お前は答えを得たんじゃないのか!? どうしてアインツベルンなぞに手を貸した? ホムンクルスとの間に、子供を作ったのはなぜだ? 聞かせてくれないか?」

 

 こうなってはもう、まっとうに話し合う事は出来ないと思い、言峰綺礼は質問を投げ掛ける事にした。

 

「お前は私と同種の人間であるハズだ! そうだろう!? 私は、自分が何者であるか、どういう人間であるか、何も知らないまま、ただ、周りに言われた通りに、妻と結婚し、子供を儲けた。今は違うぞ、今なら、そんな事は絶対にしない。私は、自分が、どんな存在であるか、ハッキリと理解したからな! ―だが、衛宮切嗣、お前はいったいどうして? 自分がどういう人間なのか、どんな存在なのか、解っていないのか? なのに、なぜだ…? なぜ、あんなことを…?」

 

 言峰綺礼の言葉は空間に消えるばかりで、肝心の相手の耳に届いているのかどうかも判らない。

 衛宮切嗣からの返事が無い事、念話で伝えられたライダーの窮地、疲労と急性的なストレスで若干磨り減った神経、それらは言峰綺礼を苛立たせた。

 

「私は諦めんぞ! 衛宮切嗣!」

 

 最後に一言、大きな声で、決意を叫んだ。その瞬間、胸にチクリと刺さる、死の危機感が言峰綺礼を襲う。自分の身に降りかかったものではない、それはライダー(パートナー)のものであった。

 

「ライダー!! 今すぐここへ来いッ!!」

 

 三画しかない令呪のうち、二画を同時に消費して、更に効力を上げた強制瞬間転移。その命令が廊下に響き始めたと同時に、突然、言峰綺礼の目の前に、ライダーが現れた。

 ライダーは胸に大穴が開いており、もう助からないと判断出来てしまう程だった。それを見ても、それでも、ライダーを受け抱えようと、言峰綺礼は腕を伸ばした。次の瞬間、その傷口から炎が上がった。

 

「アギィぁぁぁああーっ!!!」

 

 ライダーは叫び悶え、言峰綺礼の腕の中で、今にも消えてしまいそうになっていた。体の末端は既にほつれ、赤黒い粒子となって立ち上り、次々に消えていく。

 自然と、涙が溢れていた。言峰綺礼は、まったく自覚の無いまま、知らず知らずのうちに、泣いていた。

 

「消えるなッ! 消えないでくれッ!! ライダーー!!」

「あ…あ……、き…きれ…い」

 

 胸の傷より上がった炎が消えても、その致命傷は絶対的なものだった。既に、ライダーの下半身は消えてなくなっており、手先すらもがほつれ、どんどん消えていく。もう助からない、ライダーには、セイバーほどの耐久値も無く、キャスターのように減った生命力を補うものも無く、ましてや、死を免れる再生スキルも無いのだ。他にもっといいやりようはあった、こんな事にならない方法が、どこかにあったハズなのに。悔しさと後悔の中、二人は涙を流した。

 

「ごめ…んよ…、もっと…色々…教えてあげたかった…のに…」

「ライダー…! 頼む…死なないでくれ…、私を…、私を一人にしないでくれ…」

「うふっ…ふふ…、むりっぽいなぁ…。アタシは先に逝くよ…」

「ライダーっ! ライダァァー!!」

 

 言峰綺礼の慟哭と同時に、その手にある最後の令呪が輝いた。『死なないでほしい』、その願いが激情をスイッチとし、命令として成立したのだ。が、それも、ほんの十数秒の猶予を作るに過ぎなかった。しかし、ライダーはそれを感じた事で、最後にひとつだけ、この世界に呪いを残していく事にした。

 

「前に、教えたよな…? 『放火。流血。愉悦。』…、これはね、我らがラクドス教団の導き石に刻まれた、銘文なんだ…」

 

 イクサヴァの体が崩壊していく中、最後の令呪による命令で、その速度が落ちた。残されたわずかな時間を使い、最後の弟子に、もっとも大切な事を教えるべく、彼女は続けた。

 

「後先考えて行動するなんざ…、ゴホッ…、バカのやることさ。周りの事なんか気にするな、自分の…、やりたいようにやればいいのさ」

「ライダー…」

「いいかい、綺礼。お前はね、すごく優秀なんだよ、アタシが見てきた中でも、とびっきり…ね、だから自信を持ちな」

 

 最後の令呪が、その効力を失った。崩壊のスピードが元に戻り、ライダーの体は、もう、胸より上しか残っていない。そして、それすらも、十秒後には消えてしまうだろう。

 ライダーは最後に、消えて無くなった左腕を伸ばすように、言峰綺礼の顔を撫でようとした。

 

「アタシの意思を…継いでくれるかい?」

 

 言峰綺礼は何も言えなかった、ただ涙だけが溢れ、嗚咽だけが零れるのだ。それでも、彼は頷いた。

 

「ここはラヴニカじゃないけどさ…、きっと…、ラクドス様の教えは…、受け入れられる…ハズなんだ…」

「ライダー…!」

「アタシは幸せだよ…、こんな立派な弟子を持ててさぁ…」

「ライダーッ!!」

 

 言峰綺礼が最後にその名を叫んだ時、ライダーに残った頭部までもが、赤黒い粒子となってほつれて消えた。

 ラクドスの血魔女、イクサヴァ。彼女は、最後の最後まで、苦痛と愉悦の伝道者であった。

 

「ぅぉぉおおおおおおっっ!!!」

 

 雄叫びにも似た慟哭が響く、消えて無くなったイクサヴァに言わせれば、それは、産声であると言うのだろう。

 そこに怨みはない、復讐の念も無い、ましてや、怒りの感情すら無かった。またも孤独に追いやられた言峰綺礼に残ったのは、衛宮切嗣という希望、そして、亡きイクサヴァに捧げる新たな愉悦の始まり、義務感だけであった。

 生まれついての狂気、言峰綺礼。彼の人生は、今ようやく、自身が認められる、完全な形となった。

 

 

 




んじゃまた
もうそろそろ、このお話も終わりですねぇ…
いやぁ…なんともまあ…
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