※この作品はR-18です。

Fate/zero × MTG のクロスでも書こうかなと   作:栗鼠科.aka.メスガキ撲滅委員会

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二話連続更新でした

ゴメン、今回ちょっと長すぎ
次からは気を付けるよ

いやー、筆に熱乗っちゃうと、ついつい止まらなくなっちゃうのよねー


26

 

 壁を斬り抜いて室内へと突入した言峰(ことみね)綺礼(きれい)。そんな彼を待っていたのは、装甲車すら撃ち抜く、巨大な弾丸だった。

 

「ふゥ……ぐ……!?」

 

 言峰綺礼からすれば間一髪、衛宮(えみや)切嗣(きりつぐ)からすれば惜しいといったところ。最新の防弾防具なぞ軽々と貫通し、鉄塊の如き装甲車すら貫く、生身の人間であれば、命中すれば即死の一発。その脅威の運動エネルギーは、頭部を掠めただけで、脳震盪を引き起こさせ、いとも簡単に昏倒させてしまう。それほどに恐ろしい殺傷兵器が、言峰綺礼の右の肩を掠めた。

 防弾、防刃、耐火に優れた戦闘神父服(カソック)の右肩部分は塵と化し、肉は弾け飛び、衝撃で上半身が反り返る。"二人は"その結果に驚いていた。言峰綺礼は、これ程までに強力な銃が存在するとは思っておらず、一発で右肩を破壊されるという結果に驚愕を覚えていた。衛宮切嗣は、"僅かとはいえ弾道を曲げてみせ"、"その威力を大幅に殺した"という、黒鍵の強度と、言峰綺礼の驚異的な筋力に驚愕を覚えた。

 

 コンテンダーは単発式、空薬莢を排出し、次弾を装填しなければならない。時間を作る必要があった。当たりさえすれば、あの言峰綺礼といえども、戦闘不能に追い込めるだけの威力がある。衛宮切嗣は、それを確認した事で、瞬時に、脳内の作戦を組み変えた。

 着弾から0.8秒後。発砲の反動を殺しきった衛宮切嗣が、左手の軽機関銃を構える。驚きながらも視線だけは外さなかった言峰綺礼が、無事な左手にある黒鍵で、その連射を防ぎきる。きっかり15発、残弾の半分だった。

 

「逃がすと思うかぁっ!!」

 

 銃撃を防ぎきった言峰綺礼が、黒鍵を投合する。衛宮切嗣が、右手の拳銃を仕舞い込み、背を向けて、窓の方へ逃げようとしたのを見たためだ。しかし、黒鍵はその背中に突き刺さらず、空(むな)しくも、空(くう)を走り、直線上の窓ガラスを突き破り、森の中へと消えていった。一番の原因は、右肩に重傷を負い、重心のバランスが崩れ、本来の正確性と速度を出せなかったことであろう。

 言峰綺礼が次の黒鍵を取り出すのと同時に、衛宮切嗣は軽機関銃をコートに仕舞った。衛宮切嗣が次に取り出したのは、二本のナイフだった。背を向けて、駆け出しながら、ナイフを取り出す。言峰綺礼は、その行動の意図が解らず、一瞬迷ったが、自分が割った窓ガラスを見て、衛宮切嗣が何をするつもりなのかを察した。

 衛宮切嗣は、驚異的な瞬発力で駆け出した敵に無防備な背中を狙われながらも、割れた窓へと真っ直ぐに、ただ直進する。そして、二本のナイフを持ったまま、勢い良く窓から飛び出した。空中で反転し、逆手に持ったナイフを突き出し、壁に突き立て、落下の速度を抑える。強化の魔術を施したナイフであり、それを扱える握力があり、そして瞬時の判断力と決断力が無ければできない芸当だった。

 

「くっ…、まだ逃げる気か…!」

 

 真下の部屋に窓から飛び込む衛宮切嗣の姿を見送り、言峰綺礼が顔を歪める。右肩を破壊されてしまった以上、衛宮切嗣のように、窓から飛び出し、階下の窓へと飛び込むのは困難だ。迂回するしかない。しかし、そうなると、衛宮切嗣に、次の攻撃の準備に足る時間を与えてしまう。

 ゼロ距離に持ち込めば、一撃で再起不能にできる。しかし、その一撃が遠い。魔術師殺しの異名は本当だった、それを実感し、言峰綺礼は悩む。

 

(奴はもう一度、罠を用意するだろう。その先をいかねばならないが、こちらには足が無い。―あの大型の拳銃…、あの速度は流石に反応しきれない…。最悪の場合には、右手を犠牲にするしかないか…。小さい方の薬莢の数は…、15か。残弾数は少ないと見た。奇を打たねばなるまい…)

 

 言峰綺礼は、不思議と、昂揚感を覚えていた。衛宮切嗣という困難を前にして、僅かに、心が熱を帯びているのだ。

 

「クククッ…、楽しいなぁ…。なあ、衛宮切嗣、お前も楽しいか? …楽しいだろう? ククククッ…」

 

 肉が弾け飛んだ肩が、なぜか、不思議と、心地良く感じた。流れる血が肌を這うと、奇妙なことに、こそばゆい気持ち良さがあった。痺れにも似た痛みが、おかしなことに、体の内側から響く、ビリビリとした、絶頂の余韻にも似た感覚だった。そして、その傷口の熱が、いやに嬉しかった。

 

「ライダー…、なんとなく、解ったような気がするよ…。愉悦というのは、双方向なんだな…」

 

 それはラクドス教徒の血。痛みとは与えることでも、受けることでも、どちらでも愉悦、快楽に結びつくのだ。与える事で得られる愉悦、受ける事で得られる愉悦、その性質は、双方向であるといえた。もっとも、それは、ラクドス教団の教義に身を任せた、狂人の感性でしかないのだが。しかし、言峰綺礼は生まれついての狂人である。ゆえに、まるで地が水を吸うように、自然と、それを受け入れていた。

 

「見ていてくれ、ライダー。必ずや、世界に、この愉悦を伝えてみせよう…!」

 

 言峰綺礼の顔は、およそ、人間のものとは思えない程に、醜く歪んでいた。

 

 

―――――

 

 

 一息つける時間を稼げた事で、どっ(・・)と、やっと思い出したかのように、汗が噴き出す。衛宮切嗣は、驚きを隠せないままに、懐から愛銃を取り出し、不安そうな、疑うような目でそれを見つめた。

 

(あ…言峰(あいつ)は…、本当に、僕と同じ人間なのか…? 強化の魔術だけで耐えられるような弾じゃないんだぞ、これは。しかも、奴は治療魔術の手解きを受けているし、その腕前は、師である遠坂時臣を越えるという…。次に会う時、右肩は回復しきっていると考えるべきだな…。――どうする…? どうすればいい!? プランBか!? それしかないのか!? こちらの手の内のほとんどを読まれている以上、易々と引っかかってはくれんぞ! 考えろ…! 考えるんだ…衛宮切嗣…!)

 

 衛宮切嗣は、想像以上に、今までの自分からは考えられない程に、余裕を無くしていた。相棒である久宇(ひさう)舞弥(まいや)は、もう自力で動く事もままならない、アイリスフィールの護衛に就かせている、援護は望めない。協力者ロード・エルメロイは、ハイアット・ホテルへと引き返し、ランサーへ最大限の魔力を供給するため、身動きが取れない状況、こちらも援護は望めない。ソラウ嬢は城内に居るが、元々非戦闘員であるし、もしもロード・エルメロイが裏切った時の保険として、人質にするべく、地下室に入ってもらっている、候補にすら入らない。

 

「セイバー、アサシンの分身体とやらは、他に見つかったか?」

「いいや…。困ったことに、気配が見当たらん。分身だろうと、アサシンはアサシンらしい、『気配遮断スキル』を使っているんだろう。これは想像以上にやっかいだぞ…」

「クソッ! なんてことだ!」

「焦るな、切嗣。そこまで精度の高い分身ともなれば、作成するにも、維持するにも、それなりの魔力が必要になるハズだ。奴のマスターがどれだけの力量を持っているかは判らんが、あったとしても、あと1体がせいぜいではないかな」

「その1体がやっかいなんだぞ! くっ…! ――よし…、わかった。ランサーには、"聖杯(アイリ)"の護衛に就いてもらおう。セイバーは僕の所に戻ってくれ」

「了解だ」

 

 言峰綺礼という強敵を相手にしなければならない状況の中、分身体であるアサシンの存在が浮上し、敵を誘い込んだつもりが、逆に追い詰められているような形となる。兎(と)にも角(かく)にも、まずはセイバーである。いくら言峰綺礼といえども、サーヴァントが相手では、何も出来ずに殺されてしまうだろう。手段を選んでいられるような余裕は無い。戦線に復帰したランサーの存在もある。未だに問題となるような傷のひとつも負っていないセイバーを頼りにするべきだ。そうでなくとも、言峰綺礼を相手にしながら、そのうえでアサシンに対して警戒を続けるというのは、今の衛宮切嗣のキャパシティでは難しい。暗殺の可能性が再浮上したからには、セイバーを隣に置き、自身の身の安全を確保しなければならない。これ以上は、誰一人として―そこには切嗣自身も含まれる―、欠けさせるわけにはいかないのだから。

 衛宮切嗣は「自分には仲間がついている」という安心を再確認し、心を落ち着けるように、大きく深呼吸する。そこに、代行者の足音が迫る。

 

(来たか…)

 

 息を整え、銃を構え、扉を睨みつける。そして、扉の前で足音が止まるのと同時に、引き金を引いた。軽機関銃(キャリコ)に残った15発を、―避けられる事は分かっていたため、扉に穴を開けるために―すべて叩き込む。次いで、撃ち切ると同時に、予めピンを抜いておいた手榴弾を、今開けたばかりの扉の穴に向けて、人に投げ渡すような軽い動作で放り込む。

 

「無駄な足掻きをっ!!」

 

 扉の向こうから響く怒声を聞き流し、無用になった軽機関銃を捨て、即座に移動して、隣室へと通じる内扉を蹴り抜き、ここで、発煙手榴弾のピンを抜く。

 爆発の寸前、床に倒れ伏せる音が聞こえた。やはり、効果は無かったようだ。しかし、衛宮切嗣からすれば、それも計算の内。いつまでも逃げ続ける衛宮切嗣に対し、言峰綺礼は、さぞや業を煮やしている事だろう。そうして平常心を奪う事が、衛宮切嗣の作戦だった。しかし、相手はあの言峰綺礼、それだけでは足りない。

 

「これ以上逃げ続けるというのなら、こちらにも考えがあるぞ! 衛宮切嗣!!」

 

 響くような怒号であった。しかし、衛宮切嗣は、またもこれを無視。無視(そう)する事が言峰綺礼の神経を逆撫ですることに繋がると分かっているからだ。

 だが、そんな予想に反するかのように、言峰綺礼は上機嫌にも聞こえる、どこか楽しそうな声色で喋った。

 

「衛宮切嗣っ! お前にも教えてやるぞ! 最も暗き、至上の悦楽というものを! お前にはまだ、妻も、娘もいるだろう。興奮すると思わないか、自分の妻と娘を、自分の手で殺めるのだ! きっと楽しいぞォ! ――そう…私は楽しかった! とても楽しかった! 自らの父を! この手でッ!! …最高に滾ったよ!! お前もいずれ解る! なにせ…私達は同類だからな!」

 

 大きな笑い声が響く。恐らくは廊下中に響き渡っているだろう、言峰綺礼は廊下で喋っているのに、切嗣の居る部屋までしっかりと聞こえるのだから。

 

(狂人め…。なにが「同類」だ。僕はお前なんかとは違うぞ…)

 

 切嗣にも薄々は分かっていた事だが、こうしてハッキリと言峰綺礼の口からその真意を聞かされて、今度こそ完全に、解り合えない間柄であると、決して相容れない存在だと理解した。そして、腹を括る。

 衛宮切嗣は殺意を胸に秘めた。表面化させては気取られる、ゆえに覚られぬように、その殺意を自分の中でだけ燃え上がらせる。両手に手榴弾を持ち、破片手榴弾のピンを抜く。そして、肩から突っ込むタックルで扉(ドア)を突き破り、廊下に出た。

 

「そこか!」

 

 言峰綺礼が即座に振り向き、黒鍵を投合する。その黒鍵が手から離れる瞬間、言峰綺礼は目を見開いた。

 

(自爆だと!? なにをバカな!!)

 

 言峰綺礼は確かに見た、衛宮切嗣が胸の前で構えている、ピンの抜かれた手榴弾を。しかし、もう止まらない、黒鍵は放たれてしまった。衛宮切嗣の技量を信じて、致命傷にならないように、足元を狙って放ったのに。しかし、体勢が悪かった。横っ飛びの状態だった衛宮切嗣の腹に、弾丸のような速度で飛来した黒鍵が突き刺さる。そして、その衝撃で手が緩み、手榴弾の最後の安全装置が外れてしまう。

 

「それは駄目だ!! やめろおぉっ!!」

 

 言峰綺礼が叫ぶが、もうどうにもならない。手榴弾が炸裂する…。

 しかし、言峰綺礼の予想に反して、その体を襲ったのは爆炎でもなければ、破片でもなく、衝撃でもなかった。立ち込める白い煙、煙幕が両者の視界を奪った。

 苛立ちが限界にきたらしく、流石の言峰綺礼も、声を大にして怒鳴った。

 

「そんなことのために身を削ったのか!! これ以上の時間稼ぎに、何の意味があるというのだ!! いい加減にしろ!!」

 

 何も見えない白煙の中、窓ガラスが震えるほどの怒鳴り声が響く。あの手この手で逃げ回り、何度もその手練を魅せた衛宮切嗣が、この状況で取った手段が、事もあろうに目晦まし。それも、自分の身を犠牲して、腹に黒鍵を受けてまで。そうまでしてやった事が、何の効果も無い目晦まし。これには言峰綺礼も怒った、呆れを通り越して激怒した。真面目にやる気があるのか、からかっているつもりなのか、まるでこけ(・・)にされているかのような苛立ちだった。

 まさかの捨て身かと思いきや、ただの目晦ましに過ぎなかったという脱力もあり、言峰綺礼は大いに激怒した。それこそが衛宮切嗣の狙い。振り切った感情は現実の理解を遠ざける、冷静な判断を狂わせる。言峰綺礼の鍛え上げられた肺活量が生んだ怒号が、もう一つ(・・・・)の手榴弾が転がる音を消していた。そしてもう一度、窓ガラスが震えた。

 

 

―――――

 

 

 意識を取り戻すと同時に体を跳ね起こし、即座に立ち上がる。見事な瞬発力と筋力だったが、流石にダメージが大きいのか、その動きはいくらか衰えていた。

 

(な、何十秒経ったんだ…? 二分は経っていない…か…。もしもそうなら、私は今こうして、立ち上がることすら出来なかったハズだ。頭を撃ち抜かれてな…)

 

 言峰綺礼は、立ち眩(くら)みと目眩(めまい)の中、困惑と驚愕に震えながらも、なんとか直立を維持していた。廊下には未だ煙幕が残っているが、衛宮切嗣の気配は無い。既に、どこか近くの部屋に逃げているのだろう。それにしても、腹に黒鍵が刺さったままである以上、そう遠くまでは逃げられない、と思考する。

 

「く…くそ…、この……この私が…、代行者ともあろう者が…、怒りを利用され、冷静を失ったところにつけこまれるとは…!」

 

 言峰綺礼は言葉で自身を戒める。しかし、その苦渋と憤怒が入り混じった表情からも判るように、その心中は決して、穏やかでも冷静でもなかった。屈辱、決定的な、そして比類無き、腸(はらわた)が煮えくり返るような屈辱。現代最高の才能と呼ばれし、若き天才と称賛されし、代行者の鑑ともあろう者が、よりにもよって足元を掬われるとは。

 だが、言峰綺礼は怒りを収めた。大きく息を吐き、呼吸を整えると、決意を秘めた眼で今はもうそこに居ない衛宮切嗣の影に語りかける。

 

「安心するがいい、衛宮切嗣。私はなにも、お前をどうこうするつもりはないんだ。目を開かせてやる。お前にも、世界の真実を教えてやる。お前は、あるべき自身の正体を隠しているだけだからな。安心するんだ、もう…お前は一人じゃないんだから。そう…私がいる。ライダーがそうしてくれたように、私が、お前の閉ざされた心を開き、助けてやる。大丈夫だ、私が付いていてやるからな。もう心配しなくていいんだ…。自分を偽るのをやめろ、正直になるんだ。自分の本心に聞いてみろ、私を拒絶する理由なぞ無いだろう。――さあ、隠れてないで出てこい」

 

 火傷と裂傷だらけでありながら不器用にも微笑む。その顔、まさに、人ならざる、鬼の形相である。

 勘違いここに極まれり。衛宮切嗣が自分と同類であると信じて疑わないからこその、救いの手を差し伸べるかのような、その優しい言葉。しかし、彼は気付いていない。言峰綺礼本人にも、頑(かたく)なに衛宮切嗣の本質を信じるその理由が、分かってはいないのだ。言峰綺礼はただ、孤独を恐れているだけ。ライダーという最高の友を失った彼には、もう、同類だと考えていた衛宮切嗣以外には、誰一人として、理解者足り得る存在はいないのだ。これで、もしも、衛宮切嗣を失いでもしたら、言峰綺礼のこの先の人生は、底のない孤独感と疎外感に苛まれ、それを癒そうと、それから逃れようと、ただひたすらに、それこそ憑り付かれたかのように、退廃の悦楽に逃げるしかないのだから。そう…、衛宮切嗣とは、言峰綺礼に残された、最後の希望なのだ。

 しかしながら、そうであったとしても、今の言峰綺礼は、あまりにも常識を逸していた。鼻血や汗でグシャグシャになった顔などは別問題。何が狂っているかといえば、その形相に他ならない。大きく見開かれ、ギョロギョロと忙(せわ)しなく動く眼球。どこを見据えているのか、焦点が定まっていないかのようだ。へらへらと下品に笑うような、だらけきっているようにも見える、力なく開いた口元。唇の端から涎が垂れているところを見ても、明らかにどこかしら異常であると分かる。最早、内面だけではない、全身余すところ無く、言峰綺礼の全てが狂っていた。それが心身共に追い詰められたが故なのか、それとも手榴弾の爆発による衝撃で脳をやられた事が故か、それは判らない。しかし、間違いなく、今の言峰綺礼は完全に狂っていた。

 

「さあァ…、どこにいるんだ…? 隠れてないで出てこい…!」

 

 へらへらと笑っているかのような顔。遊んでいるかのような浮かれ声。正常な状態ではない。まるで、あのライダー(イクサヴァ)が乗り移りでもしたかのようだ。しかし、その神経は研ぎ澄まされていた。五感の全てを使い、目的の男を探し出そうとしている。

 

「見つけた…、見つけたぞォ…」

 

 砂粒が転がる音すら聞き取りそうな程に研ぎ澄まされた聴覚が、微かな音を捉える。それは言峰綺礼が最も好ましいと思える音。すなわち、肉が切れる音、血が吹き出る音、そして呻き声である。その鼻は確かに血の匂いを嗅ぎ当てる。その鮮血の香りの中には、特徴的な硝煙の臭いも含まれている。間違いない、衛宮切嗣がそこに居る。

 

 ドアの前に立つが、発砲されなかった。それを観念したと取り、言峰綺礼がドアノブに手をかける…。

 

「もう、抵抗は終わりか?」

「ああ…、僕の負けだ…」

 

 その部屋に立ち入った言峰綺礼が目にしたのは、想像以上の痛手だったのか、苦しそうな息を漏らす、壁に背をもたれて座りこんだ衛宮切嗣の姿だった。衛宮切嗣の足元には抜き取られた二本の黒鍵が転がっている。しかし、まだ一本だけ、その腹に刺さっている黒鍵もある。そして何より、一番目につくのは、だらりと伸ばされた足元の、手が届かない位置にある、大きな拳銃(コンテンダー)である。それはつまり、これ以上の抵抗は諦めた、という意味に取れる。

 衛宮切嗣は、言峰綺礼の姿を見て、苦しそうに呻きながらも、最後に残った黒鍵を腹から抜き取った。

 

「大丈夫だ、お前なら知っているだろうが、私の治癒魔術は中々のものがある。そんな傷くらい、簡単に治してやるさ」

 

 言峰綺礼はそう言って安心させようとするが、衛宮切嗣は何も答えなかった。もう諦めてしまったのか、逃げる素振りも、戦う意思も見せない。ただ、苦しそうに息を吐きながら、衛宮切嗣は座りこんだまま。そこに、言峰綺礼が歩み寄ろうとする。その時、何がどうしたのか、衛宮切嗣が手を上げた。

 

「なんだ、何かあるのか」

「いや…、ひとつだけ…言っておきたい事があって…ね」

「ほう」

「聞いてくれるか」

「もちろんだ」

 

 その返事を聞いて、衛宮切嗣はコートの内ポケットをさぐった。新たな武器を取り出すつもりか、と言峰綺礼が身構える。だが、それに反して、衛宮切嗣が取り出したのはタバコのパッケージだった。そして、「どこかで落としたのかな…」と言いつつ、コート中のポケットを上から触って確認して、ライターを探した。十秒ほどそうしていたが、ライターは諦めたのか、タバコを一本を咥えただけにして、衛宮切嗣が話し始めた。

 

「認めるよ、僕は…戦うことでしか、殺すことでしか自分を表現できない人間だ…」

 

 (やっと自分に正直になったんだな…)と、言峰綺礼はその言葉に満足した。

 

「卑怯だとでも言うがいい、臆病者だと笑うがいいさ。どんな卑劣な手段だろうと、生き残るために、様々な非道に手を染めた…」

 

 悲しい独白、まるで刑事モノのテレビドラマによくある、容疑者の自白シーンのような、そっとしておいてやりたい、そのまま喋らせてやりたい、と思える雰囲気があった。言峰綺礼はそれゆえに、黙ってその独白を聞いていた。

 そこで、何か思い出したか、何かに気付いたように、衛宮切嗣は顔を上げた。その理由はすぐに分かった。衛宮切嗣がズボンの右ポケットから取り出したのが、ジッポライターであったからだ。しかし、蓋(カバー)は開いても、口に咥えたタバコに火をつけようとはしなかった。

 

「そう…、人質を取ることだって、何の抵抗も無かったさ…。狙撃、遠隔爆破、事故死に見せかける細工、何でもやった」

 

 過去を悔いているという風には見えなかった。ただただ、今までにあった事を、そのまま喋っている様子だった。衛宮切嗣は、そこでようやく、タバコの先にライターを近付けた。

 その時、衛宮切嗣が次の言葉を言い出す直前、言峰綺礼の背筋に嫌な予感が走った。

 

「そうさ…、どんなに卑怯でも、格好悪くても、みっともなくても、"僕は手段を選ばない…"」

 

 クスリと、衛宮切嗣が笑う。事情を知らない第三者から見れば、それはあまりにも自然な、自嘲の笑みにしか見えなかったであろう。しかし、完全に狂ってしまったことで、肉体的な全ての限界を無視し、極限まで研ぎ澄まされた神経を発揮している言峰綺礼には、その自嘲が演技であると見抜けた。もしかすると、第六感の成せるものだったのかもしれない。

 

「まさかっ…!」

 

 そう叫んでも、もう遅い。

 衛宮切嗣は言った…。

 

「だから、こんな事も平気でやれるんだ」

 

 ジッポ・ライターの火打石が引かれる。それと同時に、凄まじい爆発が起こった。

 衛宮切嗣がこのアインツベルン城で用意した、最後の切り札。最終手段。部屋一つを使った最大の罠、大量の爆薬と大量の鉄片。相手がロード・エルメロイであれば、こうはいかなかった。鉄壁の防御を持つケイネスならば防げた。しかし、相当数の黒鍵を消費し、化学燃料で戦闘神父服(カソック)の一部を焼かれ、コンテンダーの銃弾で肩部分の装甲を失い、至近距離の爆発でボロボロになっているのだから、物理的にも体力的にも、もっといえば魔術や体術からみても、言峰綺礼では決して防ぐ事のできない攻撃だった。

 

「驚いたな…、まだ立っているのか…」

 

 衛宮切嗣はそう言ったが、立っているのは言峰綺礼の下半身だけであり、上半身は跡形も無い。ちょうど腰から上が消し飛んだようで、残った下半身からは血が噴き出し、内臓がこぼれ出ていた。

 仕掛けた爆弾は、同じ部屋に居ながら、自分だけは助かり、相手だけを殺すことのできる仕掛けだった。床に座りみ、完全に追い詰められた自分だけは助かる。逆に、勝利を確信し、立ってこちらを見下ろす相手だけが巻き込まれる。部屋の中に仕掛けられた爆弾は、高い位置にあるものだけを吹き飛ばす、指向性をもった爆弾だったのだ。

 全ては相手の心理を利用すること、これに尽きる。それにはシチュエーションが大事だった。追い詰められていたとしても、手に何かを握っていれば、相手は警戒して、部屋の中まで入ってきてはくれないだろう。圧倒的な窮地を見せ、相手には確実な優位性を持たせる。そうして、慢心と油断を誘うことが重要だった。殺しきれないと分かっていても手榴弾を投げ、腹に黒鍵を受けたのには、そういう理由があった。散々の挑発、散々な逃避、最後の最後に捨て身の時間稼ぎをして見せて、そこでわざと失敗し、致命傷スレスレのダメージを負い、相手に勝利を確信させる。文字通り、捨て身の演技だった。そしてなにより、戦闘がこれほど長引いていなければこうはいかなかった。軽機関銃を撃ち切ってみせたのも、一撃で殺しきれなかったからコンテンダーを足元に捨て置いたのも、手榴弾を使い切ったのも、その全てがあったからこそ、もう残された手立ては無いと思わせる事ができたのだ。最後にもうひとつ、言峰綺礼の言葉。言峰綺礼が自分から言ったことだ、『衛宮切嗣を仲間にしたい』…と。言峰綺礼の攻撃は全て、衛宮切嗣の足止めを目的にしたものであったと、その言葉でハッキリした。それらが、分の悪い賭けを嫌う衛宮切嗣に、この捨て身をさせた諸々の理由であった。

 

「くそ…、無茶をしすぎたか…」

 

 だが、流石に捨て身過ぎたらしく、腹に開いたみっつの大穴が痛んだ。大量の出血、朦朧とする意識、これでは共倒れになってしまう。

 

(ああ…、これで終わり……なのか…)

 

 衛宮切嗣は、もう堪えきれず、目蓋の重みに負けた。静かに目を閉じ、最後にひとつだけ、小さく息を吐いた。

 

 

 




決着ゥ!

じゃ、次はサーヴァントVSサーヴァントだね。


あ
特に理由は無いし、今言う必要も無いんだけど、今のウチから言っとくわ。
本編書き終わったら、オマケってことで、ボツになったサーヴァント候補の紹介とかするよ。
プレインズウォーカーがサーヴァントになったら、これくらい狂った事になるんだよ、ってのを表現するから。法務官がサーヴァントとして呼ばれたら、こんな酷い事になるんだよ、ってのも書くから。


「んじゃ、次の更新の時に、また会いましょう。」
   ――――エタるかもしれません、という意味のSS書きの言い回し。

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